「自治基本条例」先行自治体では

編集部

20004月の改正地方自治法の施行により、自治体の自己責任が問われると共に、地域の特性を活かした自治体運営が求められるようになりました。そうした中、これからの住民自治の理念や基本原則、その理念・原則を確立するための制度を定めた「自治基本条例」を制定する動きが活発になってきました。20014月に施行された北海道ニセコ町から、今年20054月に施行される青森県八戸市、東京都文京区および神奈川県大和市の条例まで、その違いや特徴をいくつかのカテゴリーに分けて概観してみたいと思います。

条例の名称

条例名は、「自治基本条例」、「まちづくり基本条例」、「むらづくり基本条例」、「行政基本条例」「市民参加のまちづくり基本条例」と様々ですが、東京都文京区の「文の京自治基本条例」ように、冠をつけた自治基本条例は他にはありません。

提案・検討・作成

この条例は、市民自治・住民自治を掲げたものですから、その策定過程がどうであったかは、重要な要素です。委員構成は行政と学識経験者、市民(公募)というパターンがほとんどですが、議員や団体代表を加えた構成も見受けられます。こうした中、ニセコ町のように、行政だけで策定した自治体は北海道だけです。また、議員提案で制定された全国初の自治基本条例は新潟県吉川町ですが、神奈川県伊東市や愛川町でも、結果は否決されたものの議員提案がされました。

策定過程で大きな特色を持っているのは、神奈川県大和市と多摩市でしょう。両市とも、公募市民による徹底した議論を行って試案を市に提出しましたが、案をつくる段階から、フォーラムの開催や、様々な団体や学校などを巡って議論を重ねるなど、PI(パブリック・インボルブメント)という手法を取り入れたものでした。いかに多くの市民の声を反映させていくかに力を入れたこの取り組みは、まさに「市民の自治」の制度をつくるのにふさわしいものだといえます。さらに、大和市の場合、「つくる会」の代表を現役サラリーマンである市民が務めたことは、学識経験者が取り仕切るという慣例を覆すものとして注目されました。

対象となる範囲

ほとんどが「行政・市民・議会」ですが、「行政・市民」だけなのは、愛知県東海市、北海道、兵庫県伊丹市と宝塚市、青森県倉石村、東京都清瀬市です。なお、市民の範囲に事業者を含めたものと、別にしているものとがあります。

最高法規性の担保

これは、市民自治・住民自治に関する基本原則と共に、「自治基本条例」足らしめるものです。東京都清瀬市と神奈川県愛川町にその規定がなく、自治基本条例に当たらないという見方があります。また、文京区では「趣旨を尊重」に、福島県会津坂下町は「遵守」という表現に止まっています。

主体の権利・役割・責務規定

ここは、範囲とも密接に関わりますが、市民、議会、行政をベースに、首長や執行機関、職員の規定を盛り込んだ条文もあります。市民とは別に事業者の規定を設けているものもあります。三重県伊賀市では、市の責務の中で「公益通報」を規定しています。

市民の権利・責務の規定も様々で、「まちづくりに参加する権利」だけの簡素なものから、学ぶ権利や知る権利、政策の企画立案と決定及び評価に関し参画する権利、地方自治法上の権利(選挙権、被選挙権、直接請求権、条例制定・改廃権、監査請求権、解職・解散権など)を網羅させたものまであります。ニセコ町の「町民によるまちづくりの活動は、自主性及び自立性が尊重され、町の不当な関与を受けない。」「まちづくりの活動への参加又は不参加を理由として差別的な扱いを受けない。」「満20歳未満の青少年及び子どもは、それぞれの年齢にふさわしいまちづくりに参加する権利を有する。」という規定は、以降の各自治体での条文にも影響を与えています。議会の規定も単に役割を規定したものから、意思決定機関としての役割規定を含め、情報公開・提供や、議員の責務、議会の権限を規定したものまでかなり幅がありますから、範囲に入っていればいいというものではなく、精査が必要です。

●自治体運営の基本原則

実質的な効果は議論があるところですが、「就任時の宣誓」を規定しているのは、ニセコ町、栃木県大平町だけです。その範囲については、首長、助役、収入役及び教育長としています。

 「多選の抑制」という項目では、実際の条文に盛り込まれたケースはありません。未だ策定中ですが三鷹市、香川県丸亀市、大阪府吹田市で、そうした議論も行われたようです。

 総合計画や財政、行政評価・政策評価や説明責任・応答責任、個人情報保護を規定したところは多いのですが、「救済機関」の規定を置いているのは、ニセコ町、埼玉県久喜市、三重県伊賀市、栃木県大平町に止まっています。ただ、行政職員の中には、自治基本条例には救済機関はなじまないという意見もあるようです。また、「外部監査機関」の規定は、北海道と大阪府岸和田市、三重県伊賀市のみとなっています。

 「推進機関」の規定があるのは、全27自治体中8の自治体のみです。機関名や委員構成まで規定しているのは、その内7で、「市民自治推進委員会」「自治基本条例委員会」「まちづくり推進委員会」など名称は様々ですが、首長からの諮問事項だけでなく重要事項についても提言できるとしています。

住民自治のしくみ

情報公開、計画過程への参画、委員公募、パブリックコメント制度、市民活動の育成支援については、ほとんどの自治体で規定されていますが、住民投票制度については、規定はされているものの、請求権や投票資格などについては個別条例に委ねているケースが多いようです。神奈川県大和市の場合は、16歳以上の住民による常設型の規定となっているのが特色です。

その他の規定

大和市では、市民生活の重要な懸案である「厚木基地」の章を設け、素案では“基地の返還が実現するよう努める”という規定を盛り込みましたが、議会で“移転〜”という修正案が、多数決によって可決となり、大きな話題となりました。

 三重県伊賀市では、住民自治協議会、住民自治地区連合会の規定を置いています。これは、改正地方自治法第202条の4での「地域自治区」を受けてのものと思われますが、地域の自治を詳細に規定した条文は、おそらく全国初のものです。

 

●自治基本条例のこれから

それぞれの条文はシンプルなものから三重県伊賀市のように全58条にも及ぶものまで多彩ですが、現在27の自治体で施行され、更に33の自治体で策定中です。

その効果の程はこれから徐々に現れてくるのだと思いますが、少なくとも、市民参画の制度を条例化したことで、これまでのような担当者の裁量に委ねられていた部分が、いわばガイドラインとして行政の基準となるわけです。市民も、自治の主体者としての自覚と自律がさらに求められていくことになります。

また、各例規(条例・規則)の最上位に位置する規範として、自己決定・自己責任が求められている行政運営の指針として重要な役割を持つものだといえます。議会にとっても、市民からの信託に応え、さらに議会改革を進めるための土台となるものです。市民との協働が実現していけることを願わずにはいられません。

ただ、市民参画の具体的メニューや手法について、さらに詳細に規定する市民参加条例の制定を視野に入れておく必要があります。自治基本条例だけ制定すればそれで万全とは言えないからです。

町田市では

町田市は、1969年の地方自治法の改正で義務づけられた「基本構想」の策定を、当時の大下市長が意図的に見送り、19939月、議決を受け全国の市の中で最も遅く「基本構想」を制定した自治体です。それに習ったわけでもないでしょうが、ようやく今年3月議会に「町田市自治基本条例検討委員会条例」が上程され、原案可決となりました。その詳細は今号の「焼きうどんの会」の報告に譲りますが、他市の条文の引き写しではなく、他市での先進的な「手法」を参考にして、これからの「新しい公共」の確立のための取り組みを行って欲しいものです。

※注
 施行された27自治体中、岡山県大佐町は、同県新見市に、青森県倉石村は、同県五戸町に編入合併し条例は失効した。新見市では、新たに「まちづくり基本条例」を施行、倉石村の条例は2年間旧区域に適用され、五戸町で新たに条例化される予定です。