情報センター通信
第25号 2004.7発行


2004年度総会特別講演「これからのNPO・市民活動を考える」

編集部(要約)

5月16日に、当情報センター総会の特別講演として、表題の講演会が開催されました。講師はNPO法人東京ランポ理事の伊藤久雄さんです。当日の講演の概要をご紹介します。

NPO法の成立から5年が経過しましたが、さまざまな課題があります。この法律はもともとは「市民活動促進法案」だったのですが、政府自民党は「市民」という表現を認めませんでした。NPO法人はこの5年間で飛躍的に増大し、今年3月末現在で16,000を超える団体が活動し、内容も多様化しています。活動規模は100万円未満から一億円を超える事業を行っているNPOまで様々で、500万円未満の団体が全体の50%で、一億円以上の規模の団体も2.2%あります。この内、大規模なNPOは介護保険事業を行っているのが大部分だと思います。

また、「官製NPO」の存在が気になります。これまで役所が民間に委託をしていた事業の多くは外郭団体が受託していますが、外郭団体に対しては天下り批判があります。退官した役人がNPOを作って事業を受託することは、このような批判をかわすという意味合いもあって、かなり数が増えており、天下りの再生産の危険があります。

NPO・市民活動の活動領域

NPOや市民団体の活動内容は様々な領域がありますが、いま「官と民」との新たな関係が模索されています。「協働」や「パートナーシップ」という言葉は前から使われてきましたが、いまは「新しい公共」という概念が使われています。

大和市(神奈川県)の「新しい公共を創造する市民活動推進条例」で、この言葉は一気に広がった観がありますが、これまで行政が独占してきた「公」を開いて公共的な仕事を市民やNPOが担っていく、官と民との新たな関係というものが広がってきています。

また、市民・NPOからの政策提案の制度がいろいろ試みられてきています。始まりは世田谷区や神戸市の「まちづくり協議会」による提案制度で、1980年に地区計画という制度が新しくできたときに、行政が課題の多い地域に働きかけて、市民から提案をしてもらおうということで生まれてきました。

「まちづくり協議会」は、市民の意見をまとめて行政に提案し、行政が地区計画に反映させていくというしくみですが、いまは、一人の市民でも分野にこだわらずに政策提案を行うことができる制度が生まれてきています。そうした中で、地域との関係でも、「新しい公共」を担う主体としてNPOは注目されてきています。

また、市民提案をどう行政の計画に反映させていくのかという課題について、大和市(神奈川県)では第三者機関を置いて市民提案を検討するしくみを作り、和光市(埼玉県)では行政内部に検討機関を置いて市民提案の受け皿としています。行政の意思決定過程をいかに市民に開いていくか、その開き方によっては受け皿のあり方も異なっていくでしょう。

さらに、予算編成過程をどう改革するのかという点も今後の大きな課題です。逗子市(神奈川県)では、昨年から市長が市民から予算についてのヒアリングをおこなっていますし、枠配分方式といってあらかじめ一定の予算枠を各部署に配分し、余剰金の次年度繰越を認めるなど、予算編成を効率的な予算執行につなげようとする自治体も増えてきています。しかし、こうした例はまだまだ少ないのが現状です。

NPO活動と地域との関係

これまで行政のさまざまな施策の中で、環境政策を中心にPlanDoCheckActionという手法がとられてきていますが、それぞれの段階にどのように市民が参画していくのかが問われています。

これまでにも計画段階での参画はおこなわれてきていて、三鷹市の総合計画の素案作りを行った「市民プラン21会議」とのパートナーシップ協定は有名ですが、こうした取り組みは、他に八王子市などでも行われました。

次に評価段階への参画という点では、「第三者評価制度」の仕組みを作りながら、いま実践されているのが「福祉サービス」評価です。市民が利用する際に参考となるように、サービス内容をどう評価し、公表していくのか、NPO、市民も参画するような評価のあり方が注目されています。

そして今後は、計画の執行(実施)段階への参画が求められています。日本では行政が税金を使って民間に業務を委託するという形をとっていますが、アメリカでは都市公園の管理など、NPOが独自の資金で担うことが一般的になっています。本来、このようにNPOが行政に依存しないで、さまざまな領域で独自に活動するのが理想です。しかし、日本の場合そうなっていないので、さまざまな事業の実施過程でどのように参画していくかが課題となります。今後は、歩道の一部を市民などが里親として借り受け、花壇として自主管理したり、公園を借り受けて、まるごと管理したりする「アダプト制度(里親制度)」などを活用して、実施過程への参画を進めていくことも必要です。

NPOと行政との関係

 行政のNPO支援のひとつの背景として、バブル後の自治体財政の危機があります。以前のような予算措置が困難な中で、安上がりな委託先としてNPOを使うという、安易な思惑が生まれてきたといえます。

こうした中、もっぱら行政からの委託専門というNPOがあります。特にまちづくり関連では、コンサルタント会社が別働隊としてNPOを作り、行政からの委託の受け皿を確保しているところもあります。自前の資金調達が難しいという点が、現在のNPOの課題ですが、行政からの委託に依存してしまう事業のあり方は問題です。

 一方、「指定管理者制度」ができたことによって、これまでは丸ごとの委託(管理委託といいます)の場合には、公共的団体や財政支出団体しか受託できませんでしたが、NPOや企業も受託(指定)団体になることができることになりました。したがって、地域図書館や児童館、学童クラブなど地域密着型の公共施設の管理について、NPOの参入が増えつつあります。行政側の「安くできる」という考え方は問題ですが、実際には資金調達のために安くても参入するというNPO側の事情もあります。その部分は今後の課題ですが、行政と市民との共有財産である公共施設の管理に、NPOがどのように関わっていくのか、重要な課題となっています。
 これまでの「まちづくり協議会」は、行政が課題のあるところだけにつくっていましたので、宝塚市の取り組みは全国的に注目されています。長野県穂高町も条例をつくり同様の取り組みを行っています。また、市町村合併が行われたところでは、合併前の市町の自治権をどうするかという問題もあります。東京では西東京市以降、合併の動きはありませんが、むしろ今後はNPOが地域自治の一翼を担うべきではないかと考えています。

また、これまでは「地域型」のまちづくり協議会が主でしたが、最近は「テーマ型」という新しい発想が生まれてきています。逗子市や狛江市では、まちづくり条例の中で、「テーマ型」のまちづくり協議会を作りました。ひとつの地域の中で全ての課題を日常的に考えようとする市民は生まれにくいものですが、環境やごみ、子育て支援などテーマ型であれば、人々の関心が集まりやすいといえます。

NPOの理念は自主的な活動だということにあります。行政との関係や資金面で自立した活動が重要になりますが、そのひとつの実践例として、台東区谷中地域の例があります。谷中の「まちづくり協議会」は、町内会・自治会やお寺など様々な団体を網羅していて、そこの事務局と部会の企画・運営を担っているのが「ひとまちCDC」というNPOです。CDCは、その前進である「谷中学校」時代から、活動を通して地域の中で信頼を勝ち得てきたという経緯がありますが、まちづくり協議会の事務局をNPOが担うということは、注目に値します。

今後のNPO・市民活動の課題は、どうやって資金を集めるかということにあります。アメリカでは、職員を千人規模で抱えるNPOがありますが、会費収入だけで活動を行っていくのは困難で、いちばんの収入は寄付収入です。アメリカではNPOへの寄付が税金控除を受けられるために、収入の約半分を寄付金で賄っています。行政に税金として収めても一般財源として何に使われるのか解りませんが、NPOへの寄付という形であれば、どういう活動を行い、どんなところに使われているかが明らかになります。日本では、まだ寄付税制はきわめて不充分ですので、今後、税制改正を働きかけて、近い将来NPOに多くの寄付が集まるようにしなければと考えています。

これからは、こうしたしくみによってNPOの自主自立を図り、これまで行政が税金を使って行う事業を、NPOが独自に担っていくことで、新しい行政とNPOとの関係をつくっていかなければなら東京ランポも、そのための活動をこれからも続けていきたいと考えています。

(文責:編集部 当日の録音テープより)

※東京ランポとは、Local(L)action(A)non-profit(NP)organization(O)の頭文字を取った、市民主体のまちづくり支援を理念とする非営利の活動法人です。行政と現場で活動している市民・NPOとの間に立って、行政には政策提案・制度改正、市民には活動支援をおこなっています。一昨年に開催した「あたらしい公共のかたちをさぐる市民シンポジウム」のアドバイザーを務めていただいた新井美沙子さんも、東京ランポのメンバーです。