残せるか・町田の農と緑〜三多摩自治体学校での取り組み
                                       
                                       桜井 朋広

 多摩地域での市民自治について学習活動などを続けてきた「三多摩自治体学校inまちだ※」では、テーマの一つとして町田の農業、そしてそれと一体となった町田の緑を守る為に市民がどう関われるか等をずっと議論してきた。そのプレ企画として昨秋バスツアー「まちだの農と緑を訪ねて」で町田の農家の実情を見学。それを踏まえ、今年(H17)2月のシンポジウムで議論を深めた。

「農と緑を訪ねて」バスツアー
 秋晴れの11月7日、42人の参加者によるバスツアーを実施。小山田桜台団地裏手の丘の上からは、小山田に連なる丘が一望できた。ここから見ると、この地域はまだ緑豊かな丘陵に見えた。
 次に都立公園として残された「小山田緑地」へ。平成2年に東京都がゴルフ場の一部等を指定し、公園として整備。ただし、予定地の大部分は、林野や湿地をそのまま生かして自然観察や遊びの場になっている。現在サッカー場となっている所は、戦国の世では「馬場窪」として馬の訓練に使われたという。因みに、公園指定された約150ha中、都で取得できたのは40ha足らず(H16現在)。付近には宅地化の波や、モノレールが公園内を通る計画もあり、決して未来は安定しているとは言えない。
 次に稲刈り後の「結道」田圃を通り、米作り80年の大谷寿雄さん宅へ。大谷さんは田圃で留守だったが、奥さんがお相手をして下さった。用意して頂いた地産の新米はあっと言う間に売り切れ。スーパーに比べ決して安くないのだが、消費者の地元志向ははっきり有るのだ、と実感させられた。
 途中に耕作放棄された水田跡をバスから見学。既に十年近く経って田圃の面影は無く、後から生えた桑の木や葦等の生い茂る湿原と化していた。人の立ち入りにくい場所となるのも自然の一面だが、人として関わることの意味を考えさせられた。
 次に小山田のバス終点近くに市の農業委員である田中仁司さん(シンポジウムでも講演) の畑を訪問。NPO法人化した市民ボランティアによる援農の実際を見学。決して楽な仕事では無いはずなのに、皆さん満足げに見える訳は「無理せずできる範囲で」との方針に依る所もあるようだ。取れたての野菜たっぷりの豚汁のご馳走も有り難かった。
 その後相原の「萩原牧場」へ。イメージしていた牧草の生えた野原と異なり、良く管理された牛舎に20頭余の雌牛が繋がれていた。相原の6名の酪農家で、地元で安全で美味しい牛乳を作ろうと思い立ち、農事組合法人「ミルク工房ピュア」を平成10年設立。人の手で、大量の薬を使わぬように健康管理するには、細かい配慮が欠かせない。そうして絞った乳は、地産地消を生かして直接地元に「低温殺菌乳」として出荷される。

 最後に、その牛乳を使ってアイスクリーム等を作り評判の「アイス工房ラッテ」でドリンクヨーグルトを頂く。ここでは牛が病気になっても、抗生物質は乳中に残留の恐れがあり使えないため手間も大変。しかし市販の牛乳は売値100g50円の世界で、安い外国産と北海道産との戦いだという。畜産の実情を知ると「卵や鶏もどうなっているのか知れず買う気になれない」との事。「腐る乳を飲もう」という言葉に考えさせられた。


 

          パネルディスカッション

「農と緑が生きるまち」
 212日の町田市民フォーラムでのシンポジウムには、「農業者」「消費者」「政策」の3つの立場からの問題提起がなされた。

●「農業者の立場」から田中仁司氏が発表
 町田市内の農家が減少してゆく中、何とか農業で食べて行ける様に考えた。平成13年、経営改善を願い認定農業者を申請。家族で経営協定を結んで法人化した。1日8時間労働で300日、それぞれの給与、家事も含めた農作業などを取り決めて農業所得1000万円/年を実現した。
 しかし家族だけで規模を維持するには人手不足。そのころ『生協で市民の農業体験希望』との話を聞き、援農ボランティア「たがやす」の設立に関わった。ここでは受入農家、市民、生協が共に理事となり、NPOとして薄謝で市民が農家を助けつつ農業理解に繋げている。こうした援助もあって、現在3.5haの経営が可能となったが、消費者ニーズに合わせた多品目栽培のため、種蒔きと収穫が重なるとまだ人手不足になる等問題も残る。今後は減農薬栽培にもつとめたい。

「消費者の立場」から、宇都宮幸子氏

生協の学習活動で遺伝子組み替え作物や食品添加物について学び、安全で美味しい物をどうすれば作れるか考えている。小山田に越してきた昭和20年代は、まだ蓬摘みもできた。4人目の子供が小学生になる頃には、野原も農業実習もなかった。子供の育成には農業体験や自然との触れ合いが必要。「自治体学校」バスツアーでは、田中さんの畑で農業の実態を伺い感銘を受けた。地域を知り、自然と付き合う為にも農業体験が必要だと実感した。  
 
●「市の政策について」斎藤勇氏から
 市内の農業の現況は、耕地面積626ha(8.7%)、農家戸数1159(0.7%)、農産総額166700万円。林野の面積は1080ha(15.1%)。農業は食料供給の他、災害防止、憩いや教育、気温の緩和と温暖化の防止の場を与える。かつて町田は農業中心であったが、農業衰退につれて残る山林も荒廃。小山田・小野路では、公団が区画整理による計400haの市街地開発を計画して予定地の3割を買収したが、結局撤退。残された緑に市は「緑と農業振興を中心とするまち作り」を計画している。実現には国や都と市の協力による地域指定や財政支出が必要。北部丘陵に巨大な光を当てよう。

発表後、参加者からQ&A形式で質問と意見が寄せられた。
          農作物は地産・地消が理想だが、安い輸入野菜が選ばれているのが現実。価格保証制度など対策は?

          市は、かつては緑を残す方針から、区画整理による開発に方向転換した経緯あり。又「農と緑」に転換したと言うが、委員の中に農業の専門家の参加は?農振策のみでは納得できない地主の農家も居る筈なので、一部開発区域も必要ではないか。

☆ 都市計画道路は昭和30年代の物で、今では無理な計画もある。行政で修正するべき。また市内の大規模農家で農業継続希望は100件中1件のみ。農地保存には学校農園にするなど対策が必要。

☆ 市は市民ニーズに基づいた施策を。例えば練馬では、学校農園への農協による指導(有償)、農業公園、地元ブランド作物作りなど取組あり。

☆ 何より「地域を守る」目的意識が大切。

まとめ

 町田の農業については予想以上に厳しい状況にあることは、バスツアーで見られた多くの休耕地等からも解った。その一方で「顔の見える農業」等安心を求める消費者の需要や、景気・人口動向による宅地開発の行き詰まり、環境対策への国際社会の要請など、農業や緑を生かす政策には様々な追風も感じられる。
 今のところ、町田市の「緑と農業振興」対策委員会には市民の公募枠などは無い。今後意見や計画提示など、労働以外での市民としての関わりをどう作って行くか。それを市がどう受け入れて行くかが重要となってくるのではないだろうか。

※「三多摩自治学校inまちだ

この母体は自治体問題研究所。1963年に産声をあげ、現在全国の都道府県や地域に30の地域研究所があり、約1万人の会員がいます。月刊『住民と自治』の編集や、04年に46回を迎えた「自治体学校」の開催、民主的な地方自治づくりに資する研究、会員の自治研活動の支援などに取り組んでいます。多摩研の会員であれば、自治体問題研究所の会員ともなります。(以上、自治体問題研究所HPから。)