クリスマス・ツリー

クリスマス・ツリー
キッチンの小窓から見える町並みにサンジは溜息をついた。
 3時間ほど前についた島の港には、大きなクリスマスツリーが見える。
 今日は世間でいう所の『クリスマス・イブ』だ。
 しかしサンジの心の中は、華やかなクリスマスとはかけ離れたものだった。

 「船番、ご苦労様。」

 声を掛けられはっと振りかえると、入り口には紙袋を手にしたロビン。

 「おかえり、ロビンちゃん。早かったね。」

 にっこり笑いながら、サンジはロビンの為にお湯を沸かし始めた。
 ロビンも微笑みながら、イスに腰をおろした。

 「何か良いものはあったかい?ロビンちゃん。」
 「えぇ、少しね。でも、混んでいて買い物どころではないわね。買出しは明日以降にした方がいいわ。」
 「あーやっぱり?」

 窓をちらりとみてサンジは苦笑する。
 ここからでも混み具合がわかるほどだ。

 「まぁ…今日は買出しする必要もねぇし…」

 いつもならなんだかんだと理由をつけて、大宴会をするのに何故か今回誰も言い出さなかった。
 大騒ぎするはずのルフィでさえ、さっさとナミと船を下りていった。
 サンジとしては、皆と大騒ぎして鬱憤を紛らわせたかったのだが。

 「今日はパーティーは無しか…」
 「あら、したかったの?」
 「まー…いつも、こういう時は大騒ぎしているからね。肩透かしを食らったような…」
 「そんな顔で料理してくれても、楽しくはないからじゃない?」
 「そんな顔…?」

 サンジが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ロビンは意味ありげに笑った。

 「わからない?」
 「え?」
 「わかるまで、戻ってこなくて良いわ。」

 そう言われたと思ったら、壁から伸びたロビンの腕によりサンジは船の外に出されてしまった。

 「ロ、ロビンちゃん!?」

 慌てて船を見上げると、サンジのコートとマフラーが上から降ってきた。

 「船番は私がしておくから、安心して。」

 ロビンはにっこりそう告げると、中へと行ってしまった。
 暫く呆然としていたが、今戻ってもまた出されるだけだ。
 溜息をつくと、コートとマフラーをつけトボトボと歩き出した。

 街は楽しそうな人であふれかえっていた。
 雪がちらついているが、幸せそうな顔を上気させたカップルや家族連ればかり目
 に付く。
 寒さに身震いがして、コートのポケットの中の手袋を探す。
 しかし目当てのものは、今朝上陸準備の時に引っ掛けて破いてしまった事に気がつく。
 舌打ちをすると、気を紛らわせようとタバコを咥えた。
 ふと、目の前のショーウィンドゥに写る自分に気がついた。
 眉間には深くしわが寄り、目付きも心なしか悪い。
 こうなっている理由は、ロビンに追い出されたからでも手袋が無いからでもない。


 それは昨日やってしまった、つまらない喧嘩から。
 もう発端なんて忘れてしまう程、つまらないものから。
 でも、恋人どうしの喧嘩なんて大抵つまらない事だ。
 相手も悪いが、自分にも非があるのはわかっている。
 わかっているが、負けず嫌い性格ゆえサンジから謝る事が出来ない。
 しかし相手から謝ってくることもないだろう。
 人一倍口下手なクソ剣士、ロロノア・ゾロなのだから。


 大分日が落ちて、港の大きなクリスマスツリーに明かりが燈された。
 港は家族連れもいるが、大半が恋人ばかり。
 ロマンチックな一夜をこれから過ごそうとしているのだろう。
 ぴったりと寄り添い、ツリーの明かりに見惚れている。
 土産物屋の壁に寄りかかり、サンジはまた溜息をついた。
 昨日喧嘩なんてしなかったら、彼らの様に寄り添うことは出来なくとも
 一緒にこのツリーを見る事は出来ただろうか。
 この混み具合に紛れて、手を繋ぐ事ぐらいは出来たかもしれない。
 人ごみの中に、麦藁帽子とオレンジ色を見つけてサンジはその場を離れた。

 ぐるぐると歩いているうちに、すっかり夜になった。
 しかし大きなツリーはかなり明るく、遠くからでもその光が見えた。
 歩きつかれたサンジは、小高い丘に見えた公園へと向かった。
 その時、ふっと暗くなった。
 振りかえると、何故か港のツリーの明かりが消えていた。
 港の暗さは、まるで今の自分の心の中と同じ。
 また前を向くと、のろのろと坂を登った。

 暗い公園に一歩入った時、港から声が聞こえた。

 『10、9,8,7…』

 何かのカウントダウンらしい。

 『…3,2,1!』『ドォン、ドドォン!』「ブッハックション!」

 再びツリーに明かりが灯り盛大な花火が上がった。
 それと一緒におかしな声が背後で聞こえた。
 暗がりに目を凝らせば、白の長いダウンに三本の刀。

 「…ゾロ?」
 「サンジか。」

 くしゃみの主は、頭にこんもりと雪を乗せたゾロ。

 「何やってんだ…お前。」

 喧嘩していた事も忘れ、サンジはゾロに近寄り頭の雪を掃ってやった。
 ズズッとすすった鼻の頭は、サンタのトナカイに負けないくらい赤い。

 「船に戻ろうと思ってよ…」
 「ずっと迷っていたのか…」
 「いや、夕方にはここに着いた。」
 「はぁ?」
 「ここに来たらツリーの明かりがみえてよ。」
 「あぁ…そうだな。」
 「あの金色の明かり見てたら、てめぇを思い出した。」
 「え…?」
 「そんでてめぇに会いてぇなーと、思ってた。」
 「ゾロ…」
 「そしたら…てめぇが来た。」

 どうしてこの男は、こうも自分が言いたくても言えない事は すんなりと言ってくれるのだろう。
 普段は頭に来るくらい口下手なのに。
 ツリーを見て、ゾロを思い出したのは自分も同じ。
 ゾロに会いたいと思ったのも同じ。
 でも、やっぱり言えないから。

 「…てめぇ、ツリーそっくりだな。」
 「は?」
 「こんな緑の頭して、こんなに雪乗っけて…赤い飾りまでつけて。」

 そう言いながら、思い切りゾロの鼻を抓んでやった。

 「イテェ!」
 「ちょっと、飾りが足りねぇけどな。」
 「なら…」

 抓まれた鼻を不満そうに撫でていたゾロは、ニヤリと笑うと サンジを抱き寄せ耳元で囁いた。

 「っ!てめぇ!!」
 「赤い飾りが、足りねぇんだろ?」

 真っ赤になったサンジを満足そうにまた抱き寄せる。

 「ツリーには、やっぱり金色の明かりがねぇとな。」
 「…オヤジくせぇ。」
 「うるせぇ。」
 「オレも相当趣味が悪いよな。こんなオヤジくせぇのが好きなんだから。」

 素直じゃないサンジの精一杯の告白に、ゾロは一瞬目を見開いたが すぐにニッと笑った。

 「そうか?お前は良い趣味だと思うけどな。」
 「…すっげぇ、自信だな…」


 ゾロの2度目のくしゃみに、慌てて宿へと急ぐ。
 そこでゾロがくれたのは新しい手袋。
 ツリーな男の趣味は、どうやら悪くはなさそうだ。
 プレゼントも恋人も。


きゅーさん、またまたステキな作品をありがとうございますvvv

もう、2人のラブラブっぷりがたまりません!!

はぁ〜、私もこんな心がホカホカと温まるお話を書きたい〜っ


      龍谷裕樹

TOP
戻る