砂の霧 〜 1 〜

1  熱                  2006.03.21.更新
飛行機を降りた途端に襲ってきた熱気に、一瞬空気が吸えなくなるかと思い、おもわず胸に手を当てた。

 「いきなりサウナに放り込まれたみたいだな。」

 これでもこの時期が一番過ごしやすいというのだから驚きだ。

 「行動するのは朝か夜だ。甘くみて昼間に出かけたりするな。慣れてない人間は
 日射病か熱射病になるのがオチだ。」

 後ろからのっそりと出てきた相棒は、俺の腰をさりげなく引き寄せて階段の端に寄った。
 俺はこんな人目のあるところで、なんてことするんだと驚いて腕を外そうとすると、ゾロが後ろを振り返って「お先にどうぞ」と声をかけた。
 俺が初めて訪れる国で思わず止めてしまった足が、道を塞いで後ろに迷惑をかけていたらしい。後ろで降りる順番を待つ乗客を詰まらせてしまうほど、自分がこの初めて訪れる国に舞い上がってしまっていたことに頬が赤くなる。

 「す、すいませんっ」

 俺はゾロの腕を急いで外すと、邪魔にならないように階段をすばやく降り切ったものの、いやな予感がして相棒を振り返った。
 思ったとおり、相棒の顔は誰でもが相当機嫌が悪いだろうとわかるほどに眉間にシワを寄せて俺を睨んでいた。
 最近のこいつはちょっと異常なほどに俺に触れたがる。いつでもそばにおいて置かないと心配でたまらないと言うように。
 しかも、誰か他の人間と話をしているだけでも気になるらしく、まるで嫉妬を隠さなくなった。
 そう、彼は俺にとって仕事の相棒でもあり、これからの人生を共に送ろうと誓い合った恋人でもある。
 最初は男同士だからと悩んだりして、色々苦しい時もあったけど、
 両想いだとわかって、心も身体も通じ合って・・・・
 今では、本当に信じられないくらい幸せだけど・・・
 それをソロのように態度に出す事ができない。
 もちろん、四六時中イチャイチャしてたいとは俺も思うけど
 やっぱり、外では恥ずかしいし、奇異の目で見られるのは恐い。
 だから、意識しなければ肩を組むくらい普通の友人同士でもやるだろう事すらも
 誰かに見られているのではないかという思いが先に立ってしまって、
 ゾロが横に並んで歩くだけで逃げ出したくなってしまう事もある。

 チラリと横を歩くゾロを盗み見る
 それだけで心臓はドキドキといつもより早いリズムを刻む。
 精悍な顔つきを一瞬見ただけで、あの力強い身体に今すぐ抱きつきたい衝動に駆られるのも本当なの

 こんなに心はゾロを求めているのに
 冷静に周りの事を考えられてしまうなんて
 単なる自制心なのかどうかわからなくなる

 何も考えられなくなるほどゾロを求めているはずなのに
 実際には何も考えられなくなる事はない
 もちろん、2きりの時間に抱き合っている時は、いつだって感じるだけで精一杯で他の事など考えられなくなるけど
 一度外に出てしまえば、まるで別人のようにふるまってしまうのはなんだろう
 自分の思いは、そんなに強くないのだろうか
 そんなこと考えたくもないのに
 時々自分の気持ちがわからなくなる

 だからだろうか・・・俺がこの仕事に来ることにゾロが反対したのは
 それまでのゾロは、外では俺の気持ちを尊重して、なるべく触ったり近づいたりしないようにしてくれていた。
 でも、この仕事の件で、俺が一緒に行くことを譲らなかった時から、まるで嫌がらせのように俺へのボディタッチ等が激しくなったのは気のせいではないだろう。
 飛行機の中が一番酷かった
 席に座るなりひざ掛けをかけてくれたかと思いきや、弱いと知っている内腿をさすってきたんだ。明らかに愛撫とわかる触り方で!
 俺は信じられない行動に出たゾロを横を向いて睨んだけれど、ゾロは寝たフリで目を瞑ったまま行動し、俺の方を見ようともしない。
 周りの人に気づかれるのが嫌で声も出せないのをいいことに
 ゾロの大きな手は俺の必死の攻防も空しく器用に熱く蠢いて、俺を追い立てる。
 スラックスのチャックだけ下ろして直に触られて・・・・声を抑えるだけで精一杯で・・・・ゾロが欲しくてたまらなくなった自分の身体が辛くてトイレに駆け込んだ。
 もちろんゾロに触れられるのは嫌いじゃない。
 嬉しいけど、場所が問題なんだって事が
 どうして、わかってくれないのか・・・・
 本当は、もうその時点で何かがおかしいと気づいていなければいけなかった。
 時々でも、いつもどおり深緑の瞳で優しく見つめてくれたから
 何かあったんだろうとは思っても
 追求することはしなかった
 反対を押し切って言うとおりにしなかったお仕置きだろうくらいにしか
 思っていなかった
 だから、
 ココロの準備の何もないままに
 俺は置いていかれてしまったのかもしれない


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