BOYS BE DESIROUS!
「よ〜ォ、クソガキ!元気に勉学してっか?」
辺りは暗くなり、外灯の光が目に付き始める午後五時。
受験生ゾロの部屋に家庭教師がやってくる。
彼が向かっている机の横の、窓から入って。
「うるせェな。クソガキ言うなっつってんだろうが」
「はァ〜ん、悔しかったら今すぐ大学生になってみやがれ」
「・・・・・(怒)」
彼の名は、サンジ。
ゾロの幼なじみであり、この春、某有名私立大学へトップの成績で入学した。
中学までは同じ学校へ通っていたのだが、高校から進路を違え、サンジが通っていた学校がそれなりの進学校だということは知っていたが、
まさかトップレベルの私大へ主席入学するほどとは、二十年近く隣に住んでいたゾロにとって寝耳に水であった。
実際、彼等は小さい頃からよく一緒に遊んでいた。
生まれた年は同じなのだが、サンジが早生まれの為、学年はゾロの方が下だ。
それでも二人でよく連んでいた。
サンジはよく泣き、よく怒り、よく笑う喜怒哀楽の激しい子供で、ゾロの方が年上に思われる事が多かった。
ゾロはゾロで、年齢のわりに達観したような雰囲気があり、実年齢より上に見られることが多い。
しかし学年にして一年の差というのは以外と大きいもので。
ゾロは「遊び」に関してサンジに教わる事が結構あった。
中には青少年育成云々に引っ掛かってしまうのではないかというような遊びまで・・・
ゾロは、そんな遊びをサンジが知っているという事に驚いていたりもした。
それも、そんなにイヤな思いを抱いたりしたことなどなかったのだが。
(今回のは今までで一番・・・屈辱的だ)
受験そっちのけでゾロと遊び回っていたと思われていたサンジが、まるで片手間のように入学試験を済ませ、合格してしまったのを知ったゾロの両親が、
現役受験生となったゾロの家庭教師を頼み込んだのだ。
(屈辱的・・・なはずだったのに・・・)
ゾロも、実はそれなりに成績は良い方だ。
このまま行けば、それ程躍起にならなくても希望大学合格はほぼ間違いない。
しかし彼は、
一学期の期末試験で半数の教科を白紙で提出した。
当然、担任に親を呼ばれ、三者面談を何度かして、その理由を訊かれた。
結局彼がそれを打ち明けることはなく。
もう二度とこんな事はしないと約束をさせられて、その場は終わった。
「お前、さ・・・俺がお袋サンに言ったコト、怒ってんだろ」
白紙のままの物が混じった回答をサンジに見せた時、彼はそう言った。
「今のお前の成績なら、俺は必要ないって。カテキョ、断ろうとしたコト、怒ってんだろ?」
見透かしたような蒼い目が斜め上から覗いてくる。
誰にも言っていない、本当の理由。
我ながらガキ臭いと思う。
ゾロは、大学生になったサンジが自分の家庭教師となり、勉強の合間に聞かされる大学での生活の話で、
一年にも満たない年齢の差がもどかしくなってしまった。
早く大学生になって遊びたいとか、受験勉強がイヤだとか、そういう事ではなく。
知らない世界で、サンジが、自分の知らない人間と楽しそうに笑っている姿を想像しただけで。
(こんな・・・・・!)
いつでも自分の傍にあった笑顔が、何処か遠くへ行ってしまったような気がして。
(何で、こんなコトでこんなに余裕がねェんだ・・・俺は・・・ッ!!)
気付かなかった、本当の気持ちを、知ってしまった。
(俺は・・・・!!)
サラサラのハニーブロンドは生まれつきの天然物。
それに見合う透き通った蒼い目と、白い肌。
全体的に線が細く、しかしナヨナヨしているわけではない。
いつからだろう。
一緒に風呂に入って、自分との違いを意識し始めたのは。
実際に女性の身体を知る前に、サンジの身体に女性のそれを重ね合わせた事もある。
丸みには欠けるものの、恐らく大差はないのだろうと。
ならば、
思春期の自分がそれに欲情してしまってもおかしくはないのではないだろうか。
一度、そう思ってしまったら、もう後戻りは出来なくなっていた。
その日、サンジに出された問題集を終え、採点をしている間、ゾロはベッドに横たわってひたすら天井を見詰めていた。
コトリ、とペンの置かれる音がすると、チェックの入った解答用紙をヒラつかせながらサンジが振り向く。
デスクライトで逆光になっているが、ニヤリと口元が吊り上がっているのだけは分かった。
「お前・・・やっぱすげェな。これならもうちょっとランク上げても大丈夫だぜ」
「・・・すげェ?」
「ちなみに、この問題、去年の俺の受けた入試問題。充分合格ラインだけど?」
「・・・!」
解答用紙を差し出されて、それに噛み付きそうな勢いでゾロが身体を起こす。間違えを正されている箇所は、明らかに少ない。
これまで特に成績を気にせず問題を解いてきた所為か、久しぶりに本気で解いた問題がそんなレベルだったとは思いもしなかった。
「―――――ウチの大学来いよ、ゾロ」
薄っぺらい紙の向こうで、蒼い瞳が自分を見ている。そこからその意思までは読み取れなかったが。
その時のゾロを突き動かすには充分な力を与えられた。
「わっ・・・!・・・ふ・・・んん・・・?!」
目の前に伸ばされた腕を掴んで引き寄せる。
ゾロよりも細い身体は座っていた椅子を倒しながらも簡単にゾロの腕の中へと収まり、その動きの流れを狙ってゾロは唇を重ねた。
重力に合わせてのし掛かってくる体重と同じように深く交わる唇。
それは、何度も夢の中で想像しては目覚める度に砕け散って、決して手に入らなかったもの。
(やっと、手が伸ばせる・・・届く)
成績に関してではなく、初めてサンジがゾロを自分の居る場所へと導いた。
今までは何処かしらガキ扱いをされていて、決してその足並みを揃えさせてはくれなかった。
しかし、ようやっと。
その身体を自分の中へ収めてもいいと、許可を出すキーワードを貰った気がした。
「はっ・・んぅ・・・っ!ちょっ・・・・ゾ・・ロ・・・っ!」
何をしようとしているのか理解できないサンジは両腕を突っ張って身体を離そうとするが、それごと掻き抱いて上下を逆転させる。
力ではゾロに叶わないことは、もう何年も前から自覚しているはずだ。
困惑に見開かれた目に思わず苦笑を漏らしながら、ゾロは再びサンジの口を覆った。
薄く開かれたままの唇を舌先で軽くなぞり。
ピクンと反応をしながらも閉じないそれに舌を滑り込ませる。歯列の間に無理矢理ねじ込み、裏側を執拗なほどに舐った。
「ん・・・っ!・・・は・・ぁ・・・んんっ・・・あ・・っ・・・」
今まで聞いたことのない、妙に甘ったるく掠れたサンジの声。
想像していた以上に、煽られる。
抵抗を押さえ込むために力を入れていた腕を緩めると、それと同じタイミングでサンジの肩がガクンと下がった。
キスから解放された後の荒い息を継ぎながら、トロンと潤んだ目がゾロを見詰める。
「な・・・んだ、コレ・・・・・」
「・・・・・さァな」
サンジの手がゾロの脇をギュッと掴む。それが拒否なのか受け入れなのかと判断を下す前に、サンジの首筋に顔を埋めてきつく吸い上げる。
「あっ・・!は・・ぁっ!」
そこには初めてのゾロの存在を残し、それを満足そうに確認した後、Tシャツの裾から手を差し入れた。
「ふぁっ・・・!」
そのままサンジの皮膚を滑るように移動するゾロの掌。自分の手も、相手の身体も同じように熱い。
これまで経験してきた女の身体よりは柔らかみに欠けるが、滑らかな感触はコトを及ぼすには充分すぎるだろう。
空いている方の手でサンジの前髪を梳き、その後でシーツを握り締めているサンジの手を取って自分の腰の辺りに回した。