情報センター通信第15号
2001.11.30発行


南山は稲城のふるさと

菊池和美(南山の自然を守る会

 稲城市では今、南山開発が大きな話題となっています。今日はこの場をお借りしてその南山開発を広く皆さんに知っていただき是非一緒に考えていただけたらと思います。

南山について

 まずは私達の住む稲城市を皆さんにご紹介しましょう。
 稲城市は都心から20kmという近距離にありながら多摩丘陵の面影を色濃く残した農業と自然の調和した人口約7万人弱の緑豊かな市です。
 しかしここ十数年の間に多摩ニュータウン事業に伴う丘陵地開発やニュータウン開発に連動する区画整理事業が進められるなど丘陵地開発が急速に進んでいます。その中にあって最後に残された稲城市最大の丘陵地が南山なのです。南山は京王よみうりランドから京王稲城駅まで続く標高差75mの起伏に富んだ丘陵地で、東西に1.2km、南北に0.8km、面積約88.9haの広大な緑地です。現在は殆どが雑木林と農地からなる地域で、神社仏閣が数カ所あって広く都民や市民のハイキングコースとしても親しまれています。

開発計画を進める要因について

 戦後は燃料革命や木材需要が外材に移行した事、農業の衰退などにより里山の利用が減少して、山は段々荒廃していきました。そのため高度成長期に南山では業者が山砂を採掘し、急峻な崖地ができてしまいました。また都市計画法の成立時に南山地区は地元や稲城市の要望で市街化区域に線引きされたため土地評価が高く地権者は固定資産税や相続税に悩まされていると言われます。(市役所に聞いたところでは南山の山林は1haにつき毎年約90万円余りの固定資産税がかけられていると言う事です。)そのため大手不動産会社が投機的土地買収を継続的に行ない、現在ではおよそ3分の1を取得しているといわています。崖地の危険性については東京都が地権者に毎年改善勧告を出していて、組合や稲城市の説明では崖地の危険性の解消と相続税対策が今回の区画整理事業計画を推進する大きな要因であるという事です。しかし開発に反対している地権者も多く、区画整理によって農地が減少してしまうこと、自然が破壊される事、事業の成立を危ぶむなど、この計画を疑問視する声は多いというのが地元の方と話しての実感です。

開発計画について

 開発計画は地権者が組合を作り行なう区画整理方式です。広い地域なので地権者数はおよそ230人ですが計画地の中に住んでいる地権者は殆どいません。区画整理計画によると将来人口7600人のまちができる事になり、住宅地・業務用地などがおよそ5割で生産緑地と公園緑地が合計2割、道路が2割、宗教施設や墓地が1割となっています。また新たに4本の都市計画道路が予定されていて、一部はトンネル区間となる予定です。開発計画は8万本の木を伐採し、9割以上を切り土、盛土するという大規模なもので、残留緑地は奥畑谷戸公園などの5.2ha(他に指導民有緑地が2ha)です。区画整理事業成立のために地権者が負担する減歩は65%以上とされており、右肩上がりの成長を見込めない経済情勢の中でこの計画は地権者にとっても非常に不利なものであると思います。

 またこの計画に稲城市が投入する市税は少なくとも40億以上であるといわれ、稲城市にとっては非常に負担の大きい事業であり、区画整理事業自体の成立が難しい経済状況の中で市の財政を大きく圧迫することが心配されます。
 現在は東京都の条例による環境影響評価手続きの途上にあって、今年の年425日に環境影響評価書案が発表されて住民説明会が2回行なわれました。東京都への意見書の提出が7000通以上もあり、627日には公聴会が開かれ、17人もの方々が公述しました。その意見は全てが緑地の減少を心配するもので、稲城市民が南山を大切に思っていることがひしひしと伝わるものでした。

南山の自然について

 南山は面積が大きく、また殆ど宅地開発されていない事などから非常に豊かな自然環境が保持されています。また都市化の進む稲城市の中でヒートアイランドを防ぎ大気を浄化するなど環境に対して大きく貢献しています。例えば、我々が過去11年間行なってきた大気汚染調査の結果を見ると、南山の空気は非常にきれいで、二酸化窒素濃度を見ると、常に環境基準値を下まわっており、市街地の汚染濃度の半分以下であることが分かっています。
またオオタカやフクロウなど猛禽類を頂点とする裾野の広い生態系が見られることも分かっています。鳥類種数は90種にも及び、多摩地域の他地域と比較すると、群を抜いて多います。環境影響評価書案ではオオタカについて一時営巣していたが、現在は営巣放棄していると報告されています。しかし、今でも目撃例が多く報告され、また食痕や羽毛が見つかっています。これらの事からオオタカは隣接する坂浜・平尾地域と、南山地域の両方を生活圏として利用しているものと思われます。なお、隣接する坂浜・平尾地域では営巣が確認されていますが、こちらも東京都施行の土地区画整理事業が平成9年に212haで都市計画決定されてしまっているのです。鳥類以外でもトウキョウサンショウウオの生息がアセスで記録されていて、これは生息の南限の記録となる大変貴重なものと考えられます。

開発が与える影響について

 こういった生態系への影響のほかにも、南山の開発によって様々な環境への影響が予測されています。なかでも地下水に対する影響は大変大きく、環境影響評価書案の中でも地下水涵養量が半減する事が明記されています。地域には梨畑のための農業用水や生活用水として井戸が50箇所以上も掘られており、また地下水位も平均して2.7m以上下がることから井戸水や梨畑など地域の農業への影響が心配されます。
しかし環境影響評価書案では生態系への影響をはじめ全ての項目について大きな影響はないものとしています。また大気汚染などについての項目が調査から外されていて、環境への影響を正確に評価していないことも問題であると考えます。

議会への陳情運動

 そこで稲城市で長く活動してきた「稲城の自然と子どもを守る会」が母体となって南山を考える市民が集まり「南山の自然を守る会」が新たに発足しました。会では南山の緑地を様々な方策で少しでも多く保全して欲しいという主旨で議会に対して陳情署名運動を行ないました。たくさんの市民の協力で約1ヵ月足らずの間に市内外から署名9000通以上を集めて9月議会に提出しました。しかし稲城市としては現在の計画を変えることは今のところ考えていないという答弁であり、結果は趣旨採択になりました。直接事業計画を見なおすなどの結果は得られませんでしたが、会としてはこれをバネとして今後は南山の緑地保全や区画整理事業の代替案などを学習し、地主さんや市民、行政、議会への働きかけなどを通して南山の緑地の保全を実現していきたいと考えています。
(問い合せ先)0423−77−5653