連載「安全・安心のまち」とは

安全・安心のまちづくりに向けて

                  町田市生活安全担当参事 長岡 彰

 

世界一とも称された日本の安全神話は見事に崩れ去ってしまったといっても、決して過言ではない。これまで日本の社会は「水と安全はただ」という意識から、こと防犯に関しては十分な取り組みをしてこなかった。つまりそれほど安全な国だったわけである。それが今や犯罪者の恰好な標的となり、ピッキングやサムターン回し、或いはもっと手荒な住宅侵入盗事件や、コンビニ強盗、自動車盗など悪質・凶悪な事件が全国のあちこちで発生し、そのことが新聞やテレビなどのマスメディアを通じて報じられていることは周知の事実である。

 昔のように犯罪に関することは全て警察に、という依存意識から脱却し、我が身・我が財産は個人個人が守らなければならない時代を迎えている。そのために行政は今なにをすべきか、市民にどう指導し実践させるのかといった、かつて無い新たな試練の場に立たされている。

刑法犯の認知件数

 ところで、平成15年の我が国における刑法犯の認知件数は、平成8年から7年連続で戦後最多を更新するなど急増を続けてきたが、平成15年は279万136件で、前年の14年と比較して6万3600件減少した。

 罪種別に見ると、窃盗の認知件数が前年比で14万1644件減少しており、これが全体を減少させた大きな原因になっている。さらに平成16年では256万2767件で、前年比で22万7369件の減少となっていて、率にして8.1パーセントのマイナスとなった。しかし、この256万2767件という数字は、日本の全人口の50.7人に一人が何らかの犯罪に巻き込まれていることなのである。

 一方、東京都つまり警視庁管内の犯罪発生件数は全国同様に、平成15年及び16年と2年間はそれぞれ着実に前年を下回っており、とりわけ昨年は28万3326件(前年比1万6080件の減少)で、全国同様に減少している。

 では町田市はどうかというと、平成16年の1月から12月までの犯罪発生状況は8452件で、前年比253件のマイナスとなっている。しかし、今年度に入ってからは5月末現在で、前年比で635件のマイナスとなっている。つまり大幅な減少に転じたのである。このままで推移すると犯罪件数は6000件台となり、最も犯罪の少なかった平成10年を下回ることになる。

 

施策の成果が現れた

 ではなぜこんなに犯罪が減少したのかというと、昨年4月に市の中に治安対策のセクションとして安全対策課が新設されたことにあると思われる。安全対策課の使命として、市民や行政が一体となって犯罪者を寄せ付けないまちづくりのための各種の施策を展開してきたことにある。

 大別して一つは中心市街地におけるハード施策の整備と、一般住宅地のソフト施策の充実にある。中心市街地では@民間交番「セーフティボックスサルビア」の建設A警視庁による「スーパー防犯灯」の設置、さらにB3つの商店会の「防犯カメラ」の設置である。

 民間交番に関しては、市内のサルビアロータリークラブが建設し市に寄贈したもので、8角形の瀟洒(しょうしゃ)な建物が中心商店街の真ん中に位置し、来街者や防犯の面で非常に有効で、運営は同交番の運営委員会が行っている。業務の大半は道案内的なものであるが、対応するシルバー人材センターの方たちの親切な応対ぶりは非常に評判も良く、またこの交番が出来たことによって、テキ屋の屋台や暴力団関係の違法駐車などもなくなってきた。

 これと相まってスーパー防犯灯15基、さらに市の補助金によって商店会が設置した防犯カメラ23台の設置の相乗効果によって、「西の歌舞伎町」の異名まで持つようになったあの原町田は、町田市の全町の中で一番の犯罪減少地域になった。

 一方、一般住宅地の犯罪発生件数も驚くほどの減少を見せている。いままで軒並み犯罪の件数が上昇していた市内の各町では、本年5末現在で、2桁マイナス地区は先ほど触れた原町田を筆頭に19町、1桁マイナス地区は10町にも及ぶ。逆に犯罪の増えた地域は12町である。

 この違いは何か。極めて簡単明瞭な答えが出る。それは地域の防犯隊等の力によるもので、マイナス地域はいずれも町内会・自治会の防犯隊結成地域である。言うまでもなく犯罪の増加地域は防犯隊の未結成地域なのである。

 安全対策課では町内会・自治会に対して、防犯パトロールを行う際の用品の購入費補助金制度を設け10万円を限度に用品購入の補助をしている。これまでに約70の団体が補助を受けているが、自主的なパトロール隊(市の補助金を利用しない団体)も合わせると約100団体が防犯活動をしている。つまりこうした地域が犯罪の減少地域として如実に数字となって現れてきているのである。 

 この他、自主的な活動としてワンワンパトロール隊がある。愛犬家たちの集まりで、犬の散歩の際、防犯に一役と、市のオリジナル腕章を付け、朝晩散歩の際目を光らせてもらっている。

 

市の組織あげて防犯活動 

 防犯活動は市民だけに頼っているのではなく、町田市も組織をあげて取り組んでいる。今町田市の施策の最重点課題は、安全・安心のまちづくりである。ことある度に市長からこの話は出る。

 そこで、町田市がどんなことに取り組んできたかというと、まず防犯補助金事業以外に@小さな犯罪の芽とも言われている「落書き消し用品購入費補助金制度」の創設A所有の全公用車300台に「防犯パトロール実施中」のマグネットシートの貼付B防犯パトロールカーの購入と地域巡回C職員の防犯腕章着用啓発活動D広報まちだへのピーポ君(警視庁のマスコットネーム)情報(犯罪情報)の毎月掲載E安全対策職員による「防犯出前講演」F町田警察署員と共に犯罪多発地域の巡回G各地区の防犯隊との合同パトロールの実施H毎月5回中心商店街のパトロール活動などが町田市をあげて取り組んでいる事業である。またこの他、郵便局を始め、民間企業による防犯活動も積極的に行われ、文字通り官民一体となった防犯活動が着々と進められている。こうした活動が功を奏してか、前述のとおり町田の犯罪件数は確実に減少してきている。さらに活動の輪が広がってやがて犯罪ゼロの街になればと、夢物語かもしれないが、いつも抱いていたい夢である。

 

「安全・安心」のスローガンだけで、地方選挙において高得票が獲得できる世の中、どこかおかしくないだろうか。まして、今の社会が本当に安全・安心なのかといえば、食を巡る問題や化学物質の氾濫や環境問題など、枚挙に暇がないほど市民の生活は脅かされています。その中で犯罪や治安といった面だけが強調され、それさえ解決すればハッピーとでも言うかのような風潮はいかがなものでしょうか。防犯対策の名の下に監視カメラが次々に設置されることは、一般市民に対する日常的監視の強化につながるとの指摘もされています。

私たちは「安心・安全な街」とは、単に暴力や犯罪のない街ではなく、正義と信頼が優先される社会であると同時に、「食」や「環境」を含めた広義の安全性・信頼性が確保された上で、選択がおこなえる社会であると考えています。どうしたら、本当の意味で安心できる暮らしができるのか、さまざまな角度から検証したく、先ずは市役所の担当課(市民部安全対策課)に、町田の置かれている現状や対策について、資料を含めた原稿依頼をしました。

今後、基地や情報セキュリティ、災害、DV、食、詐欺、母子保健・伝染病、虐待・孤独死、育児ノイローゼ、米軍機の爆音測定や大気・水質汚染、交通災害・違法駐車等々について順次取り上げ、それぞれの安全について原稿依頼をしていく予定です。読者の皆さんからの記事に対するご意見もお待ちしています。(編集部)