センター通信18号
2002.8.31発行


町田市関連の談合事件訴訟について
(市民オンブズマン・町田 前田 功)
2002年6月5日、各紙夕刊に「住民への記録開示は違法=公取委、逆転敗訴−東京高裁」という記事が載った。町田市民、町田市財政に大きな関係がある問題なので、このセンター通信の紙面を借りて経過を簡単にお伝えしておきたい。

ごみ焼却炉談合
町田市、八王子市および多摩市で作っている一部事務組合に、多摩ニュータウン環境組合というのがある。この組合が「全連続燃焼式及び准連続燃焼式ゴミ焼却施設」というダイオキシン対策用のゴミ焼却炉を作った。
この焼却炉建設の入札にあたっては当初から談合の噂が飛び交い、多摩市議会ではそのことが論議されていたそうである。日立造船・日本鋼管・タクマ・三菱重工・川崎重工業の5社が入札し、結果、日立造船が約250億円で受注、建設は進められ、1998年完成した。
1999年8月13日、公正取引委員会は、この施設を含め全国各地の同種の焼却施設入札について、談合があったと認定し、この5社に対して排除勧告を行った。平成10年9月までの約4年半にわたり、5社は全国71箇所(自治体および一部事務組合数で60)、総額1兆346億円(市場専有率88%)にのぼる契約を受注している。
5社は排除勧告を不服として応諾を拒否。これを受けて公取は審判開始を決定した。現在、談合の有無などについて5社と公取が審判の場で争っている。
しかし、新聞などで発表されたデータだけから判断しても、談合が行われているは誰の目にも明らかである。5社だけが参加した場合は、高値張り付き。つまり上限価格に限りなく近い価格で落札されているが、5社以外の入札者(アウトサイダーという)が加っている場合の落札額は最低入札価格に近い価格。ちなみに、外国のメーカーが入札に加わって、この5社が落札しているアジア各国での同種の焼却炉の処理量トンあたり建設費は、日本国内の半額以下である。
自治体や一部事務組合はこの談合の結果、不当に高い価格で焼却炉を造らされたわけである。全国市民オンブズマン連絡会議では、当該市長や組合管理者は、これら5社に対して損害賠償を求めるべきであるとして、勧告対象の自治体に住む市民オンブズマンの仲間に監査請求を呼びかけた。多摩ニュータウン環境組合については、私が監査請求を行い、請求棄却とされたため、住民訴訟を提起した。談合によって受注した日立造船は、工事費約250億円のうち約40億円を多摩ニュータウン環境組合に返還せよという訴訟である。全国十数カ所で、この談合5社を被告とする同様の訴訟が行われている。

原告住民は独禁法上の利害関係者か否か
このうち多摩ニュータウン環境組合、東京都、横浜市、兵庫県尼崎市、豊栄郷清掃施設処理組合(新潟県豊栄市)の発注分について、住民側が「立証に必要」として公取に、排除勧告の基になった事件記録の開示を求めたところ、公取は2001年9月、審判廷で証拠採用された記録、各社の担当者の供述調書や内部文書、個人の手帳の写しなどを開示することを決めた。
談合5社は、この開示決定の取り消しを求めて訴訟を起こしたが、2001年10月、東京地裁は5社の請求を退け、「住民訴訟は自治体の代わりに被害者の権利を行使して企業に損害賠償を求めたものだ」と指摘。その上で「住民が公益の代表者としてふさわしい訴訟活動ができるよう資料を入手する手段が確保されなければならない」と述べ、開示を認めた公取委の処分を妥当とした。この判決(一審判決)は、談合事件の抑止に一定の役割を果たしそうだと評価されていた。
5社はこの取消訴訟一審判決を不服として、控訴。
そして冒頭の新聞記事のとおりの逆転敗訴となったわけである。
独占禁止法は、「利害関係人」は審判開始決定後、公取に事件記録の閲覧などを求めることができる、と定めており、一審判決は、住民らは談合によって余分な支出を強いられる自治体と同様に談合の被害者と認められるとし、「利害関係人」と位置づけていた。
しかし、控訴審判決は、談合疑惑で訴訟を起こしている住民であっても、この「利害関係人」とはいえないとし、「違法行為があったと認定されていない段階で、審判の資料を別の訴訟の証拠に用いることは法が予定していない」と述べ、住民への開示処分は違法だと結論づけた。
さらに、事業を発注した自治体についても、審判への参加が認められていない場合や審判が確定していない段階では「利害関係人」にあたらないとの見解を示した。
この取消訴訟の原告は談合企業、被告は公取である。談合立証資料入手のひとつの道として、私たちはこの取消訴訟で被告側への参加人として闘ってきた。公取は、開示を決めた段階では、そして一審の段階では、審判記録の開示が談合企業への抑制になると判断していたと思われるが、この控訴審判決に対しては上告しなかった。現在検討されている司法制度改革の中でも、被害者に対する刑事事件の記録閲覧が云々されている。加害者の人権とのバランスが問題である。刑事事件の加害者を談合の疑いのある企業に置き換えたのが今回の問題ではないか。談合企業が隠蔽によって守ろうとしている利益と、公益の代表者として立ち上がった市民の知る権利。どちらが保護されるべきか。最高裁に判断させるべきだ。そう考えて、上告した。参加人も上告できるのである。

下水道事業団談合事件および多摩地区下水道工事ゼネコン34社談合事件
なお、町田市が関係する談合事件は沢山あるが、本件のほか、私が原告となっている住民訴訟に、下水道事業団談合事件および多摩地区下水道工事ゼネコン34社談合事件がある。
ゼネコン34社談合事件は2001年12月、公取の課徴金命令がなされたもので、ご記憶の方も多いと思う。この事件には、国土交通省の暗躍というおまけがついている。国土交通省が34社に、「審判請求しなければ国も指名停止等の処分を行うぞ」と命令拒否を指導し、34社全社が審判請求をしたのである。課徴金命令を34社が受け入れると、公共事業推進に支障をきたすというのが公表された理由であるが、この国の行政がいかに腐敗しているか、誰のために存在しているかを痛感させられる事件である。
下水道事業団談合は、95年提訴した事件だが、2002年7月18日、最高裁でわれわれ市民側勝利の判決があった。監査請求期限は1年間以内というルールは、この種事件においては適用しないと判断されたのである。入り口論争で7年かかったが、これから一審に戻って本案審理に入る。

住民訴訟制度は改悪されたが…
以上述べた各訴訟は、談合企業に対し「町田市に金を返せ」と、われわれ住民が町田市に代わって訴えている代位訴訟である。談合企業や腐敗首長らを住民が直接訴えることができる代位訴訟は、腐敗の抑止に一定の効果を発揮してきた。ところが、この4月、地方自治法一部改正という形でこの住民訴訟の制度が改悪されてしまった。どう変わったかというと、
□ 公金を不正に支出した首長や談合企業などに対し、従来のように住民が「市にその額を弁償せよ」と直接訴えることができなくなった。住民は、まず「賠償請求をしない市の行為は違法である」と市を訴えなければならない。(第1次訴訟) 談合企業は直接責任追及から放免され、不正を行った首長は市の税金で弁護士を雇うことができることとなった。被害者である市が談合企業や腐敗首長の防塁となるというおかしなことになるのである。
□ 第1次訴訟で住民が勝訴しても賠償が得られるわけではない。賠償を得るには、市が談合企業に賠償請求し、企業がそれに素直に応じることが必要である。応じなければ、市が企業を訴えるということをしなければならない。住民が直接訴えることはできなくなったのである。首長の不正の場合は代表監査委員が訴えなければならない。しかし、これまでの自治体や監査委員のとってきた行動、つまり、市に賠償請求しろと申し入れてもそれを行わなかったし、監査請求しても監査委員は首長に賠償請求を勧告しなかった。その体質から考えると、自治体や監査委員が不正と対決することはまったく期待できず、ウヤムヤにされてしまう可能性が高い。
腐敗首長や談合企業は、これまで以上にのびのびと不正を働きそうだ。
住民は不正と闘うための武器を奪われた。情勢は厳しい。しかし、全国各地で多くの談合疑惑が放置されたままになっている。不正を見て見ぬふりするわけにはいかない。われわれは談合追及をさらに進めて行きたい。その突破口は監査委員会制度。今年9月14,15日、宇都宮において行われる全国市民オンブズマン連絡会議全国大会の主テーマは「監査請求を市民の手に」である。