トワイライトゾーン



ギィ____コ、ギィ____コ、ギィ_____・・・・

夕焼け小やけの田んぼ道、帰りを急ぐイルカの後ろから影法師が一つ、ついてくる。
イルカが止まればそいつは止まり、歩き出せばついてくる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙に耐えかねたイルカは制服の裾を翻して振り返った。

「もうっ、さっきからなんなのよっ!あたしの後ついてこないでよっ!!」

「だ・・・だって僕んちイルカちゃんちの隣なんだもん・・・」

「〜〜〜〜〜っ!」


はたけカカシ、あたしあんたが嫌い。
昔はあたしよりチビだったのに、今は見上げるほど大きくなってしまったこととか。
運動神経ゼロなのに、勉強だけは出来ることとか。
クラスの女の子達にやたらとモテることとか。
眼鏡越しにオドオドあたしをうかがうその目つきとか。
あんたの何もかもが大っ嫌い!!!


「じ、じゃあ、チンタラ自転車押してないで、さっさと先に行きなよっ!うっとうしいの!ついてこられると!じゃ
あね!」

背中を向けるイルカにカカシは慌てて追いすがった。

「あっ、待ってっ、イルカちゃん!忘れ物!これイルカちゃんに渡そうと思って僕・・・」

ごそごそ取り出したハンカチは確かにイルカのものだった。


盗ってる。コイツ絶対に盗ってる。昨日は下敷き。おとといはペンケース。その前は辞書。その前はえーと、な
んだっけ。
とにかくカカシは毎日イルカの帰りを待ち伏せて、イルカにとってどうでもいい「忘れ物」を差し出してくる。
あんたそれ嘘でしょう。実はあたしのもの盗んで、あたしに話しかける口実にしてるでしょう。あんたもしかして
あたしのこと好きなんでしょう!?


「どーもありがとっ!でももうかまわないでよねっ!!」

ハンカチを引ったくろうとしたイルカの指と握っているカカシの指が触れ合うと、イルカは飛び上がって後ずさっ
た。

「・・・イルカちゃん?どうかした?」

「もうっ、近よんないでよっっ、バカっ!!」


あたし、あんたといると胸が苦しくなって、顔が熱くなって、手と足が震えて、何にも考えられなくなるの!気
分が悪くなるの!ものすごく悪くなるの!!だからいくらあんたがあたしのこと好きでも無理なの!あんたのこ
と、だいっきらいなの!!


うわーん、と突然泣きながら駆けだしたイルカに、カカシは驚いて声を上げた。

「イルカちゃんっ!待って、待ってよ!!」


小さい頃、僕とイルカちゃんは毎日、日が暮れるまで一緒に遊んだ。二人で散々外を駆け回り、どろどろにな
って手を繋ぎながら夕焼け色のあぜ道を帰る時、僕は心の底から幸せだった。でも何時の頃からか、イルカち
ゃんは僕と遊んでくれなくなった。それどころか最近は口さえきいてくれない。いったい何が悪かったんだろ
う。僕の何がそんなにイルカちゃんを怒らせるのだろう。僕はただ、昔みたいに一緒に楽しく過ごしたいだけな
のに。一緒にいたいだけなのに。どうしたらいいんだろう。どうしたら昔の僕達みたいな仲良しに戻れるんだろ
う。


「イルカちゃんっ、待ってよーっ!お願い、一緒に帰ろうよーっ!!」



「忘れ物」は別にカカシの手癖が悪い訳ではなく、単にイルカの粗忽さ故だということを、沈む夕日だけが知っ
ていた。



〈おわり〉





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