[アルミ缶]...日経朝刊−95年7月5日より

 日本のアルミ缶需要は昨年、猛暑のなかでビール・清涼飲料向けが急増して前年比24.2%増の約146億缶に達し、今年は、同4.2%増の152億5千万缶と大台に乗る見通しだ。最大手の三菱マテリアルは昨年度実績で前年度比14%増の33億缶を販売、今年度も36億缶を見込む。3年後は生産の全量を使用済みアルミ缶からの再生原料で賄う考え。

 使用済み缶の回収ルートは2つ。8割は市中から回収し、残り2割は自社の国内4工場から出る廃材。市中回収分は、グループ会社の新菱アルミ缶回収センター(東京・千代田)が全国5ヵ所に回収拠点を持ち、使用済みアルミ缶をボランティアや回収業者から1缶1円前後で買い取る。回収した缶は大手金属(東京・港)が溶解して再生地金を作り、三菱アルミニウム(東京・港)が成分調整してアルミ圧延品に加工し、三菱マテリアルに供給している。現在の再生率が6割にとどまっているのは、増産ピッチが速くてリサイクル材だけでは原料が足りないのと、再生処理能力が限界に来たため。100%のリサイクル実現のために、全国5ヵ所の回収拠点を今後段階的に増やす。回収センターや大手金属の処理能力も、今後追加投資して設備を増強する方針。自治体がゴミ分別回収に積極的に取り組んでいるため、使用済み缶の集荷率も高まると見ている。品質面も「全量リサイクル品でも何ら問題ない。」(酒井勝之常務)という。

 同社は1975年から回収事業に乗り出しており、累計回収実績は22万d、購入費用は2百億円に達した。今年もすでに20億缶を回収、購入金額の約30億円をボランティア団体や学校などに支払っている。

 アルミ缶リサイクル協会(東京・港、大島芳昭理事長)によると、アルミ缶の回収率は93年度で57.8%。94年度は60%を超えた模様だが、最近は伸び悩み気味。「再生アルミはコスト高なので経済合理性を追求すると使いにくい。また、ゴミ分別収集に対する地域住民の理解が一巡してしまった」(同協会)ためだ。三菱マテリアルの「100%リサイクル」も、この二点がカギとなる。

 ビールや炭酸飲料のアルミ缶は特殊な内装材が使われ、スクラップにして溶解・再生する過程で、アルミ以外の不純物を除去するコストがかさむ。「新地金から生産するより再生アルミ圧延品の方がコストはやや高い」のが現状だ。

 新地金の国際市況の乱高下も絡む。相場は現在1d約1800ドルと2年前より5ー7割高なので、再生アルミも太刀打ちできる。しかし、国際市況が大きく崩れれば、再生品の競争力は低下する。また、輸入アルミ缶との競合もある。アルミ缶(350_g)の米国内価格は1缶8ー9円、日本工場着の輸入価格が14ー15円とされ、国産品に比べかなり安い。

 もちろん、これらの計算にはアルミ缶を再利用しないで放置した場合の「環境破壊のコスト」は入っていない。再生すればゴミの減量のほか、再溶解の消費電力もボーキサイトから電解精錬して新地金を作る電力の30分の1で済む。PR効果も見逃せない。アルミ缶の再生率は目下、スチール缶の再資源化率に比べ10%近く後れを取っている。主力のビール缶だけでなく清涼飲料缶の市場に食い込みたい思惑もある模様だ。

 容器や包装材の再利用を企業に義務付ける「容器包装リサイクル法」が6月に成立し、追い風は強まっている。91年のリサイクル法制定の後、地方自治体の分別回収が広がって92年度のアルミ缶回収率は急上昇。同社によると、全量リサイクルできれば、スケールメリットが出て処理コストを新地金と同じか安くできるだけに、経済合理性の点で再生利用が現実味を帯びてくる。アルミ缶再生率は米国でも94年度で約65%と言われる。日本では、古紙が53%ですでに缶に抜かれている。缶の全量リサイクルは、素材だけでなく産業界全体のモデルケースとなる可能性も秘めている。.....(日経朝刊−95年7月5日)


Initially posted October 4, 1998.