情報センター通信第15号
2001.11.30発行


公民館市民講座「市民自治基本条例づくり」の報告

文責:編集部

  当情報センターの企画立案による町田市公民館市民講座「わがまちの憲法を創ってみませんか−市民自治をかんがえるワークショップ」もいよいよ終盤を迎え、現在条文案の詰めに入っています。6月からスタートした講座の概要はホームページにて逐次公開していますが、12月9日に予定している発表会を前に、ここで改めて条例の持つ意味や位置付け、公民館講座としての意義などについて考えてみたいと思います。

先進自治体での試み

既に、北海道のニセコ町が制定(まちづくり基本条例)した他、現在、多摩市、三鷹市、札幌市、高知県、群馬県などにおいて、「市民自治基本条例」づくりがすすめられています。こうした取組みを行なっている自治体のホームページを見ると、その自治体の姿勢が読取れてなかなか興味深いものとなっています。
こうした動きは、上意下達式の政治のしくみ(中央政府も地方政府としての自治体も同様)から、市民が主体者として参画していくことで、本来の自治のしくみを取り戻していこうとする試みでもあります。国から都道府県への第1の分権、都道府県から市町村への第2の分権と進んできましたが、これから求められるのは自治体から市民への第3の分権であり、地域への分権です。

何故いま市民自治基本条例なのか

第1回の講座で講師の辻山幸宣さん(中央大学教授)は、地方分権の背景として、かつては地域の中での人と人との支え合いによって社会が成り立っていたものが、政府が何でも引き受けてしまったことによって、社会の力がしぼみ、結果として政府のシステムが膨らんでいびつな形になってしまったことを挙げています。肥大化した政府システムをいきなり小さくするのは難しいので、中央政府が抱え込んだ役割を可能な限り企業システムに振り分けていくと共に、残った部分をさらに中央政府と地方政府に役割を分けた。また、社会システムの力の再生のためにも、内側に地方政府を軸としながら、そこに住んでいる人たちの関係をもう一度活性化させるような仕掛けをこれからいくつも作っていくことが必要、と話されていましたが、まさに地方分権の時代に、市民にイニシアティブのある個性豊かな自治体運営をめざすために、市民の力、社会の力が試されているといえるでしょう。

これまで法律は、上から与えられるものであり、そのことによって私たちが縛られるという感覚で捉えられていたように思います。しかし、本来法律とは、私たちが主権者として国や自治体に縛りをかけるものです。私たち市民が、自治の主体者として小さな政府の自治のありようを自ら定めていくことが、法律をもう一度主権者として捉え直すきっかけにもなると思います。

市民自治基本条例の位置付けとは

  自治体にはさまざまな条例があります。例えば環境であれば緑の保全条例や大気汚染防止条例といった個別課題の条例があり、それを束ねる形で「環境基本条例」があるという構造になっています。福祉やまちづくりなども同様な構造になっていますが、「市民自治基本条例」は、前述の辻山さんの言葉を借りれば、その地域全体をどう「ガバナンス」していくのか、そのためのルールづくりだといえます。この「ガバナンス」とは、統治という使い方をされていますが、「共治」という使い方が正しいのだそうです。つまり、市民や事業者、行政が調和を図りながら自治体という政府を共に治めていくためのルール作りをしていく、これが市民自治基本条例ということになります。もちろん、そうした自治のしくみを組み立てるには、さまざまな分野での基本条例との整合性を図ることが必要になりますが、自治の基本原理としての最高法規性を持つものですから、それらを束ねる自治体のいわば憲法だといえます。

条例で何を規定するのか

上述のように、自治体を共に治めていくためのルール作りですから、先ず、現状のシステムがどうなっているのかを見ていく必要があります。つまり、自治体における意思形成が現在どのように行われ、決定され実施されていくのかを検証し、その中から、現在の課題は何なのかを洗い出していくことが必要です。
例えば、審議会などにおける市民参加の実状や、計画立案過程における情報の非公開性の問題、議会運営のありかたや地域コミュニティーの問題、行財政改革の問題など、たくさんの課題における実態を検証していくことが挙げられます。
こうした各観点における問題提起を含め、第2回目から6回目まで、講師の方々にお話いただき、それを受けての課題の整理を7回目以降のワークショップで検討してきました。

  第1回目の講座で辻山さんは、条例の定義として次の4点を挙げています。
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行政や議会に対する市民の権利
A行政運営の基本原理
B行政と議会の権能
C市民の責務、行政の責務、議会の責務、事業者の責務

ワークショップ及び起草委員会では、これまでの議論を通して以下のような整理を行ないました。
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の定義に該当するもの
市民の公職就任権等、予備選挙、議会運営の関する市民の権利など
Aの定義に該当するもの
市民参画の保障、情報共有化、説明責任、計画策定、公職の選任など
Bの定義に該当するもの(組識や制度として)
市民評議会、評価委員会、広報委員会、住民投票、審議会等の市民公募、司法における市民参画、監査、財政自主権、地域自治区、自治体選挙条例の制定など
Cの定義に該当するもの
市民の責務   条例の尊重、近隣への助勢、占有地などにおける自己責任など
市長の責務   執行機関運営の原則、意思決定の明確化、広報、会議公開、パブリックコメントなど
議会の責務   議会の役割および議員の責務、議会運営の原則、議会の会議のあり方、議員の責務、議会の会期外活動、議員立法など
事業者の責務 地域社会の一員としての責務、従事者の公民活動の保障など

この他に罰則規定や条例の改廃手続き、条例の基本理念として前文(憲法の基本的人権理念や、町田らしさなど)及び目的を、最高法規としての条例の位置付けについても言及します。

議会の反応は

条例である以上、議会での議決を経ることが要件となります。確かに間接民主主義の制度として議会制度が置かれ、直接選挙によって議員を選んでいますが、必ずしも市民生活にかかわる全ての事項について議員に委任しているわけではありません。これまで、各地の自治体議会に市民参加条例案や住民投票条例案が上程されましたが、議会そのものがネックとなって否決された例が少なくありません。しかし、今日の分権時代にあって、議会制度だけではすべての物事を解決できなくなってきています。市民、議会、行政の役割分担による共治という視点からの問い直しが必須の課題です。

そうした意味において、市民自治基本条例が議会に諮られたときの議会の対応が注目されます。何故なら、それは議会の体質と見識が問われる場でもあるからです。

公民館講座としての意義

公民館はこれまで市民の学習権の保障など、さまざまな形で市民の自主的な活動をサポートしてきましたが、どちらかといえば公民館側からのアプローチが主であったようです。近年、地域市民講座など、市民の企画による講座を事務的・財政的にサポートする試みが広がってきています。ただ、これも企画本体に公民館職員が直接関わり、一緒に企画を練り上げていくというものはまだまだ少ないように思われます。行政が市民活動を財政的にサポートするという、これまでの助成金的な発想が色濃く残っているからでしょうか。
しかし、市民に開かれた行政機関として、消費生活センターなどと並んで公民館の果たす役割は大きく、協働の場のモデルともなり得る数少ない機関といえます。これまでのような自主企画の充実も必要ですが、もっと市民と共に作り上げる場を増やしていくことが、これからの公民館の課題ではないでしょうか。まさに、誰もに開かれた(パブリック)場としてのあり方が問われているように思います。

そうした意味において、今回の公民館市民講座は、当情報センターの企画講座とはいえ、職員の積極的なかかわりと、各自の役割分担という点でも、新しい試みとして位置づけられるものだといえます。また、同時に、この条例案を現実のものとしていくために、市民の力、社会の力が試されているといえるでしょう。

条例試案の公表とフィードバックについて

現段階での条例試案は未成熟なものであり、まだまだ不備な点が散見しています。今後さらに全体会にかけながら練り上げていく予定でいます。その後当情報センターのホームページで公表し、意見を求めますが、できるだけたくさんの市民活動団体のホームページにもリンクを張ってもらいたいと考えています。寄せられた意見を参考に二次案を作成します。
そして、12月9日にはこの講座に関わっていただいた講師の方々にも参加を呼びかけ、条例試案の発表と共に、これからの自治のありようを探るシンポジウムを開催します。もちろんその場でも参加者からの意見を聞いていきたいと考えていますので、ふるってご参加ください。

公民館市民講座:各回のテーマと講師陣

第1回6/16「なぜ今、市民自治基本条例か」中央大学教授/辻山幸宣さん
第2回6/23「市民・議会・行政の役割って何だろう」 川崎市土地開発公社/木場田 文夫さん
   まちだ21自治フォーラム/倉成美敏さん
第3回6/30「公募委員の役割って何だろう」  町田市公共公益用地利用検討委員会公募委員/福井蘭子さん
    小山田ごみ問題を考える会/小林美知さん
第4回7/7「条例でどこまでできるか」多摩区長寿支援課/山口道昭さん
第5回7/14「福祉活動から見た地域コミュニティー」町田社会福祉士会/西潟正明さん
第6回7/21「ワークショップ(1)調査グループづくり」川崎市職員/岡田実さん
第7回9/1「ワークショップ(2)」川崎市職員/岡田実さん
第8回9/8「ワークショップ(3)」 公民館職員
第9回10/8「ワークショップ 起草委員会」
1010/20「ワークショップ 全体会」
1111/3「ワークショップ 全体会」
1212/1「ワークショップ 全体会」
1312/9「成果発表会(シンポジウム)」