[鉄スクラップ]...日経朝刊−93年5月21日より

 「鉄をリサイクルするにはお金がかかる。そんな時代なんです。」...。91年10月1日、石川県下の地元紙にこんな広告が掲載された。広告は石川県再生資源連合会、日本鉄リサイクル工業会石川県部会などの連名で、鉄スクラップの回収有料化を告げるものだった。

 鉄スクラップは発生元→回収業者→加工販売業者→鉄鉱メーカー(電炉)のルートでリサイクルされる。従来は回収業者が工場、自治体、町内会などからスクラップを商品として買い取るのが原則だった。今後は自動車、空き缶、家電製品、農機具、鉄粉(ダライ鋼)など鋼材原料に不向きな下級品を引き取る時には料金を徴収する。

 「引き取りが有料になれば、町内会や事業所はスクラップを業者に出さなくなり、粗大ゴミとして自治体の処理量も増える。頭の痛い問題だ」。金沢市生活環境課の小林健さんは表情を曇らせる。

 下級スクラップの引取価格は業者の加工処理料として1d5千円以上、回収作業料として同3千円以上の合計最低8千円。有料化の要請にまで回収業者が追い込まれた背景には、棒鋼の大幅減産による鉄スクラップの需給失調と相場急落がある。全国の指標となる東京の電炉買値は上級品のH2で91年11月当時、1d11千5百円(中心値)と6カ月間で6千円急落、20年ぶりの安値を付けている。石川県に先立って9月に回収を有料化した富山県では、下級スクラップの買値は現在1d8千円と前年に比べ5千円前後安い。

 一方で人件費の高騰で電炉に持ち込むまでのコストも上昇している。運賃と回収、加工費だけでも富山では前年に比べ50%強上がり1d当たり1万5千円前後かかる。「不純物(ダスト)の除去にも費用がかかるので発生元から無料でスクラップを回収しても5千ー1万円の赤字販売となる」(大手スクラップ業者、タカセキの高橋輝行富山支店長)計算だ。

 回収有料化の定着率は金沢市で既に80%、富山市は同50%と東京、大阪の10ー20%と比べはるかに高い。大都市圏で低いのは「回収業者の過当競争が激しく、力関係の弱い業者はスクラップの発生元に譲歩せざるを得ない」(関東の大手スクラップ販売業者、中田屋)ためだが、東京、大阪など大都市圏でも各業者が有料化に乗り出している。

 鉄スクラップの回収システムは、これまで「最も整備されたリサイクル制度」(日本鉄リサイクル工業会)といわれてきた。90年の全国の鉄スクラップ発生量は3772万5千d、過去4年間で毎年2百万dずつ増えている。98年前後までにはこれが年間5千万dまで膨れあがるという。

 リサイクル法制定元年の91年、皮肉にも下級スクラップは商品価値を失い、リサイクルは限界に達しつつある。絶間ない生産拡大と大量消費の構造に変化がない以上、鉄スクラップは増え続ける。回収有料化は「社会の生産、消費構造を転換するか、それとも行政、企業、市民が廃棄物処理に応分のコストを担うかの選択を迫られる転機となる」(タカセキの高橋富山支店長)のかも知れない。.....(日経朝刊−「リサイクル現場から」91年11月12日)

 鉄スクラップは供給量の増大と景気後退による需要急減が重なり、昨年後半から供給過剰が深刻になった。製鉄会社の買値は半年間で半値になり、赤字に陥った流通業者は鉄スクラップを集める際に、「引き取り料」を要求する逆有償制度を導入。回収システムに乗らなくなった廃自動車などが公道や私有地に大量放置されたり、地方自治体や市民団体が回収した空き缶の引き取り手が見当たらないなど波紋が広がっている。

 鉄鋼業界も手をこまねいているわけではない。社団法人日本鉄源協会は今年2月、通産省の肝いりで「冷鉄源需給問題特別部会」(部会長神谷春樹トーア・スチール社長)を設置した。鉄スクラップの供給過剰問題への抜本的な対策として@鉄鋼メーカーの使用増A商習慣の整備B輸出拡大---の三点を柱に現在、検討している最中だ。 並行して新日本製鉄、NKK、川崎製鉄、トーア・スチールなど高炉、電炉各社は「新製鋼プロセス・フォーラム」の中で鉄スクラップの利用比率を高める新しい製鋼技術の研究も進めている。特に銅、亜鉛、すずなど鉄を再生利用する上で不純物となる金属をどう取り除くかが課題だ。.........(日経朝刊−「ズームイン」92年7月31日)

 しかし、皮肉にもこれらの対策が「電炉各社、鉄スクラップ高騰に悲鳴」につながる。米国産鉄スクラップやロシア産銑鉄などが値上がりし海外市場が国内市場をリードし始めていることに加え、新日本製鉄など高炉による鉄スクラップ有効利用や「冷鉄源溶解法」の本格稼動に向けた新日鉄広畑製鉄所による鉄スクラップの市中調達によって特に良質品の不足が著しくなったためという。.........(日経朝刊−93年5月21日)

[筆者コメント] 鉄スクラップ価格の激動は市場規模が小さすぎるためではなかろうか。再生材マーケットの拡大が鉄スクラップに関してもキーなのではないだろうか。


Initially posted October 4, 1998.