[鉛]...日経朝刊−93年7月31日(ズームイン)及び95年1月30日より

 「鉛地金価格が80年代の水準にまで上昇すれば鉛バッテリーの価値は上がり、放っておいてもどんどん回収されたはず」(酒谷真佐彦専務理事−日本蓄電池工業会)。だが鉛地金価格は低迷し続け、五年前には90%以上の回収率を誇り「リサイクルの優等生」と言われていた鉛のリサイクル率は、1994年度には約60%にまで低下した。

 再生鉛の相場を決める基準となる新鉛建値は93年1月当時、1`85円前後で推移していた。これを受けて再生鉛の相場は1`80円前後と90年の水準の約3分の2まで落ち込んだ。このため、再生鉛精練各社の採算が悪化し、回収業者から原料の蓄電池を引き取る買い値の引き下げが相次いでいる。93年1月当時、再生鉛メーカーの買値は1`4円前後で、90年の5分の1以下という。こうした状況から「最盛期には全国で40社ほどあった再生鉛メーカーの数は現在20社程度にまで減った」(河西誠社長−河商(埼玉県・朝霞市))。

 今回の鉛価格の落ち込みは冷戦終結という世界情勢の激変に一因がある。戦略物資でもある鉛はこれまで西側、東側がそれぞれの陣営内で採掘、取引していたが、ソ連、東欧圏の崩壊でロシアや中国から大量の鉛が西側の市場に流れ込み、供給過剰になっている。

 リサイクルの危機を憂慮した蓄電池メーカーは通産省の通達を受けて94年10月より、バッテリーから再生した鉛に限り、再生鉛の代表品種の3号古鉛で回収費用として1d当たり1万5千ー2万円程度上乗せした1d8万5千円前後で買い取っている。国内で年間に出荷される自動車用バッテリーは鉛量換算で約20万d。メーカーはその全量の回収を目標としている。仮に市中価格より1d当たり2万円高く買うとして単純計算すれば、総額40億円の負担がメーカーにのしかかる。

 メーカーが費用を負担したことでリサイクルは軌道に乗った。しかし、酒谷専務理事は「今はバッテリーメーカーがリサイクルを独りで支えているが、このまま支え続けられる保証はない」と語る。輸入業者にも費用を分担させるなどの手段を講じない限り、せっかく軌道に乗ったリサイクルも費用の面から後戻りする懸念も秘めている。(日経朝刊−93年7月31日(ズームイン)及び95年1月30日)

[筆者コメント] 新鉛建値が1d85千円とすると環境消費税額は1d19千円となってメーカーの負担は激減する。


Initially posted October 4, 1998.