センター通信第19号(2002.11.30発行)


■市民が自ら切りひらく、自治の新時代へ。
〜「あたらしい公共のかたち」をさぐる市民シンポジウム・報告〜


武田 悠


 今年(2002年)8月24日・土曜日の夜、「あたらしい公共のかたちをさぐる市民シンポジウム」と題した催しが、町田市中心部に位置するサウスフロントタワー内「町田市民フォーラム」のホールで開催されました。主催したのは、有志の市内在住の市民、市職員、市内で活動するNPO関係者などを中心とする同シンポジウム実行委員会(卯月慎一・実行委員長)です。私もその中の一人であり、シンポジウムの企画・立案から実施まで一貫して携わるという貴重な経験をさせていただきました。おそらく、このようなテーマでシンポジウムが開かれたのは、町田市内では初めてのことだと思われます。とはいえ、そもそも「あたらしい公共のかたち」と聞いても、何のことを意味するのかわからないと首をかしげる方も多いでしょう。そこで、本稿ではこのことをキーワードに、当日のシンポジウムのことについて若干の報告をしたいと思います。

○「あたらしい公共」とは?
 シンポジウム当日に用意された資料(レジュメ)の冒頭には主催者側のあいさつがあり、そこに次のようなくだりがあります。少々長くなりますが、「あたらしい公共」という言葉を理解していただくためにたいへん参考になると思われるので、原文のままご紹介したいと思います。

 地方自治法の改正(2000年4月)を転機として、地方自治をめぐる状況は大きく様変わりしようとしています。これまでの国と都道府県及び都道府県と市区町村という上下関係が廃止され、基礎的自治体である市区町村の権限が広がった一方で、財政的にはますます厳しい状況に置かれているからです。
 そして、これまでのように市民生活にかかわる全ての公共サービスを行政だけで担っていくことは、財政面でも難しくなってきているだけでなく、市民ニーズの多様化に画一的な行政サービスだけでは対応ができなくなってきています。
 こうした現状の中、これまで行政が占有してきた「公共」を、市民、市民団体・NPO、事業者などが行政と共に担っていこうとする「あたらしい公共」を模索する動きが全国の自治体で始まっています。(中略)
 分権時代においては、上下関係ではない行政と市民・事業者の協働をどう創り上げていくのかが問われていくことになります。そのために、生活者である市民やNPO、事業者が、共に「公共の課題」を問い直し、共有する中で解決策を見出していく「あたらしい公共」のかたちを探っていくことが求められています。それはまさに、自分たちの未来を他人まかせではなく、自分達で選択していくということにほかなりません。

 以上のような主催者側の言葉には、「あたらしい自治」をめぐって大きな期待や可能性を見るだけではなく、主権者である市民自らがすすんで公共にかかわるさまざまな役割を発掘し、責任を果たしていくことが不可欠だという「覚悟」も込められています。

○シンポジウムのパネラー・アドバイザーについて
 今回のシンポジウムでは、異なる立場から問題提起をしていただくために3人のパネラーの方と総合的な視点から助言をしていただくアドバイザーの方をお招きし、それに主催者側代表がコーディネーターとして加わるという形をとりました。
パネラーの一人目は、行政側として現・町田市企画部長の安藤源照さんにご参加いただきました。企画部というのは、市の基幹・重要政策や財政、行財政改革、広報・公聴などを担当するセクション(部署)です。市長の政策決定やマネージメントを補佐する部署でもあります。
お二人目は、町田市中央地区で商業振興対策協議会幹事長の柳沢秀秋さんです。柳沢さんは、ご自身も同地区の一角で店舗を営む現役の地場の経営者でもあり、「まち」への想いは人一倍強く、まちづくりのために、先頭にたってさまざまな取り組みをすすめてこられました。
三人目は、市内で地域通貨の普及につとめるNPO「グループ 時間の花」代表の今井啓子さんです。地域通貨とは、国家が管理し、その有効性を担保する円やドルなどのいわゆる「通貨」とは異なり、特定の地域の特定のメンバー間だけに流通するローカルな通貨であり、コミュニケーション・ツールとしての有効性が近年大きな注目を集めています。最後は、アドバイザーをお願いした新井美沙子さんです。新井さんは市民活動を支援するNPO「東京ランポ」の中心メンバーの一人であり、海外の市民活動・NPO事情にも詳しく、日本のNPO活動の活性化のためにさまざまな提言をおこなっています。また、多摩市在住の現役の東京都議会議員でもありま
す。

○市民が拓く自治の時代へ
 当日のシンポジウムでは、安藤さんからは市民自治をめぐる行政側の取り組みの様子、「市民参画の市政」への転換にあたっての諸課題などが報告されました。柳沢さんは、中心商店街の活性化の取り組みの過程から見えてきた行政との関わりについて、今井さんからは、ご自身が取り組んでこられた「地域通貨」の試みを通じて感じたことなどについてお話をいただきました。さらに、アドバイザーを務めていただいた新井さんによって、市民自治をめぐる全国の動向などが紹介されました。会場の参加者にも質問票が配布され、多くのご意見やご質問が寄せられました。シンポジウムが一方的なものにならないように、これらのご意見・ご質問にも可能な限り多く、パネラーやアドバイザーからの回答をいただくように運営がおこなわれました。行政のあり方や運営に対する市民の高い関心を反映して、行政側のパネラーである安藤さんに質問が集中したことも印象的でした。当日の様子の詳細は、現在、同シンポジウム実行委員会の手によって報告集の編集作業がすすめられています。年内に完成予定となっていますので、関心がある方は、本誌編集部までご連絡ください。
 さて、当日のシンポジウムから浮かび上がってきた課題の一つは、市民と行政を結ぶ仕組み・チャネルが全く欠落しているか、あっても満足に機能していないという厳しい現実です。「あたらしい公共」を支えるのは、市民と行政相互の「対話」や「情報共有」であるはずです。市民側の不満の多くは、ここから生じているように見受けられます。逆に、行政側は市民との対話や協働の必要性は認めながらも、具体的な対応の面で大きなとまどいや不安を感じているようです。自らの側に市民参画に対する十分な認識や対応力が育っていないという理由のほかに、無責任な市民に市政をかき回されてしまうという感覚を払しょくしきれないということもあるようです。
 課題の二つ目は、「あたらしい公共」を実現するためには、具体的・総合的な制度・しくみが必要だということです。それには、主権者としての市民が主体的に自らの課題に取り組み、学習・経験を重ねながら解決していく社会=市民自治社会=への転換が、大きなテーマとなるはずです。全国で大きなうねりとなっている自治体の憲法=市民自治基本条例の策定に向けた動きは、まさにこうした思想を背景にしたものです。市民・行政の対話のチャネルがないと嘆いてばかりいても仕方ないのであり、不安を抱えたままでも少しずつ試みを重ねていくことにより、互いへの信頼が強固なものになっていくのだと思います。
 自分達の未来を自分達の手で。「あたらしい公共」を模索する町田市での取り組みは、まだ始まったばかりです。わたしたちの町田をどのようなまちにしていくのか。まちを愛する多くの人々が参加し、多様な議論や熱い想いを重ね合い、次第にそれが姿をあらわしてくる過程。それこそが市民自治の第一歩であり、わくわくするような季節の到来を告げるような気がするのです。


市民自治をめぐる自治体の動き

現在、各地であたらしい自治しくみづくりが行われています。名称は「市民自治基本条例」、「まちづくり基本条例」など様々ですが、市民が行政の意思形成に参画していくという、あたらしい公共のかたちを模索したものとして、注目されています。以下は、その一部です。

(註)センター通信発行後に最新情報に書き換えました

 

◇既に制定・施行されたもの  ◇◇◇◇◇◇(施行順)

 

●大阪府箕面市「箕面市市民参加条例」1997年4月施行
  http://www.city.minoh.osaka.jp/

●金沢市「市民参画によるまちづくりの推進に関する条例」2000年7月施行
http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/reiki/honbun/a4001086041404221.html

●長崎県小長井町市「まちづくり町民参加条例」2000年7月施行

http://www.konagai.org/new/new.html

●北海道ニセコ町「ニセコ町まちづくり基本条例」2001年4月施行

http://www.town.niseko.hokkaido.jp/kihon/kihon.htm

●北海道猿払村「猿払村村民参加条例」2001年4月施行

http://www.vill.sarufutsu.hokkaido.jp/PD_Cate.nsf/0/1FB1B95A8AAF24E949256B9E0017CFA9?OpenDocument

●横須賀市「市民協働推進条例」2001年7月施行

http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/simin/jourei/jourei.htm

●志木市「志木市市政運営基本条例」2001年10月施行

http://www.city.shiki.saitama.jp/seisaku/seisaku11.html

http://love-town.net/shimin-iinkai/志木市民委員会のサイト
●宝塚市「まちづくり基本条例」 2002年4月施行
http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/machizukuri/kihon.htm

●北海道石狩市「行政活動への市民参加の推進に関する条例」2002年4月施行
http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/

●兵庫県生野町「生野町まちづくり基本条例」 2002年6月施行
http://www6.ocn.ne.jp/~kaiwa/kihonnjyourei/kihonjyourei.htm

●大和市「大和市新しい公共を創造する市民活動推進条例」2002年7月施行

http://www.city.yamato.kanagawa.jp/katudo/kyoudo/jyorei/jyoreian-top.html

●西東京市「西東京市市民参加条例」9月議会で議決 2002年10月1日施行

http://www.city.nishitokyo.tokyo.jp/index.html

●清瀬市「清瀬市まちづくり基本条例」9月議会で議決 2003年4月1日施行

http://www.city.kiyose.tokyo.jp/

●杉並区 「杉並区自治基本条例」11月29日議決 2003年5月1日施行
  http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/library.asp

 

◇現在、策定中または、議決待ちのもの  ◇◇◇◇◇◇

 

●多摩市「多摩市市民自治基本条例」市長交代などから、庁内調整中

http://www.city.tama.tokyo.jp/index.html

●東久留米市「東久留米市基本条例(仮称)」7/29市長に報告書提出

http://www.city.higashikurume.tokyo.jp/top.htm

●小金井市「小金井市市民参加条例」条例素案への市民意見募集中9/5まで

http://www.city.koganei.tokyo.jp/

●大和市「大和市自治基本条例」策定に向けて現在市民メンバー募集中

http://www.city.yamato.kanagawa.jp/bunken/jyourei/index.html

●吹田市「自治基本条例」試案を公表、市民から意見募集中

http://www.ne.jp/asahi/gogo/net/topics/jitikihonn.htm

●善通寺市「自治基本条例」原案策定ワークショップの参加者募集中
  http://www.city.zentsuji.kagawa.jp/

 

 

◇その他、未確認ですが、以下のような情報も  ◇◇◇◇◇◇

 

●北海道白老町自治基本条例的な条例としての「住民参加条例」制定中
  http://www.town.shiraoi.hokkaido.jp/default.htm

●宮古市自治基本条例の制定を平成14年度の主要課題に 
  http://www.city.miyako.iwate.jp/

●伊東市「自治基本条例」を提案/議員発議では全国初

http://www.wbs.ne.jp/bt/ito/

●沖縄県「まちづくり条例」作成へ/沖縄県内研究者市町村職員自治研究会を発足
●新潟県紫雲寺町 「町民参画基本条例(仮称)」の制定を検討中

●丸亀市「自治基本条例」制定に着手表明
  http://www.city.marugame.kagawa.jp/

●京都市が市民参加推進条例(仮称)を2001年度中に制定の予定、

http://www.city.kyoto.jp/koho/ind_h.htm

●吉川町まちづくり基本条例(自治基本条例)案作成

●静岡市自治基本条例検討中 
http://www.city.shizuoka.shizuoka.jp/

●北海道千歳市自治基本条例に市長、強い意欲
http://www.city.chitose.hokkaido.jp/

 

注)各ホームページアドレスは、自治体の公式ページ又は、当該条例のサイトです

 

※上記の内、「まちづくり基本条例」は、都市計画などに基づく狭義の「街づくり=ハード面」ではなく、ソフト面での広義のまちづくりを対象としたものです。

 

※愛知県高浜市では、住民投票条例の改正を行ない、投票資格者を、3ヶ月以上高浜市に住所を有する18歳以上の市民及び永住外国人に広げました。2002年9月施行。

条例全部改正概要によれば、住民投票は原則として、法的な拘束を持たないことから、未成年者及び永住外国人の投票も長の裁量で可能ということから改正が行なわれたもの。