前にされたキスとは比べ物にならない位、セクシャルな行為。
ともすれば恐怖感さえ覚えかねない色気を、ゾロは持っていた。
それを改めて感じさせられたサンジは、それでも自分から導いたこの結果を後悔してはいなかった。
こうなる事が必然であると、心の何処かで感じていたのである。
自分を見るあの目も、優しくあやすような掌も、勿論あのキスも、単なる親近感からだけではないと分かっていた。
何だかんだと反抗をしても、あんな事をしてまで自分を生かしてくれたゼフからの『愛情』というものを分かってはいる。
しかし、ゾロの持つ雰囲気はそれとは微妙に違っていた。
あのキスの後、不安や恐怖のようなものと紙一重な高揚感がサンジを支配した。
どうにも持て余してしまうような、まるでその『続き』を望んでいるかのような自分がいることに気付いた。
それは常軌を逸したことであるのも、子供心に分かってはいる。
それでも、日に日に大きくなるその気持ちを、もう見過ごすことは出来なくなっていた。
「んっ‥‥!‥ぁ‥‥ぅん‥‥ん‥‥ッ‥」
ゾロが直接愛撫を加えているサンジ自身は、彼にとって初めての刺激であるはずなのに、
それを知っていて待ち望んでいたかのように悦びの蜜を溢れさせている。
慣れた手付きで快感を紡ぎ出すゾロの手は、自分が望んでいるものを語らずとも全て与えてくれるような
錯覚にさえ陥りそうだった。
(な…なんだ、コレ‥‥‥ッ!)
まるで下半身が切り離されたように感覚が飛んでいく。
いくら踏ん張ろうとしても腰から下に力が入らず、自分の体重さえも支えられずにゾロにしがみついた。
するとゾロはそれを背中に手を回して包み込むように支える。
必然的にゾロの吐息をより間近で感じてしまい、更に熱を持て余した。
(コレが‥‥‥あの‥ッ‥‥‥アッ‥‥!!)
安定感を求めて両手でゾロの髪をきつく握り、ぎゅうっと抱きついた瞬間、サンジは目を瞑っていたはずなのに
真っ白な世界に包まれ、脳天が痺れるような感覚に襲われた。
「うッ‥‥‥ぅああぁ‥ッ‥‥‥ぁ‥ッ‥‥!!!」
途切れがちな絶叫の後、ゾロの手の中でサンジの精が弾ける。
ゾロにとっては慣れた感覚だが、今のサンジにとっては初めての行為。恐怖すら感じていてもおかしくはなかった。
しかしまだ息も整わないサンジは、縋るようにゾロの胸へ顔を埋める。
「俺‥‥‥覚えてる‥‥何度‥も‥‥ゾロと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥!」
そう告げた表情は、それまで違和感としてゾロが感じていた幼さを残しつつも、
ずっと彼に愛でられてきた恍惚の笑みも見て取れた。
興奮と混乱の中で、それでもゾロは必死に考えた。
今、サンジの口からは『覚えてる』という言葉が出た。
しかしそれは完全に記憶が戻ったという意味ではなく、
初めてだと思っていた経験が実は身に覚えのあるモノだった―――という事なのだ。
だから、
まだ、
欲求に任せて性急にコトを進めるワケにはいかない。
ゾロは射精後の、快感に微睡んだ表情を浮かべるサンジから目を逸らし、大きく2〜3回深呼吸をした。
しかしそんな努力も虚しく、自分の胸元から
「ゾロ‥‥‥」
と呟きながら見上げるサンジは、お強請りモード全開の『狼の前の羊ちゃん』状態である。
ただそれはゾロから見た状態であり、客観的に見れば不安を隠しきれずに身近にいる者に縋る幼い子供の目でもあった。
「‥‥‥そんなツラするな。イヤなら止める」
やっとの思いで出した台詞にサンジはピクリと反応し、見開かれた瞳から涙が一筋零れた。
「ん‥‥?」
答えを促すようにそれを覗き込むと、プルプルと首を小さく左右に振って否定を示す。
「や‥‥‥めちゃ‥‥‥‥ヤ‥ダ‥‥‥いつもして‥た‥‥みたいに‥して‥‥くれよ‥‥‥」
途切れ途切れの言葉は迷いがあるのか、尚も目を潤ませてサンジは上目遣いにゾロを見た。
これで『NO』と言っては、男ではない。
サンジに伝わるか伝わらないか程度の笑みを口元に浮かべ、髪を梳きながらまたキスから始める。
「ん‥‥‥‥‥」
身体の緊張は解けないものの、ゾロを受け入れようとする拙い舌使い。
唇の輪郭を辿った後でそっと奥へ差し入れ、ゾロのそれと僅かに触れた瞬間、萎縮するように抜け出してしまった。
ゾロはそれを追い掛けるようにサンジの口内へと入り込み、迷い怯えているような舌を掬い上げて優しく絡める。
「‥あッ‥‥‥ふ‥‥ゥ‥‥‥‥‥ん‥‥」
幼いサンジにとってソレは強めの刺激だったのか、添えてある程度のゾロの手の下では快感を放出したばかりの
サンジ自身が再び強さを持ち始めていた。
サンジの唇を解放すると、彼の精でベタついている自分の指先を更に唾液で湿らせ、
欲望を穿つ為の蕾へと差し込もうと試みる。
「やッ‥‥!!‥な‥ッ‥‥‥‥」
指先をキュッとねじ込んだ瞬間にサンジの身体が跳ねる。ゾロはそれを受け止めるように優しく抱き返した。
「大丈夫だから‥‥息止めんな」
髪を2〜3度撫でてから首筋、肩をさするように手を滑らせる。
そうしている内にサンジは、自分の全体重をゾロへと預けるようにもたれ掛かってきた。
ゾロに抱きつくように身体を預けて肩に額を当てているサンジ。
それを包み込むように片手で抱き締め、もう片方の手で湿らせた後孔を解しているゾロ。
今までと外見は変わらないのに、初めて『抱く』サンジに、ゾロも実は緊張していた。
「あ‥ん‥‥‥は‥ぁ‥‥‥あ‥‥」
ゾロの指の動きに合わせるように零れ出す艶やかな声に、内心苦痛を与えていないかとビクビクしながら
探るように中を解す。
そこはゾロの存在を覚えていたのか、まるで奥へと誘い込むように内壁がヒクヒクと絡み付いてくるような気がした。
「ん‥‥‥ゾ‥ロ‥‥‥そこ‥‥‥‥んッ‥‥!」
それまで全てをゾロに委ねていたサンジが、ある一点に触れられると同時に上半身をくねらせて大きく身悶えた。
「ああ‥お前はココが悦いんだったな‥‥」
「はッ‥!ああァ‥ッ‥‥!!」
忘れるものかとそこを重点的に刺激すると、サンジはその身を更に固くした。
天を仰ぐように仰け反り、自ら止めることの出来ない唾液をゾロがすくい上げるとその指さえも貪欲に欲する。
言葉を成さない嬌声を上げているサンジの腰を持ち上げ、ゾロは自分の腰の上へと降ろした。
そこにはもちろん、納まるべき器を待ち望んでいるゾロ自身がその欲望の大きさを誇示している。
入口が触れた瞬間にそれはまた一回りも大きくなり、気が遠くなるような快感が背筋を駆け巡った。
「ひ‥ッ‥‥あぁ‥ぁ‥ああッ‥!!!」
ゾロが支えてくれているとはいえ、自分の体重でどんどんゾロをくわえ込んでいくサンジ。
既に恐怖も何もなく、そうすることが当たり前に―――いや、望んでいたかのように、
感じるのは衝動的に抱き締めた男への沸き上がる想い。
先刻までは知らなかったはずのことが、やがて自分の望んでいる結末を想い描くまでに至った。
この後、自分がどうなるかを知っている。
それをどれ程自分が望んでいるのかも。
そしてそれは、この男によってしか、与えられないということも。
「ゾロっ‥‥!!!」
抱き締めていた顔を引き寄せて噛み付くように口吻をねだる。
ゾロの舌に掻き回される度に、自然と腰がうねり、身体の繋がりをも深めていった。
愛しい男の中へその身を深く沈めた快感は、意識を飛ばしてしまいそうな程に気持ちが良い。
むしろそんな陳腐な言葉など使いたくもなくなる位、ゾロにとっては特別な行為であり、感覚である。
「ん‥‥ッ‥‥‥は‥ぁ‥‥ッ‥‥あッ‥‥!‥‥あ‥‥ぅ‥‥う‥ん‥‥ッ‥」
ゾロの動きに合わせるように、ごく短く発せられる喘ぎ声。
これが意識的に声を抑えようとしているのだということに気付いたのは、
サンジが二度目の絶頂を今正に迎えようとしている時だった。
「‥‥‥‥‥!」
それはいつもサンジが、忍び逢いが他のクルーにばれないようにとの、気遣い。
誰よりも照れ屋で天の邪鬼なサンジ自身がそうしたがっている行動。
何もかもが初めての経験で、ゾロにしがみつくのが必死だった幼いサンジにはなかった自衛策。
「はッ‥‥ク‥ぅ‥‥‥‥‥ん‥ッ‥‥」
更に短く発せられた力強い声の後で、ゾロの手の中にサンジの精が弾けた。
「‥‥ぁ‥‥あ‥‥‥‥‥‥‥」
ぐったりとした身体をゾロに預けるその表情は、快感と気怠さで色っぽく弛緩している。
それを最後のバネに、ゾロもサンジの中へと全てを注ぎ込んだ。
「は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
逃げていく快感に名残惜しく溜め息を付き、サンジは床へゴロンと転がった。
そしてその温もりを追い掛けるようにゾロが覆い被さろうとしたその時―――――――――――――
「ぅぐッ‥‥!!!」
ゾロの苦痛に満ちた叫びが夜空へと吸い込まれていった。
「なにしやがる!!」
「ソレはコッチの台詞だ!!てめェ!イタイケな俺様になにしてくれたんだッ!」
「‥‥‥‥!」
暗い中でよく見れば、そこには怒り全開の三白眼。
さっきまでの、少年のような純粋な眼差しは影も形も無かった。
「お‥お前がヤッてくれって‥‥‥」
「だ―――――ッ!!煩ェ!!」
どうやら完全復活した様子のサンジは、勢いに任せてそのままゾロを見張り台から蹴落としてしまった。
深夜、クルー達の安眠妨害になるにも関わらず、感情のままをゾロにぶつけてしまったのは、
元に戻ってもそれ以前の記憶がしっかりと残っていた故の、憤死しそうな程の恥ずかしさからに違いない。
そう思ったゾロは怒りよりも笑いがこみ上げ、再び見張り台へ上り、尚も蹴落とそうとするサンジを身体ごと包み込むように
抱き締めてキスを降らせ、その愛情をもって宥めたとか宥めなかったとか‥‥‥
そして、サンジの意識が幼い時に戻ってしまった影響は、元に戻ってからも暫く続いた。
「なァ〜、サンジぃ〜」
「煩ェ!近寄んなッ!!」
「ンなコト言わねェでさァ〜。またギュウ〜ってしようぜ〜」
「気持ち悪ィんだよ!!!来んなっつってんだろうがッ!!!」
サンジに抱き締められることに味を占めたのか、暇さえあれば抱きつこうとするルフィ。
実は、ウソップやチョッパーも隙あらば‥‥と思ってはいるが、
実際問題としてそうしている間にも殺気を振りまいている剣士の存在が恐くて、
とてもではないが手を触れることすら出来ない。
そしてこの船で一番の権力を誇る航海士の後ろ盾を受け、船長である彼が命綱付きで海へ放り投げられるという
制裁が加えられた。
そんな航海中のメリー号は、今日も元気だ。
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