ラマン



幾ら泣いても、泣き足りない。


絶え間なく流れる涙は握り締めたシーツに、幾重にも重なる滲みをつくる。
抱え込んだ枕も、同様だ。

鍵を掛け引きこもった部屋にどれくらいの時が流れたのか、自分でも判断が出来ない。

水分以外、固形物を受け付けなくなった身体は軽いようで重く、糖質が極端に不足した脳細胞はどんよりと濁
って沈んだままだ。
寝台に横たわったまま腫れた瞼を開けてみると、窓の外に青空が見えた。

その澄み切った青さに、どうしてもあの人の笑顔を重ねてしまう。眦にまた、涙が滲んだ。


__うみのイルカ。


この世でただ一人、私が心から愛した人。この世に生まれ落ちて初めて、全身全霊で愛を捧げた人。


彼を想うだけで、生きて行けた。彼の笑顔に触れるだけで、幸せだった。

為すべき事が山積みの毎日、渡りきることが精一杯の課題の連続。そんな日々を乗り切る糧は、彼の励まし
だった。暖かな言葉と共にこの頬に触れる__彼の手の温もりだった。

けれどこの先、そのささやかな幸せを享受することさえ叶わない。あの銀色の、『鬼』の所為で__





「・・・・エリ、いるんだろ、開けてくれ。俺だよ、エリ」

あの男の姿を思い出すだけで、怒りが全身を駆けめぐる。けれど控えめなノックの音と共に聞こえた声に、我
に返った。・・・・嘘。今確かに、彼の声がした。

弱った体は、とうとう幻聴まで引き起こしたのだろうか。


「・・・・エリ!頼む、開けてくれ。俺だよ、イルカだよ」


嘘!!飛び起きて鏡に駆け寄った。素早く身なりを整えて、乱れた髪にブラシを宛てる。・・・よし、腫れた瞼
はどうにもならないにしても、他は大丈夫。唇に軽くリップを引いて、ほんの少し、身体にコロンをかける。

せめて彼の前では、無様な泣き顔を晒したくない。__深呼吸をして、ドアノブを握った。


「・・・・エリ!!」


けれどその悲壮な決意も、何の役にも立たなかった。細く開いたドアの向こうに、彼の姿。その姿を目にした
途端、膝の力が抜けて身体が崩れ落ちた。


「エリッ!!しっかりしろ、大丈夫か!?」


部屋に滑り込んできた彼の胸に、顔を埋める。大丈夫、急に動いて軽い眩暈を起こしただけ。そう言って微笑
むと、彼もつられて安堵の笑みを見せた。だが私の顔色の悪さに、その愁眉は深く曇った。


「痩せたな・・・・エリ。」


私の頬に手を滑らせる、いつもの仕種。その手のひらの暖かさに思わず涙ぐみ、首を振った。


「ごめんな・・・・何も知らなくて。カカシさ・・・いや、はたけ上忍に言われたんだろう?何かキツイことを・・・」


いや。やめて。今ここで、あの男の名前を出さないで。こうして二人きりで過ごせる大切な時間を、あの男の
存在が汚してしまう。私はきつく、彼にしがみついた。


「辛かっただろう・・・・本当に、すまなかったな。だけど、すべて悪いのは俺なんだ・・・・すまない、許してくれ」


やめて!どうしてあの男を庇うの。暖かい腕の中で、私はひとつ、身震いをした。目を閉じれば悪夢のように
立ち上がる、あの時の光景。


『アンタにイルカは、あげないから』

『あれは、俺のものだから』

『人のものに無断で触れたら、二度と許さないから』


__吹き付ける殺気。睥睨する瞳。震える手足。縺れる舌。悔しかったのは逃げ出した自分じゃない。何一つ
言い返せなかった、情けなさだ。


・・・・あの人に、言われたの

「ん?」

私もう、貴方のことを、好きでいちゃいけないの?

「・・・・エリ」

貴方が、好き。確かに私、この気持ちを隠して来なかった。でもそれが、そんなに悪いことなの?

「・・・・ごめんな、エリ。俺にとってもエリはかけがえのない、大切な存在だよ。ただどうしても・・・・エリの望ん
だ関係にはなれないんだ・・・・」


予想していた答え。けれどもそれは、酷く私を打ちのめした。再び涙腺が壊れたように、涙が溢れ出す。大き
な手で何度拭われようと、止まる気配がなかった。


「・・・・だけどお前に対する俺の気持ちは変わらないよ。俺はお前が、大好きだ。いつだってお前の幸せを願
ってる」


優しくて、残酷な言葉。__好きだけど、愛じゃない。この現実がどれほど私を傷つけたか、多分彼には分か
ってない。


「とにかく、食事を摂ってくれ。みんな心配してる。それにいつまでも此処にいる訳にもいかないだろう?立て
るか?何でもいい、何か腹に入れて__話合いは、それからだ。」


私は暫し戸惑って__そしてゆっくり、頷いた。私だって、もう子供じゃない。愛しいひとの配慮を突っぱねる
ほど、意地っ張りでもない。こうして労ってくれる彼の好意は、確かに本物なのだ。たとえそれが、私の望んだ
形の『愛』でなくても__。

私は、唐突に、理解した。

これが彼の、限界なのだ。今ここでこうして、私がしがみつく倍の力で抱きしめてくれる__これが彼の許容
量ギリギリ、私に分け与えてくれる愛の分量はここまで。その残り大多数をあの銀色の上忍が、僅かに残っ
た欠片をその他大勢の人たちが。それが現実。


・・・・でも。でも、それでも。


何もこの先の未来が、確定した訳じゃない。何といっても、私は若い。そして私は女、アイツは男。いつか立場
が逆転しないと、誰が言える?そうとも、この先の事など、誰にも分かりはしない。

己の愚行を、今更ながらに恥じた。

彼の事を想うなら、こんな風に心配をかけるべきではなかった。彼を振り回して、面倒を掛けて・・・・まさにア
イツの、思うツボじゃないか。


__私は、負けない。


誰に何を言われようと、脅されようと、私の心は縛れない。私の心は、自由なのだ。今はこれで精一杯、でも
いつか絶対__私、笑ってみせる。あの男に、勝ってみせる。


腰に回された腕にすがって、ゆっくりと立ち上がった。見上げる視線に気がついて、彼が微笑む。私も微笑
む。私達は寄り添って、澱んだ空気の漂う部屋を後にした。









日もとっぷりと暮れて月が上がる頃、イルカはようやっと訪問先を辞した。懸念に眉を顰めもう一度振り返り、
暫く部屋の灯りを眺めた後、肩を落として歩き出す。__人気のない路地に差し掛かったとき、手甲をはめた
手が後ろから伸びて、引きずり込まれた。


「話つけて来た?あの女と」

「・・・・ッ、カカ・・・・」


強く壁に押しつけられて、息が詰まる。暗がりで怒気も顕わに囁く男の姿は、銀色の鬼に見えた。


「・・・・なんて言い種です、アイツは俺の・・・・ッ」

「何この匂い。・・・・アンタまさかあの女と」


色違いの双眸がギラと光った。そう思う間もなく激しく口づけられ、骨も折れんばかりに抱きしめられた。息が
出来ない。渾身の力で身を捩り、腕を突っ張って身体を放すと、イルカは大声で喚いた。



いい加減にしなさい!絵梨華はまだ10歳になったばっかりの、俺の教え子ですよ!!
初潮も来てない子供にそこまで嫉妬して、どうするんですッ!!


甘い!甘い甘い、甘い!!だからアンタは甘いっつってんです!サクラを見なさい!
アスマんとこのいのを見なさい!!あのトシであーですよ?あのガキだってあと5,6年で
アンタ好みのムチムチ巨乳ギャルにならないって可能性が、どこにあるんですッ!!



巨乳・・・・イルカは眩暈とともに眉間を押さえた。一体なにがどこでどうなってそんな発想になるんだか。
お互い肩で息をして睨みあう。イルカはふと肩の力を抜くと、呆れた口調でカカシに言った。


「確かに絵梨華は俺によく懐いてるし、『お嫁さんにしてねv』とはしょっちゅう言われてましたよ。だけどねぇ、
それはナルトの『ラーメン奢ってくれ』と本質的に変わらないんですよ。あの年頃はまだ恋に恋する年齢なんで
す、だからこそ扱いは慎重に、大事にしてやんなきゃいけないのに・・・・。アンタが余計な事言ったばっかり
に、こんな事になっちまって・・・・。そこんとこ、分かってんですかッ!?」

「フン、現実見えてないのはアンタのほうですよ。あのガキがオレに突っかかって来た時の形相といったら、
もういっぱしの女の顔でしたよ。いつまでも子供扱いして、痛い目みるのはアンタなんじゃないの?ガキだか
らってくの一候補に油断してたら、足元掬われますよ?」

「・・・・アンタまさか子供相手に殺気出してないでしょうね・・・・」

「だ、大体ね、登校拒否でアンタの気を引こうなんざヤリ方があざといんですよ。泣いて喚けばアンタの関心
がかえると思って、ムカつくったらありゃしない」

「・・・・出したんだな・・・・」

「この際ハッキリ言っときますけどねッ、オレはアンタに関しちゃ手ェ抜きませんよ。ヨチヨチ歩きの赤ん坊だろ
うとヨボヨボの年寄りだろうと、アンタにコナかけるヤツは全力で潰しますから!!」

「いー加減正気に戻れ!目ェ覚ませ!!後できっちり絵梨華の親元に詫び入れて貰いますからね、分かりま
したか!?」

「んなッ!!冗ー談じゃないですよあんなガキの為に!!詫び入れんのはアンタの方でしょ!?そんな安っ
ぽい匂いつけてオレの前に立った罰です、今夜はしっかりオレのお仕置き受けて貰いますからね!!覚悟し
てくださいよ!!」

「お・・・お仕置きって、なんで俺が・・・・ッ!そりゃぁ俺のセリフだろ!?・・・・ッ!!な、何する・・・ッ」


言い終わらない内に、カカシはイルカを抱え上げた。大の男を担いでいるとは思えない身軽さで飛翔する。
離せ降ろせと喚くイルカの耳元で、周囲の景色がつむじ風のように流れていく。このままカカシの家に連れ込
まれるのだろうか__たぶん、そうだろう。イルカは恨みがましい目で夜空を見上げた。エリ、ごめんな、不甲
斐ない先生で。今頃また、泣いていないだろうか。絵梨華の母親も絵梨華自身もこれからきちんと登校すると
約束してくれたが、__明日の朝は、ちゃんと迎えに行ってやろう。それにはこれから待っているお仕置きと
やらを、穏便に済ませてもらう必要がある。はてさて、この頭に血の上っているらしい銀色の獣を、どうやって
言いくるめたもんか。

イルカは荷物のように担がれながら、深い溜息をついた。








うわ〜〜〜ん!!ママーー!!

「はいはいエリちゃん、もうそんなに泣かないの。可愛い顔が台無しよ?」


イルカの懸念通り、絵梨華は母親麻紀絵の膝で号泣していた。張りつめていた緊張の糸が、イルカの帰宅と
共に切れたのだ。麻紀絵は突っ伏したままの娘の頭を、ゆっくりと撫でた。


やだやだやだヤダッ!!エリやっぱりイルカ先生と結婚したいのッ!!お、お嫁さんに
なれなかったら愛人でもいいの、エリ、イルカ先生の赤ちゃん産みたいの!!


あいじ・・・麻紀絵は思わずこめかみを揉んだ。アカデミーでまだ性教育は始まっていない筈だが、いったい
どこまで分かって言っているのやら。麻紀絵は左まきのつむじを見下ろして、苦笑混じりに囁いた。


「あのねぇ、エリちゃん。愛人はともかく、結婚っていうのは、好きなだけじゃできないの。愛し合う者同士です
るのが、結婚なの」

「エリ、イルカ先生のこと愛してるもん!!イルカ先生だって、エリのこと大好きだって言ってたもん!!」

「いーえ違います、絵梨華みたいにただ好き好きって言ってるのは愛って言わないの。愛っていうのはね、
相手の『うれしい』が自分の『うれしい』なの。その人の『かなしい』が自分の『かなしい』なの。ただ単に自分
の気持ちを押しつけるのと、訳が違うのよ?ママの言うこと、わかる?」

「・・・・・・」


神妙な顔をして考え込んだ娘の横顔に、麻紀絵は親バカを自覚しながらも胸が熱くなった。絵梨華のイルカ
狂いは、今に始まったことではない。アカデミーに入学したその日、担任になったイルカに一目惚れしてから
引っ込み思案だった娘の生活は一変した。

イルカ先生が頭を撫でてくれた、校庭で転んだらイルカ先生が手当してくれた、イルカ先生に成績を褒められ
た、イルカ先生が一緒に給食を食べてくれた、イルカ先生が、イルカ先生が・・・・

娘の世界全て、イルカだらけのイルカづくし。すべての物事が、イルカを中心に回っている。

麻紀絵も麻紀絵の夫も、少女の片思いにしては熱すぎる情熱に、危惧を抱かなかった訳ではない。けれど親
の欲目を外してみても、絵梨華は実に熱心に勉学に修行に励んでいた。それがイルカの気を引きたいという
下心の発露であっても、その努力を親として褒めてやらない訳にはいかない。家庭訪問に訪れたイルカがあ
っさり絵梨華の気持ちを肯定してくれたこともあって、それからは父母共々のんびり娘の動向を見守ってきた
のだが。

事態が急変しのたは、ここ最近のことだった。

およそ色事に縁遠い雰囲気のイルカに恋人が出来たとの噂が流れ、それが上忍、しかも男だと知ると絵梨華
はその足で抗議に出向いたのだ。

麻紀絵はその話を聞いたとき、背筋に悪寒が走った。絵梨華はまだ下忍ですらない。その娘が上忍に対して
文句を垂れるなど、手打ちにされても不思議ではない。__いわゆる不敬の極み、だ。

案の定、娘は上忍にこっぴどく言い負かされ、ショックを受けた少女はそのまま部屋に引きこもってしまった。
こんな時に限って特別上忍の夫は里外の任務で留守、他に頼れる人間もいない。
最初の二日はアカデミーに病欠届けを出したが、三日目から絵梨華は食事を摂らなくなってしまった。

こうなっては、当のイルカに連絡をとるより他に、方法はない。

__知らせを受けたイルカは顔面蒼白、大慌てで飛んできた。




麻紀絵は、そのはたけという上忍を知らなかった。中忍だった自分が妊娠を機に引退して10年以上、忍の世
界から部外者となって久しい。時折面白可笑しい噂話を漏らす夫の口からも、はたけという名が出たことは無
かった。

夫不在の今、出来うる限りの情報を友人、知人から集めるしかない。だが麻紀絵は、聞き齧ったはたけの人
物像に首を捻った。__娘の言い分と、余りにも違う。
娘が吐き捨てる様に表現した言葉は、『髪は真っ白でザンバラ、顔中ぐるぐる巻きにして片目しか出てない、
オカマ言葉を使うヘンなヤツ』だった。
それに比べて彼、及び殆どの彼女達が熱い溜息混じりに呟いたのは__写輪眼、最強、里の誉れ、容姿端
麗、元暗部、等々。要約すれば凄腕の美丈夫、ということらしい。麻紀絵がはたけカカシについて知識を持た
ないのを、詰る輩までいた。

麻紀絵は混乱した。一体どちらの言うことが本当なのか。主観の相違があるとはいえ、余りにも極端すぎる。
よくよく考えた後、はたけカカシへの評価は一旦保留、とした。


__だけれども。

自分に何度も頭を下げるイルカの姿を見て思った。その上忍がイルカに惹かれる気持ちも、勿論絵梨華の気
持ちも、__そこだけは、よく分かる。

イルカは今時、『熱血漢』という漫画のような言葉がよく似合う、それでいてサラリとした清潔感がある好青年
だった。だがその黒い瞳をギュッと細めて笑うと、不思議な艶が走ったりもする。

__ああ、勿体ないわ。

気遣わしげに何度も振り返るイルカの背を見送りながら、麻紀絵はひとりごちた。
彼が家庭を持てば、きっと良き父、良き夫となることは間違いないだろうに。だが相手が男ということは、その
機会も巡っては来ないということだ。麻紀絵自身忍の家系の出だ、同性愛がそれほど珍しくも無いことは承知
していたが__それでも少々、残念な気がした。

しかしいい大人が二人、それで幸せだというのなら、外野がとやかく口を出すべきことではない。後はもう、当
人同士の問題なのだ。
それを娘が分かってくれたなら、話は簡単なのだけれど。




「エリちゃん、人を好きになるって__恋愛するって、楽しいわよね。」

娘の柔らかな頬をつついた。

「その人を好きってだけで、何をしても楽しくて、胸がドキドキして周りがキラキラして見えて__生きてて良か
った、って心から思うわよね」

娘が無言で頷く。

「でもね、恋愛してる人が、絶対にしちゃいけないことがあるの。分かる?」

絵梨華はちらりと視線を上げ、再び俯いた。

「それはね、好きな人に迷惑を掛けること。好きな人が『嫌だ』と思う事をしてしまうこと。好きな人を悲しませ
ること__エリちゃん、さっきのイルカ先生の顔、どんなだった?フラフラの絵梨華の姿を見て、とっても辛そう
じゃなかった?」

娘は俯いたままだ。けれどその肩が微かに震えている。

「してしまったことはしょうがないわ、エリちゃん。時間は戻ってこないし、過去は消せないんだもの。でも恋す
る女としては、もっと頭を使わなきゃ。上手く立ち振る舞うのも、恋愛の戦術の一つよ?さて、これからどうす
る?__エリちゃん」

「・・・・ちゃんとアカデミーにいく。・・・・ちゃんと勉強して、もうイルカ先生に迷惑かけない・・・・」

「えらいわ!さすが、エリちゃん!!じゃ、ママと約束ね?」


頷く娘の肩を抱いた。随分とずるい言い方をしたとは思っている。絵梨華も聡い娘だ、本当はこんな事を言わ
れずとも全て理解している筈なのだ。__けれど。

頑張れ、絵梨華。麻紀絵は心の中で呟いた。

あなたの背中に付いた羽根はまだ小さく畳まれて、あなたの体を支えきれる程、強くも大きくもない。だけどい
つかきっと、その羽根を大きく広げて、飛び立てる日がきっと来る。今はまだ、その準備期間。そのためにもっ
ともっと、努力が必要。その日までずっと、パパもママも傍にいてあげるから。


「・・・ママ、お腹が空いた。もっと何か食べたい」

「そうねぇ、明日からアカデミーに行くのなら、もうちょっと何か食べないとね。」


イルカの前で平らげて見せたスープの皿は、もう空になっていた。

この先、例えこの恋が叶わなくても__うみの先生よりも優しくて、はたけ上忍より素敵な恋人が、きっとあな
たを待ってるわ。だってあなたは私の可愛い娘。あなたが幸せになれない訳なんか、絶対に、無い。


「絵梨華ロールキャベツが食べたいな。トマト味のやつ。」

「うーん、ホール缶あったかな」


左まきのつむじにひとつキスをして、麻紀絵は立ち上がった。

頬杖をつく娘に気付かれない様に瞼の涙を拭うと、大きな音を立てて戸棚を開けた。




〈 了 〉




愛しい娘に捧げます


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