■2000年6月から始まった、町田市公民館の市民講座「我がまちの憲法をつくってみませんか」というワークショップで、市民版の「市民自治基本条例」づくりが行われました。以下の条文は、その最終の発表会で報告された試案です。
町田市民自治基本条例草案
前文
町田市は、先人達の労苦と豊かな自然環境に育まれながら歴史を刻んできました。水辺や谷戸に代表される農のある風景は、市民の心の風景となっています。
また、車椅子で歩けるまちづくりの推進など、福祉政策における先進的な取組みも行われてきました。
しかし今日、物質的な豊かさや利便性・効率性が優先されるあまり、大規模開発や不法投棄などによる貴重な自然環境の破壊や、高齢者・障害者・在日外国人・失業者・ホームレスなど社会的弱者への福祉や人権政策の後退が指摘され、地域の中でのコミュニティーの崩壊など、人と人とのつながりも失われつつあります。
私たち市民は、日本国憲法に規定された基本的人権の尊重に基づき、性差や年齢、人種・国籍、障害の有無によって疎外されることなく、誰もが大切にされ安心して暮らせる「まち」に生きる権利及び、良好な生活環境・自然環境を享受する権利を持つと共に、自然と文化の薫り豊かな風格と魅力をもった「まち」を、未来からの大切な預かりものとして次代に引き継いでいくためにも、自らの不断の努力によって維持・創造していく責務があることを再確認します。
誰もが安心して暮らせる平和で民主的な社会、多様性を認め合う社会は、個人の尊厳を重んじ、その意見を反映した個性豊かで活き活きとした自治体と市民の自主的な活動によって支えられなければなりません。そのためには、単に「公」ではなく「誰もに開かれた」というパブリックの本来の意味からも、市民一人ひとりがその担い手として新しい公共の形に参画していくことで、はじめて自治が実現されると私たちは確信します。
私たち市民は、ここに自治の理念を明らかにし、市民自治の新しい「しくみ」を実現するために、市民生活にかかわる、さまざまな条例や規則を束ねる基本原理として「市民自治基本条例」を制定します。
第1章 総則
第1条(目的)
この条例は、私たちが自治の主権者として主体的に市と協働してまちづくりを担うことを確認し、それぞれの役割や責務を明らかにすると共に、その基本となる自治のしくみや参画への保障を制度として確立するための基本原則を定めることを目的とする。
第2条(この条例の位置付け)
この条例は町田市の最高条例であって、市長及び事業者は、市民と共にこの条例を尊重し擁護する義務を負う。
第3条(定義)
この条例において「市民」とは、町田市に在住する全ての人および、自らの意思に基づき市民登録をおこなう個人をいう。
2 登録制度については別途定める。
第2章 市民自治の基本原則
第4条(市民参画の保障)
市が行なう施策や事業等の計画、策定、実施、評価等の各段階において、市民の参画が保障されなければならない。計画を変更する時も同様とする。その詳細は別途定める。
第5条(情報共有化)
市は、市民との協働によって自治の向上を目指す責務を負い、そのために必要な情報が共有化されていることが基本とされなければならない。
2 市は、市民の知る権利を保障し、情報を原則公開としなければならない。
3 市は、市民への情報伝達と意見の聴取にあたって、あらゆる手法を用いるとともに、行政側の一方的な通達や意見の聞き置きではない、市民の発意や行政の応答の経緯が誰にも明らかなものとなるよう、情報の双方向性を原則としなければならない。
第6条(説明責任)
市は、計画立案、選考、実施及び評価のそれぞれの過程において、その意思形成のプロセス及び手続きを段階ごとに市民に明らかにし、分かりやすく説明する責務を負う。
2 市は、政策決定過程で作成された文書、会議記録について、広報紙やホームページ等、多様な手段で、速やかに市民に公開しなければならない。
3 市は、市民からの提案、要望に対して速やかにかつ明確に応答しなければならない。
4 市は、市民に対して政策情報としての基礎情報、争点情報、専門情報を分かりやすく平易な表現と方法によって提供しなければならない。
5 市は、庁議規程など意思形成のための会議に関する規程や規則について、条例化を図らなければならない。
6 本条の目的を達成するために、標準的処理日数及び手続きについて、別に規程をおく。
第7条(計画策定)
地方自治法に基づく基本構想及びこれを具体化するための計画は、この条例の目的及び趣旨に基づいて策定・実施、及び検討が加えられなければならない。
第8条(公職の選任)
市の運営に重責を負う公職につく者の選任は、すべての市民にとって開かれたものでなければならない。
2 市は公職の選任にあたり、この条例の定めるところにより、可能な限り、すべての市民の意思が反映されるように努めなければならない。
第3章(市民の権利と責務)
第9条
私たち市民は、自治の主体者として、市政へ参画する権利が保障される。
第10条(市民の公職就任権等)
法令に従い、私たち市民はその主権者たる地位に基づき、必要な手続きを経た上で、市の次の公職への就任および選任、ならびに解職を請求することができる。
(1)市長
(2)市議会議員
(3)教育委員
(4)監査委員
(5)各種審議会委員
(6)市の特定幹部職員(部長級)
2 私たち市民は地方自治法の定めるところにより、条例及び規則の制定または改廃、自治体議会の解散、ならびに事務の監査を請求することができる。
第11条(議会運営の関する市民の権利)
私たち市民は、議会運営について法令に基づき次の権利を持つ。
(1)議会の解散を求める権利
(2)議員の解職を求める権利
(3)議会のすべての審議を傍聴する権利
(4)議会事務局職員に就任する権利
(5)議案を提出する権利
第12条(市民の責務)
私たち市民は、自治の主体者であることを認識し、市政に参画するとともに、総合的視点に立ち自らの行動に責任をもたなければならない。
2 私たち市民は、この条例の目的及び趣旨に基づき、市が行なう施策に協力しなければならない。
3 私たち市民は、地域自治の原則に基づき、近隣への助勢や占有地における自己責任を果たす責務を負う。
4 私たち市民は、自治体運営を公正かつ適切に行なう基盤としての財政を等しく担うために、法令ならびに条例の定めるところに基づき、納税の義務を負う。
5 前各項の責務を果たすために、個人の尊厳が冒されることがあってはならない。
第4章 市の役割※
第13条(自治立法権)
市は、この条例の目的と趣旨に基づき、その処理に関する事務に関して、条例および規則を定めることができる。
第14条(自治行政権)
市は、この条例の目的と趣旨に基づき、地域公共の安全、健康、福祉および環境を保持するとともに個性ある地域社会の形成と発展を目的として、その事務を、自己の判断と責任において自ら定め、自ら処理する。
第15条(自治組織権)
市は、この条例の目的と趣旨に基づき、その組織および公社その他の組織を、自己の判断と責任において編成することができる。
第16条(自治財政権)
市は、この条例の目的と趣旨に基づき、自己の判断と責任において、その事務を処理するのに必要な財源を確保し、その財務事項を決定することができる。
第17条(自治人事権)
市は、この条例の目的と趣旨に基づき、自己の判断と責任において、その処理する事務を効率的に遂行するため、その職員の職責および身分にかかわる措置を行うことができる。
第5章 市長および執行機関※
第18条(執行機関運営の原則)
市の執行機関は、地方自治の本旨に基づき、市政運営の基本を市民の福祉の充実・向上に置き、これを安定的かつ効果的に実現できるようにしなければならない。また、その組織は前途の目的のためにもっとも適したものとなるようにしなければならない。
第19条(行政機関の選挙、任期、その他の事項)
第20条(意思決定の明確化)
市の執行機関は、施策及び事務執行の妥当性が市民に理解されるために、市政に関する意思決定の過程を明らかにしなければならない。
第21条(広報)
市は、情報の共有化を原則とし、平易で迅速な情報提供をおこなわなければならない。
2 広報は、市民の年齢や性別、および国籍、ハンディキャップの違いに配慮するとともに、そのあり方について充分市民の意見を取りいれ、適切かつ多様な手法によっておこなわなければならない。
第22条(会議公開)
市長は全ての会議を原則公開しなければならない。委員会、秘密会議においても議事録を作成しなけらばならない。
第23条(パブリックコメント)
市長は、新規に行なう施策の決定及び事務事業の見直しにあたっては、事前にホームページや広報紙等の広報手段を通じて市民にその内容を分かりやすく伝え、ひろく意見を求めなければならない。また、寄せられた市民の意見及び、それに対する市長の見解については、同様に市民に伝えられなければならない。
第24条(勧告等の尊重)
市長は、この条例の目的及び趣旨に基づき、市民参画委員会、評価委員会、広報委員会及び地域協議会の勧告や提言などについて最大限尊重しなければならない。
第25条(自治体職員の責務)
すべて自治体職員は、その職責が住民の信託に由来することを自覚し、創意をもって地域公共のために勤務し、かつ、その職務を誠実に遂行しなければならない。
第6章 市議会
第26条(定義)
市は、立法機関として議会をおく。
第27条(市議会議員の選挙、定数、任期)
第28条(議会の役割)
議会は市民により選出された議員によって構成され、市政の民主的運営を確保し、諸問題などの解決にあたる。
第29条(議会運営の原則)
議会はその運営にあたり、すべてが市民に開かれたものとなるよう最大限に努めなければならない。とくに、主体的に情報を収集・管理することが困難な者に対しては、十分に配慮されなければならない。
第30条(議会の責務)※
議会は市政の審議機関であることを常に認識し、市民の意思反映と地域社会形成の観点から、市政の点検と改善とその実施を求め、市民に明らかにしなければならない。
2 前項の規定を果たすために、議会と市民との対話のシステムを構築しなければならない。
3 議会は市民の意見を充分に取りいれ、必要な条例を提案・決定するものとする。
4 議会は市民からの請願等に関して、その趣旨や意見を表明する権利を保障しなければならない。
5 議会は公聴会や参考人制度を積極的に活用するとともに、市民に開かれたものとしなければならない。
第31条(議会の会議のあり方)
議会の会議は、討論を基本とし、議決に当たっては意思決定の過程及び妥当性を市民に明らかにしなければならない。
第32条(議員の責務)
議員は、市民全体の公益性を念頭に置き、市民の意見を反映させなければならない。
2 議員は、広く住民の意見収集を行なうとともに、市民に対して自らの活動については、説明責任を果たさなければならない。
3 市民は、統治の客体ではなく、自ら政策を作り、行政や議会、市民投票を通して公共的政策を実現していくことができるものである。市議会議員は、市民の奉仕者としての自覚のもとに、この実現に努めなければならない。
4 議員は常に、自己の見識を高めるための研鑚を怠らず、市民の信任によって与えられたその立場の重みを忘れず、決して品位を汚すようなことがあってはならない。
第33条(議会の会期外活動)
議会は、閉会中においても、市政への市民の意思の反映をはかるため、地域社会形成(まちづくり)の施策の検討、調査等の活動をしなければならない。また、これらの活動は、議会の自主性及び自立性に基づいて行われなければならない。
第34条(議員立法)※
議員は、議員条例の提案に努めなければならない。
2 議員の立法活動を充実するために、議会スタッフおよび議員スタッフを拡充する。
3 議会事務局は市民が運営する。
第7章 事業者の責務
第35条※
市内に事業所を有するすべての事業者は、地域社会の責任ある一員として必要な責務を負うと共に、この条例の目的及び趣旨に基づき、市の施策に協力しなければならない。
2 従業者が就業時間中に市民としての権利の行使をするため事前に事業主、または代表に申し出たときは、就業に支障を及ぼさない範囲で必要な時間を与え、権利の行使を妨げない。そしてそのことにより不利益な取り扱いをしない。
第8章 市民自治確立のための組識及び制度
第36条(市民参画委員会)
市の政策および施策について調査、研究、提言するために、行政から独立して、公募による市民から構成される市民参画委員会を設置する。同委員会はまた、市の政策形成に関わる各種審議会に参加する市民に情報の提供をおこなうなどその活動を支援し、市政への市民参画が実質的なものとなるようにしなければならない。
2 詳細については別途定める。
第37条(評価委員会)
行政の事務事業に対する評価基準は、市民参画のもと、これを定めるものとする。
また、年度ごとの評価は、行政職員、市民、学識経験者で構成する評価委員会においておこなう。
2 評価委員会は、市政への市民参画の状況を評価し、必要な勧告を行なうことができる。
第38条(広報委員会)
市の事業等の情報や施策について、市民の視点に立った広報を行なうために、公募の市民から構成される広報委員会を設置する。
2 市長は市の事業等について市民に情報提供する時は、予めその内容を広報委員会に提出しなけらばならない。
3 広報委員会は、市民への適切かつ迅速な情報の提供をおこなうために、市に対して施策に関する情報の速やかな提供を求めることができる。
第39条 (オンブズパーソン)
本条例の理念に基づき、自治の主権者たる市民がまちづくりを担う時、これらが阻害される場合、あるいは阻害されようとする場合、公平公正な立場で簡易迅速に処理し、是正等の措置を講ずるよう勧告し、市民自治の保障を図るオンブズパーソンを置かなければならない。詳細は別途さだめる。
2 (事務局の独立性)
市は、オンブズパーソンの職務の遂行に関し、行政機関から独立した事務局を置かなければならない。市は、その独立性を尊重するとともに、積極的に協力しなければならない。
第40条(市民投票)※
市は町田市に関する重要事項について、直接市民の意思を確認するため市民投票の制度を設けなければならない。
2 市民投票にかける案件については、有権者の50分の1の賛意をもって発議することができる。3市は、市民の討議の深化に貢献するため、積極的にその保有する情報を提案するなどあらゆる協力をおこなう。詳細は別途定める。
第41条(審議会等の市民公募)
市の各種審議会は、多様な市民の意見を反映させるために、その構成員の過半数を市民から公募するものとする。
2 その他の委員の選出に当たっては、予め選考基準を明らかにしなければならない。
3 委員の選考に当たっては、男女平等の立場から女性の参加に配慮すると共に、障害者、子ども、外国籍住民等、当事者参加の原則に立たなければならない。
第42条(監査)
監査委員会は公正かつ透明な行政運営を図るため、外部監査制度の積極的活用を図ると共に、第三者機関としての中立性を確保する上からも、事務局職員を専任とし、その相当数を市民公募により選任する。
第44条(財政自主権)
市は、第13条に規定する目的を達成するために、市の独自性などに配慮しつつ、主体的に安定して財源を確保するための必要な措置をおこなう。
第45条(地域自治区)
市民に身近な地域的公益事業をおこなうことを目的として、地域自治区制度を設ける。地域自治区は、当該地域の居住者により構成し、地域住民の福祉の充実・向上のために自ら事業をおこし、また行政等から事業を受諾する。市は地域自治区の健全な発展のために、必要な措置を講じなければならない。
第46条(地域協議会)
地域に暮らす市民が自ら地域の自治を担うために、地域自治区の中に地域協議会を置く。
2 地域協議会の委員は、地域住民の年齢・性別・国籍など、その配分に充分配慮して選任されなければならない。
3 地域協議会は、この条例の目的および趣旨に基づき、地域自治の確立のために市長に対して勧告または提言をおこなうことができる。
4 詳細は別途定める
第47条(自治体選挙条例の制定)
町田市は、法令の範囲内で独自に自治体選挙条例を制定することができる。
2 前項の規定に基づき、予備選挙を行なう。
3 法令によって選挙権および被選挙権が与えられない市民に対しては、自らの意思に基づく登録によって、予備選挙の選挙権および被選挙権を付与するものとする。
4 必要な手続きは別に定める。
第9章 罰則
第48条(ボランティア罰則の原則)
この条例に違反したものは、懲罰委員会が指示したボランティア活動の1つを選択し、同委員会からに委託された監視委員会により作業完了と認定された期間服務する。
懲罰委員会及び監視委員会については、別に条例で定める。
第10章 改廃手続き
第49(改廃手続き)
この条例を改廃するときは、満18歳以上の市民の賛成が、有効投票総数の過半数に達したとき、市議会の審査に基づき議長が市議会に上程し、市議会の3分の2の承認を得なければならない。
附 則
1条 条例の施行等
この条例は 年 月 日より施行する。
2条 この条例の施行に必要な規則は別に定める。