「はあ?」
今、なんか、突拍子もない話を聞かされてしまって、それ以外の言葉が出てこなくて、
ぽかんと口を開いたままの間抜けな顔を晒してしまった。
「確かに俺達は便利屋だ。大抵のことは危険な仕事でも引き受けてきた。けどな、それは、ちょっと違うんじゃねぇか?」
ギロリと音がしそうな程の険悪な目つきで緑色の髪をした俺の仕事の相棒であるロロノア・ゾロは、
話を持ってきた相手を睨みつけた。
本当に今まで、ゾロが与えられた仕事に対して「NO」と言ったのを聞いたことがない程、
依頼のあったものは、何だってやったし、解決させてきた。
ぶつぶつと文句を言うことはあっても、それは引き受けることを前提とした文句ばかりだった。
だが、今回の依頼に対しては、はじめて最初から難色を示しているのだ。
「今までは、たまたまそういう仕事の依頼が無かったってだけで、別に避けてた訳じゃないわ。」
俺達が所属している会社(組織って言った方がいいような気がするけど・・・)の社長(ボス)である、
麗しのナミさんが、誰もがおよび腰になるゾロの凶悪な視線を真正面から受け止めて、更に跳ね飛ばす勢いで睨み返した。
俺は、そんな2人を交互に見ていることしかできない。
「・・・・仮に俺達がそんなところに行ったとして、役に立つとも思えない。」
「役に立つか立たないかじゃなくて、立ってきなさいって言ってるのよっ。わ・た・し・がっ。」
「・・・・なるほど・・・・いいだろう。だが、今回は俺一人で行かせてもらう。いいな?」
「駄目よ。」
「なんだ?それ。」
俺は、ナミさんの返事にかぶさるようにゾロの前に乗り出す。
仕事の相棒である俺を置いて一人で行くってどういうことだ?
そんなの認めるわけがないじゃないか。
ゾロは俺の目を真っ直ぐに見て反らさない。
絶対に自分の主張を取り下げない時にはいつもこの目をしていた。
だからって、俺だって納得行かないものを引くわけにはいかない。
「ナミっ!!」
俺の目を深緑の瞳で強く見つめ続けながら、台詞だけはナミさんにぶつけている。
大声を出しているというわけではないのに、ビクっと身体が震えてしまうような、
人を従わせる声音で、ゾロの声が部屋の中に響く。
こんな声出されたら、普通の人間には逆らえないだろう力がある。
俺だって長年こいつの相棒やってて、この声だって何度も聞いているにもかかわらず、思わずひるみそうになるくらいに。
それでも、ここで引き下がれない意地みたいなものもあって、ふんばって睨み返し続けた。
「ゾロが何と言っても、たとえゾロが行かなくても、サンジ君には行ってもらいます。これは決定事項。以上。」
ナミさんも、ゾロに負けることのない、キッパリとした声で言い切り、これ以上話は聞かない姿勢を崩さなかった。
本当にナミさんってすごい女性だ。
と感心してる場合ではなく、ゾロは、コメカミに血管を浮き上がらせて立ち上がると、なにも言わず部屋から出て行った。
何をあそこまでこだわることがある?
今までだって、危険な仕事はしてきたし、何も変わらないと思うのに。
ただ、場所が遠いってだけじゃないか。
そう思っていた自分の甘さに気づくのは、ずっと後のことで、
俺は、この時は、危険のレベルの違いを何もわかっていなかったんだ。
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