HAPPY BIRTHDAY, dear…
4月30日、間もなく『深夜』という時間帯。
俺達は都内のライブハウスにいた。
「本日のプログラムは全て終了致しました。またのご来店をお待ちしております。尚、お帰りの際には…」
館内放送の案内を遠くに聞きながら、俺の相棒は荷物を背負ってさっさとドアを出ようとしている。
「おい、行くぞ」
出来ればシャワーを使ってから帰りたいんだが…コイツはそれを許してくれそうもない。
「まだ表は客がウロウロしてるぜ。汗流してからでもいいんじゃねェ?」
「―――疲れてんだ。とっとと帰るぞ」
「‥‥‥‥」
その真意は分かる。俺だって出来ればそうしたいくらいだ。
だけどな。
さっきまでライブの『主役』だった俺達が、その観客の前に姿を現したらどうなるか―――――
それを言った所で自分の考えを改めるようなヤツじゃないことは痛い程分かっているから、
それ以上何も言えない自分がちょっと情けない。
もっとも、このまま流されても悪くないコトも知っているから、蹴倒してまで反抗しようとも思わない。
「しょうがねェなァ…」
荷物を入れたダッフルバッグを肩に掛けて、相棒の肩に手を回す。それを待っていたように俺の腰にはコイツの手が。
とてもじゃないが、ファンの子達には見せられない姿だ。
スタッフ用の出口から、すぐ横に停めてあったゾロのバイクに二人でまたがって、本日の寝床であるホテルへと向かう。
タンデムシートの振動が、全身の疲れをより増幅させた。
「‥ん‥‥ま‥だ‥‥汗、流して‥‥ね‥ェ‥‥‥」
「待てねェ」
浅い湯船に寝かされて、体中をゾロの手が這い回る。
気怠さも手伝って、気持ちよさは言うコトないんだが‥‥‥ライブで流した汗がお互いの肌だけでなく、自分自身の肌にも不快感を与える。
せめてサッパリと抱き合いたいモンなんだが。
やっぱりコイツはそれを許さない。
「は‥‥‥せっかちなヤツは‥‥レディに‥嫌われる‥ぜ‥‥」
せめてもの抵抗―――憎まれ口を投げかけてみれば
「好かれる必要もねェ」
そーゆーヤツだよ、お前は‥‥
「あッ‥‥は‥‥‥」
一番弱いトコロをキュッと締められ、俺は心の中で双手を上げた。
「明日、朝から予定入ってんだろ?お前だけ」
「‥‥だったか?」
「お前なァ‥‥」
ベッドから起きあがれない程に疲労困憊の俺は、タバコを吸いながら隣に寝転がっているゾロを見遣る。
何で俺が相棒個人のスケジュール管理までしなきゃなんねェんだ。
「仕事じゃねェんだ。頭に入ってなくても仕方ねェだろ」
「そーゆー問題じゃねェ」
軽く足先を動かしてヤツの向こう脛を蹴ると、バツが悪そうに顔を背ける。
それがヤキモチってんなら、嬉しくないコトもないが‥‥いや、待て。立場が逆だ。
明日は俺達の仕事での知り合いの誕生日。
知り合い、というよりは、今となっては『友人』に近い付き合いとなっているんだが。
プレゼントは何が良いかと尋ねたら、半日で良いからゾロを貸してくれと頼まれた。
そのコは俺達がいつも世話になっているイベント企画会社の社員の女の子。
いつもなら『ゾロを貸せ』などという頼みに心中穏やかではない俺なのだが、彼女は別だ。
俺達の『関係』を知っていて、理解した上でこれまで通りの付き合いをしてくれている。
心強い味方でもあった。
そんな彼女の頼みなら、男として是非とも叶えて差し上げたいワケで。
「プレゼント、忘れんなよ」
「‥‥分かってるよ」
女性のおもてなしなんて出来そうもないゾロに代わって、プレゼントも洋服も、俺が全部揃えてやった。
ゾロが恥を掻くのは俺の知ったコトではないが、大事な女性の誕生日に寂しい思いをさせるのは許せない。
「‥‥けど、何でお前がそんなに乗り気なんだよ」
不信感丸出しの声色で、しかも一睨みのオマケ付きで尋ねられる。
それが分からないから、お前には何も任せられないんだ。
「お前な‥‥貴重な友人の一人であるユウキちゃんの誕生日だぞ。不備があって堪るかってんだ」
「友人‥‥ね」
今度はあからさまに盛大なため息をつく。
ま、大体コイツの言いたいコトは分かるんだが‥‥
分かるから、手元で燻らせていたタバコを消して、ゾロへを顔を向けた。
「‥‥‥‥‥ん」
舌先でゾロの唇を舐めると、それを追い掛けるように今度はゾロの舌が俺の中へと入ってくる。
口の中を好きに荒らされ、それでもソレが嫌じゃないから―――――酒にでも酔ったような心地で気紛れに時折舌を絡ませ、
逃げては追われ、掴まればまた絡ませ―――――気付けば俺も夢中になってキスを貪っていた。
そう、俺は‥‥‥
だから、俺は、今では安心してゾロを送り出せるんだ。
「‥‥この服、おかしくねェか?」
「てめェ!俺のセンスを疑うってのかッ?!」
「‥いや‥‥‥‥」
「万が一、似合わねェなんてコトがあったら、ソレはてめェの着こなしが悪ィんだ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
そうして、まだまだ怠さの残る翌朝、俺の選んだ服を着て、プレゼントを抱えたゾロを笑顔で送り出す。
アイツ一人でレディを満足させられるかどうか、大いに不安の残るトコロだが。
俺はこの貴重なオフタイムを、体を休めるコトに専念しよう。
なんたって、
アイツが帰ってきたら、また重労働を強いられるのは目に見えているから――――――――
それはそうと、
HAPPY BIRTHDAY、ユウキちゃん。
来年の誕生日には、俺も呼んでくれよな。
お誕生日おめでとうございました(笑)
あーんど・リクエストありがとうございましゅvv
アナタの心の恋人(殴)・きらでした★