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頭を庇っていた腕の隙間から、カカシの足元で三人の男が泣いているのが見える。トシユキはあくまでも内心
でのみ、溜息を吐いた。『舌先三寸の猛獣使い』 木の葉暗殺戦術特殊部隊、はたけ隊隊長はたけカカシがこ
う称される所以である。トシユキと僅かの年の差しか持たないこの年若き部隊長は、とにかく天才的に口が上
手かった。その人心掌握のテクニックにはいつも目を見張る物があったが、特にシチュエーション設定に長け
ていた。今だってそうだ。赤く蕩け落ちそうな夕陽に染まる森で部下達を傍に侍らせ、呼びかける声は腹の底
から力強く、しかしあくまでも肩の力は抜き放つ気は柔らかく暖かく。おまけにカカシがここ一発のセリフを吐く
時はいつも素顔を晒す。シラフで聞けば赤面モノの言葉も、美麗な容姿と耳障りの良い声で衒い無く告げられ
ればそれは一つの鋭利な武器となる。あの色違いの双眸をギュッと細めた気取りのない笑顔と共に向けられ
た時、墜ちない男も女も、まずはいない。(後にこのテクニックが全く通用しない強敵が出現するのだが、それ
はまた別の話) とにかくカカシは自分自身の使い方を、実に良く弁えた男だった。
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