サウンド・オブ・ミュージック



ハッとして、目が覚めた。


イルカ先生がテレビを消した所為だ。ひどいなぁ、イルカ先生、いっつもそうやって消しちゃうんだもんなぁ。

え?

みてたよ、見てました、つーかうとうとしながら聞いてました!オレそーいうのが好きなの!!オレもここんち
に来るようになってもうだいぶ経つんだからさ、いい加減覚えてよイルカ先生。

はぁ?お笑い芸人がネタでやってた?


『うたた寝してる親父はテレビを消すと起きる』!?


・・・・なによソレ。あーそうですかいーですよもうどーせオレは親父ですよ、ええもう三十路前ですよ、四つ下
のアンタにゃ分かんない悲哀でしょうよ。


えぇ?いっつも猫みたいに寝てばっかいるって?


・・・いやほんとにねぇ、自分でも不思議なんですよ、なんでこんなによく寝れるんだかねぇ。自慢じゃないけ
ど、オレイルカ先生と知り合うまでは立派な不眠症だったんですよ。中忍になった頃から入眠剤飲み始めて、
思春期あたりじゃあちゃんとした睡眠薬飲んでましたからね。ドリエルから始まってデパス、リスミー、ベンザ
リン、ドラール、それからエバミール、レンドルミン、ハルシオン、ブロバリン。里に帰るだいぶ前からバルビツ
ール系にまで手を出してましたからね、かなりヤバかったですよ。イソミタール、バルビタール、フェノバール、
ラボナ・・・・ハハハ、今思えば完全にヤク中だね。ああ、イルカ先生そんな顔しないで下さいよ、大丈夫です、
今はほとんど切ってますから。長期任務の時ベンゾジアゼピン系をちょっとやる位です。


そんなオレがここに来ると泥のように眠れるんですからねぇ、クスリなしで。まさに世にも不思議な物語ってヤ
ツですよ。


そうそう、初めてここに来た時のことでしょ?今思いだしても笑えるね、飯食った後グーグー寝ちゃってさ、自
分でも次の朝ビックリしたもん。いや正直、最初お誘い頂いた時は先生を喰ってやる気満々だったんですけど
ね、・・・・イテテテ、そんな耳引っ張んなくてもいいじゃないですか、結局未遂だったんですから。自分の部屋
ならともかく、人の家であそこまで深く眠れるって初めての経験でねぇ、ホント驚きましたよ。


__ここの生活音っていうのかな、それがね、すごく心地良いんですよ。アンタが台所に立ってる音、洗濯機
の廻る音、風呂洗ってる水音・・・アンタの歩きまわる音。でも一番好きなのはね、アンタがテスト採点してる
ペンの音。こうやって炬燵にはいってさ、アンタのゴツゴツした足にオレの足絡ませて、軽く滑ってくペンの音
聞いてるとサイコー。もう一発で眠くなる。ベゲタミンもびっくり。いやほんとにさ、アンタはいつも喉痛めるって
怒るけどこればっかりは止められないね、これぞ極楽ってヤツ。猫は炬燵で丸くなるってホントだよ。


・・・実はね、オレ、忍医からこのままクスリを止められなかったら、三十の坂は越えられないって言われてた
の。何しろ服用歴長かったからねぇ。まぁそんときはどうでもよかったし、第一クスリを抜けられる訳がないと
思ってたからね。でも指導教官になって、アンタと出会って・・・もう少し生きてみたいって、初めて欲が出たん
だよね。それから出来るだけクスリを減らす努力をして__そりゃあ辛くなかったっていったら嘘になる。でも、
ここでこうして得られる安らぎが、今までどれだけオレを支えてくれたか分からないよ。・・・え?あぁそうね、こ
んなこと話したことなかったもんねぇ。・・・何?どうしたの?こっちむいてよ・・・は?昼間寝てばっかりいるから
無駄に夜元気だって?あはは、先生、そんな憎まれ口叩いたって無駄ですよー、目が潤んでるのバレバレで
す。ハハハ、かわいいなー、なんかオレ火が着いちゃいましたよ。じゃあ先生のお望み通り可愛がっちゃおう
かなー、まだ昼間だけど。誰もそんなこと言って無い?いいじゃない、誰が見てるわけでもナシ、せっかくの休
みなんだからさぁ。・・・あっ、ちょっと待ってよ!いいじゃない、洗い物なんか後で。もうちょっと傍にいてよ、ケ
チー。・・でもさ、アンタが怒ってドスドス立てる足音も、好き。あーあ、ここまで来るともうビョーキだね、こりゃ。


だからさ、


こっちにおいでよ、マイハニー。



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