情報センター通信第15号
2001.11.30発行


地域通貨で始まる仲間づくり

町田地域通貨連絡会  グループ「時間の花」今井啓子

■地域通貨とは?
 地域通貨とは、LETSつまり、Local Exchange Trading System(地域商品交換システム)に代表されるような、ある特定の地域でのみ交換が可能な通貨システムです。円は、国が発行するお金ですので、政府の信用の保証があり、日本全国で流通します。地域通貨は、その地域だけでしか流通しませんし、特定のグループ内だけの信用というわけです。又、円は匿名性が高いので、国内であれば知らない同志でも使え、預けたり貸したりすると利子がつきますが、地域通貨では、特定のグループ内でしか使えませんし、金利変動やインフレがありません。特色は円は貯めると価値が生まれ、個人や企業に競争をおき、物質的豊かさを追求しがちになり、自然・第三世界・弱者が犠牲となっていきます。地域通貨は、使うことに価値があり、個人の価値観を優先にするので競うことはなく、自然や心の豊かさが本当の価値となり、特定の地域での流通のため自然や人々を大切にします。
  では、もう少し地域通貨が何故必要なのかを説明しましょう。地域でしか通用しない通貨の場合、その地域でしか使えないわけですから、地域の外にお金を持ち出すことができません。従って、通貨は地域内を循環することになります。円であれば、大型店が稼いだお金を本店に吸い上げることが可能ですが、地域通貨の場合は、地域でしか使えず中央の本店に吸い上げることができないわけです。ということは、地域通貨は、地域の商取引を活性化する働きがあるわけです。地場産業の発展に寄与できるというわけです。
  しかも、効能は、それだけにとどまらないのです。というのは、地域通貨での取引は、昔の個人商店がそうであったように顔の見える関係を復活させる働きもします。地域通貨を使い合う仲間としての意識が生まれてくるのです。さらに、基軸通貨の円と違って、通常、お金による売買の対象とならないようなサービス、たとえば犬の散歩などにも地域通貨は使いやすく、新しい助け合いの人間関係が促進されると言うメリットもあります。
 実は、地域通貨が発祥したのは、経済恐慌への対策として用いられたのです。不況が深刻化する中、1932年、オーストリアのヴェルグルという町では、減価する地域通貨が導入され、またたくまに景気が回復したという出来事がありました。残念ながらこの試みは、オーストリア政府の禁止するところとなり中止のやむなきに至りましたが、この動きが外国にも飛び火し、現在の地域通貨につながっているのです。ヴェルグルの地域通貨はじっと持っていると価値が減るので使用する頻度が増え経済は短期間に急速に活性化したわけです。
 この地域通貨の取り組みは1930年に始まり、世界で2000以上、現在、日本では50種類以上の地域通貨が試みられています。日本では、北海道のガル・滋賀県のおうみ・大分県の地域内交易システムYUFU・東京多摩のCOMO等があります。
 現行の地域通貨で、減価の原則を取り入れているのは千葉の「ピーナッツ」で、3ヶ月ごとに10%減価します。大恐慌のような時にはそうした工夫が活路を開きうるということを念頭に置いておくことも大切でしょう。 

■なぜ今、地域通貨なのか
 なぜ地域通貨の講座を開催したのか。その理由を説明するためには、私の個人的な思いを述べるのがわかりやすいと思いますので、少し個人的な思いを述べさせていただきます。
 宮沢賢治は、『万人が幸せでなければ、個人の幸せはあり得ない』というモットーを抱いておりましたが、これが、私の10代から現在までの生きる上でのモットーでもありました。
 ところが、現在我々の抱える問題は、ますます混迷の度を深めており、万人が幸せになる状態からほど遠い状態です。環境問題(自然エネルギー・自然破壊・ゴミ問題)から犯罪・教育・宗教・倫理観・文化(マスコミ)・都市計画・建築から経済に至るまで問題はつきません。こうした混迷の中にあって、問題解決の鍵を握るものとして私の前に立ちあらわれたのが地域通貨でした。 シュタイナー(シュタイナー教育で有名)の三層構造論により経済に友愛の原理を導入する必要性については理解していました。それが地域通貨という形で歴史上実施されたことがあり現在も実施されているということを知ったのは、1999年5月に放映されたNHKの番組『エンデの遺言』(副題が『根源からお金を問うこと』)を通じてでした。私は、この番組を見たときの衝撃を今でもありありと思い出すことができます。
  『エンデの遺言』に感動した私は、ビデオをダヴィングして30人くらいの友人にプレゼントしたり、貸したり、自宅でビデオ試写会を何回も開きました。しかし残念ながら、「すぐに地域通貨を始めたいね」という友人には会えなかったのです。
 やっと会えたのが『ふうき舎(自然食レストラン)』経営の田中恵子さんでした。彼女は、ちょうどレストラン以外のこともやり始めようかと考えていたところだったそうです。関心が同じ人達と「啓蒙活動のような講演会企画・運営」をしていこうという話になり、グループ「時間の花」を始めたのです。手始めに、経済評論家の森野栄一さんを講師に招いて地域通貨講座を、4回開催しました。
 町田では、かなりレベルの高い市民グループが(環境・自然保護・ゴミ等)活動しています。ただ、それぞれの活動に忙しく、横のつながりがあまりないため、市民活動が広がらず、もう少しまとまると他の市と同じように力を持つことができるのではないかと、聞いていました。こうした観点から田中さんと、地域通貨が市民グループ間のコミュニケーション・ツールとしての機能を持つといいのではないかとも話しました。
 また、顔と顔が見える関係が薄れていますので、住民と商店の方々と福祉施設の方々、市民運動グループなどとの交流がより深まっていくコミュニケーション・ツールとしても活用できると良いね。などと話しました。
 「時間の花」主催の講座に参加した、福祉施設勤務の方々(小麦の家・アルファ・アルファ)や成瀬のNPO法人「アップル・ケアセンター」の方々や「まちだグリーン・コンシューマー」のメンバーとも知り合うことができました。皆さんも地域通貨への熱い想いを持っていました。
 また、さらなるつながりのきっかけ作りをめざして、今回の「地域市民講座」をこのメンバーと一緒に開催しました。お陰様でゆっくりですが、地域通貨に関心を持つ方々との知り合うことができ、町田での地域通貨の発展の可能性を感じています。

■ 町田で何を試みようとしているのか
 地域通貨には、様々なヴァリエーションがあります。元祖ともいうべきヴェルグルの地域通貨は、流通速度をあげ恐慌を克服するための減価する貨幣でした。現在では、福祉サービスやボランティア活動などの助け合いを支える愛知県の「ふれあい切符」型のものもあり、あるいは千葉のピーナッツのように地域の振興を旨とする地域通貨もあります。いずれの場合も、円による取引ではできない点を生かそうとする点では同じです。地域産業や地場産業が大型店の進出により不振になってきていること、地域の顔の見える人間関係が少なくなり地域の教育力が低下していること、環境に優しい食品や品物は必ずしも市場原理になじまないこと、こうしたことは日本全国であてはまりそうなことですが、こうした問題点を地域通貨によって少しでも克服していきたいということです。仮に、大恐慌が起こるようなことがあればただちにヴェルグルの方式を導入して恐慌を回避できるような危機管理能力も必要となるでしょう。
 地域通貨の実践者や理論家が口を揃えて述べているのは、それぞれの町の特性、地域の特性に合った地域通貨の方式があるので、それぞれの町にふさわしい方式を見つけることが大切だということです。
私は、町田の町の特性にあった地域通貨の方式を探る一助として、地域通貨の講演会を企画したのです。      

■今後の具体的な展開と展望
 スイスのヴィア銀行のように大きな規模の友愛銀行のケースは別として、地域通貨として行われているものは、有名なアメリカのイサカアワーにしてもそれほど大きな規模の人数ではありません。町田市全体に通用する地域通貨となるとこれは大事で、顔の見える関係とは無縁の別の地域通貨にならざるをえないでしょう。
 そこで、まず、小さなグループがそれぞれの目的に応じた地域通貨を発行し、それらの経験を交流していく中で、町田にふさわしい地域通貨を生み出していくことが必要と考え、そのために「まちだ地域通貨連絡会」を早々と設立しました。ここを通してそれぞれの実践経験を交流しよりよいものにしていき、地域通貨相互の交換の可能性あるいは地域通貨の統合へ向けて努力を積み重ねていくのがよいのではないかと考えています。
今後も『エンデの遺言』や『続エンデの遺言』のビデオ会・講演会を続けていく予定です。又、『まちだ大福帳』という通帳式と記入式紙幣(6ヶ月有効)を併用し、単位を『花』として発行し、地域通貨を実際に使用しながら学んでいきたいと考えています。地域通貨は子供から大人までの、体験学習の一つとも言えると思います。目的に応じた「地域通貨ゲーム」もありますので、このゲームの普及活動もしていきたいと考えています。
『まちだ大福帳』は、町田で暮らす私達がより心豊かにずっと楽しく幸せに生活するために、おたがいの情報を交換し、助け合い、支え合うコミュニケーションツールになればと考えています。『まちだ大福帳』をやり取りする事を通じて地域での人の輪を広げ、横のつながりを深めていくことで他者を認め自分らしさを生かしながら共に生きる喜びを味わっていきたいと思います。そして、この『まちだ大福帳』を使うことによって、地域通貨への関心が深まり、理解者が増え、地域通貨に関心を持つもの同志のつながりが深化し、やがて、町田市にふさわしい固有の地域通貨が生まれることを願っています。地域通貨はまさに『グローバルに考えて、地域で行動する。』にふさわしい一つの道具です。 
最後にエンデの言葉を書いておきます。
『人間は生きていくことのすべて、個人の価値観から世界像まで、経済活動と結びつかないものはありません。問題の根源はお金にあるのです。…そこで、いまの貨幣システムの何を変えるべきなのか、これは人類がこの惑星上で今後も生存できるかどうかを決める決定的な問いです。…お金は人間がつくったものです。変えることができるはずです。』
「市民講座」でお世話になった方々『千葉のピーナッツの村山和彦さん』・『滋賀のおうみの内山博史さん』『多摩のCOMOの炭谷晃男さん』 『経済評論家・ゲゼル経済研究家の森野栄一さん』に、 心より感謝の言葉を贈ります。ありがとうございました。 今後とも町田の地域通貨を応援して下さい。

参照『エンデの遺言』NHK出版