言えぬ想い 溢れる想い

言えぬ想い 溢れる想い

 ルフィが海賊王になった。
 長い航海の末、ついにワンピースを手に入れた。
 海賊王になっても変わらず、ルフィは冒険好きの船長だ。
 ウソップは誰にも負けない狙撃手で、相変わらずの嘘吐きだけど勇敢な海の戦士になっていた。
 ナミはかなりの海図を書いたけど、海は広くまだまだ書くべき海があった。
 チョッパーはいたる所でいろんな病気を知り、世界一のトナカイ医者として有名になった。
 でも、病魔は形を変えて増えていく。チョッパーの冒険は終わらない。
 ロビンはリオポーネグリフを見つけ、語られなかった歴史を明らかにした。
 しかしまだロビンの探究心は留まる所を知らない。
 ゾロは鷹の目との死闘の結果、世界最強の黒刀を砕き世界一の剣豪の名を手に入れた。
 サンジもまた、オールブルーを見つけ夢物語とされた奇跡の海を現実のものとした。




 「次の島で俺は、船を降りる。」

 ゾロがそう言ったのは、ログポースが示す島が見えてきた時だった。

 「な、何言ってるの?」

 サンジのおやつを楽しんでいたナミが、真っ先に反応した。

 「本気?」
 「どうして?」

 ロビンやルフィ達とおやつの奪い合いをしていたウソップも、顔を強張らせた。

 「ゾロは、俺達が嫌いになったのか?」

 チョッパーが泣きそうに聞くと、ゾロは少し笑ってピンクの帽子を叩いた。

 「そうじゃねぇ。」
 「じゃぁ、なんでだ?」

 ルフィの問いに、ゾロは腰から和道一文字を引き抜いた。

 「コイツの前の持ち主に、きちんと報告したい。それと…腕試し。」

 暫くの間ルフィは黙ってゾロを見ていたが、やがていつもの笑顔で言った。

 「ならしょうがねぇな。」
 「さんきゅ。」
 「でも、お前は俺の仲間だぞ。」
 「あぁ、俺だってそのつもりだ。報告を終えたらまたこの海に入るさ。その時はまた、拾ってくれ。」

 ニッと笑い合う二人に、他のクルー達も納得せざる得なかった。







 島に着くとゾロの旅立ちの準備に、皆大騒ぎして船を下りた。
 ナミ、チョッパー、ルフィはログポースや薬、その他航海に必要な物を、
 ウソップとロビン、ゾロはグランドラインの航海に耐えられる船を探しに出かけた。
 ゾロは『そんな大仰にしなくていい。』と言って、ナミに殴られた。

 「あんたねぇ、イーストブルーをさまようのとは訳がちがうでしょう!」

 誰もが離れてしまうゾロの為、出来る限りの事をしようと思っていた。



 一人船に残ったサンジは、夕食の準備をしていた。
 動かしていた手を止めると、ため息が出た。

 「いつかはこうなると、思ってたけど…」

 個々の戦闘レベルが上がった事と、襲撃を受ける事が減った事でゾロが力を発揮する場は無くなっていた。
 自分はコックだから、戦闘が無くてもどうと言うことは無い。
 しかし、ゾロは剣士だ。
 ゾロにとって闘うことは、サンジの料理と同じ事。
 だからいつかこんな時がくるだろうと、予測していたけど。
 ゾロのあの言葉を聞いたとき、目の前が真っ暗になった。
 その後の皆の会話が遠くに聞こえて、気がつくと島に着いていて。
 体全身が締め付けられる様で、痛く苦しい。
 あの言葉を言ったのが他の誰かだったなら、こんな風には思わないだろう。
 ゾロだから。
 出会った時から想い続けたゾロだから、こんなに苦しい。
 同い年なのに自分とはあまりに違う道を歩み、一度は敗れたが決して折れるの事の無かった
 野望の持ち主で自分の心を揺さぶった人。
 許されることのない想いを何度消そうとしただろう。
 その度に想いは膨れるばかりで。
 でも、この想いを告げる事は許されないから。
 せめて肩を並べて闘う事を、喧嘩をして自分を見てもらう事を、強靭な体を作る手助けすることを許してもらおう。
 そう思い今までやってきたのに。

 「それすらも、もう許されねぇか…」

 賑やかになった甲板に目を向けたサンジの顔に、笑みはなかった。






 ログが溜まってから三日、やっとゾロの出航の準備が整った。
 ゾロはクルー達からいろんなものを受け取った、
 ナミからは、航海に必要な道具と知識を。
 ウソップからは、船とその動かし方を。
 チョッパーからは、最上の薬を。
 ロビンからは、グランドラインについての知識を。
 ルフィからは、海賊王の仲間である証を。
 しかし、サンジからは何もなかった。
 ナミが料理に必要な道具を揃えてあげて、と言ったが『自分が選ぶとプロ仕様になるから』と、調理器具の類はウソップが揃えた。





 次の朝にお互い出航することとなり、ゴーイングメリー号ではその晩大宴会が開かれた。
 『さよなら』の為ではなく、『また、会おう』の宴会。
 それでもやっぱり皆寂しくて、いつも以上にハイテンションの宴会は夜も大分更けてからお開きになった。
 起きているのは、まだ飲み足りないのか残った料理をつまみに酒を飲むゾロと後片付けをしているサンジだけ。
 お互いあれから一言も話していない。
 静かなキッチンに、食器を洗う音と酒が注がれる音と波の音だけが流れていた。
 サンジは逃げ出したいような、このままでいたいような二つの気持ちに挟まれて仕事が遅々として進まない。
 漸く眠くなったのか、ゾロが立ちあがる気配にまた苦しくなった。
 ゴツゴツと聞こえた足音が背後で止まり、ふいに何かが髪に触れた。

 「お前の髪、サラサラだな。」

 今まで聞いたことの無いゾロの優しい声に、サンジは動けなくなった。
 何事も無かった様に、ゾロはキッチンを出ていった。





 『ゆる…される?』
 ゾロが触れた髪が、まるで血が通うように熱い。
 少しだけ、この想いが許された気がした。
 男部屋の蓋が閉まる音に、サンジは弾かれた様に動き出した。
 少しでも許されるなら、自分も出来る事をしよう。
 旅立つゾロの為に、弁当を作ろう。
 長い航海の中、少しづつ覚え貯めたゾロの好物でいっぱいの弁当を作ろう。
 自分に出来て、自分にしか出来ない事。
 その夜、サンジが男部屋に戻る事はなかった。






 「ゾロ!気をつけていけよ!」
 「おう。」

 空は気持ちの良い快晴で、絶好の航海日和。
 一人一人、ゾロに声をかけた。
 ゾロも、それぞれの目を見て答えた。

 「おい、大剣豪。」

 最後にサンジが呼んだ。

 「餞別だ。」

 ひどく大きな包みと、酒のビンが差し出された。
 そのビンは、以前ゾロが飲もうとしてこっぴどく怒られたとっておきの酒。
 ゾロは少し目を見開いてから、ニッと笑った

 「さんきゅ。」

 包みを受け取ると、ゾロは船に飛び乗った。

 「出航―!!」

 青空にルフィの声が響いた。



いつも私に元気をくれている「きゅーさん」から初めてのゾロサン処女原稿をいただきました!!

とってもやわらかい文章でゾロとサンジへの愛が痛いほどに伝わってくる優しい文章だと思いませんか?

めちゃくちゃ嬉しくてすぐにサイトにアップさせていただいちゃいましたvvvv

きゅーさんっ!本当にありがとうございました!!


(これは3本立ての第1弾です。)

          龍谷裕樹



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