あの人の好きなもの

あの人の好きなもの
久々に上陸した島を、ゾロは腹を擦りながら歩いていた。

 『畜生・・・あの暴力コック。なにも本気で蹴り入れなくてもよ・・・』

 痛む腹は今朝サンジに蹴られたもの。
 昨夜見張りのついでに失敬した酒が、今朝になってバレた。
 夢うつつになっていた所を、思い切り蹴られた。
 ルフィやウソップ相手には手加減するくせに、ゾロには容赦がない。
 もっともルフィは船外に飛ばしてしまっては、命にかかわるし
 ウソップも鍛えてはいない体に、コックの本気が入っては命を落としかねない。
 ゾロだからこそ、ちょっと痛いくらいで済むのだ。
 ゾロもそれは判っているが、少し面白くない。
 コックとの間にゴングが鳴り響いたが、ナミの鉄拳でものの3分でそれも終わった。

 「鍛冶屋はどっちだ・・・」

 ゾロは渋面のまま、あたりを見回した。
 なぜかゾロの周りには人はいない。
 道を聞きたくとも、人がいないことには聞く事はできない。
 決して人がいない訳ではないが、ただでさえ強面が凶悪なオーラを発している為
 人が避けていたのだ。

 「ちっ・・・」

 舌打ちをして、思うままにゾロは歩いていた。

 しばらく行くと人通りのある場所に出た。
 市場らしく沢山の人で賑わっている。
 これで道が聞けると思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 「・・・ラムと・・・あっとブランデーは何がある?」

 酒屋の前で、コックが買い物をしていた。
 足元には山ほどの食材が積んである。
 いつもなら買出しに連れ出されるのだが、今朝の事があったので言われる前にゾロは船を下りていた。
 その為、コックは一人で買出しに出たらしい。

 『ルフィ達に手伝わせりゃ、いいのによ・・・』

 「あっあと、度数の高い美味い酒はあるか?」

 ラム酒などの代金を払ったコックは、店の親父に尋ねた。

 「美味い酒ね・・・これなんかどうだい?米の酒だ。なかなか手に入んないぜ。後は栗で作ったこれ。」
 「へぇ・・・珍しいな。あんまりお目にかかれないよな・・・そうだな、親父それもくれ!」

 『米の酒か・・・久しぶりだな。栗のは焼酎か?』

 離れた所でゾロは、二人の会話に耳を傾ける。
 米の酒は、よく故郷で呑んだもの。
 栗は呑んだことはないが、そんな焼酎があるのを聞いた事がある。
 ひどく呑んでみたくなり、自然とごくりと喉を鳴らした。
 しかし、そんな珍しい酒をコックがゾロに呑ませるわけがない。
 大方、ナミやロビンにでも出すのだろう。
 そう思ったら、無性に腹が立った。

 「あいよ。お客さん、けっこう酒好きだね?」
 「オレじゃねぇよ。ウチのクルーにすげぇ呑んべえがいてよ。」

 ゾロは一瞬どきりとした。
 店の親父に答えたコックが笑顔だった。
 それは、なにか愛おしいものを思い浮かべたような優しいもので。
 初めて見るコックの顔。

 「呑んべぇでも、美味い酒がやっぱり好きみたいでさ。まぁ、文句は言わずに何でも呑むんだけどな。」
 「へぇ、そうかい。なら、きっとこれなら気にいるよ。あ、それとこれはどうだい?度数は高くないが美味いぜ。」

 そう言って店主は一本の瓶を取り出した。

 「う、わぁ・・・これか・・・」

 コックの目が見開いた。
 それはワインらしく、相当年代物なのが遠目にも判った。

 「これ・・・一度しか呑んだことはねぇけど・・・すげぇ好きなんだよな・・・
 」
 「沢山買ってくれたから、8000ベリーでいいよ。」
 「8000かぁ・・・確かに安いけど、もう2500ベリーしか手持ちはないんだ。」

 コックは酷く残念そうにしたが、さっきの2本だけを受け取った。
 ゾロは腹巻に手を入れた。
 下船の前にナミから貰った鍛冶屋代。
 それが6000ベリーあった。
 刀はまだ特に見てもらわなくても大丈夫。
 一瞬、考えて歩き出した。

 「その酒、これを足せば買えるだろ?」
 「!ゾロッ!」

 いきなりのゾロの登場に驚いたコックに構うことなく、ゾロはコックの手元の2000ベリーと自分の金を店主に握らせると、置いてあった荷物を担ぐと歩き出した。

 「ゾロ!」

 呼ばれて振り返ると、コックが慌てたように追いかけてきた。

 「お前、あの金鍛冶屋代だろ!?いいのか?」
 「あぁ、まだ間に合うからな。」
 「でも、刀は剣士の命だろうが!」

 凄い剣幕で怒鳴るコックに、ゾロは静かに答えた。

 「命だから、まだ平気かどうかくらいわかる。」
 「・・・・」
 「てめぇの好きな酒なんだろ?めったに手に入らない。それが目の前にあるのに逃す手はねぇだろう。」

 そう言うと、ゾロはまた歩き出した。
 コックは少し遅れて無言のままついて来た。

 「・・・俺にもよ。」
 「へ?」
 「呑ませろよ、その酒。」

 ちらりと振り返りそう告げると、コックは目をぱちくりさせたが。
 そのうち極上の笑顔になった。

 「もちろんだ。心して呑めよ。」
 「・・・行くぞ!」
 「あ、待てよ!」

 ゾロは足早に船へと急ぐ。
 心臓が、何故かどきどきと早くなった。
 この出来事がもやもやの始まりになるとも気づかず。



きゅー様より2005年の龍谷の誕生日祝いにいただきました素敵SSでございますvvv
もう、パワーもらいまくりです。
そしてゾロ様が素敵すぎvvv

自然に「好きな人の好きなもの」を手に入れてあげたいと思う事。
行動に起こせる事って素敵ですよね。
自分も好きな人に自然に出来ているのか考えちゃいました。
こんな素敵な関係って憧れます。
っていうか、まだこの2人は「好き」とかそんな関係じゃなかった・・・
でも、なんか、こう・・・初恋っていうか・・・暖かい気恥ずかしい感情が垂れ流し状態っていうか
心の中が暖かくなってニコニコ(ニヤニヤ?)しちゃうって言うか
表現が難しいけど、とにかくいい感じですよね。
しかも、終り方がいかにも続きそうな感じで続編を期待させますよね?ね?
ずうずうしい龍谷は、「きゅーさんの続編を楽しみに待っています」と
ラブコールを送り続けたいと思います。

本当に素敵な作品をありがとうございました!!


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