
恋人の新発見
|
オールブルーに浮かぶ、薄いグリーンの海上レストラン。
夜もふけた厨房で、サンジは一人食材のチェックをしていた。
後ろのドアが開いたが、サンジは振り向くこともしない。
「終わったか?」
ゾロが後ろから抱き付いて耳元で囁く。
「見りゃわかるだろ。まだだ。」
手を止めることなく、サンジが言う。
「そうか。」
しかしゾロは離れようとはせずに、サンジにくっついたまま。
サンジが右に動けば、ゾロも右へ。
サンジがしゃがめば、ゾロもしゃがむ。
「動きずれぇだろ。」
「そうか?」
ゾロの呑気な返事に、サンジは小さく笑う。
邪魔だとか離れろとかは、言わない。
言ったところで聞く男ではないし、当のサンジもそんなこと思っていないのだ。
ゾロも離れる気は、毛頭ない。
一週間待ちに待った、夜なのだ。
サンジとの約束で、ゾロがサンジを抱けるのは休みの前だけ。
本当は毎日でも足りないくらいだが、そんなことをしてはサンジの仕事に支障をきたす。
レストランが営業しているのは、一週間の内4日だけだが休みは1日だけ。
あとは近くの島に買い出しに行かなければならない。
明日はゾロにとって、貴重な休みなのだ。
「これで良しっと。」
サンジがメモしていた手帳を閉じると、また耳元で囁いた。
「終わりか?」
「あぁ、今度の買い出し、覚悟しとけよ。すげぇ、あるから。」
「おう。」
サンジの顎をつかみ、ぐいっと後ろへむける。
サンジは「痛ぇよ」と、言いながらも目を閉じた。
間近にゾロの熱を感じたが、ふいにその熱が離れた。
「ゾロ?」
怪訝そうに目を開けたが、すぐにサンジもそれを察した。
「船…だな。」
「あぁ。」
外で何者かの、船の気配。
『ダンッ!!』
誰かがこの船の甲板に飛び降りたらしい。
すっとゾロの右手が刀に添えられる。
二人の殺気が勢い良く膨れ上がった時。
『サンジ〜!メシ〜!!』
「は!?」
「ルフィ!?」
慌てて甲板へと出で見れば、目の前には懐かしいゴーイングメリー号。
「おっ!サンジ、久しぶり〜…って!?」
「ルフィ!どうしてお前…」
お互いに絶句しているところへ、次々と懐かしい声が聞こえてきた。
「サンジ君久しぶり〜…ってゾロ!?」
「えっ?ゾロ!?」
「ナミさん!皆!!どうして!?」
「ルフィがサンジ君のご飯食べたいって言うもんだから…でも、なんでゾロ アンタまで居るのよ?」
「居ちゃ悪ぃか。」
「まっまぁ、ここで立ち話もなんだ。中入ってよ。」
少し赤くなったサンジに促され、店内へと入った。
「うんめぇ〜!!」
久々のサンジの料理に、ルフィ達は夢中で詰め込んでいく。
まるで今まで何も食べていなかったような食欲にサンジはニッコリした。
「やっぱりサンジ君のは、美味しいわ〜。」
「また、腕あがったんじゃねぇ?」
「へへっ。サンキュ。」
「ところで剣士さん。いつからここに?」
静かに味わっていたロビンの問いに、全員の視線が二人に集まる。
「一年前だ。」
「いちねんまえ〜?」
「あぁ。」
「なんで!?」
「ジジィがここ見に来た時、一緒に来たんだ。」
ゾロに代わって何故か少し顔のあかいサンジが答えた。
「ジジィって、あのレストランのおっさんか?」
「あぁ、このグランドラインは流石のジジィだって、一人じゃこれねぇからな。」
「そうじゃなくて、なんで一年もサンジ君と一緒にいるのよ。」
アンタ達仲良かったっけと、ナミが首を傾げた。
「それは…」
「こういう事だ。」
サンジの腰を抱くとゾロは、自分の体にぴったりとくっ付けた。
「なっ!ゾロ!!」
「別にいいだろ。」
真っ赤になって抗議するサンジに、ゾロは平然と答えた。
そんな二人をナミ達は唖然とみつめた。
「アンタ達…何時の間に・・」
「だから、一年前だ。」
「……」
「ナ、ナミさん!あのそのっ!」
「…いや、よくわかったわ…アタシ達、もう寝るから…」
ぴったりとくっ付いている二人を残し、脱力したナミ達は船へ戻っていった。
「なに、怒ってんだよ。」
ベッドの上で背を向けて座るサンジに、ゾロは手を伸ばした。
が、その体を捕まえる前により遠くへと移動されてしまった。
「おい、サンジ。」
「…怒ってんじゃねぇ。」
「怒ってるじゃねぇか。」
「…」
ゾロは特大のダブルベッドの上を腹ばいのまま、ずりずりサンジににじり寄った。
いつもなら快適なでかいベッドも、こういう時には厄介だ。
やっとサンジのところにたどり着くと、下から怒っているだろう恋人の顔を覗き込んだ。
しかし怒っているというより、困った顔。
口はへの字に曲がり、くるんと巻いた眉は下がり気味。
「なんて面してる?」
「だってよぉ…」
「ん?」
「いきなり皆の前であんな事、言わなくてもいいじゃねぇか。」
「何でだ。」
「何でって、恥ずかしいっつうか…」
「俺は恥ずかしくもなんともねぇ。」
「っ!てめぇはそうかも…!」
「言いてぇんだよ。お前が俺のモンだって。」
「!」
「ずっと我慢してきたんだぜ?これ以上、我慢なんてできねぇよ。
あいつらだけじゃねぇ。誰にだって言いてぇんだ。それこそ手配書の特記事項に 書いてもらいてぇ。」
そう言いながらゾロは体を少し浮かせ、サンジの頭を引き寄せながらキスをした。
啄ばむようなバードキス。
もっとその唇を味わうべく、頭に添えた手に力をいれた時。
「はい!スト―ップ。」
いい感じに甘くなった空気は、サンジによって中断させられた。
「なんだよ。」
「てめぇ、絶対ヤル気だろ。」
「おう。」
「ヤルとてめぇは、歯止めがきかねぇよな。」
「まぁ、そうだな。」
「で、いつもオレは次の日半日は起きれないよな。」
「あぁ。」
「ルフィ達が来てるから、明日朝飯作らなきゃなんねぇ。わかるよな?」
「?」
「もし明日オレが起きなかったとしてみろ。ルフィが暴れるぞ。」
「…」
「だから今日はしねぇぞ。」
そう宣言するとサンジは、早々にベッドにもぐり込んでしまった。
ゾロは溜息をつくと、サンジの背後から抱きついた。
もそもそとタオルケットの中の手が、アヤシく動く。
「ヤッたら、オロス。」
ドスのきいたサンジの声に、流石のゾロも大人しくなった。
次の日、ゾロが目覚めたときには大分日が高くなっていた。
隣にいるはずのぬくもりは、とっくの昔に起き出してしまったらしい。
少しムッとしてゾロは、ベッドから起きあがった。
廊下から蹄の音が聞こえたと思ったら、ドアからピンクの帽子がのぞいた。
「あっ、ごめん。ゾロ、起きてた?」
「否、今な。どうした?」
「起こして来いって言われたから。」
「…サンジは?」
「今、おやつ作ってくれてるんだ。手が離せないんだって。」
「…そうか。」
簡単に身支度を整えると、チョッパーと連れ立って部屋を出た。
途中まで来ると、チョッパーはおやつが用意されている甲板に出て行き
ゾロは厨房へと入っていった。
「おっ、起きたか。」
お茶の準備をしていたサンジは、入ってきたゾロに気がついた。
「何で、てめぇが起こしにこねぇんだよ。」
「ルフィがうるさくてな。メシ、出来てるぜ。」
「あぁ。」
用意された朝食を通りすぎ、朝の挨拶をしようとサンジに寄った。
サンジもそれに気がつき「ん」と言いながら、顔を傾けた時。
「きゃ〜ウソップ!なにやってんのっ、サンジくーん!」
「はぁ〜い!」
ウソップがおやつでも喉に詰まらせたらしい。
ナミの慌てた声に、唇が重なる前にサンジはお茶を手に行ってしまった。
「ちっ。」
ゾロは舌打ちをすると、用意された朝食に手をつけた。
のろのろ食べ出したが、一向にサンジは戻ってこなかった。
少し面白くなくてトマトを一切れ、わざと残した。
ルフィ達が来てから二週間が経った。
サンジは毎日とっても忙しい。
久々に会えたクルーの為、腕によりをかけて食事を作る。
もちろん店もちゃんと営業中だ。
いつも忙しいサンジの店だが、麦藁海賊団を一目見ようとすごい混みようだ。
それだけに夜になるとぐったり疲れていて、ベッドに入るとお休みの言葉も
そこそこにサンジは夢の中へと落ちていってしまう。
ゾロとろくにキスもしない日が続いた。
明日は定休日という晩、ゾロはサンジを探していた。
次の日の仕込みがない分、時間はあるはず。
デキなくとも二人で過ごす時間が欲しかった。
厨房を覗いたが、そこには誰もいなく。
店内を覗けば、ルフィとウソップとチョッパーがトランプに興じていて。
風呂か部屋にいってしまったかと思ったが、サンジの姿はない。
「何処、行きやがった…」
廊下を歩いていると、サンジの笑い声が聞こえた。
(外か)
甲板に出るドアから顔を出したゾロが見たものは。
イスにサンジを腰掛けさせ、長い髪を梳かしているナミ。
「サンジ君って、ホント髪綺麗ねぇ。」
「そぉ?」
「うん。一体どんな手入れしてるのよ。」
そう言いながらナミは、手際良くサンジの長い髪を編んでいく。
編んでいるナミも、されるがままのサンジも楽しそうだ。
ゾロは楽しそうな二人に背を向けると、ずんずんと自分たちの部屋へと戻った。
大きなダブルベッドにどすんと、体を投げ出す。
(面白くねぇ)
サンジは俺のものなのに。
あの髪に触れて良いのは、俺だけなのに。
今まで感じることがなかった、この気持ち。
これが嫉妬とか独占欲なのだろう。
自分の気持ちを持て余し、ゾロは目を閉じた。
「ゾロ?」
あれからかなりの時間が過ぎた頃、サンジがやっと部屋に戻ってきた。
目を閉じているゾロに、小声でそっと呼びかけた。
決して寝てはいなかったゾロだが、面白くない気持ちからか
目を開けずに寝た振りをした。
サンジは小さくため息をつくと、静かにベッドに入ってきた。
今日も疲れているのだろう、暫くすると寝息が聞こえてきた。
ゾロはモゾモゾと身を捩ると、寝ているサンジを覗き込んだ。
月明かりでも十分に見えるサンジの髪は、さっきナミが編んだままになっていた。
それを見たゾロは、眉間に皺を寄せサンジに背を向けてまた目を閉じた。
「ゾロ!起きろってばっ。」
「…何だ。」
次の日の朝、サンジの声に起こされたゾロは背を向けたまま返事をした。
「これから皆でいつもの島に行くんだよ。弁当も作ったから、ゾロも行こうぜ。」
「…俺は行かねぇ。」
「は?どうしてだよ。」
「…眠いんだよ。お前らだけで行ってこい。」
「お前が眠いのはいつもだろうが。おら、行くぞ。」
「うるせえな、行かねぇっつっただろ!」
「…」
ゾロに怒鳴られ、サンジは無言で立っていたがそのうちため息をつくと
部屋から出ていった。
暫くすると外が騒がしくなった。
窓もドアも閉めている為、会話までは聞こえないが出航の準備をしているらしい。
三十分もするとそれも聞こえなくなり、シンと船が静まり返った。
ゾロは仰向けになると、大きなため息をついた。
自分のしていることがガキくさいのは、判りきっている。
馬鹿馬鹿しいとは判っているが、どうにも気持ちを制御出来ないでいた。
目を閉じると、再び眠りへと落ちていった。
眠っていたゾロは、顔に当たる風で意識が覚醒した。
窓は閉まっていたはずなのに、そう思っていると潮風と一緒にタバコの匂い。
(タバコ?)
目を開けそちらをみると、窓のそばのイスに腰掛け本を読んでいるサンジ。
昨夜ナミに編んでもらったはずの髪はおろされ、タバコの煙と共に風になびいていた。
「おっ、起きたか。」
目を覚ましたゾロに気がつき、サンジは本を閉じゾロのそばにやってきた。
「何て面、してんだよ。」
「お前、いかなかったのか?」
「てめぇ置いていけるかっつーの。」
そう言ってサンジはゾロの顔を覗き込んだ。
昨夜編んだまま寝たはずなのに、サンジの髪は癖もつかずにゾロの頬に落ちてきた。
「で?大剣豪ロロノア氏は何が不満なんだ?」
「…何だよ、不満って。」
「ここんとこのお前見てれば判るって。いつもより三割増しで顔が怖いぞ。」
「…」
理由なんてわかっている、と言いたげなサンジに少しむっとする。
頬に当たる髪を掴むと、ぐいっと引き寄せキスをした。
「ほっとかれたのが嫌だったのか?」
「…お前は俺のモンだ。」
「何言ってんだよ。お前がオレのモンなんだよ。」
ニヤリと笑ったサンジの唇に、噛み付くようなキスをした。
そのまま体を抱え込むと、ぐるりとサンジごと反転させ深く口付ける。
わざと逃げる素振りをするサンジを、間近で睨みつけると一瞬楽しそうに笑いその目を閉じた。
「お前、髪切れ。」
長い長いキスの後、ゾロがボソリと呟いた。
「はぁ?なんで。」
切るなと言ったのはお前じゃないか、とサンジが言うとゾロはまたむっとする。
「いいから…切れ。」
切れと言いながらサンジの髪をしっかり撫でているゾロに、サンジは可笑しくなった。
たぶん昨夜ナミに編んでもらっている所を見たのだろう。
こんなにヤキモチ妬きだとは、知らなかった。
「やだね。てめぇが最初に褒めてくれた髪だぜ?誰が切るか。」
ククッと笑いながら出した紅い舌は、すぐに絡め取られてしまった。
「あれ?サンジ君?」
サンジがいつもの肉屋から出てくると、買い物途中のナミに会った。
「あ、ナミさん。」
「どうしたのぉ!その髪!!」
ナミに指摘されたその髪は、昔のように短くなっていた。
「変?」
「変じゃないけど…編まれるのいやだった?」
不安そうに聞くナミに、サンジはニッコリした。
「嫌だったなんてとんでもない!ちょっと髪がね…切らなきゃどうにもなんなく
なって。」
「そうなんだ。あーぁ、折角色々やらせてもらおうと思ったのに!」
そう言うナミの手には、リボンやらピンやら入った紙袋。
それを見て苦笑いをしながら、ナミと別れた。
ナミに髪を切った理由を、突っ込まれなくて良かった。
本当に切るつもりはなかったのだが。
一昨日、あまりの激しさにサラサラのサンジの髪はぐしゃぐしゃに絡まってしまった。
どう梳かしても縺れた髪は直らなかった。
項を走る風に、身震いをした。
「まったく…我が侭なヤローだぜ。」
軽くなった頭を掻きながらサンジは歩き出した。
ぐしゃぐしゃにしてくれた張本人の待つ喫茶店へと。
fin |
|
|
きゅーさぁ〜んvvv
しつこいラブコールに答えて続編を書いていただき、本当にありがとうございます。
ゾロの甘えん坊っぷりがたまりませんっ!!
ヤキモチ焼きだし。かわいすぎるぅvv
なるほど、サンジラバァな方が書かれる作品のサンジ君はかっちょよくて
いいかも・・・と思ってしまいました。
「長髪なサンジ君 スキじゃー!!」と萌え萌え光線を乱射しまくってしまいました。てへ。
うう・・・・しかし、その萌えな長髪を切ってしまわれたのですね・・・・でも、きっと、すぐに伸びるはず。
『金色さらさら長髪の復活を望む会』会長に立候補です。(そんなの勝手に・・・・爆)
龍谷裕樹

|