センター通信第17号
2002.5.26発行


「新しい公共のかたち」を探るための政策提言

編集部

 

 

情報センターでは、先に行われた町田市長選挙に際して、全立候補予定者に公開質問状を出し回答を求めました(詳細は前号参照)。その内容は、まちづくり、教育・文化、人権・平和、ごみ・自然・環境、医療・福祉、行財政運営、産業・労働など、全47項目にわたるものでした。

ご回答いただいた立候補予定者からは、具体的な政策なども寄せられましたが、当選者である現職市長からは具体的な回答がいただけませんでした。そこで、改めて分野毎に政策提言を行ない、今後の行政運営につき、回答を求めていきたいと考えています。

今回は、昨年来、情報センターが一貫して取り組んできた、「新しい自治のしくみづくり」について提言を行ないます。

 

■提言「新しい自治のしくみづくり」について

 

自治体の行政運営に当たっては、市民ニーズを的確に把握して行政サービスの向上に努めることは地方自治法に定められた自治体の責務であり、これまでもアンケート調査の実施や公聴会の開催などが行われてきました。

しかし、それらは事業計画の最終段階での公聴手法であり、施策の企画立案過程や計画の見直し段階への実質的な意見反映は行われてこなかったのが実状です。

確かに、これまで審議会など、附属機関の委員選考に市民参加枠を設けてきたが、地域枠としての町内会や商工団体等を除く市民公募委員枠は僅か数名に限られ、広範な市民意見の反映には程遠いことと、結論ありきの審議運営の横行や専門家集団の市民委員応援もないままの情報不足が、せっかくの公募委員制を形ばかりのものにしてしまったといえます。

町田市は「附属機関の設置及び運営に関する要綱」を新たに定め、委員の選任については、「〜広く市民の意見を聴くため、広く各界各層及び幅広い年齢層の中から適切な人材を確保すること。」「〜その設置目的、性格及び審議内容等を勘案した上で、委員の公募制の導入に努めること」としています。また、職員参加や兼務・年齢の制限なども規定しているが、このことによって実質的参加が実現されると考えることは早計であり、事実上、審議会等における少数意見とされる公募市民の意見をサポートする何らかのしくみを創り得るのか、前述した企画立案過程への実質的な参画をどう保障していくのか、さらに論議が必要です。

北海道ニセコ町での「まちづくり基本条例」の施行(2001年4月)をきっかけとして、全国の多くの自治体ですすめられている市民自治基本条例づくりへの取組みは、自治の担い手である市民とのパートナーシップの基に、分権の時代における市民と行政・議会の役割と責務を明確にし、新しい自治体運営のしくみづくりを再構築する試みとして注目を浴びています。

自治体の財政難と共に、価値観が多様化し、高齢・少子化の進む社会状況にあって、もはや行政が全ての公共サービスを受け持つ時代は終わったとして、多くの自治体においてPFI等、民間活力の導入やNPOへの業務委託等が進められています。しかし、市民との協働の有り様についての議論もないままの安易な民間委託は、新たな問題を派生させるというジレンマも抱えています。

専門集団としての行政組識主導の自治体運営ではなく、市民にとって最も身近な『小さな政府』である自治体の運営理念や権限と役割等を規定する、まさに自治体の憲法としての「市民自治基本条例」を広範な市民と共に議論していくことが急務です。

 

具体的提言として、以下の点を挙げます。

 

[1]パブリックコメント制度の導入

 

一定の行政計画や市民の権利義務や生活に影響を与える規制・制度の新設・改廃、ならびに新規事業等の政策立案に際しては、市としての意思決定を行なう前に、その論点、選択肢、原案等を広く公表し、市民の多様な意見、情報、専門的知識などを提案または提供できる機会を確保すると共に、市民から提出された意見などを考慮して計画等の検討を行なう「パブリックコメント制度」の導入が不可欠です。同時に、広報のあり方についても、その手法を含めた検討が必要です。

 

[2]政策情報の共有化

市民への政策情報(基礎情報・争点情報・専門情報)の提供を積極的に行ない、行政運営の課題や問題点について明らかにしていくことが必要です。実施事業について、その計画立案の過程や決定プロセスに市民が容易にアクセスできることが必要であり、各審議会等における活発な審議の前提条件として、委員特に公募委員に対する情報提供が有効であり必要不可欠です。また、このことは職員の立案能力の向上にも資すると共に、行政の透明性や公開性に適うものです。

 

[3]市民自治基本条例の制定

建前でない市民参画と協働を実現するためには、人数限定の審議会方式に囚われることなく、市民と行政とのパートナーシップに基づく全員公募式の開かれた議論の場で、それぞれの役割と責務、また、自治体の運営理念について、議論を尽すことが必要となります。自治体の憲法として、市民と行政・議会との信託を明示していく「市民自治基本条例」は、新しい時代の開かれた市政の実現に寄与するものです。同時に、失われつつある、地域で互いに助け合う社会システムの再構築にもつながるものです。その制定に向けて、開かれた議論を早急に開始することが必要です。