好き
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「もういいっ。わかったよ、じゃあな!」
サンジの怒鳴り声と受話器を叩きつける音をもろに左耳に受け、ゾロはくらくら
した。
予定していた再来週の二日間の小旅行。
平日休みのサンジに合わせて、粘りに粘ってやっと取った有休。
課長の「出張」の一言で、駄目になった。
残業で疲れて帰ってきたところに、ウキウキと旅行の電話を掛けてきたサンジに
辛い報告。
溜息をつくと、ベッドにごろりと横になる。
横目で時計を見ると、午前二時を過ぎている。
本当なら今すぐにサンジの所へ行って謝りたいが、もう終電もない。
自分を好きだと言ってくれるサンジに、応える為の旅行だったのに。
まだ大学生だったときから、ずっとサンジが好きだった。
でもそれを伝える術も勇気も無くて、サンジがコックに自分がサラリーマンにな
っても
ただの友人だった。
だってどうして言える?
男が男に惚れちまうなんて。
でも、その関係が変わったのは半年前の仲間内の飲み会の時。
皆で酒を呑んで騒いでいる中、酷く真剣な顔のサンジに「好きだ」と言われた。
赤い顔して酔っているのかと思ったが「ホントに好きなんだ」と言われ
思わず頷いてしまった。
その時のサンジの嬉しそうな笑顔に、もう何も言えなくて。
そしてサンジに何も言えずに、もう半年。
その間も休みが合わなくて、二人で出掛けたのはたったの二回。
映画を観に行っただけの、デートとも呼べないもの。
それでもサンジは好きだと言ってくれる。
それは言葉であったり、態度であったり。
しかし自分は、一度も言葉に出したことはない。
態度に出ているのかも怪しいものだ。
でも。
サンジが好きで好きで堪らない。
サンジに告白された飲み会の夜、嬉しくて嬉しくて一人部屋の中で枕を抱え
うおぅ、うおぅと転がりまわったのは、誰も知らない。
この気持ちを少しでも伝えたくて、決めた旅行だったのに。
平然と出張を伝えた課長に、一瞬本気で殺意が芽生えた。
外から電車の走る音が聞こえてきた。
時計を見ると、始発電車が走る時刻。
今から寝てしまっては、完全に遅刻だ。
何度目かの溜息をついて、シャワーを浴びる。
風呂場から出てくると、玄関からチャイムの音。
ドアの魚眼レンズを覗くと、むうっとしたサンジが立っている。
慌ててドアを開けると、益々むうぅっとしたサンジ。
「ほら。」
ずいっと差し出されたのは、やけに大きな包み。
ほのかに良い匂いがする。
顔を上げれば、まだ不機嫌だけどサンジの赤い顔。
「今日も会社だろ?」
ぷいっと横向くサンジに、愛しさが沸いてくる。
愛妻弁当か?と問えば、
「誰が妻だ!」
と、踵落しを頭に落とされた。
上がれとサンジに告げると、少し躊躇しつつも部屋に入ってきた。
貰った弁当をいそいそと開けようとすると、サンジから抗議の声が上がる。
「昼休みに開けろよ!」
ばか、何言ってんだ。
こんな日に会社なんて行ってられるか。
サンジを無視して包みを開くと、中身は全部自分の好きなものばかり。
好物なんて言ったことなかったのに。
「てめぇ見てりゃ、判るだろ。そんくらい。」
照れ隠しなのか、赤い顔のままソッポを向いている。
こんにゃろ、そんな顔すんじゃねぇよ。嬉しくなっちまうだろうが。
中身の唐揚げを一つ、口に放り込む。
俺の大好きな味が、口の中で広がった。
あぁ、ちゃんとお礼をしなきゃな。
この弁当に比べたら、手間も金も全然かかってねぇしお礼ってのも変だけど。
でも、俺がお前にやりたくて、お前がきっと喜んでくれるはず。
ずいっとサンジに近づいて、その青い瞳を覗きこむ。
この気持ちが伝わるように。
言葉と態度で、きちんと『好き』を。 |
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2004年の私の誕生日に「きゅーさん」が贈ってくださった作品です。
また、許可も得ず勝手に載せてます。ごめんなさい!
だって、あまりの2人の初々しさっていうかカワイさっていうか
もうたまらなくって、みなさんと共有したかったんですもの。
リーマンなゾロ様も萌えだし
私の喜びのツボがわかってらっしゃる!!(笑)
「好き」っていう肝心な言葉ってなかなか口に出せないですよね。
恥ずかしいっていうか、態度でわかれよみたいな(テレ)
でも、言わなきゃいけない時ってのもあったりして
いやー、幸せタイムでした。ほこほこ
緩んだ口元がニヤニヤのまま治りません(笑)
龍谷裕樹
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