[古紙]...日経朝刊−94年2月9日より

 古紙は主に段ボール、新聞、雑誌を指す。企業や家庭で発生した古紙は専門の集荷業者、そして直納問屋を経て製紙会社に集められ、印刷用紙や段ボールなどの原料になる。古紙の回収価格は92年半ばからほぼ一本調子で下げ続けている。古紙市場には回収価格が段ボールで1`7円、新聞は5円、雑誌が3円を割れば流通業者の経営が成り立たないという「753価格」がある。93年9月当時の回収価格は段ボールが7円50銭、新聞が6円50銭。そして雑誌は9月、ついに1円を割って70銭となり、過去に例のない「ゼロ円」に近づいた。

 93年9月上旬、群馬県城東町の大手古紙問屋が月内に廃業することを決めた。この問屋は集荷業者から買い取った古紙を選別、梱包して製紙会社に販売する直納問屋で、戦前から半世紀以上も古紙流通業に携わっていた。関東の直納問屋の廃業はこの年初めてで、ちり紙交換業者など末端集荷業者の間に目立っていた転廃業の動きが川上部門まで押し寄せた格好だ。このため、古紙関係者は「リサイクルシステムに走る亀裂がいっそう広がりはじめた」(都内の直納問屋)とショックを隠し切れない。

 「古紙の家庭内備蓄をお願いします。」....8月、名古屋で非常事態が発生した。古紙の置き場(ヤード)が余剰古紙で満杯状態に陥り、古紙問屋が回収を停止、各家庭に備蓄を呼びかけたのだ。円高不況で古紙市況が低迷した85年以来、8年ぶりの緊急措置発令である。古紙最大の発生地、関東でも引き取り手のない古紙があふれかえり、流通業者の倉庫はパンク寸前だ。古紙の回収停止は全国的に広がる可能性が強い。

 在庫急増と価格急落によるリサイクル危機は第一次石油ショック後の不況や、85年のプラザ合意以降の円高不況にも見られた。しかし、当時は価格が下がれば古紙は集まらず、需給は均衡に向かった。市場経済のメカニズムが働き、リサイクルも自律的に修復したわけだ。今回過去と違うのはゴミ減量という大きな問題を抱えている点だ。たとえば東京都は「現在の埋め立て処分場は95年度までに満杯になる」(清掃局ごみ減量総合対策室)という。都内のゴミの半分は紙。リサイクル促進がゴミ問題の特効薬とみた都、区、市町村など全国の自治体はこの10年間、子供会、婦人団体などに1`5ー7円前後の助成金を与え、末端での回収組織作りに取り組んできた。その結果「景気循環を無視して古紙が集まる構図が出来上がった」(栗原紙材=東京・荒川)。リサイクル維持には古紙の回収をやめなければならない。ゴミ減量にはリサイクルを促進しなければならない。ゴミ問題とリサイクルは今、このジレンマにもがいている。

 「リサイクル危機の元凶が入口(回収)拡大なら、問題解決のかぎは出口(需要)拡大」(通産省紙業印刷業課)。古紙の用途は現在99%が製紙原料で、古紙需要は製紙会社の生産動向に左右される。そこで古紙の利用商品を開拓し、需要拡大で解決への糸口を探る動きが出てきた。(日経朝刊−93年9月24日)

 厚生省が回収の有料化や再生利用の義務付けなどを柱とするゴミ減量の総合対策に乗り出した。これに対して、古紙流通最大手である栗原紙材(東京・荒川)の栗原正雄社長は「(新対策が実行された場合)古紙の需給環境に大きな影響を及ぼす」と指摘する。

 全国で発生する年間約5千万dのゴミのうち1千万d強は紙ゴミだ。ゴミ処理が有料になれば、消費者が少しでもゴミの量を減らそうと新聞や雑誌をリサイクルへ振り向ける動きが広がるのは確実だ。市場では「この結果、年間3百万d前後の新規の古紙発生が見込まれる。」(直納問屋)とみている。

 91年にリサイクル関連法の強化されたドイツでは古紙発生量が急増。その結果、品質の悪い余剰古紙が韓国や台湾へタダ同然で輸出され、国際古紙価格の急落を引き起こした。国内でも古紙は供給過剰から、回収価格が約20年前の低水準に落ち込み、経営難からリサイクル業者の撤退に拍車がかかっている。これ以上需給環境が悪化すれば、リサイクル機能は再構築どころか崩壊する恐れがある。(日経朝刊−94年2月9日)

[筆者コメント] 環境消費税によって再生材の出口(需要)拡大を図り、ゴミ問題とリサイクルのジレンマを克服しなければならない。
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Initially posted October 4, 1998. Updated March 27, 2001.