お前と
望みもしない別れをしてから
何年が経ったんだろう
俺の手元に残ったものは
お前の名前が刻まれた墓標だけ
みんなは忘れろって言うけど
俺は絶対に信じない
俺はお前の屍を見てはいない
誰も
見てはいない
お前の事だ
ある日突然
薄汚れた姿でひょっこりと現れて
『道に迷っちまった』なんて
照れくさそうに鼻を掻くお前を
俺はいつでも想像できる
だから
早く帰って来い
ここへ
俺の
俺達のこの『家』へ
毎日
お前の好きな喰い物
用意して待ってるから
早く帰って来い
―――――――――――――――――――――――ゾロ。
Legend of BEAST
『魔物が棲む』と恐れられ誰も近付こうとしない森の入口を、まるで守るように佇んでいる小さな一軒家。
そこにはかつて二人の男が住んでいた。
一人は村の者から『世界一の料理人』と称される細身だが芯のある若者。
もう一人は『魔獣』の異名を持つ屈強な剣士。
彼等はこの森で出会い、いつしか特別な感情を抱き合うようになり、慎ましくも幸せそうな日々を過ごしていた。
――――――――――あの『魔女』が現れるまでは。
近隣の村々で噂されていた『魔女』。
様々な獣を操っては村を襲い、金品を奪っていくという。
誰一人としてその姿を見た者はいないが、壊滅的なダメージを受けた村の人々は口々にその印象を語り継いでいった。
そんな噂話が彼等の住む近くの村にも届いたのと間を空けず、森の中にドラゴンが現れた。
鬱蒼と茂る木々を薙ぎ倒し、彼等の家は勿論、村にまで襲いかかろうという勢いで近付くドラゴンに、
たった一人の剣士が立ち向かって行った。
昼夜問わずに森の外まで響く轟音。
『絶対について来るな。俺達の家を守れ』と言われ残された料理人は、森の中へ走り出しそうになる足を折れそうなほど叩き続け、
相棒の言いつけを守り通そうとした。
そして三日三晩、寝ずに家の前で待っていた彼に、とうとう闘いの轟音が聞こえなくなった。
彼がドラゴンを倒したに違いない。
根拠のない確信なれど、料理人の腕を奮い、間もなく帰ってくるであろう彼の為に万全の準備を整えた。
しかし、
その料理は冷め、保存が効く限界になっても、相棒が帰ってくる事はなかった。
闘いの跡か、幾分見渡しがよくなった森の外れにドラゴンの物と思しきキバのような物が発見されたが、
それ全体に誰の物とも分からないおびただしい量の血痕が付いていた。
それを見た村の人々は、ドラゴンに向かっていった剣士の絶望的な末路を疑わなかった。
ただ一人、彼の相棒を除いては。
――― ゾロがあんなバケモノ如きにやられるワケがねェ! ―――
そう叫び続けた彼に、哀れむ者も少なくはなかった。
(どうせ‥‥どこかでまた迷子になってやがんだ‥‥)
もう数え切れない程向かえた、一人きりの食事。
ゾロがいなくなってから、『世界一の料理人』と唱われたサンジ本人がそれを美味しいと感じたことはなかった。
(絶対‥‥必ず‥‥何処かで生きている‥‥)
確信にも近い、自信があった。
しかし、それを証明出来るものもない。
サンジは、村人が告げる『事実』を受け入れず、サンジ自身が求める『真実』が彼の前に戻ってくるのを待ち続ける日々を、
淡々と送っていた。
続くんです…(苦)