張り込みプラス



肝試しィ!?

お前らなー、久しぶりにガン首揃えてやって来たかと思えば、まだそんなことして遊んでんのかよ。オレらもう
中忍だぜ!?ガキじゃねーんだから、もうちっとマシなことしたらどうよ。

あ?ナルトの中忍昇進祝い?みんなでメシ食ってその後の余興!?・・・あー・・・・そうかそうか、そういうこと
か・・・。うーん、まぁそういうことなら、付き合ってやってもいいけどよ・・・で、いつよ?・・・あぁ?あさって!?
あちゃー、悪りィ、そりゃダメだわ。オレ明日から任務で火の国なんだわ、ねーちゃんと。おうよ、オレ最近忍犬
の若手ブリーダーの中じゃ注目株なんだぜ?その絡みでさ、アッチから呼ばれてんの。そーいうわけで、悪り
ィな、ナルト。


・・・・そーだな、それじゃあお詫び方々ってのもヘンな言い方だけどよ、置き土産代わりに面白い話してやる
か。まぁ、ちょいとお前らにゃあ刺激が強いかもしんねーけど、もうだいぶ前の話だし時効だろ。肝試しすんだ
ろ?・・・・ちょうどいいや、オレが昔、とにかくマジでビビッた話してやるぜ。オメーら、もうちょっとこっちに寄り
な。


オメーら、オレ達が最初に受けた中忍選抜試験覚えてるか?そうそう、ちょうど今頃の時期だったよな。オレ
なぁ、実はあん時、一度志願書無くしちまったの。・・・んだよ、そんな目で見んなよ!オレだって好きで無くし
たわけじゃねーぜ、机の引き出しにしまっておいたはずがよ、忽然と無くなっちまったんだよ!!それに気が
付いたのが試験の前の晩だぜ?そりゃ焦ったぜー、さすがに。紅先生ん所に駆け込もうかと思ったけどよ、ど
ーせドヤされんのがオチだろ?せんせー怖えーしよ、とりあえず自分でなんとかしてみるかってんで、受付所
に行ったんだわ。・・・おう、もしイルカ先生がいたらさ、頼み込んで一枚出して貰おうと思ってな。けどよー、受
付所に明かりはついてんのに誰もいねーの。そんでどーにかしたくて次はアカデミーの職員室に向かったワ
ケ。でもよー、着いてみりゃあ校舎は真っ暗でよ、見るからに人気がねーんだわ。どーすっかと思ったけどオレ
も切羽詰まってたし、チョイと職員室で家捜しさして貰おうってんでさ、そん時は別に躊躇いなく入ってったん
だけどな。


・・・・怪談とか心霊スポットとか、その手の話じゃ夜の学校ってベタな設定だよな。でもよ、そうは言ってもオメ
ーら、実際に夜のアカデミーになんか滅多な事じゃあ行かねえだろ?そりゃあ夜間任務ってあるけどよ、森や
林が暗いのと、またワケが違うのよ。昼間人間で溢れてる分、余計に寂しーつーか・・・・なんつーの、静まり
返って物音一つしねぇ、ヒリヒリするような闇の濃さなんだわ。その中に、非常灯だけが緑色にボンヤリと浮き
上がってさ・・・・出来るだけ気配消して歩いてたんだけどな、ほんの少し立てた自分の足音が突き刺さるよう
に跳ね返って来んのよ。ゾッとしねえなんてもんじゃねぇ、首の後ろ硬くしながら進んでったんだけどな・・・ホ
レ、アカデミーの職員室って二階のドン詰まりだろ?・・・・だから中央の階段上がろうとして、手摺りに手を掛
けようとした、その時にさ。



__聞いたんだよ、女の声を。



ほんの微かに、とぎれとぎれなんだが、確かに頭上から__女のすすり泣く声を。



・・・・まいったぜ。全身総毛立つってあのことよ。赤丸連れてこなかったのを心底後悔したもんな。何しろもう
すぐ迎え盆って時期だったしよ、オレは脂汗掻いたまんまそこで暫く固まってたんだけどな__でもよ、そこで
尻尾巻いて逃げちまったら男じゃねーだろ?情けねぇだろ?おうよ、忍の名がすたるってもんよ。そんでもって
オレは自分にハッパかけて二階に上がってったんだが・・・



階段を上がって奥に進む毎に、声ははっきりと聞こえてくる。そのうちすすり泣きに交じってモノがぶつかるよ
うな音もしてきた。ガタン、とかバリン、とか。頭んなかで、ポルターガイストだのラップ音だのって言葉がぐるぐ
る回って、正直どうにも足が竦む。・・・けれど今更引き返すのも癪だ。恐怖心より僅かに勝った好奇心の助け
を借りて、震える足を無理矢理動かした。進めば進むほど、絶えず低く響く声は鮮明になる。それはどうやら
目指す職員室から漏れているらしい。這うように忍び寄って半分開いたドアの隙間から覗けば、影が出来る
程の月光に照らされて、思ったより室内は明るかった。それになによりオレは夜目が利く。だがしかし、恐る
恐る彷徨わせた視線の先に映ったのは、女の幽霊でも悪魔でもなく__床に倒れた人間だった。


驚いた。


床に散乱した書類にまみれて倒れているのはオレが探していたイルカ先生その人で、しかもその先生の上に
もう一人、別の人間が乗っかっていた。どうにも見間違えようのないその容貌の持ち主は、確かに七班の上
忍師__はたけカカシだ。

更に驚いたことに、どう見ても二人は__



性行為の、真っ最中だった。



オレが女の啜り泣きと思っていたのは、実はイルカ先生の口から上がる喘ぎ声で、さっき響いた音は机の上
の書類やら椅子やらが倒れたものらしい。混乱と興奮で目の裏がチカチカと点滅した。はっきり言って上忍の
方は何かと突飛な噂の持ち主だったから、それほどの驚きは無い。しかしその上忍が自分の恩師にのし掛
かっている事実が理解出来ない。なぜ、どうして、何の理由があって、そんなことをしているのか__しかも男
同士で。両手を床に投げ出して仰向けに横たわる先生の上半身はきちんと忍服を着ていたが、上忍に抱えら
れた下半身は何も着けていなかった。上忍に揺すり上げられる度にあられもない声が上がる。ズルズルとも
グチャグチャともつかない、なんとも例えようのない音がオレの足元にまで響き、忙しない二人の息遣いも同
様だった。驚異的に跳ね上がった心拍数を抑えようと身を丸めながら__それでもオレは恩師の媚態から目
が離せない。



オレは生まれて初めて知った。


人間辛いだの苦しいだの悲しいだけで、泣くんじゃない。


善くっても、泣くんだ。



そのうち先生はガバと身を起こすと、今度は床に座り込んだ上忍の上に腰を落とした。動きが遠慮がちだった
のは最初だけで、直ぐに大胆に速度が上がる。上忍の首の後ろに手を廻し、斜めに身を捩って黒い髪を振り
乱す姿に、オレはまた別の衝撃を受けていた。


__愉しんでいる。


上忍は勿論、先生までもが、この行為を。


いやそれは最初から見て取れたことなんだが、脳がそれを受け付けなかっただけの話だ。普段朴訥で温厚な
先生がこんな風に乱れるとは信じられなかったし、無理強いだと思っていた方が幾分気も楽だった。__だが
そんなオレの願望とは裏腹に、今目の前の先生は与えられた快楽を夢中で貪る、唯の一匹の雄だ。

見たいのに見たくないのか、見たくないのに見たいのか。漏れそうになる溜息を必死で呑み込んでいるその
時、オレの頬をピタピタと冷たい刃物が叩いた。

唯でさえ動悸の激しかったオレの心臓は押しつけられた鋭いクナイの切っ先に、破裂寸前まで膨れ上がっ
た。背後から圧迫するような殺気に、体が竦んで首も回らない。眼球だけを動かして斜め後ろを確認すると、
はたけカカシが相変わらずの半眼でクナイを握っていた。えっ、と思って前を見ればさっきと変わらず上忍と先
生は絡まりあったまま、音を立てて深いキスをしている。


__影分身。


先生の腰を支えている手が印を切ったのも分からなかった。これが上忍かと妙なところで感心していると、襟
首を掴まれて無理矢理顔を覗き込まれた。


『なーんだ、誰かと思ったら紅んとこの子供か。』


そう言ったきり口を噤んで、オレの顔を眺めている。とりあえず上忍相手に詫びの一つも無いのは不味いだろ
うと口を開きかけたが、頭ん中は真っ白で何も浮かんでこない。そのまんまダラダラと汗を流しているオレの
額に上忍は唐突にデコピンをくれて、背を向けた。


『子供の遊んでる時間じゃないデショ、もう帰んな。』




__それからどうやって自分の部屋まで戻ってきたのか、何一つ覚えていない。






・・・・なんだよどーしたよお前ら、黙りこくっちまって、何か言えよ。お子様にはちょいと刺激が強かったか?で
もよー、マジであん時は大変だったんだぜ、結局志願書は手に入らねーわ、当日紅先生にこっぴどく怒られる
わ・・・・。おまけに第三試験でナルトに熨されるしよ!いいかぁ、ナルトー!!あん時オレがお前に不覚をとっ
たのはなぁ、こーいうハンデがあった所為なんだからな!!今まで黙ってたのはオレの優しさだ、感謝しろっ
ての!!ったく恩師のあんな姿見せられて、平常心でいられるかっつーの。・・・おぉ、そりゃあ今思いだしても
凄まじかったぜ。普段は括ってる先生の黒髪が波の様に床に広がってさ、喉が仰け反る度に涙がこめかみを
伝って髪に吸い込まれて・・・・って、ギャッハッハッハッ!!シノ!!オメーさり気なく鼻血ぬぐってんじゃねー
よ!!だからお前はムッツリだってーの!!ったくおもしれーなー。


・・・でもよ、オレいまいち、今でも疑問なんだよなー。なんでああも都合良く、志願書が無くなっちまったんだ
かよー。だって大事なもんだし、確かにちゃんとしまっといたんだぜ?おかしくねぇか?あそこで見付かった時
も黙ってろとは言わなかったしよ、なーんかハメられたくさいよなぁ。あぁ?上忍がわざわざそんなめんどくさい
事するかって?じゃあ逆に訊くけどよー、シカマル。お前絶対無いって言い切れるか、あ?オメーもあの溺愛
ぶりは知ってるだろーが。いのだって昔妙なとこ見たんだろ?・・・は?そんなえげつない場面じゃない?オメ
ーは女だから気ィ使ったんじゃねぇのか?チョウジはどうよ?


__だからよ、オレそーいうわけで未だにあの上忍苦手なんだよな。顔を見りゃあ、あの時のこと思いだしち
まうってのもあるけどよ、何考えてるんだか分かんねーとこあるもんな。オレと顔合わせたって平然としてるし
よ、上忍は変わりモンが多いとはいえ、なんつーかあの人は何時まで経っても得体が知れねーよ。やっぱ一
番怖えーのは死んだ人間の未練じゃなくて、生きた人間の執着なんじゃねぇの?・・・イルカ先生もよく平気で
くっついてるよなぁ。



・・・・オイ、ナルト、・・・・なんだ?お前さっきから顔色悪りィぞ?大丈夫か?あぁっ!?おいおいおい!!なん
だどーした、急に暴れんなって!!おいっ、一体どーしたんだよテメーらもなんとかしろよ!ナルト!!いーか
ら落ち着けって、何が気に入らねーんだとりあえずモノ投げるのやめろって!!あぁ?ナルトは里を出てたか
ら二人の関係を知らない!?んだとお!?そんなことは最初に言えよ、今里で上忍と先生のことを知らないヤ
ツなんていねーだろーが!誰かちゃんと教えてやらなかったのかよ!!ッテッ!!テメー、人に蹴り入れられ
た義理かシカマルー!!生唾飲んで話聞いてたろーが!!オイッ、ナルトッ!悪りィ、悪かった!驚かせて
悪かった!!だから落ち着けや、なっ!!オイッ、何処行くんだよナルトっ!オイ、人の話聞けって!!


・・・・頼むから戻って来ーーい!ナルトーーーっ!!



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