[廃プラスチック]...日経朝刊−「リサイクル現場から」91年11月14日より

 茨城県下館市の広大な畑地の真ん中にある野殿廃プラスチック処理協同組合の再生工場を訪ねた。6千平方bを超える敷地の一角に、古くなった電線の被覆やビニール袋など廃プラスチックが山と積まれている。これをポリプロピレンやポリエチレンなど品種毎に分別して粉々に砕き、釜で溶融・配合する。8台の押し出し成形機から、くいやコンテナ箱などの製品が続々と流れてくる。

 「プラスチックのスクラップ価格は1`当たり50円ほど。この十年来ほとんど上がっていません」と、西村三郎代表理事の表情はさえない。同協組の一日の廃プラスチック回収量は約10d。日立市をはじめ石化コンビナートのある鹿島や千葉など関東一円から広く集荷するが、かさばる割に重量がない廃プラスチックの輸送効率は悪い。「このところ人件費や物流費の上昇が採算を直撃している」という。
 プラスチックのリサイクルにとっての難問は、鉄スクラップや古紙などと異なり、市場がまだまだ成熟していない点。形状や材質がまちまちで分別が困難なうえ、再生・加工した製品の市場開拓はこれから。「需要の安定を図るため、公共工事向けの商品開発を進めている」(西村理事)段階だ。

 「また、仲間の倒産が出たか」。かかってきた電話に出た高六商事(本社東京)の高橋玄策社長の表情が曇った。埼玉県・川口市にプラスチック再生工場を持つ同社にとって、再生事業の採算は苦しくなるばかり。新品(バージン)の合成樹脂相場が下がり、これが再生品の相場の足を引っ張っているからだ。

 ポリスチレンは現在、需給緩和から相場が下げ続けている。オフグレードと呼ばれる下位品種は1`120円前後のものが出まわっている。比較感から、再生品価格は同80ー90円でないと売れない。

 着色加工費に40円、運賃に20円、金利分・利益として10円必要なので、逆算してスクラップ価格は同10ー20円のものも珍しくない状況だ。このままでは再生業者の経営は立ち行かなくなる。「回収ルートにも支障をきたしかねない」と、高橋社長は危機感を強める。

 国内で排出される廃プラスチックはざっと年間5百万d強。うち290万dが家庭から、残りが事業所から出る。家庭から出るものはゴミとして焼却や埋め立てによって処理される。現在、リサイクルされているのは事業所から出るうちの60万d余り、全体の12%程度に過ぎない。

 リサイクルするためには品種毎に厳密な分別が欠かせない。「現在の採算では、対象はある程度、量がまとまり仕分けが可能な事業所からの廃プラスチックに頼らざるを得ないのが実情」(プラスチック処理促進協会)。プラスチックの再生は入口から行き詰まっているのだ。

 リサイクル法の施行を受け自動車、家電メーカーなどはこぞって、プラスチック回収・再生へ向けた商品設計を打ち上げている。だが、回収・再生を市場メカニズムに頼っていたのでは、リサイクルが掛け声倒れに終わるのは目にみえている。自治体を含めてメーカー、需要家は回収・再生にかかるコスト分担に取り組むと同時に、率先して再生プラスチックの使用量を増やし、その市場規模を広げることが急務であると言えそうだ。....(日経朝刊−「リサイクル現場から」91年11月14日)

[筆者コメント] オフグレードのポリスチレンをとってみたとき1`120円に対して環境消費税額は1`27.6円となるから、再生品価格は107.6ー117.6円で売れることになる。逆算してスクラップ価格は37.6ー47.6円となり、10ー20円という状況から脱出できる。


Initially posted October 4, 1998.