ずぶ濡れのサンジが、甲板へゴロンと横になる。
その横では既に和道一文字を片手に、大の字になっているゾロ。
それ程長い時間潜っていたつもりはないのだが、船の上ではトドメの大砲をぶち込んで敵船を退けた仲間が、
いつまで経っても上がってこない二人に相当やきもきしていたらしい。
そんな自覚はなかったのだが。
水面に上がる直前、ちょっと甘めのキスで舌を絡ませていた。それだけの事なのだ。
しかし、身体を休ませてみると、それまでかけていた負担のようなものが一気に疲れとなって全身を襲った。
心拍数は跳ね上がり、みっともなく息をゼイゼイと切らせている。
一度寝転がってしまった今、一眠りでもしなければ起きあがれないのではないかと思う程、身体は疲労感を訴えて
いる。そしてお互いに、絶対相手よりも早く起きあがってやるんだと密かに思っていた。
「おお〜い、大丈夫か?二人とも」
医療バッグから聴診器を取り出しながら、チョッパーが二人に駆け寄る。
二人同時に「OK」の手を振り上げた後、サンジが顔だけを起こしてそれを見た。
「おお、チョッパー。相変わらず見事な青っ鼻だな」
「・・・!!」
普段であればそれはNGワードなのだが。
この時ばかりはチョッパーも、嬉しさが先に立ったらしい。
心配そうだった顔が一転して、零れそうな笑顔に変わる。
「サンジ!!ちゃんと見えるようになったのか?!」
「ああ、お陰サンで。お前の青っ鼻も、ウソップの長っ鼻もよく見えるぜ。あ、勿論、ナミさんのお美しいお顔も
よ〜く見えてますよ〜」
いや、そこはどうでもいいから。
という声に出さないツッコミがあちこちから感じられるが、まあ良し。
「夕べまでの状態じゃ、後2〜3日はムリだと思ってたのに・・・でも、治ったんならよかった!」
上半身を起こしたサンジに抱きつく勢いでチョッパーがその顔を覗き込む。
余程心配だったのだろう。両の目尻には涙が浮かんでいる。
「もしかしたらさっき頭ぶつけたのが良かったのかもな。あれから一気に見えるようになったんだ」
チョッパーの帽子をパフパフと叩きながら立ち上がる。
未だ横に寝転がっているゾロを見下ろすと、目尻も口の端も下がっている、何だか変な表情をしていた。
目尻が下がったのは、サンジの目が治ったと安心した表れ。しかしそれを素直に表情には出せないと、口はへの
字を形取っている。
サンジはそれを理解したのか、あからさまに馬鹿にするように吹き出してから、それでも仲間の方へ振り返る時
にはいつもの表情に戻り、そのままラウンジへと入っていった。
その夜は、ルフィが云うところの「ささやかな大宴会」が開かれた。
久しぶりに振る舞われるサンジの料理は勿論美味しいし、ちゃっかり敵船から奪ったお宝の話や、誰も聞いて
いないようなウソップの武勇伝でも、酒を美味しくしていた。
そして、ナミ以外のはしゃぎすぎたクルー達は、酔い潰れてそのまま甲板で朝を迎えるのだろう。
酒豪ナミと飲み比べても、なかなかイイ線いくのではないかと思われるゾロは、ほろ酔い気分の中、酔い潰れた
男達の中から目当ての身体をそっと抱き上げ、極力物音を立てないように男部屋へ降りていった。
ソファに寝かせると、その身体が僅かに身じろぐ。
「う・・ん・・・・・」
額にかかる髪を梳き、ゆっくりと開かれていこうとする目を覗き込む。次第に姿を見せる蒼い瞳は、潤んでいても
尚ゾロの姿をしっかりと捕らえた。
「あー・・・ゾロだァ・・すっげー近くにゾロがいるぜェ・・・」
両腕をゾロの首に絡ませながら、ケタケタと嬉しそうな声が部屋に響く。
「・・・の、酔っぱらいが・・・」
「うるせェ・・・コックは酔わねェんだよ・・・・・」
ゾロがウルサイと感じたサンジの口を塞ぐのと、サンジが遺憾を表明する手段としてゾロに口付けようとする
動きが重なって、まるでギュッとお互いを押し付け合うように唇が重なる。
初めは積極的に舌を絡めてきたサンジも、次第にゾロの動きによって熱を呼び覚まされ、相手の動きに合わせる
ような体制を作り始めた。脚を開いてその間にゾロの身体を促し、片腕を首から背中に移動して、一層その身を
屈ませる。ピッタリと密着した胸からは、お互いの激しく打っている鼓動がそれぞれを煽るように響いてくるのが
分かる。既に酔いのせいではなく、お互いの身体に興奮しているのだ。
暫くの間、深く唇を交えながら全身で相手の身体を確認するように貪っていた。
衣服同士の擦れる音が、より興奮を促しているような気分になってくる。
ようやく口付けを解くと、何の躊躇いもないような素直な笑顔で、サンジがゾロを見ていた。
「なァ・・・顔、よく見てェよ・・・これでも我慢してたんだぜ?俺の・・・・・・な顔がずっと見えなくて
よォ・・・」
恐らく、ゾロが聞きたいと思う肝心な部分は口籠もって簡単には聞かせてもらえない。
それでも構わない。この身体が、存在が自分の腕の中にちゃんと在るのなら。
勿論、ゾロだってそんなことは素直に告げられるはずもない。
「悪ィが・・・その希望に添ってやるほど、俺も余裕があるわけじゃねェんだ・・・」
素早くはだけさせた胸元へ顔を埋める。熱い肌がペタリと吸い付いてくるようで心地良い。
意志に反する行動でありながら、サンジはすんなりそれを受け入れた。自らシャツの袖を抜き、ゾロのシャツを
腹巻きごとたくし上げて腕を滑り込ませる。酔いのせいで火照った熱を持て余しているのかもしれない。あまり
普段ではお目にかかれない、積極的な動きだ。
熱を持て余しているのはゾロも同じ事で、サンジに促された形になりながら、シャツを一気に脱ぎ捨てて座位を
取りながらサンジを抱き締めた。
「ん・・・ゾロ・・ぉ・・・」
「ああ・・温けェな・・・・」
自分でも情けない程に上擦った声しか出ない。多分お互いにそう思っているだろう。だからそれは、情けないので
はなく、嬉しいのだと解釈することが出来る。
相手を求める気持ちが強すぎて、もう余裕なんて何処にもない。
どうにかなってしまいそうな衝動が湧き起こる度に口付けて口内を荒らしながらも相手を求める。それに応えられ
る事によって、安心して唇を解きながら相手の目を見る。それを何回も繰り返しながら、やがて熱は下肢を中心に
全身へと広がっていった。
「あん・・っ・・・あっ・・・・やぅ・・・ん・・」
痛みを与えない程度に指先に力を入れ、感じているという証明を先端から絞り出す。ゾロの手がねっとりと湿って
行くにつれ、その身体に縋るサンジの力が強く跳ね返ってくる。ギュッと肩を掴みながらも遠慮がちに爪を立て、
耐えきれない快感は喘ぎ声となって口から洩れていた。
「凄ェ・・・もうこんなに染みてんぜ」
「うぅ・・・クソが・・ァ・・・言う・・な・・・ボケ・・・」
照れ隠しの言葉はいつも通りなのに、身体はそうはいかない。早くイきたくて、早くゾロが欲しくて、小刻みに
震えるように腰が捩れている。
掌全体にサンジの蜜を受け止めたゾロは、それを指先に伸ばして後孔へ添えた。
「ひっ・・ん・・・・・」
その感触にサンジの背が跳ねるも、すぐにそれを誘い込むように腰が落ち着く。ゾロは入口を丁寧に解しながら、
ゆっくりと指を一本ずつ差し入れた。
「はん・・・・あ・・あ・・ぅ・・・・ンん・・・・」
内壁を探りながら指を増やしていく。ウォーミングアップに充分なだけの指が入れられ、熟知したサンジのイイ
所を刺激すると、身体全体が撓り、ゾロの指を離すまいとギュッとより一層強くくわえ込もうとする。そんな仕草
や反応がいちいち可愛くて仕方がない。
涙と涎で既にグチャグチャの顔なのに、それすらも綺麗だと感じてしまう。
ゾロの腕の中で、その動きによって悶える全てが、愛おしくて狂いそうになる。
「なァ・・・もう、イイ・・・か?」
自らもどうしようもなく突っ走りそうな気持ちを落ち着ける手段。指は差し入れたままに、その顔を覗き込む。
「ンなコト・・訊くなっ・・・て・・・言ってんだろう・・がぁぁ・・あ・・・・」
返される台詞は予想通りでも、それがまた死ぬほど可愛い。まるで自分の術中に陥った小さな獣の様だ。
チュプッという湿り気たっぷりの音と共に指が抜き去られると、サンジの悲鳴ともとれる短い声が上がった。
そして、物足りなさを感じさせる前に、こんなにも相手を求めているんだというゾロのはち切れんばかりの主張を
押し進める。
先刻、サンジにあんな事を言っておきながら、自分だってサンジの喘ぐ姿を見て、触れれば幾らでも淫らな音を
立ててしまうほどになっていた。
だが、もう躊躇する事は何もない。
ガマン汁が溢れようが、本気汁が出ようが、ひたすら二人で快楽を追い求めていればいいのだ。
初めはサンジの身体を気遣い、遠慮がちになっていた動きも、サンジから求めるように腰を動かすようになって
しまえば、後は登り詰めていくだけ。
「あんっ・・!ゾロ・・あっ・・・ああっ!イイっ・・・!ゾ・・ロ・・・!は・・・・あぁ・・!!」
無意識に溢れる声の中で、必死にゾロの名前を呼ぶ。
勢いと快感に閉じてしまいそうな目も、ゾロの姿を離すまいと涙を溢れさせながらも見つめたまま離れない。
「み・・見えなかったん・・だ・・・てめェの・・顔・・・これが・・・どんな気分か・・・・分かる・・・
か・・?」
その激しさを失うことはないゾロの律動の中、ボロボロと躊躇無く涙を零しながら、サンジが問うてきた。
「・・・ああ・・・っ・・・・」
「見てェんだよっ・・・!近くにいるのに・・・触れて・・・も・・いるのに・・・!見えねェんだ・・・
てめェが・・・俺の中に・・・・いねェんだよ・・・!」
快感ではない感情で、サンジの表情が歪む。
それでも押し寄せる波には勝てず、身を捩りながら苦しげに熱い声を吐いた。
実際に体験した者にしか分からない不安をぶつけられ、ゾロはいたたまれずにその身体をギュッと抱き締める。
少しでも救いになってくれればと。少しでも痛みが和らげば・・・と。
「俺は・・・ずっとここに居た。てめェの傍に・・・それでも不安を感じさせちまったんなら・・・それは俺の
不甲斐なさ・・・か?」
泣きじゃくる子供をあやすような、柔らかく、温かみのある声。
繋がったままの下半身はどうしようもない程熱いのに、その言葉を投げかけられた頭だけ、じんわりとシャボン玉
にでも包まれたような温かさをサンジは感じていた。
ぶつけた過去の不安は、安堵の裏返し。
「違ェよ・・・こんな感情、誰の所為にもしたかねェ。今が・・・凄ェ温かくて、凄ェ嬉しいから・・・あン時の
コトが不安に思えるだけだ・・・・・」
ゾロの表情を受けたような穏やかな口調で言った後、そっと唇を重ねた。
舌でより温かい場所を探して、求め合う。
そうしているうちに衝動は不意に襲うもので。
「ひぁっ?!てっ・・・てめェ!急に動くんじゃねェ・・・!!」
「あー・・・悪ィ。つーか、もうガマン出来ねェし」
それは殆どがお前の所為なんだからな、と言い聞かせるように囁くと、サンジは仕方なさそうに、了承を含んだ
笑顔をゾロに向けた。
隣は壁一枚を隔てて、ナミさんが寝ているであろう女部屋。
でも、この時ばかりは自分の気持ちを抑えることは敵わず・・・
迷惑を被ったとお怒りになっているか。
はたまた、自分の権力を誇示する良いネタを貰ったとほくそ笑んでいるか。
いずれにしろ、明日の朝食はその女王様に相応しいヘルシーメニューを一品追加しよう。
それ位の贔屓、お前は赦してくれるよな?
やっと見えるようになった目で、一番、明るく見えるのは、お前の顔、なんだからさ。
The end.
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