CO2排出量の削減
エネルギー消費の多い製品の相対価格上昇
不要不急のエネルギー消費の節約
低炭素集約型の
産業構造へ変化
省エネ技術の
推進・進歩
需要の
シフト
石弘光『環境税とは何か』P.117参照
省エネ設備投資の増加
環境保全
意識の向上
炭素含有のエネルギー価格上昇
炭素税

情報センター通信第13号
2001年5月31日発行


「環境税導入へ向けて」〜政策的視点から〜
環境サークルMt.EGO(中央大学)


私たちは中央大学総合政策学部の学生を中心とした、環境問題に取り組むMt. EGO[マウントエゴ]というサークルです。中央大学内における環境問題に対して何らかの解決策を実行したり、学生を対象としたシンポジウムを企画したりしています。
昨年12月、私たちはその活動の一環として「地球温暖化政策における環境税(炭素税)のあり方」と題するシンポジウムを開催しました。このシンポジウムでの内容とそれを踏まえた上で政策がどうあるべきかについて私たちが感じたことを述べていきたいと思います。
■ 地球温暖化問題とは
地球温暖化問題とは、二酸化炭素などの温室効果ガスが増加することにより、地球全体の気温が急激に上昇する現象のことをいう。IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)の予測によると、2100年までに気温が1.5度から6度上昇するといわれている。地球温暖化が進むと、海面水位上昇による土地の水没、豪雨や干ばつなどの異常気象の増加、生態系への影響や砂漠化の進行、農業や水資源への影響、マラリアなどの感染症の増加など、私たちの生活への直接的な影響が予想されている。
■ なぜ環境税(炭素税)が必要なのか?
地球温暖化問題の深刻化を背景に、1997年、第三回地球温暖化防止会議が京都で開かれた。この会議で、日本は2008年から2012年の間に、二酸化炭素の排出量を90年に比べ6%削減しなくてはならないことが決まった。そして、削減目標を達成する手法として、排出権取引、省エネなどによる新技術開発、森林による二酸化炭素吸収機能の3つを考えていた。それぞれの内訳は、排出権取引等で1.8%、新技術開発で2%、森林吸収能力で3.7%である。
しかし、昨年のハーグでの第6回地球温暖化防止会議で、森林の吸収機能は欧州の強い反対のため承認されなかった。なぜなら、森林吸収機能を認めてしまえば、森林の吸収だけで削減目標を達成してしまう国が出てしまい、二酸化炭素排出を積極的に削減していこうとする欧州などの国との公平性を保つことができないからだ。そのため、日本は京都会議で決まった国際公約を果たすために、二酸化炭素を削減する手段を新たに考えなくてはならない。この手段として「環境税」の存在が必然的に浮かび上がる。
 環境税とは、環境に負荷をかける製品や行為に課税して、その価格を上げることによって環境負荷を減らすことを目的とした税である。様々な環境税が存在するが、地球温暖化対策として有効であるのが二酸化炭素排出に課せられる炭素税である。炭素税の導入による二酸化炭素排出削減メカニズムに関しては[資料1]を参照されたい。
■ 炭素税の有効性
環境政策には政府による直接規制と経済的手法(@税・課徴金、A補助金、B排出権取引、Cデポジット制度)がある[資料2]。このうち炭素税は@の税・課徴金に該当し、税金は他の政策に比べ、地球温暖化問題の性質上望ましいものであると思われる。したがって、それぞれの政策がメリット・デメリットを持っているが、税金に焦点を当ててその有効性を見ていきたい。
まず、二酸化炭素の排出主体は産業部門、民生部門、運輸部門がその大半を占めている。産業部門は、鉄鋼業や化学工業、製紙・パルプ工業などの工場や事業所のことで、次に、民生部門はオフィスなどの事業所や小売業、ホテルなどの業務にかかわるものと、冷暖房による電力消費や、自動車など家庭に関わるものである。最後に、運輸部門は、乗用車やバス、トラック、船舶、航空機などの交通機関を指す。
次に部門別の二酸化炭素排出量を見ると、産業部門では一定または減少傾向にあるが、民生・運輸部門の二酸化炭素排出量は増加していることがわかる[資料3]。産業部門の排出量が一定傾向にある理由は企業の自主的な取り組みによるものであると言われている。かつて、日本で公害が社会問題化して以来、政府が企業に対して直接規制をして環境対策を進めてきた背景から、企業による環境への取り組みは世界的にも優れた成果をもたらしてきた。現在でも環境対策によって社会的信頼を得ることが、企業の存続の条件になっていることから、日本企業の自主的な取り組みは進んでいる。
一方、民生・運輸部門では輸送量の増加や、家電・OA機器の大量消費を反映して、二酸化炭素の排出量は増加している。産業部門は自主的な取り組みによって排出量を減らしてきたが、自動車の使用や電力消費などが大部分を占める民生・運輸部門では、二酸化炭素を削減するための具体的な手段をとっていないのが現実である。つまり、このままでは温暖化対策は不十分であり、目標の6%削減が大変困難となる。
しかし、この行き詰まった地球温暖化対策に対し、炭素税は大きな可能性をもっている。なぜなら、炭素税が導入されることにより、製品やエネルギー価格が上昇し、民生・運輸部門を含む全ての二酸化炭素の排出主体がそのコストを負担することになるからだ。つまり、地球温暖化への有効な対策となりえるのである。
■ 政策実現へ向けて
では、なぜ日本では環境税が実際の政策として導入されないのであろうか。この点を踏まえて、最後に、「政策的視点」について述べてみたい。
温暖化対策として環境税の導入は理論的に必要であると証明されても、これは「地球温暖化が進むことは社会にとって望ましくない」という一つの価値判断から言えることだ。政策的視点から言えば、政策が実現されるには、様々な利害関係者を考慮し、様々な価値判断の下、様々な角度から分析した知見を総合化し全体像を把握して解決策を見出すプロセスが重要となる。しかしながら、現実には異なる価値観の下に、環境省や環境NGOなどの環境保全派と、その他の省庁や企業、政治家などの経済優先派とが対立しているケースが見られ、現実には政治力をもった後者にとって望ましい政策が優先される場合が多い。アメリカが京都議定書から離脱した理由にも同様の構図が見て取れる。このような二元的な対立状況を打破し、社会にとって本当に望ましい政策を決定し実行していくためには、政策的視点を持つことが大変有効である。
しかしながら、そのような視点に目を向けすぎると、かえって問題が悪化する可能性もある。それは、政策的な視点に立ち、様々な価値判断基準を考慮すればするほど、政策決定に時間がかかり、環境政策の実行に遅れが生じ、結果的に切迫する問題に対し早急な対策を打つことが困難になってしまう恐れがあるからだ。ただし、政策的な視点を持たなければ、「環境問題こそ最優先すべきだ」といった、独善的な政策に陥る危険性がある。したがって、「政策的視点」を持ちつつも、一定の政治的リーダーシップの下で、状況に応じた望ましい政策手段を迅速に行うことが必要であると感じた。
最後に、これまで政策的視点を絡めながら、環境税導入の必要性を述べてきたが、当然デメリットも指摘されている[資料4]。その最たるものが経済成長への悪影響である。しかしながら、北欧を中心に多くのEU諸国は、税収を法人税等の減税に充てたり、エネルギー集約型産業への税の軽減措置をとるなどして炭素税を導入している。これまでの、経済発展を至上とするパラダムを、「持続可能な発展」へシフトさせようとする強い動機がそこにはうかがえる。切迫する温暖化問題に対処するためにも、日本での炭素税の早期導入を期待したい。
             ★中央大学環境サークルMt.EGOに関するお問い合わせ
  ホームページ:http://www.fps.chuo-u.ac.jp/~w9106019/egoindex1.htm
E-mail:w9101024@fps.chuo-u.ac.jp


(図1)炭素税導入によるCO2排出削減メカニズム
  

























(図2)環境政策の種類
1.直接規制
 政府が基準を作ったり、許認可などで法的抑制をすることで、直接汚染源を一つ一つ規制する方法。汚染が公害のように地域的あるいは一時的であれば、環境そのものの汚染吸収容量を考慮に入れ、規制で十分に対応できる。
2.経済的手段
@ 税・課徴金
汚染主体に対して、排出量に応じて税金や課徴金を払わせることにより、排出削減へのインセンティブを与える。
A 補助金
 国や地方公共団体が、汚染者に対し金銭的な援助を行って、汚染を防ぐことを目的とする。しかし、PPP(汚染者負担原則)に反する、特定産業の保護につながる、補助金増額を狙って意図的に排出量を増やす可能性がある、などの多くの問題点がある。
B 排出権取引
当事者間で排出権を取引させ、市場メカニズムを通して費用低減を図りつつ、所定の排出量を削減する。
C デポジット制
製品本来の価格にデポジット(預り金)を上乗せして販売し、不要になった使用後の製品が所定の場所に戻された際、あらかじめ支払われたデポジットが返却される仕組み。しかし、システム作りに新しい費用がかかると共に、回収場所の設置が困難である、というデメリットがある。



(図3)部門別の二酸化炭素排出量の推移

産業部門 民生部門 運輸部門 全体
1990年 133.7 71.7 58.3 307
1996年 135.3 82.2 69.5 337

(炭素換算100万トン)


(図4)環境税(炭素税)の問題点
@ 逆進性の問題
低所得者を考慮した場合、生活上ある程度のエネルギ−消費はやむを得ず、またもともと日本では公共料金が高いこともあり、低所得者ほど家計に占めるエネルギー消費の割合が高所得者と比べて大きくなる。つまり、所得の高い人ほど負担が大きくなる累進性と異なり、低所得者ほど負担が大きくなる逆進性の問題が生じる可能性がある。
A 経済への影響
炭素税の導入によって、二酸化炭素の削減が達成できる一方、税による生産コストの上昇が生産量の減少につながり、国際競争力の低下など、経済成長に悪影響を与えることになる可能性がある。
B 国際関係への影響
炭素税の導入によって、化石燃料の需要が抑制されることにより、石油産出国の反発をかい、貿易面での不平等性が生じる可能性がある。さらに、導入国が増え化石燃料の需要が減少すればするほど化石燃料の価格は下がる。そのため,非導入国に有利となり、その反動で化石燃料の需要が増加するという可能性もある。
C リーケージ問題
炭素税導入による生産コスト増大などの弊害から逃れるため、企業が規制のない非導入国へ流出(リーク)する可能性がある。そうなった場合、国内産業が空洞化して、経済へ悪影響を与えてしまう。