部屋へ入って驚いた。温泉宿ではなく、6畳一間の商人宿なのだ。どおりで、真夏だというのに、客室にストーブが置いてあったりする。しまい忘れたにしても、程があろうというもの。
風呂場までの廊下を2分ばかり歩いていくと、お盆だったので、お経が流れてくる。裸電球にぼんやり照らし出された脱衣所と、緑のお湯を見ながら、天井から落ちてくる、ピチャンピチャンという間延びした滴の音を聞いていると、カッパが出てきそうで、とてつもなく怖かった。ちなみに、このお湯は岩手の至宝らしいのだが、ゆっくりとはつかっていられない。
夕食は、皿の模様がすけて見えそうなハムとトマトのきれっぱし。その中に「真っ白に光り輝くもの」を見つけた。口の中に運んだ。この奥深い山の中にして、「なんてうまいホタテなんだ!」 思わず絶句。冷凍の多いなか、おそらく陸奥湾直送の生ホタテだったのであろう。何という心憎いおもてなし。
ふるさとの社交場へ戻ってきた帰省客ともども、ゆったり、のんびり、食堂(部屋出しよりも食堂が好きになったのは、このときからかな?)にて過ごさせてもらった。
夜になると、みぞれが降った。早速、ストーブに火を入れた。
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