|
「さっさと起きねぇかっ。このクソマリモッ!!」
ゴンっとカカトが脳天に突き刺さる音が響く。
「あぁ?」
惰眠を貪っていた当人は、突然の衝撃に目を覚ましはするものの、まだ、はっきりは目覚めてはいない。
気持ちよく寝ていたところを手荒な起こされ方をされて、不機嫌な声を発した。
ま、当然だな。
そうは、思うものの、自分が手間隙かけて作った料理だというのに呼んでも姿を現さずにいるこのクソマリモのせいで、冷めて不味くな るのは我慢ならない。
「飯だって言ってんだろが。さっさと来いっクソ剣士っ!」
「ウルセー、このアホラブコック!」
「今、アホって言いやがったか?」
「もっと普通に起こせねぇのか?」
「てめぇが、さっさと起きねぇからだろうがっ!!」
もう一度、踵落しを脳天にキメテやろうと自慢の健脚を振り下ろすが、相手もそう簡単にそれを許すわけも無く
ムカつくことに片手で簡単に防がれてしまった。
(俺だって本気出しゃ、てめーなんか一発でなぁ・・・・!!)
頭に血がノボリそうになった所でめずらしくも自分をとりもどす。
ポケットからタバコとマッチを取り出し、一服すると気持ちが少しずつ落ち着いてゆく。
(はぁ・・・また、やっちまった・・・。)
なんだって、相手がこの男だとムキになってしまうのか?
どうして喧嘩ごしの言葉や足が出てしまうのだろう・・・。
(相当、相性が悪いんだな、こりゃぁ。)
いつも、起こしに来る時には、今日こそは穏便にと、いちおうは思うのだが。
本人を目の前にすると・・・・今日だってみかんの木の木陰で寝ている緑の頭を発見するまでは、そう思っていたのに。
(いつからだ?最初から?いや・・・あの日からだ・・・)
もともと、口喧嘩のようなものはあったとは言え、こう頻繁に足が出ることはなかった。
そう自覚したのは、ナミさんに指摘されたからなのだけれど。
「おっと、俺としたことが。」
夕飯の下ごしらえに夢中になり、ナミさんとロビンちゃんのテータイムの時間をすこしオーバーしてしまったのだ。
慌ててお茶と今日の二人の為に特別に作ったケーキをトレーに乗せてラウンジから出ると、ロビンちゃんはいつものようにデッキにイス を出して本を読んでいた。
ロビンちゃんに近づく時のお決まりになった「美を称える言葉」を口にしようとした時、彼女が立ち上がり船首部分の欄干にもたれて昼 寝をむさぼっていたゾロに近寄ってゆく。そのまま肩にかけていた自分の上着を脱ぐと、ゾロの身体を覆うように、かけようと腰を屈め る。
いつもは、なかなか起きないゾロが、彼女の気配に気づいて目を開く。
「俺に近づくな」
同時に鋭い目で睨まれ、彼女は肩をすくめて本の置いてある自分のイスへと戻った。
そして
自分とゾロとの間に手の花を並べて咲かせて上着をリレーし、再び目を閉じていたゾロの上にかけた。
ゾロは目を閉じたまま
「近づくなと言っただろうっ。」
と怒りを抑えたような低音の声を出す。
ロビンちゃんは、そんなゾロの言葉にめげることなく薄く笑いを浮かべ
「私は近づいてないわ」
と答えた。
ただそれだけのことなのに俺は・・・お茶が冷たくなるまでその場に立ち尽くしていた。
二人の間に、何か普通ではない空気を感じ
ズキズキと心臓が痛む
「痛っ、何だ?」
心臓の上に手の平をあてて首をかしげる
(ああ、そうか・・・ロビンちゃんの優しさにお礼も言わないゾロにムカついてるんだな。)
すっきりしない感情を、そう結論づけた俺は、その後のゾロに対する態度が変化していった。
たとえ蹴り飛ばしても、それは当然の行為なのだと。
「ねぇ、サンジ君。最近ゾロと何かあった?」
ティータイムの紅茶のおかわりを注いでいると、ナミさんがちょっと気になったからと付け足しながら質問してきた。
「いや別に何もありませんよ」
「そう?それにしては最近のサンジ君、ゾロに厳しいみたいだし。毎日のことだし・・・・以前の口喧嘩の延長みたいなのはレクリエーショ ンの一環としか思ってなかったけど・・・それも・・・なんだか違ってきてるみたいだし・・・ね。」
本来喧嘩してばかりいる2人のことを犬猿の仲とかいうのだろうが、この2人の場合は少し違う。とてもそんな言葉でくくることができるよ うな関係だとは到底思えない。
目が合えば何かを言わずにはいられないサンジの最近の行動が、ナミには小学生によく見られる『ある行動パターン』に重なっている ように感じるのだ。
「女好きのサンジ君に限って、まさか・・・・ねぇ・・・。」
そのつぶやきが聞こえたのか、ロビンが立ち上がりながら気になるセリフを残した。
「意外な事があるから人間の歴史は面白いのかもしれないわね。」
「え?・・・ってまさか!ロビン?」
どういうことなのか聞き返そうとしたが、すでにラウンジに彼女の姿は無かった。
(一度気になると、つい目がいっちゃうんだよなぁ。)
あの後も、ロビンちゃんはゾロが昼寝しているときは、必ず近くで読書しているように見える。
時々、本から視線を上げては、ゾロの様子を気にしているように感じるのだ。
「まさか・・・・な。」
そう、まさか、ロビンちゃんのような素敵なレディが、あんな「寝る・食う・修行」の三拍子しかないような、面白みのない男を好きになる わけがない。
そうは思うのになんだか訳のわからない不安が、押し寄せてくる。
「は?何を真剣に悩んでるんだ?俺にはナミさんがいるっていうのに・・・。」
最愛であるはずの彼女のことを考えても、この晴れない気持ちは何なのだろう・・・。
(俺ってそんなにロビンちゃんにメロメロだったのか?)
そして、気分は晴れなくとも、日課と課したロビンちゃんへのティータイムサービスを止めることもできない。
俺は、鬱々とした気分を抱えながら、甲板へと出た。
ロビンちゃんはそんな俺を見ていたかように、またあの時と同じように惰眠を貪るゾロの傍に近づいて行く。
ゾロはロビンちゃんの気配に気づいたのか、急に目を開ると彼女の手首をつかんだ。
「むやみに俺の半径50cm以内に近づくな!!」
不機嫌そうな低音の声で、吐き出すように。
女性に対して失礼な態度のゾロに、それでも彼女は笑顔を向けている。
「ごめんなさい。」
「前にも近づくなって言ってあったな。」
「そうだったかしら?でも、気になるものは気になるのだから仕方がないわね。」
「なんだ?・・・・お前、俺とやりてぇのか?」
「フフフ。ムードのカケラも無いのね。でも、そうかもしれない。お願いしたらお相手してもらえるのかしら?」
「別に構わないんじゃねぇか?」
ロビンちゃんの顔が、ほんの少しだが嬉しそうに変化する。
「では今夜にでも?」
「わかった。」
ゾロは、そう返事をすると、掴んでいた腕を離し、再び目を閉じ。
ロビンは、何事もなかったかのように、微笑を浮かべながらデッキチェアーに戻って行った。
(何だ?何なんだ今のは?!ロビンちゃんは、やっぱりゾロのことが好きで、ゾロはその気持ちを受け入れたってことか?
あの堅物のゾロとロビンちゃんが?・・・・なんだか想像できるような出来ないような・・・でも、素敵なお姉さまのロビンちゃんに、ゾロは もったいねぇっ!!何であいつなんだ!!)
胸の中のモヤモヤが怒りへと変わっていくような、嫌な気分が蓄積されていく。
気分を変えたくて、冷たくなった紅茶を一気に喉へと流し込んだ。
「不味い・・・・・・ったく。クソムカツクぜっ!!」
自分でも、何にムカついているのか全くわかっていない。
それでも、原因の1つにゾロが関係していることだけはわかって。
だから、余計に自分の気持ちを冷静に考えることができなかった。
「はぁ。紅茶、入れ直すか・・・。」
自分の素直な気持ちに向き合わず、蓋をしようとしていることに、サンジ自身気づいていなかった。
「飯だぞー!!」
夕飯の支度を済ませて一声かければ、皆がすぐに集まってくる。
ナミさんとロビンちゃんの配膳を済ませるころには、大食らいの面子が我先にと食べ物を奪いあう戦場と化していた。
けれど、その中にゾロ姿がまだない。
「あのマリモヤロー!まだ寝てやがんのかっ!!」
そう言って、起こしに行こうとラウンジの扉に手をかけると、ナプキンで口元を拭いながらロビンちゃんが立ち上がった。
「私が行ってくるわ、コックさん。」
「そ、そんな。ロビンちゃんの手をわずらわせなくても・・・。」
「この子達から、剣士さん分を守ってあげて。」
キレイな微笑を残しラウンジを出て行ってしまった。
「なるほど。そーゆうことね。」
ナミさんがニヤリと笑った。
素敵なナミさんに向かってニヤリなんてとは思ったが、そうとしか表現できない表情なのだ。
「「なんだ?なにが、そーいうことなんだ?」」
口の中から食べ物のカスを飛ばしながら、ルフィとチョッパーが同時に振り向いた。
(最近、へんな所が似てきて、よくない傾向だな・・・。)
「いーから、あんたたちは黙って食べてなさいっ!!」
「何怒ってんだ?ナミ、こえーぞ?」
「ナミこわーいっ!!」
ナミは「キッ!!」と音が聞こえそうな顔で二人を睨む。
「もう充分食べたでしょ!!とっとと出て行きなさいっ!!ウソップあんたもよっ!!!」
とばっちりを受けないようにテーブルから離れて食事していたウソップが『やっぱり俺もかよ』という顔してラウンジから出ていった。
二人きりになって、ナミさんはなんとも言いようのない笑みを浮かべた。
ナミさんにはあり得ないのだが、人によっては意地悪そうな笑みとでも言うのだろうか。
そんな笑みでもナミさんの美しさを損なうことはないのだが。
「で?サンジ君は今どんな気持ち?」
「へ?」
「ロビンがゾロのところへ自分が行くって聞いて、どう思ったの?」
「あぁ・・・・あの朴念仁にロビンちゃんは勿体無いっていうか、不釣合いだから止めといた方が賢明っていうか・・・俺にしときません か?って感じですかねぇ。」
先ほどから、ナミさんと二人きりだっていうのに心が弾まない。こんなことあるはずがないのに。
何故か気分が落ち着かない。
この俺が誰が見ても落ち着かないことがわかるようにラウンジの中をウロウロと熊のように歩きまわっている。
少しでも落ち着こうとタバコを1本取り出し、火をつけようとするのだが、手が震えてなかなか点けることが出来ない。
微かに震える指を見て、自分でも不思議で首をひねった。
「ジェラシーを感じているってわけね?」
そんな俺を一部始終観察していたナミさんが、そう結論づける。
「やっぱりそうですかね?俺ってば、そんなにもロビンちゃんが好きだったってことですよね?」
ナミさんがへんな顔をしてる。
「あのねぇ、サンジ君」
「あっ、すいません、気づかないで。お茶のおかわりはいかがですか?」
「・・・・・・いただくわ。」
「少々お待ちください。すぐに用意します。」
ソムリエのように優雅に一礼するとお湯を沸かす為台所へ向かった。
「あの二人、このまま帰って来ないかもね。」
「!!」
後ろから届くナミのつぶやきに手を滑らせて、カップをソーサーから落としてしまう。
「おわっ!!」
思わず足で落ちるのを阻止しようとするが、当たり所が悪く取っ手の部分がポロリと外れてしまった。
「クソッ、やっちまった・・・もう使えねぇか・・・。」
「素直になった方がいいんじゃない?本当はサンジ君もわかってるんでしょ?」
流しに向かう元気のない背中に、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でナミが囁いた。
「な、なにをですか?」
うわずったような声が出てしまった。
(俺は何を焦ってるんだ?ナミさんは何を言おうと?)
「サンジ君がゾロのことを好きってことをよ。」
ドキンッ!!!
「な!!」
あまりの衝撃に次の言葉が続かない。
「何?本当に自覚がないの?」
(何言ってるんだ?俺がゾロを好き?・・・まさか。俺は女性は大好きだが、男なんか好きじゃ・・・・あんなガタイがよくて、強くて、いつも は恐い顔してるのに仲間と認めたやつの前では笑うと垂れ目になるし、時々ナミさんに無礼な口きくし、寝る・食べる・修行で面白みね ぇし・・・・何よりやわらかくないなんて許せねぇ!!なのになんでだ?なんでこんなにあのクソヤローの顔を思い浮かべただけでドキド キと心臓の音がうるさいくらいに鳴り続けるんだ?)
考え込むサンジをしばらく見つめていたナミは、静かにラウンジから出ていった。
|
|
|
|
|
今日も、ロビンちゃんとゾロはどこかに消えている。
すっかり、ゾロにはロビンちゃんという図が出来上がってしまったようだ。
自分がゾロと会話する機会なんてほとんどなくなってしまった。
(なんでこうなるんだよっ!!)
自覚した途端にどん底だ。
こんな苦しい想いをするために俺はあいつへの気持ちを認めたなんて・・・・
(笑うしかないじゃねぇかっ!!)
こんな想いは、きっと勘違いに違いないから
今ならまだ間に合うはず
忘れよう
きっと忘れられる
そう思えば思うほど
余計に意識してしまって
どうにもならない
苦しい
苦しい
苦しい
苦しくて
それでも
忘れられないほど好きなんだと
あいつへの想いが強くなって
ただ、好きなんだと
それを確認しているだけ
好きだと言えないことが苦しい?
自分を好きになってくれないことが苦しい?
自分以外の人と一緒にいることが苦しい?
全てが苦しくて
考えないようにしたくても
考えないことなんてできない
こんなに苦しいなら
いっそ、こんな記憶
なくなってしまえばいいのにっ!!
「サーンジッ!ゾロは?」
食事の席に全員がそろっていなければ、こうやって何も考えず俺に聞いてくるガキども。
俺は
あつらの保護者でも何でもないのに
今頃、二人でいるだろうことを考えたくもないのに
どうして
どうしてワザワザ
俺に聞くんだ?
もちろん悪気がないのはわかっている。
そうだと頭ではわかっていても
それでも
押さえつけて押さえつけて
やっと何とか平静を装っていた鬱屈とした気持ちは
いまにも爆発しそうなほどふくらみすぎていて
自分でもコントロール出来ない。
「うるせーっ!あんなクソヤローのことなんか知るかっ!!黙って食え。」
「何だよ。サンジ、恐ぇぞ。ナミみたいだ。」
「うん、ナミみたいだ。」
「なんですってっ!!」
ゴインと殴られる大きな音が響く。
「・・・・・・・お前らバカだ・・・・」
ウソップがつぶやく。
そんなラウンジでの いつもの風景にあの2人がいないというだけでイライラが募っていく。
ああ
俺が俺でなくなって・・・。
何か恐ろしいものに浸食されていく・・・・。
「なんか、サンジのやつ、おかしくねぇか?だってよぉ、ナミやロビンを前にしてハート飛ばさねぇサンジなんて絶対おかしいって!!」
「まあね。」
食事の後、ウソップに「話がある」と女部屋に引っ張ってこられたナミは、机に片肘をついて、その腕で小さな顔をアゴの下で支
えて呟いた。
「だろ?やっぱそーだよな?しっかし、いきなりヒステリックに怒鳴り散らしたりするし、こっちはいい迷惑だってーの。」
「あんたに言われたくないわね。」
ナミは興味なさそうにウソップの言葉を聞き流している。
「(あのなぁ・・・・俺だってお前にだけは言われたくないってーの。口に出して言えないけど・・・)で?ナミ。お前、原因を
知ってんのか?」
ウソップは気を取り直しナミに向き直り姿勢を正した。
「うーん、知ってるって言えば知ってるっていうか・・・・・・この後、私はどう動くべきかってことよね、この場合。」
「は?」
「やりようによっては・・・・儲けが・・・・・ふっふっふっ。」
ウソップは嫌な予感に身震いした。
(・・・・目がべりーになってるし・・・・)
「だ、だから何だって?!」
「だーかーらーvvvサンジ君を助けてあげようって話じゃないっvvv」
「いや、ナミの場合、純粋に人助けなんてありえねぇから。」
条件反射で、小さな声で突っ込んでしまった。
「なんですって!!」
「あ〜・・・・いや、なんでもない、なんでもない。」
ぶんぶん顔の前で両手を振って、角がでた恐いナミの前から逃げ出した。
(すまん、サンジ。運が悪かったと思って諦めてくれ。迷わず成仏しろよ。)
心の中で合唱するウソップであった。
ロビンがラウンジに入って行くと、サンジ以外のクルーの姿は無かった。
どうやら、それぞれ部屋に引っ込んでしまった後らしい。
「遅くなってごめんなさい。お食事いただけるかしら?」
いつもならすぐに返事が返ってくるのに、今日のサンジは動く気配すらない。
しかも、自分の顔を通り越して、後ろに視線を向けているのだ。
誰かさんが続いて入ってくることを意識しているのだろう。
そう気づいて、ロビンは笑いそうになる頬を引き締めた。
「剣士さんなら見張り台にいるわ。」
「え?」
「変わってもらったの。後で何か持って行ってあげてもらえるかしら。」
「あ・・・・はい。もちろん、ロビンちゃんの仰せのままに。」
サンジは、複雑な表情を隠しながら優雅に一礼し、キッチンに向かった。
ドキドキと心音が高まる。
食事を運ぶ手が震えて止まらない。
「おいおい、緊張してんのか?しっかりしろ俺!!」
見張り台を下から仰ぎ見る。
(自然に自然に・・・)
「よお!!メシ持って来たぞ!!」
心なしかウキウキとした調子で声をかけながら見張り台への梯子を登る。
ゾロは上から覗き込み、俺を確認するとトレーを受け取り自分が座れるスペースを開けてくれた。
それだけのことなのに、なにか嬉しくて
苦しみを忘れてしまう自分がおかしくて
愛しい
登りきると、ズボンの脇に落ちないように差し込んでいた酒のビンを差し出した。
「特別に、これも持ってきてやったぜ。」
差し出したビンを受け取るとゾロは「サンキュ」と礼を言って笑った。
(!!)
俺はちょっとばかりビックリして動きが止まっちまった。
今まで、笑顔で礼なんか言われたことがあったろうか?
いつも仏頂面で眉間に皺を寄せて
なのに
調子が狂う。
いつもと違うことなんかするから
だから俺もおかしくなるんだ
顔が
あつい
クソっ!!なんだってこの俺が
これしきのことで頬なんか染めなきゃいけないんだ
「お前も飲むか?」
半分ほどに減ったビンを差し出される。
ゾロの飲んだビン。
そのビンを受け取りながら
ゾロの引き締まった唇に自然と目が行ってしまう。
物を食べる度に動く唇を見ただけで・・・
(何意識してんだ?欲求不満みたいじゃないか。)
狭い見張り台の中に大の男が二人も納まると、余計に狭くて
ゾロと腕が触れ合うくらいに近く
(ゾロの体温って結構高いんだな。)
なんて思ったら、なんか意識しちまって
ドキドキと動悸が激しく
顔に血が昇ってきた。
(うわっ、周りが暗くて助かった。これくらいなら、顔色まではわからないよな?)
俺は焦って、手に持っていた酒瓶を勢いよく傾け、ゴクゴクと少し強めのアルコールを喉へと流し込んだ。
大半が自分の胃の中に消えた時、息継ぎに失敗して少量の酒が気管支に入り込み、ゴホゴホと激しく咳き込んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
ゾロが背中に手をあて、覗き込んでくる。
「だ・・・・ゴホ・・・・だいじょう・・・ぶ・・だ。」
こんなに近いと心臓の音を聞かれそうで
自分の気持ちがばれてしまいそうで
恥ずかしくてゾロの身体を両手で押し戻した。
(やべぇ。飲んだ上に興奮しすぎてホワホワと気持ちよくなってきやがった。)
「なぁゾロ。お前、ロビンちゃんのこと好きなのか?」
(おーい。何、直球投げてんだ?俺!!)
「あぁ?何言ってやがんだ?まさか、もう酔っ払ったんじゃねぇよなぁ?ってそのマサカだな・・・・。」
焦点の定まらない俺の目を見てゾロがため息をつく。
「なぁ!!どーなんだ、答えろよ〜・・・ヒック」
俺は上目遣いに睨みながらゾロに詰め寄っていた。
「ったく、しょーがねぇなぁ・・・あの女は苦手だ。好きとかそんな対象じゃねぇっ!!」
「最近いつも一緒にいやがるじゃねぇか!・・・・・夜だって・・・・相手してんだろ?」
「はぁ・・・・なんであの女も、俺ばかり相手にしたがるんだか・・・。」
やっぱりそうだよな。ゾロはロビンちゃんと・・・
でも、ゾロは、ロビンちゃんのことが好きって訳じゃないんだ。
だけど、ロビンちゃんはゾロのこと・・・・
「そりゃ、好きだからに決まってんだろうが!!」
「?」
「ロビンちゃんはお前のことが好きだから・・・・・だから俺は・・・・・」
「・・・・・まさかとは思うが・・・お前も、あの女とやりてぇのか?」
そんな
そんな風にゾロに勘違いされたくなくて
必死に首を振る。
「なっ!!そ・・・んな・・・・・、そんなこと全く考えてなんか・・・・あっ!!」
ゾロはサンジの腕を掴むと自分の腕の中に引き寄せた。
「お前はどうなんだ?あの女が好きなのか?」
耳元で囁かれ、低音の掠れた声と一緒にゾロの口から吐き出される息が耳にかかり、
ゾクゾクと身体を震えが走り抜ける。
そんなこと聞かれたら
俺だって勘違いしてしまう
もしかしたら
俺にもチャンスがあるんじゃないかって
「ち・・・がう・・・俺は・・・離せよ」
懸命に抗って離れようとするのに
ゾロの屈強な腕はびくともしない。
(頼む・・・離してくれ。じゃなきゃ俺はもう、黙っていられないっ) |
|
|
|
|
「頼む・・から、離れて・・・くれっ!!」
本気で抗えば、ゾロの腕を引き剥がすことはできるのかもしれない。
そうは思っても、本気で振り払うことができない。
口では離せと言っても、実際、心の奥底では望んでいたのかもしれない・・・。
いつまでもこのままでいられればいいのにと・・・。
「あの女とやりたかったわけじゃないなら、俺とやりたかったのか?」
ゾロが、驚くようなことを口にした。
「な・・・何を・・・・バカなこと言ってやがるんだ。やりたいなんてっ、・・・・そんなこと!俺はお前となんてっ」
いつものサンジなら「ふざけるな!!」と反撃の蹴りの一つでも入れている所なのに、今はゾロに引き寄せられるままに腕の中に納ま り、酔いの為に潤んだ濡れた瞳でゾロを見上げている。
きっと、ここまで近づかなければゾロも気づかなかったに違いない。あの、サンジが、耳まで赤くしているなど。
「ん?・・・・・・ああ、そうか・・・・・・」
ゾロは何かを一人で納得すると、パニクッているサンジを軽々と持ち上げ、胡坐をかいた自分の足の上に座らせてすっぽりと抱え
込んだ。
「やりてぇなら、最初からそう言やぁいいんだ。」
そう言いながら俺のアゴを捕らえ、上向かせると唇を重ねた。
唇を舌先で軽く舐め上げ、割り開き、口腔内に進入し、震える舌を絡めとり吸い上げられ。
あまりの快感に意識が飛びそうになる。
(口だけでこんなに気持ちがいいなんて、今まで知らなかった。)
「目ぐらい閉じろ。」
そう言われるまで、自分が目を開いたままゾロの顔を見つめ続けていることに気づきもしなかった。
どうやら、驚きすぎて思考能力もなにもかもが停止してしまっていたようだ。
でも・・・・ここで目を閉じたりなんかしたら、ゾロとやりたかったんだと認めることにならないか?
そう認めたら、もう
引き返すことができなくなる
(駄目だ。そんなことしたら・・・・ロビンちゃんが悲しむことになる・・・。)
駄目だと頭ではわかっているのに、
心が従ってくれない。
自分に正直にならないと、きっと後で後悔することになると。
だから、今は、ただ・・・・
俺は、ゆっくりと目を閉じると、改めてゾロからのキスを受け止めた。
(ああ・・・・そうだ・・・・俺はゾロと、ずっとこうしたかったんだ・・・・)
そう思ったら、今までの感情や行動が、ストンとパズルのピースのように、きっちりはまりスッキリとしてしまった。
人のことや相手の気持ちばかり考えすぎて、自分の気持ちに素直になることを忘れていた。
夢を諦められないように、この思いを諦めるなんて出来るわけがなかった・・・。
ロビンのことを考えているようで、実は彼女に嫉妬していた。
いつもこの男の傍にいる彼女が羨ましく妬ましかった。
自分以外の人間と仲良くしている姿にイラつき、平静さを失っていた。
「あ・・・」
ゾロは、口への愛撫だけではなく、ズボンの中からシャツを引っ張り出し、直接手のひらでサンジの男とは思えない絹のように滑らかな 肌を愛撫する。
白磁のように真っ白な肌は、触れた先から桜色に染まり、
やわらかかった胸の蕾は、押しつぶすように摘まれただけで、女のように固く赤く立ち上がる。
サンジはムズムズと腰にくる快感を抑えられず、腰を揺らす。
その行為が、ゾロを更に煽っていると気づかずに。
女じゃないのに、こんなにここだけで感じてしまうなんて恥ずかしい。
そんな恥ずかしさが余計に快感の波を大きくしている。
後ろから首筋を舐められ、肩や背中にキスの雨を受け、赤い花がちりばめられてゆく。
そのたびに、サンジの口からは、おさえきれない快感の喘ぎがこぼれ落ち、
サンジは嬌声が響きわたらないように自分の腕を銜えて耐えた。
前の果実をズボンから解放し、緩急をつけた愛撫を加えられる。
直接的な快感に先走りの雫がグチュグチュと卑猥な音を響かせる。
「や・・・・・・・・はぁ・・・・・あ・・・・・・んっ・・・・・・・・」
サンジの形の良い頭がのけぞり、ゾロは肩で支えた。
ゾロは、片手でサンジの果実を愛撫し、もう片方の手を秘められた蕾に移動した。
サンジの身体がビクリと揺れる。
(やっぱり・・・俺・・・だよな・・・・・。)
自分はゾロを受け入れられるだろうか?
恐い
恐いけど、でも、それでゾロと一つになることができるのなら
どうなっても・・・・・・後悔はしない。
でも、ゾロは?
ゾロは、男でも大丈夫なのか?
ゾロは、俺のことをどう思って?
俺がゾロのことが好きで、こうすることが出来て・・・・それだけでいいと思いながらも、反対にゾロが自分のことを好きでなければ意味 がないじゃないかと思う自分もいるのだ。
同じようにロビンと体を重ねているのではないか・・・・彼女と同じように、好きでもないのに自分を抱いて、性欲の処理をしているだけな のでは無いのかと考えると・・・・急速にそれまでの熱が引き、頭がクリアになって・・・・・
俺は、ゾロを押しのけ胸に手を当てた。
「痛い」
「?」
「ここが、ズキズキと痛い・・・・。」
「おい、お前?」
胸の位置でシャツをギュっと握り締める。
ポトポトと瞳からこぼれ落ちた涙が床に染みをつくってゆく。
「大丈夫か?・・・待ってろ。チョッパー呼んでくる!」
本当に痛がっていると思っているゾロが立ち上がろうとする。
その腕を俺が握って止めた。
「違う」
「?」
「違うんだ。病気じゃないから、チョッパーになんか治せねぇよ。」
ゾロが怪訝そうに俺を見つめる。
「そーじゃなくて・・・・・俺がゾロのことを勝手に好きになったんだから、ゾロが俺のことを好きじゃなくたって・・・・ただの性欲処理だった としても・・・・仕方が無いと思おうとした。拒絶されなかっただけ幸せだと思おうと・・・でも・・・・やっぱり、悲しくて・・・・・俺は、異性だろう が同性だろうが気にはならないけど、・・・気持ちが伴わないSEXはできない・・・・・・・ここが苦しくて、痛くて・・・こんなに苦しいなら・・・・ 最初から無かったことにした方がいいんじゃないかって・・・・・・好きだと思われてないのに、身体を繋げるのは・・・・・辛いから・・・・だ から・・・・。」
心臓の上を握り締めているサンジの手を、ゾロは優しく引き剥がし、自分の心臓の上に押し当てた。
「俺の鼓動を感じるか?」
ドキドキと早い速度で脈打つゾロの鼓動を手のひらに感じ、
サンジは返事の代わりに泣き濡れた顔を上げ、ゾロの目を見つめた。
その苦しそうな表情を見て、ゾロの顔も僅かに曇る。
「あのなぁ、気に入ってなきゃ、抱こうなんて思わねぇだろーが。しかも同じ男を。違うか?」
「・・・・・気に入ってても、好きなわけじゃない・・・。」
「あー、クソ、めんどくせぇ。俺は言葉にするのが苦手なんだ。」
そう言って、ゾロはガシガシと頭をかきむしる。
「いいか?言っとくが、俺は、好きなやつとしか、こんなこたぁしようとは思わねぇし、好きでもねぇやつの身体に触っても、こんなに鼓動 を早めることもねぇし、ここだって感じねぇ。」
ゾロは早くなった鼓動を確かめさせると、そのままその手を、先ほどの興奮で大きく立ち上がった自分の欲望へと導いた。
「お前も同じ男なら、わかんだろ?」
サンジは直に伝わる熱を感じて頬を赤らめた。
「・・・・なら、なんでロビンちゃんと?」
「あ?ロビン?あの女がどうした。今は関係ねぇだろがっ!!」
「毎晩、相手してるって言ってたじゃねぇか・・・。だったら、彼女のことも好きだってことだろ?」
「・・・・・・ちっ。確かにさっきは、勘違いさせるような言い方をした・・・ロビンの企みに便乗してでも、お前に触れたかったからな。だが卑 怯な手段を使ったりするのは、逆に話をこじらせるだけだった・・・。いいか?よく聞けよ?あの女とやってたのは、鍛錬だ。」
「鍛錬?」
「ああ、あの女が何もしないでいると腕が鈍るから相手しろっていうんで、しつこいから仕方が無く付き合ってやってたんだ。何か企んで やがるとは思ったが、しばらく様子を見ようとしてたら、話をややこしくしやがって!」
「・・・・・」
「『強い能力者相手を想定してるならルフィとやれ』って一度断ったのに、ルフィに断られたから俺しかいないってしつこく言いやがるし。 しょーがねぇから夜だけ付き合ってやってた。まあ、思いのほか俺もいい修業になったけどな。」
「そう・・・・そーだった・・・のか。・・・・でも、俺はロビンちゃにお相手を頼まれた記憶なんかねぇぞ?頼まれてたら断るわけねぇし。」
「お前じゃ、女相手に本気ださねぇのが判ってるからだろ?」
「あー、・・・そうか・・・・そうだよ・・・・な。」
そうか。ゾロはロビンちゃんとは何でもなかったんだ。
現状が整理され、事情がわかってくると、少しづつ嬉しさが込み上げてきた。
重く心に圧し掛かっていた重りが取り去られ
ただ
ゾロが好きだという気持ちだけが
心の海の底から浮上してくる
「ゾロ」
目元を拭っていったゾロの指が濡れているのを見て、自分が泣いていることに気づいた。
好きな男の顔を、きちんと見つめたいのに、視界がぼやけて、見ることができない。
(俺って、こんなに涙腺、弱かったか?)
嬉しくて幸せなのに後から後から止め処なく溢れてくる。
(人間は、なんで嬉しくても悲しくても涙が溢れるんだろう・・・・)
理性的に考えられたのはそこまでで、あとは、先ほどまでの続きを開始したゾロがもたらす快感の波を追いかけるので精一杯で、何も 考えられず、ただ、心のままに欲望を吐き出し、ひとつになる喜びを感じるだけだった。
涙を零しながら、幸せそうに笑うサンジの姿は凶悪的に可愛すぎて。
初めてのサンジを傷付けないようにと激情を抑えていたゾロは、限界が近づき我慢することを放棄した。
サンジの両頬を包み込み、濡れた目元に唇をよせる。
涙の跡に沿って唇を下げてゆき、そのまま、甘い吐息を零す唇を覆い隠した。
はじめは、ついばむ様だったそれも、次第に深く熱いものへと変化し、
サンジの欲望をあばき
自らの欲望をも満たして
激しく
何もかも奪い、忘れさせるくらい情熱的に
激しく
攻め立てて
これが俺の思いだと言わんばかりに
激しく
何もかも奪われてしまいそうに情熱的に
息が苦しくて
でも気持ちよくて
何も考えられないくらい
体も心も熱くなって
そして
ゾロと一つになれた時
目の前には
青く輝く
眩しいまでの海が
大きく広がっていた
急がずに、ゆっくり自分のことを好きにさせてみせると決めていた。
だからロビンが何か企んでいようとも、関係ないと思っていた。
そのサンジが、俺が近づいただけで頬を染め、他の女とのことを勘ぐりヤキモチをやいているようなのだ。
まさか、サンジが自分のことを想ってくれているなど思いもしなかった。
しかも腕の中のサンジの瞳は酔いで濡れ光り、それが凶悪な色っぽさで。
目の前にあれば、いくら『ゆっくり』と思っていた自分でも、我慢なんてできるわけがない。
何も考えられず夢中で抱き寄せて唇を奪っていた。
有頂天になりすぎて、それまでのロビンとのことを話さずに、サンジに辛い思いをさせてしまった・・・。
気に食わないが、あの女には感謝するべきなのか・・・。
あの時・・・・
「お前、何考えてんだ?」
鋭い視線を疑い深そうにロビンに向けるゾロは、倉庫の中央で鍛錬の最中だ。
「なんのことかしら?」
一方のロビンは、木箱が積まれたその上に腰掛け、ただじっとその姿を眺めている。
「この間から、俺が一人でいる鍛錬中は必ず見てやがるじゃねぇか!一緒にやるでもなく、そうやって見られるは好きじゃねぇ。
まさか、俺の弱点でも探ってるって訳じゃねぇだろが。」
「ふふふ。夜しかお相手していただけないから・・・・・そうね、スキを狙ってるのかもしれないわね。」
「スキねぇ・・・。」
ロビンの方へ向き直り、イカリを床におろして立てると、そこに起用にもたれかかった。
「で?本当は何が目的だ?」
納得できる話が聞けるまで、いつまでも待ってやろうじゃないかという姿勢で睨みつける。
「ここ何日かは黙っていてやったが、そろそろ俺も限界だな。」
「あら。私がやることなんて気にも止めず、興味もないんだと思ってた。」
「別に興味があるわけじゃねぇ。」
汗の流れるゾロの上半身から鍛錬の厳しさを表すように、湯気が立ち上っている。
ロビンは近くに置いてあるタオルを拾うとゾロに向かって投げた。
ゾロは広がって飛ぶタオルを何も言わずにキャッチすると、素直に上半身の汗を拭った。
「ただ・・・・」
思い出したようにゾロが先ほどの続きを口にし、ロビンは静かに先の言葉を待つ。
「・・・・・・あいつとの時間を故意に邪魔されて、頭にきてるだけだ。」
目を逸らすことなく、挑むように告げる。
言外に『いいかげんに、そろそろやめておけよ。』と伝えるように。
頭にきていると言いながら、ゾロの口から発される言葉は静かだった。
それでも、その言葉には『込められた重み』があり、人を圧倒する力があった。
「あいつって彼のことよね。」
ロビンはタバコを吸う仕草をした。
「ああ。」
ゾロは全く躊躇することなく首を縦にふる。
「こういうのも潔いって言うべきなのかしら・・・。」
ロビンは少し驚いたように目を見開いていたが、すぐにいつもの調子で微笑を浮かべた。
「フフフ。あなたには自覚があるのね。」
「何?」
「いいえ。それなら別に何も言うことはないわね。」
ゾロはムッとしてロビンを睨みつける。
「今日の見張りは剣士さんの番だったわね?」
「あぁ?」
そうだったか?と首をかしげている間に「あとは お願いね。」と言い残し、ラウンジへと戻っていった。
ロビンからすれば、これだけお膳立てしてやったのだ。今日の見張りくらい変わってもらったってバチはあたらないだろう。
それに・・・・
「フフフ。本当に退屈しない船。あの時、命を捨てなくてよかったのかも。」
『楽しい』という感情が少しわかり始めてきていたから。
「これも、船長さんの御蔭かしら。感謝しなくちゃね。」
そう言って楽しそうに笑うロビンの姿。
そして、彼女の立ち去った後には、親指を立てて握った『Good Luck』の意味が込められた手の花が咲き乱れていた。
身体はあちこち痛いのに、心の中は、すがすがしく晴れやかだ。
俺は、横で目をつぶって寝ているゾロの胸に耳を押し当て、ゆっくりと脈打つ命の音を聞いていた。
夕べはあんなに激しく打ち続けていた鐘が、今はとても穏やかに鳴り続けている。
自分の奏でる音とゾロのそれが重なり合って、同時にリズムを刻んで。
ただ、それだけのことで幸せを感じてる俺って、お手軽だよな。
(俺ってこんな男だったか?)
そう思いはしても、そのこと自体に嫌悪感はなく、逆にそんな自分が愛しくて、自然に笑みがこぼれる。
わずかに身じろいだ振動で目を覚ましたのか、ゾロが俺の髪を優しく包み込むように撫で梳いていく。
それが気持ちよくて、その腕に擦り寄るように頭を寄せた。
「うわっ」
急に体勢が入れ替わり、ゾロは俺の上に覆いかぶさると、チュッと大きな音をさせて額にキスを落とした。
「俺もお前に聞きたいことがあったんだが・・・・そんな顔見たら、どーでもよくなったな。」
「そんな顔って?」
ゾロは眩しいものを見るように目を細めると、サンジの両頬を包みこんだ。
「俺にメロメロって顔。」
「そ・・・・そんな顔してねぇ!!このクソマリモ!!」
ボッと音がしそうな程、一気に耳まで赤くして、サンジが毒づいた。
「ま、そーゆーことにしといてやる。」
クツクツと笑いながら、ゾロはサンジの果実のように赤い唇を塞ぎ、
『しといてやるってなぁどういうこったーっ!!』というサンジの反撃のセリフを飲み込んだ。
後は、飽きることなく濡れた音がつづくだけ。
______今、この時の
幸せをかみ締めて_________
Fin |
|
|