
しみいる想い
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「夜まで帰ってくるんじゃないわよっ!!」
ナミがゾロの耳たぶを引っ張り、サンジに聞こえないように声を潜めた。
なんで、この凶暴女の言うことなんか聞かなきゃいけないんだ、と思いつつも逆らって後でガミガミやられるよりは素直に従って
いた方がどれだけ楽かわかっているから、コメカミに怒りの気配を貼り付けつつも了承の意味で頷いた。
「何?なんか文句あるの?」
ああ、女ってやつは、何で・・・
そもそも、こんなことになったのは、今日の朝食の時に、ナミの発した一言から始まった。
「サンジ君、悪いんだけど、今日、ゾロと一緒に買い物に行ってきてくれないかしら?」
サンジの返事を聞く前に買う物を記したメモを差し出しながら、極上の笑顔を添えることを忘れない。
彼に対する効果の程は、確かめなくてもわかりきっているのだ。
「はーい、もちろんナミさんの仰せのままに〜vvv」
「じゃ、お金はこれ。よろしくねV」
駄目押しとばかりにウインクまでつけている。
サンジは何も疑うこともなく、「今日のナミさんは機嫌がいいなぁ、うーん、そんなナミさんも素敵だ〜!!」ぐらいしか思って
もいないだろう。
「は〜いvvvv」
元気よく返事を返した後も、おかわりの声が飛ぶ子供達の面倒を見て動き回っていた。
当の買い物班の相棒に勝手に決められたゾロは、朝食を黙々と片付けていたのだが、食事を終えて立ち上がったナミに耳をつかま
れ、ラウンジの外へと連れ出された。
その行動に気づいて目だけでも動かしたのはロビンだけで、浮かれていたサンジは気にも止めていなかった。
「いいゾロ?あんたの仕事は、夜までサンジ君を引っ張りまわすこと!いいわね!!」
「-------」
「あんたにまともな返事を期待した私が馬鹿だったわ。とにかく、あんたは言われたとおりにやればいいの。いいわね。」
ズイと顔を近づけて、否を言わせない迫力で迫る。
ゾロは、わかったわかったというような表情をするとすごい形相のナミの顔を遠ざけるように肩を押し戻した。
「・・・・・夜まで帰って来なきゃいいんだな?」
「そう!わかってんじゃない。」
先程までと打って変わっての何かを企む笑顔が、ゾロに冷や汗を流させる。
この世の中で一番恐ろしいのは、この女だなと改めて思うゾロだった。
「よし、メモにあった物はこれで全部揃ったな。ほら、クソマリモ帰るぞ!そっちの荷物も持てよ!」
両手いっぱいの紙袋に入った荷物を抱えあげながら、その倍はあるだろう荷物を当たり前のように目線で示し、港に向かって歩き
出そうとした。
「あ〜、ちょっと待った。」
「あぁ?」
まだ、日も高く、昼もすこし過ぎたかという時刻でしかない。
日没までは、まだ何時間もあるだろう。
いったいどうやって、サンジの足を引き止めればいいというのか。
もっと、大量に買い物を書き付けてくれていなかったナミを恨んだが、すでに荷物は2人で持てるギリギリの量で、これ以上あっ
ても持ちきれなかっただろうから、ナミを責めるのはおかしいのだが、このときのゾロには、そう思うくらいしかできなかったの
だ。
このまま、サンジを船に帰してしまっては、ナミの怒りに触れてしまう。
いきあたりばったりのやりたいように生きてきたゾロにとって、作戦や計画など苦手でしかなく、名案など程遠かった。
『ぐう〜〜〜』
その時、ゾロの緑色の腹巻のあたりから、ルフィのように盛大な腹の虫が鳴り響いた。
ゾロもサンジも一緒にゾロのお腹を見つめ、その数秒後、サンジはプッと吹き出しそのまま大口を開けて笑い出した。
「くくく・・・ほら、早く帰って昼飯にしようぜ。」
笑いすぎて目じりに涙を滲ませながらサンジが荷物を抱え直す。
うー、やばい、どうしたらいいんだ?
「あ〜、だから〜、そう!昼飯!」
「あ?」
「お前がお勧めのおいしい店を探しておけって。どうせログがたまるまでしばらくこの島にいなきゃいけないからって言ってたな
。」
「誰が?」
「ナミが」
夕べ、ナミがロビンとそんなようなことを話していたことを思い出しながら口にした。
その様子が、真実味を帯びていて、嘘をついているようには見えなかった為かサンジは何かを考えるようなしぐさをして頷いた。
「ナミさんの言うことなら喜んで。」
ゾロは、刀の修理をする為にナミから借金した金を腹巻の中から取り出すと、軍資金として預かっているようにサンジに見せた。
(しかたねぇ・・・あの女にキーキーわめかれるよりゃ少しくら切れ味が悪い方が、まだマシだ)
「にしても、なんでもっと早く言わねぇんだ?この荷物持って回る気か?」
「!・・・・修練にちょうどいいだろうがっ!!」
「そうか?じゃ、これも頼むわ」
サンジは容赦なく自分が持っていた大きな荷物も積み重ねた。
「ぐっ・・・前が見えねぇ・・・・」
意地を張るゾロの姿に笑いをこらえながら、サンジはグルっと市場を見渡すと、魚屋らしい店に走り、そこのおやじさんと何やら
話して戻ってきた。
「残った魚を買ったら腐らないようにしばらく預かってくれることになった。ついでに荷物も全部置かせてくれるとさ。」
何故だか楽しそうにサンジはタバコを取り出すと口に銜えて火をつけた。
日没前のオレンジ色に光りを背中に受けながら、徐々に空が暗くなっていく。
なんとか日が沈む時間まではサンジを引っ張りまわすことに成功したようだが、ゾロの顔には疲労の色が濃い。
慣れないことをやるのは、体力を使うよりも疲れることを思い知った1日だったようだ。
ほっとしているゾロの表情を盗みみてサンジは「ナミもこれなら文句言わないはず・・・・だよな・・・。」とか思ってるんだろ
うなと想像した。
今日のナミさんの機嫌の良さやゾロの不振な行動で、何かあるんだろうとは思っていたが、この時間まで引っ張りまわされたこと
でその思いは確信に変わっていた。
「帰ったぞっ」とゾロが声をかけるが、答える声はない。
あまりにも船が静かすぎることを2人がおかしいと感じた時には、ラウンジに走り込んでいた。
留守にしている間に、何かがあったのではないか?
2人で離れるべきではなかったと後悔しながら扉を開けると何かが目の前で視界を遮った。
玉?
そう思った時には大きなくす玉が割れて、紙ふぶきが舞い降り、垂れ幕には「サンジ 誕生日 おめでとう!!」の文字。
こんなでかいくす玉、いったいどこに隠してやがったんだ?
1日2日で出来るもんでもないだろうし・・・。
そんなことを冷静に考えている自分と
ああ、皆、俺の誕生日を覚えていてくれたのか。
と嬉しくて喜んでいる自分がいて、でも、恥ずかしくて言葉が出てこない。
目の前の文字が少しだけ霞んで見えてきて、急いで上を向いた。
ゾロに気づかれたら大変だ。
「ゲっ!!」
ゾロの叫びに視線を動かすと、テーブルの上に手紙ときれいに包まれたプレゼントが置いてある。
手紙の表にはナミさんの綺麗な字で『サンジ君へ』と書かれている。
どうやら、ゾロは自分宛ての手紙を読んでいたらしい。
手紙で叫ぶなんて、いったい何が書いてあったんだ?
俺は自分宛ての手紙を手に取り読み始めた。
『サンジ君誕生日おめでとう。プレゼント受け取ってくれた?くす玉はウソップから。サンジ君の驚く顔を想像して笑いながら作
ってたのよ。いつもおいしいご飯を作ってくれてありがとうという感謝の気持ちを込めて、チョッパーからは手が荒れないように
ハンドクリームを。ロビンからはドスコイパンダの新作エプロンを。馬鹿船長はケーキを買ったんだけど・・・我慢できなくてお
腹の中へ。だから何もありません。』
俺はルフィらしい行動に笑いが止まらなくなる。
『それから、今夜は全員GM号には帰りません。ゾロと2人でお祝いしてね。これが、私からのプレゼントです。素敵な夜を。じ
ゃ頑張ってね。ナミ』
ナミさんはやっぱり気づいていたんだ。
今日この日に、ゾロと2人きりで買い物なんておかしいと思ったんだ。しかも、何か含みのある話し方をするゾロの態度にも。
まさか2ヶ月以上も前に話した『好きな人と自分の誕生日をどう過ごしたいか』なんて話題で、俺が「好きな人と2人きりで1日
中一緒に過ごしたい」なんて言った乙女ちっくな夢を覚えていてくれたなんて、ちょっと感動かも。
今日、ゾロと過ごせて嬉しかった。どうにもニヤケテくる頬をどうにも出来なくて。
タバコを吸ってごまかしたり。
そんな自分を感じるのも嬉しくて。
今日はずっと幸せで。
もうこんなことはないかもしれないと思い、絶対忘れないように1瞬1瞬を心に刻みつけて。
それなのに、このあとまだ、一緒に過ごすことができるなんて。
俺はボッと熱くなっていく頬をどうしようもなく、チロリとゾロへ視線を向けた。
苦笑いをして俺を見ていたゾロと視線が絡み合う。
ゾロ宛ての手紙には何が書いてあったのか
そんなこと、どうでもよくなるぐらい、くすぐったくて恥ずかしくて。
「いい酒があるんだ。」
そう誘って用意をしようとした俺の腕を掴むとそのまま引っ張ってゾロの胸の中に抱き込まれ
お互いの気持ちを確かめ合うよりも前に
引かれ合うように唇を重ね
情熱のままに任せてお互いを貪りあう
恋人達に甘い夜を
天使で悪魔な仲間からのプレゼント
テーブルの上から乱暴に置かれたゾロあての手紙が滑り落ちる。
『私たち全員で今夜は消えてあげる。あんたの一番大切なサンジ君のバースデーをちゃんとお祝いしてあげて。もちろん今夜の全
員の宿泊代と食事代は全額ゾロ持ちだからよろしくね。じゃ、がんばって。ナミ』
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H入ってないし、
ラブラブベタベタじゃないし
反省・・・

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