農水水産大臣(国民からの行政の受任者)の犯罪備忘録

2007年5月28日の松岡利勝元農水相(62)=衆院熊本3区=の自殺は、不明朗な事務所経費や官製談合事件に絡む業者からの献金など、何も明らかにしないまま追及の手を闇に泳がせる禁じ手であった。安部総理は真相究明を一切しようとしない。検察も緑資源機構の追及をしていない。おかしな話である。自民党重鎮・現職閣僚が芋づる式にお縄となるようなことが隠されているのではないかと勘ぐらざるをえない。



農水水産大臣編目次

  1. 「語らぬまま 松岡農水相自殺 下
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月31日)
  2. 「語らぬまま 松岡農水相自殺 中
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月30日)
  3. 「語らぬまま 松岡農水相自殺 上
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月29日)
  4. 後ろ盾失い衝撃 「大臣、極めたのに」
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月29日)
  5. 「緑機構」前身の元理事自殺 マンション飛び降り 地検、連日聴取
    (出典:2007年5月29日(火)15:44)
  6. 強気一転「まさか」 松岡農相自殺 一方的な幕 批判も 「追い込まれてたのか」]
    (出典:2007/05/29付 西日本新聞朝刊)
  7. 松岡氏、「逃げ切り」濃厚 還元水疑惑 自公、きょう法改正合意
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月11日)
  8. 林野庁所管法人関連団体など農水相側へ1.3億円献金 96〜05年
    (出典:朝日新聞朝刊2007年5月9日)
  9. 事務所・光熱水費の領収書添付 政治活動なぜ阻害  自民の理屈識者ら批判
    (出典:2007年4月22日朝日新聞朝刊)
  10. 松岡農水相の団体9年分の交際費 8600万円使途「白紙」 98年以降毎年増額
    (出典:2007年4月12日朝日新聞朝刊)
  11. 「松岡氏あて100万円」どこへ 仲介後援者に手渡す 都内の経営者
     現金、受け取りはない 松岡氏事務所

    (出典:2007年3月27日朝日新聞朝刊)
  12. 松岡農水相の団体 家賃ゼロでも事務所費高額
     所在地は議員会館 年2500〜3300万円

    (出典:2007年1月10日朝日新聞朝刊)
  13. 松岡農水相事務所見解 照会有無触れず NPO審査会見との矛盾は否定
    (出典:2007年1月03日朝日新聞朝刊)
  14. 松岡農水相に献金集中 鳥インフル自民対策事務局長時 養鶏業者、計1100万円
    (出典:2006年12月08日朝日新聞朝刊)


[語らぬまま 松岡農水相自殺 下]
(出典:朝日新聞朝刊2007年5月31日)

参院選目前地方戸惑い

 「死はあまりに突然で早すぎた……」
 30日午後、熊本県阿蘇市で営まれた松岡利勝・前農水相の密葬。安倍首相の代わりに昭恵夫人が読んだ弔辞に、参院選栃木選挙区から立候補予定の国井正幸農水副大臣も耳を傾けていた。
 国井氏は前夜、栃木県佐野市での総決起集会でマイクを握っていた。直属の上司だった松岡氏を「私の知る限り農政の知識は最も豊かな人」と悼む一方で、「事務所費問題など、あの答弁では国民の理解は得られないだろうと思っていた」と、批判も口にした。改選数が2から1に滅った同選挙区では、民主現職らと厳しい戦いになる。

 内閣支持率が政権発足以来最低まで落ち込む中での、現職閣僚の自殺。その衝撃波が、7月の参院選にどれほど及ぶか、自民党の立候補予定者や地方組織はつかみあぐねているのが実情だ。
 4月の知事選で自民県連が擁立した候補が現職に大敗した神奈川県。県連会長代行の新堀典彦県議は「松岡氏はもっと早く辞職すべきだったし、安倍首相はもっと早くこの問題にけじめをつけるべきだった」と、かばい続けた首相を批判した。

 「内閣支持率はまた下がるかもしれない」(本清秀雄・千葉県連幹事長)、「対応が後手後手に回っている」(加藤南・愛知県連幹事長)、「党全体の印象が悪くなり、無党派層の受けもものすごく悪い」(佐賀県連幹部)。朝日新聞の取材に対しても、厳しい声が各地から上がる。

 違う見方もある。9年ぶりに自民が2人を擁立する東京選挙区(改選数5)。松岡氏が自殺した28日、テレビニュースにくぎ付けの都連幹部からは、「死ななくても」とのため息の一方で、こんな感想が漏れた。
 「気の毒だが、選挙を前に事務所費問題などでこのまま責め続けられてはたまらなかった」「死者を責めるのを嫌うのが日本の風土。支持率は底を打つのでは……」

 投票日までは2ヵ月近くある。「年金問題できちんと謝罪し、一日も早く救済策を決め、党への風向きを変えてほしい」(大阪府連関係者)と、首相の手腕に期待する声もある。
 松岡氏の選挙区の隣、熊本2区選出の野田毅・自民衆院議員は、30日の密葬前、記者団に「自らの命をもって国民におわびされている。非常に重いものだ」と語り、自殺によって疑惑には区切りがついたとの考えを示した。熊本では、参院選と同時に3区の補選も実施される。侯補者調整はこれからだ。

野党 年金追及にシフト

 一方の民主党。30日の党首討論で小沢代表は「自ら死を選ぶなら、きちんと国民に事実を明らかにする勇気をもってほしかった」と語り、弔意を表した以外は、持ち時間のすべてを杜会保険庁改革案と年金問題につぎ込んだ。
 民主、社民、国民新党でつくる「松岡疑惑追及チーム」は、今月17日に「安倍内閣疑惑追及チーム」に名称変更し、首相の任命責任を問う方向にシフトしつつあった。とはいえ、何も語らずに主人公が退場したことへの戸惑いも漂う。
 新潟選挙区で出馬する民主現職の黒岩宇洋氏は、松岡氏自殺直後の28日午後、自らのホームページから松岡氏に触れた文章の一部を削除した。
 その日更新したばかりの「活動日記」で緑資源機構事件に触れ、「松岡大臣も献金をもらっている」との趣旨だった。官製談合の追及は続けるつもりだが、自殺というデリケートな問題を前に、死者の批判は失礼にあたると考えた、という

職員に遺書 謝辞と激励

 農林水産省の小林芳雄事務次官は30日、松岡前農水相の遺書の内容を明らかにした。職員に世話になったことへの礼を述べ、農林水産政策の飛躍への期待と職員の健闘を祈る趣旨が短い文章で記されていたという。

[語らぬまま 松岡農水相自殺 中  農林一筋、権力と金]
(出典:朝日新聞朝刊2007年5月30日)

 自殺した松岡利勝・前農林水産相の通夜が29日夜、熊本県阿蘇市の実家に近い寺で営まれた。

 遺体は同日タ、熊本空港から松岡氏の母(86)が待つ実家へ戻った。母は気丈な様子で、一言だけ「残念な」と漏らしたという。

「阿蘇の棚田が疲弊している」
 「子どもの時に阿蘇の農業を見てきた。つらさは分かっている」、
 松岡氏は阿蘇山のふもとに広がる阿蘇市の支持者たちに、そんな話をよくした。

 土質のよくない水田で稲作をしていた松岡氏の生家は「決して豊かではなかった」(小学校時代を知る元教師)。
 おとなしくて目立たない。やせた体に丸刈り頭。あごがとがり、「らっきょ」と愛称で呼ばれた。
 同窓生たちの小、中学校時代の印象は一様に薄い。当時この地域からはめったに熊本市内の高校には進まなかったが、松岡氏は名門・済々黄に入学した。  その後いったんは防衛大への進学を志したが、身体検査が通らず、鳥取大農学部へ。そこで「代議士」への思いが芽生えた、と幼なじみは話す。

  重鎮に接近・初出馬から「金権」

 69年に農林省に入ると北海道・天塩営林署長などをへて林野庁広報官を最後に退職。90年、旧熊本1区から総選挙に打って出た。
 地ならしは済ませていた。入省後まもなく、自民党農林族の重鎮だった故中川一郎元農相や、その秘書だった鈴木宗男衆院議員と出会うと、農水省内に元農相を支援する「勉強会」を立ち上げ、関係を深めていった。
 阿蘇市内で文具店を営む広瀬進さん(64)は、その選挙に挑む数カ月前の松岡氏の言葉が忘れられない。「(官僚の)自分は使われる身で代議士の言うがまま。自分が代議士になって農業問題に取り組むんです」
 一度でも会った人の名前を忘れることはなかった。「2回目に会った時に名前で呼べば、前から付き合っているように思ってもらえる」と広瀬さんは聞かされた。

 初選挙での訴えは、「政治の浄化」だった。リクルート事件が発覚し、政治不信が高まっていた。
 「いまの政治、水でいうなら汚れて濁ってしまって飲めないんじゃないですか!」
 白いはちまきをしめ、拳を激しく振った。しかし、その選挙から「金権選挙」とレッテルを貼られる。
 当時の支援者も認める。県北部の市議は「初選挙から、しょうゆセットを配った」。別の関係者は「ローラー作戦と称して現金を配ったこともある」と話す。

官僚に「でて来い」地元には仕事

 若手議員時代、農林族の20人余りでつくる「特別行動隊」を率いて有名になった。

 ある農水次官経験者には、当時の大蔵省や外務省に押しかけ、大声をあげた松岡氏の姿が印象深い。官僚に向かって「おい、お前っ! 農林部会に出てこい!」と怒鳴りつけたという。農林族の「最強硬派」として、農水省内に影響を強めた。

 一方、地元では「仕事を持ってくる先生」と歓迎された。
 県北部の小国町などで実施された中山間保全事業。数年前、松岡氏は支持者を集めた国政報告会で「小国に(緑資源機構の)仕事を持ってくる」と公言していた。
 地元の建設会社社長は「工事を持ってきてくれたから、先生、先生とみんな言うようになった」と語す。
 地盤も看板もない松岡氏にとって、農業や土木の政策で地元に実利をもたらす以外に、松岡氏が支持をつなぐ手だてはなかった。
 誇らしげに語ったその大型事業をめぐって、のちに談合捜査が及ぶとは知るよしもなかった。
 念願の農林族の「頂点」に就いたのは昨年9月26日。その夜、東京・霞が関の農水省の玄関をくぐった松岡氏の目は涙でうるんでいた。
 「(安倍)総理から電話がまいりました時には非常に、言葉がでないくらい本当に、感激をいたしました」

 農水省の元幹部は「農林族でも様々な分野に転じる政治家が多い中で、松岡さんは珍しく農林一筋。農水大臣のイスへの思いは強かっただろう」と話す。
 「大臣になってからは、下の者がピリピリしなくなった。『何やってるんだ!』という副大臣のころの口調が消えた」と別の元幹部はいう。
 在任8ヶ月。疑惑が深まった今月、松岡氏の言動から力強さが消えた。11日に業界団体の会合に出た際のあいさつは「魂が宙に飛んでいるような様子」(元参議院議員)だったという。
 農水省の現職官僚の一人は、亡くなった松岡氏を「最後の農林族」と呼んだ。

首相あて遺書 内容を明かす 事務所費には触れず

 安倍首相は29日夜、自殺した松岡前農水相からの遺書の内容を明らかにした。首相は「大変短いものだった。『ありがとうございます』という言葉と『日本の農政について、この道を行けば必ず発展をしていく』という趣旨が書かれてあった」と説明した。事務所費問題については触れられていなかったという。

 「国民の皆様 後援会の皆様」と題する1通の全文も判明=別表。飯島勲・元首相政務秘書官や身辺警護の警察官らあてもあった。
 便箋の一つは、「家族への手紙は、女房が分かるところにありますので、ぜひ探さないで下さい。女房が来るまでは、どこにも触れないで下さい」だつた。

 警察当局によると、遺書のうち1通は警視庁の担当SPらあてで、「ありがとう」などと記されていたという。

「国民・後援会」あて遺書全文

 国民の皆様 後援会の皆様
 私自身の不明、不徳の為、お騒がせ致しましたこと、ご迷惑をおかけ致しましたこと、衷心からお詫び申し上げます。
 自分の身命を持って責任とお詫びに代えさせていただきます。
 なにとぞお許し下さいませ。
 残された者たちには、皆様方のお情けを賜りますようお願い申し上げます。
 安倍総理 日本国 万歳
 平成19年5月28日
 松岡利勝

[語らぬまま 松岡農水相自殺 上
 地元に火種 動揺 談合疑惑「仲間」も離反 2日前「スパッと辞められたらなあ]

(出典:朝日新聞朝刊2007年5月29日)

 松岡利勝農水相(62)の体を乗せた車は28日午7時20分ごろ、東京都新宿区内の斎場に着いた。伊吹文科相らが入り口前で出迎え、硬い表情で遺族と言葉を交わした。その後、ひつぎが斎場内に運び込まれ、安倍首相、小泉前首相ら弔問客が続々と訪れた。

 松岡氏は、豪華なわりに家賃が安いと話題を呼んだ東京・赤坂議員宿舎の11階に住んでいた。この日の昼、約束の時間になってもなかなか下りてこない。迎えにいった秘書たちが部屋に入ると、室内で松岡氏の足が宙に浮いていたのが見えた。

 何が松岡氏を追いつめたのか。

 「松岡氏の周辺の捜査はまったくしていない」。28日、検察幹部らは口をそろえた。自殺の報に検察官たちもひどく驚いた。東京地検が、農水省所管「緑資源機構」の入札談合の事件の全容解明をめざし、強制捜査に着手したばかりの出来事だった。

 24日 官製談合の疑いで機構理事ら6人を逮捕
 25日 松岡氏の地元、熊本県小国町内の機構事務所を捜索
 26日 松岡氏に献金した業界団体幹部が宮崎県小林市で経営する会社を捜索
 捜査が急展開するなか、松岡氏はふだんとはやや異なる動きを見せ始めている。
 25日朝、松岡氏はいつもより早く閣議の場に姿を現し、新聞を読んでいた。朝刊は、機構を舞台にした談合事件を大きく報じていた。
 直後の会見で、記者から「熊本県で実施している別の事業でも官製談合があったのではないか」と問われた。松岡氏は一瞬間を置き、これまでに見せたことのない険しい表情を見せた。  「このような報道がなされること自体が極めて遺憾でありまして」
 「しっかりと推移を見守りたいと思っておりますので、それ以上今はコメントを控えたいと思います」
 途中、原稿を探しながら、珍しくしどろもどろになった。

 ある農水省関係者は言う。
 「捜査対象として浮上している熊本県の自治体の一つは、『役場机の入札まで松岡さんの意向で決まる』と揶揄されるほどの彼の地元。それで相当、追いつめられたのではないか」

実家で墓参 母に「体を大事にね」

 25日の屋、松岡氏は2日後に東京競馬場で開かれる第74回日本ダービーへの来賓としての出席を直前になつてキヤンセルした。皇太子さまと安倍首相が出席するからには競馬を担当する農水相として同席するはずだったが、欠席の理由は伝えられなかった。

 松岡氏は競馬場には向かわず、地元の熊本県に戻った。26日夜、熊本市内の料亭で荒木詔之・元県議会議長(63)らを囲む懇親会に出席した。座を囲んだのは7人。直接、談合事件に触れる会話にはならなかったが、「ナントカ還元水」の話が出た。松岡氏はもっぱら日本酒の杯を重ねた。

 「私も荒木先生のようにスパッと辞められたらなあ」。荒木氏は、市町村合併を機に政界から引退していた。

 つぶやいた松岡氏はこの酒席で、珍しくたばこを手にした。「荒木先生、1本もらっていいですか」と手を伸ばす。「たばこなんか吸うんですか」と聞くと、松岡氏は笑って答えた。「1年に1本ぐらい吸うんです」

 松岡氏はその日午後、阿蘇市内の実家を訪れ、一人暮らしの母親(86)と面会した。「体を大事にしてね」といたわる松岡氏に対し、母親は「あなたこそ大臣なんだから」と逆に息子を気遣ったという。滞在したのは15分ほど。すぐ、父親らが眠る実家近くの墓に参ったという。

 同じ日、政界の「身内」から、松岡氏に厳しい声が飛び始めた。

 「今国会終了後に自ら辞任するべきだ」。衆院予算委員長の金子一義衆院議員はその日昼、地元岐阜県内で、松岡氏の進退に言及した。「捜査が熊本県の松岡大臣の地元に及んでいる状況を受け、内閣改造や閣僚更迭の前に自ら身を処するのが政治家として大事だ」

 ある農水省幹部は言う。「昨年、松岡氏と金子氏は、同じ予算委員会のメンバーで、いわば『お仲間』。仲間にまで辞めた方がいいと言われ、与党はもうかばってくれないと追いつめられたのかもしれない」

 松岡農水相の仮通夜があった東京都新宿区須賀町14の1の「四谷たちばな会館」では、29日午前8時から正午まで弔問を受け付ける。同日正午に出棺、遺体は霊枢車で国会議事堂や自民党本部、農水省などを回って、飛行機で地元の熊本に運ばれる。通夜は同日午後8時から、密葬は30日正午から、いずれも熊本県阿蘇市内牧166の浄信寺で営まれる。喪主は妻初美さん。

[後ろ盾失い衝撃 「大臣、極めたのに」]
(出典:朝日新聞朝刊2007年5月29日)

林野庁関係者

 林野庁出身の松岡農水相自殺。同庁を含む農水省や緑資源機構の関係者は、慌ただしさのなか、松岡氏の影響力と自殺への衝撃を口にした。

 「林野行政の後ろ盾だった。ここまで頑張って、大臣までのぼりつめて、築き上げてきたのになぜ…」。林野庁のある関係者は言葉を詰まらせた。「彼の政界での師匠は故中川一郎氏。中川氏も首をつって自殺した。こしれ以上、党に迷惑をかけると党にも申し訳ないという気持ちがあったのではないか。切腹するつもりで自ら命を絶ったのだろう」と無念さをあらわにした。

 農水省の小林芳雄事務次官は各省の事務次官会議から農水省へ戻った正午すぎに自殺の一報を受け、慶応大学病院へ向かった。午後4時から記者会見。「信じられない思い。それに尽きます」と印象を話した。

 「輸出促進とかバイオマスとか21世紀型農業に取り組んでいこうと、方向をリードされてきた。外交の交渉力もあり、功績、役割は非常に大きかった」と述べた。

 最後に会ったのは先週末の25日。松岡農水相はこのところ、世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉で海外への出張がたて込んでいたが、特別に普段と変わった様子には気付かなかったという。

 一方、官製談合事件の舞台となった緑資源機構。理事と課長の逮捕に加え、二重の衝撃となった。ある機構関係者は「いずれ逮捕されることを感じて自殺したのかもしれない、と思った」と驚きを抑えた様子で話した。また、別の機構関係者は「捜査が地元に及んで、追い込まれたのだろうか」と話す。独占禁止法違反容疑で逮捕された高木宗男元理事は逮捕される前、「(談合事件が)いずれ政治家に及ぶのでは」と話していたという。

 テレビの速報で松岡氏の自殺を知ったという、元機構職員は「あぜんとした。順序としては、自殺よりも大臣をやめる方が先だったのではないか」と、「無責任さ」を指摘した。

 ある元秘書は「何事にも確信を持っていた。だから、こんなことは予想もしていなかった。本当によく勉強していた人だった」と残念がった。

「官邸の会、ぽつん」

 同僚議員 衆議院第1議員会館の松岡氏の事務所には弔問客が相次いだ。

 渡辺公務員制度担当相や大島理森元農水相、深谷隆司元通産相ら同僚議員らも姿を見せた。渡辺氏は23日に官邸で開かれた立食パーティーで松岡氏と同席したという。

 「一人でぽつんと立っていた姿が印象に残っている」と語った。

 所属派閥の代表である伊吹文科相は仮通夜に参列した。「下がっていた(内閣)支持率が回復してきただけに、(報道機関の)何者かの調査で支持率が下がってきたことについても松岡さんの気持ちの中に何らかの影響があったのかな、という気はします」と推測した。

 伊吹氏は松岡氏の自殺後、松岡氏の妻と話したという。妻は「みなさんに助けていただいてご迷惑をかけて、今日もまた遅くまで申し訳ありません」と話していたという。

おわび勧めた 宗男議員、HPに

 鈴木宗男衆院議員は28日、自身のホームページで、自殺した松岡農水相について以下のように記した。(一部略)
 農林水産省のまだ肩書のなかった役人時代からの、35年にわたる付き合いだったが、何ともあっけない永遠の別れだ。

 24日夜、会合で話したのが最後となった。私は松岡大臣に「あす決算行政監視委員会で私が質問するから、国民に心からのおわびをしたらどうか。法律にのっとっている、法律に基づいてきちんとやっていますと説明しても、国民は理解していない。ここは国民に土下座し、説明責任が果たされていませんでしたと率直に謝った方がいい」と進言したら、力なく「ありがたいお話ですが今は黙っていた方がいいと国対からの、上からの指示なのです。それに従うしかないんです」と、弱気な言いぶりだった。

 私はなお、「これからも何かにつけこの話は続くので、早く国民に正直に説明した方が良いと思うよ」と重ねて語すと、「そこまで言ってくれるのは鈴木先生だけです」とほほ笑んでくれた。

業界癒着型最後の人 作家の猪瀬直樹氏の話

 ナントカ還元水や事務所費問題などで、官邸も野党も国民も納得しない理屈を並べたてた。本人はそれが通らないことに気付かないような、ずれたところがあった。族議員として長く林野行政の背後で、農水省の利権を背負っていた。市場経済からほど遠い世界で、時代の流れから遅れて走るランナーのようでもあった。

 小泉政権以前の自民党が、田中角栄、竹下登らに代表される業界癒着型の古い自民党だとすれば、その最後の人が逝ったとも言える。

容疑まだ具体化せず 元東京地検特捜部長の熊崎勝彦・明治大学法科大学院客員教授の話

 過去は、捜査が進み、具体的な容疑が指摘されて、死に追いつめられるケースが多かった。松岡氏は事務所費の間題で追及され、与党内からも批判がおきた。「緑資源機構」の談合で逮捕者が出た法人側からの献金が明らかになったが、具体的な容疑などは何も出ていない段階だった。

 気が強い方との印象を受けていただけに非常に驚いた。説明責任が果たされなかったのは残念だが、命を絶たれたのは気、の毒だ。

かばわれ逃げ場失う
松岡氏の光熱水費問題を追及してきた「政治資金オンブズマン」共同代表、
上脇博之・神戸学院大大学院教授(憲法学)の話


 真相が分からなくなるのが悔やまれる。松岡氏は説明責任を全く果たしていない。首相の政治責任も大きい。自分の内閣を守るために松岡氏をかばった。かえって松岡氏は逃げ場がなくなったのではないか。幕引きはいけない。

 今後も政府、自民党は真相究明に協力するべきだし、野党側も政治献金や政治資金規正法の問題点を引き続き追求していくべきだ。



[強気一転「まさか」 松岡農相自殺 一方的な幕 批判も 「追い込まれてたのか」]
(出典:2007/05/29付 西日本新聞朝刊)

   「疑惑」を自ら封じたのか。28日の松岡利勝農相(62)=衆院熊本3区=の自殺は、不明朗な事務所経費や官製談合事件に絡む業者からの献金など、さまざまな問題が報道されていた最中のできごとで、政界や地元・熊本県に「まさか」と、衝撃が広がった。強引ともいえる政治手法で存在感を発揮し、「政治とカネ」をめぐるうわさも絶えなかった政治家の突然の死。議員会館に残された遺書の中身はほとんど明らかにされておらず、真相は不明のままだ。

 松岡農相は、最後の帰郷となった26日夕、元県議を慰労する熊本市での会合に出席。終始、上機嫌だったが、緑資源機構の官製談合事件に話が及ぶと「間違ったことはしていないから心配すんな」と、表情をこわばらせたという。 この席で、喫煙しない松岡農相が「1年に1本だけ吸うんだ」と周囲にたばこを無心し、元自民党衆院議員の故松野頼三氏の関係者に「松野先生がグラマン疑惑を乗り切ったのは何歳やったですかね」と尋ねた。 「心なしか、お疲れの様子だった」。会合に出席した自民党熊本県連の古閑三博会長はそう振り返り、唇をかんだ。

 自殺の動機は不明だが、緑資源機構の官製談合事件との関連を指摘する向きもある。25日には東京地検が農相の地元にある同機構阿蘇小国郷事務所を捜索。事件と絡む業者からの献金も明るみに出て、自民党県連内部からも「このままでは7月の参院選を戦えない」という、怨嗟(えんさ)の声が上がっていた。  ある建設業者は「推測するしかないが、自らの口を封じようとしたんじゃないか。表にできないこともあったのでは…」と声をひそめた。

 一方、市民からは、疑惑が報道されていた最中の自殺に厳しい指摘が相次いだ。 熊本市のタクシー運転手男性(60)は事務所費や緑資源機構発注事業の談合事件などを念頭に「真相を明らかにしてほしかった。相当追いこまれていたのではないか」と指摘。28日は、参院決算特別委員会で緑資源機構の談合事件などの審議が予定されていたといい、同市内の女子学生(22)は「(自殺は)残念ですが、何か悪いことをしていたのではないかと疑ってしまう」と、冷ややかな見方をした。

[「緑機構」前身の元理事自殺 マンション飛び降り 地検、連日聴取]
(出典:2007年5月29日(火)15:44)

   29日午前5時15分ごろ、横浜市青葉区青葉台のマンション駐車場で、独禁法違反容疑で担当理事らが東京地検特捜部に逮捕された独立行政法人「緑資源機構」(川崎市)の前身、旧森林開発公団の山崎進一元理事(76)が血を流して死亡しているのが見つかった。神奈川県警青葉署は現場の状況などから自殺とみて調べている。

 緑資源機構の官製談合事件をめぐって、東京地検特捜部は26日、山崎氏の自宅を家宅捜索。26日から事情聴取を連日受けており、29日午後も聴取を受ける予定だった。  同署によると、山崎氏はこのマンションに在住。パジャマ姿で、頭から出血しており、救急隊が駆けつけたときには、既に死亡していた。

 調べでは、遺書は見つかっていないが、6階の階段に靴がそろえてあったほか、手すり部分に乗り越えたような跡があった。山崎氏は妻と2人暮らし。この日は午前4時半ごろ起床し、松岡利勝前農水相の自殺を伝える新聞記事について夫婦で話をしたが、変わった様子はなかったという。

 山崎氏は、独禁法違反容疑で逮捕された緑資源機構前理事の高木宗男容疑者(59)の元上司で、退職後は、同機構から公共事業を受注する全国の業者でつくる任意団体「特別森林地域協議会」(特森協、解散)副会長を務めていた。  特森協の政治団体「特森懇話会」は、28日に自殺した松岡前農水相ら林野族の国会議員の資金管理団体に平成14〜17年に計1600万円を献金している。

 山崎氏は、産経新聞の取材に対し「松岡さんだけでなく、林野行政に詳しい人に献金していた。私は事件とは関係ない」と話していた。

[松岡氏、「逃げ切り」濃厚 還元水疑惑 自公、きょう法改正合意]
(出典:朝日新聞朝刊2007年5月11日)

 一連の事務所費問題を踏まえ、自民・公明両党は11日、経常経費の領収書添付を義務づける政治資金規正法改正で合意する。ただ、法改正しても過去の問題には適用されず、松岡農水相の「ナントカ還元水」疑惑は不問に付される。安倍首相は公表ルールがないことを理由に自らの疑惑を晴らそうとしない松岡氏をかばい続けた。その結果、首相が国民に求める「規範意識」を自らないがしろにしてしまった。

 与党の政治資金規正法改正案は、資金管理団体の5万円以上の経常経費支出に領収書の写しの添付を義務づける。首相の一声で提出が決まった。
 一方、「ナントカ還元水」疑惑が発覚したのは今年3月。電気代も水道代もかからない議員会館を事務所とする松岡氏の資金管理団体の政治資金収支報告書に、05年までの5年間に光熱水費計2880万円を計上。民主党議員らが松岡氏の事務所を訪ねても、存在を確認できなかった。

 松岡氏は「各党で公表の基準が決まれば従う」と内訳の公表を拒み、首相も「法律にのっとって適切に報告していると了解している」と追認。首相は4月23日のインタビューで、法改正しても「(過去に)遡及することはない」と主張。政治家の「説明責任」は「今後のルールづくり」に論点がすり替えられた。

 だが、首相は昨年11月のメールマガジンで「空き缶を捨てる子供には、法律で禁止されていなくてもそうした行為は恥ずかしい、やってはいけないのだという道徳や規範意識を身につけさせることが必要」と説いた。
 首相の今回の姿勢はそれとは矛盾しないのか。
 お茶の水女子大の内藤俊史教授(道徳教育)は「法律さえ守れば何でも許されるという理屈は、法律の土台となる社会の規範意識をないがしろにしかねない。首相は松岡氏問題を自らの『規範意識』で語ってもらいたい」と指摘する。

 内閣の危機管理面でも疑問がある。危機管理コンサルタントの田中辰巳さんは「規正法の立法趣旨は政治資金の透明化だ。小手先の対応では政治不信という『毒』が政権内に蓄積し、政治や社会のモラルハザードを引き起こす」と語る。 (山田明宏)

[林野庁所管法人関連団体など農水相側へ1.3億円献金 96〜05年]
(出典:朝日新聞朝刊2007年5月9日)

 林野庁所管の公益法人と表裏の関係にある七つの政治団体や林道業者でつくる任意団体などから、松岡農林水産相側が96〜05年の過去10年間に計約1億3千万円の政治献金を受けていたことが8日、参院農水委員会で明らかになった。

 紙智子参院議員(共産)が官報などをもとに独自にまとめ、同委員会で指摘した。七つの政治団体の代表者は全国森林土木建設業協会や全国木材組合連合会など林野庁所管の公益法人の役員が兼ねている例が大半を占め、3280万〜676万円を献金していた。松岡農水相は見解を問われ、「政治資金規正法に基づいて献金頂いた。適切にご報告申し上げたもの。それ以上申し上げることはない」と答えた。

[事務所・光熱水費の領収書添付
 政治活動なぜ阻害  自民の理屈識者ら批判]

(出典:社説、2007年4月22日朝日新聞朝刊)

 「自由な政治活動ができなくなる」。松岡農水相の事務所費、光熱水費問題をきっかけに始まった政治資金規正法の改正論議で、自民党はこんな理屈を持ち出して経常経費の領収書添付に難色を示している。家賃や電気代などの内訳が公表されると、なぜ政治活動が自由でなくなるのか。「李下に冠を正さず」と繰り返す安倍首相の言葉とは、かけ離れている。

 政治資金収支報告書の支出は、事務所費や光熱水費などを含む経常経費と、組織活動費や選挙関係費などの政治活動費に分かれる。
 神戸学院大大学院の上脇博之教授(憲法学)は「電気代や水道代の領収書で政治活動が制限されるはずがない。自民党は会食費などを経常経費に混ぜていると自白したようなものだ」と話す。
 小林良彰・慶大教授(政治学)は「会食費だとしても、店の領収書が公表されるだけで、同席者の氏名は表に出ない。政治活動が阻害されるというのは筋が通らない」。公明党も「会食費は政治活動費だ。おかしい」と反発している。
 岩井奉信・日大教授(政治学)は「民間企業では、領収書のない支出は必要経費とされない」とあきれる。

 自民、公明の与党プロジェクトチームが政治資金規正法改正の議論を姶めて約ーカ月。4月上旬時点では、領収書の添付が不要とされている経常経費にも、1件5万円以上の支出には添付を義務づけるのはやむを得ないという意見が目立った。だが、19日の会合で、自民党が抵抗し、結論は連休明けに持ち越された。

 市民団体「政治資金オンブズマン」(大阪市)のメンバー、阪口徳雄弁護士は「まさか経常経費に不正はないだろうとの想定で不要だっただけで、本来、領収書添付は当たり前だ」と憤る。

 自民党内では、「事務作業が煩雑になる」「関係者との会合場所や人数は特定されたくない」といった声が噴出。公明党に対しては「制度を変えると、新たに『罪人』が出るおそれがある」とも伝えたという。

 参院選に向けアピールしたい公明は、自民に「規制対象を資金管理団体に限定してはどうか」との妥協案を示した。
 これに対しても、識者らは「ほかの政治団体が抜け道になるだけだ」と口をそろえる。実際、佐田・前行革担当相は昨年末、別々の政治団体の経常経費や政治活動費の付け替えをしていた問題で辞任に追い込まれた。
 仮に経常経費の領収書の添付義務が、政治活動費と同様に「5万円以上」になっても、十分とは言い切れない。
 小林教授は「額を区切ると、1件分の支出をその金額以下に切り分けて公表を拒む可能性がある。すべての領収書を添付するべきだ」と言う。
 上脇教授は、松岡氏の9年間の交際費総額8600万円の使途がまったく示されていない問題を挙げ、「経常経費も政治活動費も1万円以上はすべて公表するべきだ」。
 岩井教授は「野党にも『やぶへびは嫌だ』との警戒感が根強いが、今こそ抜本的に法改正する契機だ」と指摘する。
 阪口弁護士は言う。
 「これほど国民にわかりやすい形で疑念が生じたことはない。リーダーシップを発揮しない安倍首相の政治姿勢を疑う」

議員秘書らは「義務化でも手間増えない」「手の内をパラしたくない」

 領収書添付をめぐる議論を、実際の事務を任されるケースが多い国会議員の秘書らはどう見ているのか。
 資金管理団体の支出総額が年間1億円規模のベテラン自民党議員の秘書は「現行制度でも領収書の保管は必要で、添付が義務化されても事務負担が極端に増すとは思わない」と話す。「領収書を探すのがたいへんだというのは会計事務をよく知らない先生方の思い込みにすぎない」
 一方、ある現役閣僚の秘書は「内訳を明らかにしなくていいからこそ、事務所費は使い勝手がいい。すべてをオープンにしていたら選挙は戦えない」と打ち明ける。
 例えば、有力後援者に不幸があり、10万円の香典を出すこともある。本来なら領収書を添えて政治活動費に計上するべきだが、「選挙区の対立候補に手の内をバラしたくないから事務所費に潜り込ませる」。
 かつて自民党だった野党議員の秘書は「添付すべき領収書の金額に基準を設けても透明性は担保されない」と言い切る。「1回10万円の支出も領収書を3枚に分けてもらえば1枚当たり5万円以下に納まる。公にしたくない会合の交際費は、実際にそう処理している」

[松岡農水相の団体9年分の交際費 8600万円使途「白紙」 98年以降毎年増額]
(出典:2007年4月12日朝日新聞朝刊)

 松岡農林水産相の資金管理団体が、97〜05年の政治資金収支報告書の「交際費」に記載した総額約8600万円の使途を全く記載していないことが分かった。1件5万円以上の交際費は、金額や支出先などを記載するよう義務づけられているが、高額なのに1件も公表されていないのは異例。事務所費や光熱水費疑惑の説明を避け続ける松岡氏。9年間にわたる交際費は毎回、「5万円未満」だったのか。

1件5万円以上なら記載義務

 収支報告書の支出欄は、事務所費や光熱水費などを含む「経常経費」と、組織活動費や選挙関係費などの「政治活動費」に分かれている。
 政治資金規正法施行規則によると、交際費は行事費や渉外費などとともに組織活動費に含まれる。1件5万円以上の支出は、領収書を添付し、支出目的▽金額▽日付▽支出先などの内訳を収支報告書に記す決まりだ。ただ、どんな支出を交際費に計上するかについては、提出者側に任されており、総務省は「実態に基づいて各団体が判断すること」としている。

 資金管理団体「松岡利勝新世紀政経懇話会」は、05年の収支報告書の組織活動費として、交際費2104万円、組織対策費792万円、渉外費752万円を計上している。
 組織対策費については「役員会/5万2千円/7月19日/○○」(○○は店名)といった内訳を25件、渉外費も同様の内訳34件を記載している。だが、交際費は総額しか記しておらず、いつ、どんな目的で、だれに、いくら支出したのかが、不透明になっている。
 交際費は、98年の245万円から毎年増え続け、05年には2104万円。交際費を計上し始めた97年からの9年間で総額8648万円にのぼる。どの年も内訳がなく、支出の実態が年々わかりにくくなっている。
 また、松岡氏が代表を務める「自民党熊本県第三選挙区支部」の収支報告書では、01年に交際費として149万円を計上したが内訳は記載せず、02〜05年は計上していなかった。「松岡利勝後援会」も05年に交際費223万円を計上したが、内訳は載せていなかった。

 安倍内閣の閣僚や副大臣、政務官ら計71人の資金管理団体の収支報告書を見ると、会食費や贈答品費を交際費として計上している例が多い。
 05年に1千万円以上の交際費を計上していたのは、松岡氏を除くと、安倍首相(1002万円)と麻生外相(2637万円)の2人だけ。
 安倍氏は慶弔費や贈答品費として計約430万円分、麻生氏も料亭での会合費など計約1200万円分の内訳をそれぞれ記載している。いずれも交際費の約半分の使途が明確になっている。

 松岡氏と同じように、交際費の内訳を記していない人もいたが、松岡氏ほど高額で内訳のないケースはなかった。
 5万円以上の支出は1件もなかったのか。松岡事務所に文書で説明を求めたが、「こういう件に関しては取材に対してお答えしていない」との回答だった。

[「松岡氏あて100万円」どこへ 仲介後援者に手渡す 都内の経営者
 現金、受け取りはない 松岡氏事務所]

(出典:2007年3月27日朝日新聞朝刊)

 松岡農林水産相の後援者に対し、都内の会社経営者が「松岡氏への資金協力」として渡した現金100万円が使途不明になっていることが分かった。後援者は、経営者に「松岡氏に渡したが、今は私が使ったということにしてほしい」と説明。これに対し、松岡事務所は現金の受け取りを否定している。100万円はどこに消えたのか。

 この後援者は、インドとの交流・親善を目的とした任意団体「インド文化協会」の会長(74)。松岡氏と同じ熊本県出身で「長い間おつきあいがある」(松岡氏)。出資法違反容疑で捜索された資産運用会社の関連団体WBEFが松岡氏のパーティー券を購入する際に仲介をしたり、WBEFのNPO法人申請の審査状況を内閣府に照会するよう松岡事務所に要請したりしたことが明らかになっている。
 経営者によると、05年2月、仕事で付き合いのあった会長から松岡氏への資金協力を頼まれ、都内にあるインド文化協会の事務所で現金100万円を会長に手渡したという。翌3月には、閣僚経験のある元自民議員あてにも40万円を支出したと証言。いずれの支出も同社の帳簿に記録が残っているという。元自民議員の政治資金収支報告書には、会社が支出した翌日付で同額の記載がある。
 その後、松岡氏をめぐってパーティー券購入や、事務所費をめぐる疑惑が相次いで浮上。このため、経営者は今年2月と3月、2度にわたって会長に電話をし、「あの100万円は松岡氏に渡したのか」と確認を求めた。会長は松岡氏に渡したことを認めたうえで「(松岡氏は)今、国会で大変だ。渡さずに私が使ったという話にしている」などと答えたという。
 3月15日に経営者と同社役員が会長と会談した際にも、会長は「(100万円が松岡氏側に)いっているのは間違いない」「今回のことで、松岡氏にずいぶん貸しをつくった」などと語っている。
 会長は朝日新聞の取材に対し、現金を受け取った事実は認めたものの、松岡氏に渡したかどうかについては「記憶がはっきりしない」「話したくない」などとしている。

松岡事務所の話 その会社は存じ上げません。政治資金については収支報告書記載のとおりです。

仲介の後援者 松岡さんが困る・私が使った・語したくない

 インド文化協会の会長は朝日新聞の取材に説明をくるくると変えた。主な一問一答は次の通り。

【3月22日】
-100万円を松岡氏に渡したのは事実か。
「それは勘弁してください。私が政界のいろんな人に資金協力をしていても、(政治資金収支報告書に)あげてない」
-松岡氏への資金提供だと偽って金を集めたわけではないと。
「そうではないが、松岡さんが困ってしまう。何とかこらえてもらえませんか」
-収支報告書に載せていれば問題ない。
「私からいってたということになるんで」

【同23日】
-(会社経営者に対し)本当は松岡氏に渡したのに、自分が使ったことにしてほしいと言っているようだが。
「現在の記憶では、この100万円を渡した覚えはありません」
-何のための金だったのか。
「パーティー券などではなく、政界工作の資金。陳情を受けると接待費などが必要だが、お願いする先生は松岡さんだけではない。詳しく話せないが、松岡さんにはたぶん渡してないと思う」
-渡していて収支報告書になければ問題だ。
「私が使ってしまいました、ということです」
-政治家に渡すと言いながら、自分の金にしたということか。
「私が使ったというのは取り消さねばならない。記憶にありません」
-詳しく話した方がいいのでは。
「……」
-会社には、繰り返し松岡氏に渡したと説明している。
「会社に(松岡氏に渡したと)話しているのに、いま記憶がないというのはおかしい話ですね。『話したくない』としておいてください。今は、そう言うしかない」

[松岡農水相の団体 家賃ゼロでも事務所費高額
 所在地は議員会館 年2500〜3300万円]
(出典:2007年1月10日朝日新聞朝刊)

 松岡農林水産相(自民、衆院熊本3区)が代表を務める資金管理団体「松岡利勝新世紀政経懇話会」が01〜05年、家賃のかからない衆議院議員会館を事務所の所在地としているにもかかわらず、年間約2500万〜3300万円を事務所費として支出していたと、政治資金収支報告書に記載していることが分かった。家賃支出がないのに数千万円の支出は極めて異例。朝日新聞の取材に対し、松岡農水相の事務所から具体的な回答はなかった。

 国会議員の事務所経費をめぐっては、佐田玄一郎前行革担当相が代表を務める政治団体が事実上実体のないとみられる事務所を事務所所在地として収支報告書に記載し、政治団体が発足した90〜00年に事務所費など約7800万円を支出していたことが昨年末に発覚。佐田氏は、別の政治団体の支出を付け替えるという「不適切な会計処理があった」と認め、閣僚を辞任している。

 収支報告書によると、この団体は01年に2642万円、02年に2475万円、03年に2632万円、04年に3166万円、05年に3359万円を事務所費として支出。いずれの年も人件費とほぼ同じ額となっている=表。

 総務省によると、事務所費として計上されるものは、事務所の家賃のほか、火災保険などの保険料、電話使用料、切手購入費、修繕費など事務所の維持に通常必要とされるものとなっている。

 政治団体の支出については、政治活動費には1件5万円以上に限り収支報告書に領収書の添付が求められるが、事務所費や人件費など経常経費には領収書の添付は義務づけられていない。

 松岡農水相は昨年、資金管理団体が福岡県警から出資法違反の疑いで家宅捜索を受けた福岡市のコンサルティング会社の関連団体からパーティー券代として100万円を受取ったにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載していなかったことが発覚。松岡農水相は直後の会見で「直接、関連団体とのつながりはない」と関連を否定したが、その後、松岡農水相の秘書が内閣府に対し、関連団体のNPO法人申請をめぐる審査状況を照会していたことが判明している。

 松岡農水椙の事務所は、朝日新聞の文書による質問に対し「9日中の回答は時間的に困難」としている。

[松岡農水相事務所見解 照会有無触れず NPO審査会見との矛盾は否定]
(出典:2007年1月3日朝日新聞朝刊)

 松岡農水相の秘書が、福岡県警の家宅捜索を受けた会社の関連団体のNPO法人申請をめぐり、内閣府に審査状況を照会していたとする内部文書が作成されていた問題で、松岡農水相の事務所は1日、内閣府に働きかけをした事実を否定したうえで「記者会見と矛盾する事実はない」との見解を文書で公表した。しかし、内閣府に照会した事実の有無については言及しなかった。

 この問題は、朝日新聞が1日付朝刊で報じた。松岡農水相側が関連団体からパーティー券代100万円を受け取っていたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載していなかった事実が昨年9月の閣僚就任直後に発覚。松岡農水相は記者会見で、献金は受けたが、自分も事務所も関係者と接触したことや働きかけをしたことはないとしていた。

 内閣府の内部文書には、松岡農水相の秘書から審査状況の照会があったことや、「よろしくお願いしたい旨連絡」などと記載されている。
 これに対し、松岡農水相側は、「(関連団体の)NPO法人申請に関して内閣府に働きかけをした事実もありません」と説明。さらに、「記事を前提にしても」としたうえで、「秘書が『審査状況について照会』したとあるだけで、いわゆる働きかけをしたようなことは書かれておりません」と述べている。
 今回の回答では、内閣府に照会した事実があったかどうかについて触れていない。また、文書には審査状況の照会だけでなく、秘書から「よろしく」との趣旨が記載されていたが、その点についても言及されていなかった。

「相次ぐ不祥事 政権末期症状」 民主・小沢代表

 民主党の小沢代表は1日、都内の自宅での新年会であいさつし、NPO法人申請をめぐり松岡農水相の秘書から照会を受けたとする内部文書を内閣府が作成していたとの朝日新聞報道を念頭に「今日も閣僚の不祥事が報じられている。国務大臣や税調会長が相次いで辞任し、3ヵ月間で安倍政権は末期的な症状を呈し始めている」と指摘。本間正明・前政府税調会長や佐田玄一郎・前行革担当相の問題も含め追及を強める考えを示した。  小沢氏は、夏の参院選について「野党で過半数を取り、政治転換の第一歩にしたい」と述べた。

[松岡農水相に献金集中 鳥インフル自民対策事務局長時 養鶏業者、計1100万円]
(出典:2006年12月08日朝日新聞朝刊)

 松岡利勝農林水産相=衆院熊本3区=の政治団体が昨年、茨城県などで鳥インフルエンザが発生した直後の約3ヵ月間に、養鶏業者十数社とその関係者から総額約1100万円の政治献金を受けていたことが分かった。松岡氏ば当時、自民党鳥インフルエンザ対策本部の事務局長を務めていた。献金は養鶏業者が農水省に業界保護のための陳情攻勢をしていた時期で、献金先は松岡氏に集中しており、献金業者は朝日新聞の取材に対し「業界の保護に理解のある松岡さんを応援したかった」と話している。

 松岡氏が代表を務める二つの政治団体の05年分政治資金収支報告書について、二つの業界団体の約40人の役員と、関連業者からの献金を調べた。
 松岡氏の政治資金を管理する資金管理団体には7業者の役員やその親族ら11人から総額約430万円の献金があった。松岡氏が支部長を務める「自民党熊本県第三選挙区支部」には、大手のグループ企業6社と、ほかの6業者から総額約700万円を献金していた。
 献金は、昨年6月末に茨城県で鳥インフルエンザ発生後の翌7月下旬から10月下旬に集中。業界団体はこの間、鳥インフルエンザ対策で国の補償が得られる鶏の殺処分や、感染していない鶏へのワクチンの予防的使用の承認などを強く求める要望書を数回にわたって農水省に出していた。
 二つの業界団体の役員らから自民党鳥インフルエンザ対策本部の松岡氏以外の議員への寄付は、一部の役員が以前から地元選出の議員に年数十万円の献金を続けてきた程度で、そのほかは目立ったものはなかった。
 パーティー券については、業界団体でつくる「日本養鶏政治連盟」が、ほかの農水族の自民党議員などのパーティー券とともに松岡氏から昨年末に150万円分を購入していたほか、業界団体の役員が経営する2社が計140万円分を購入していた。
 業界団体の役員で自らも松岡氏に寄付した業者は一連の献金について、「個々の業者の判断で、組織的にしたわけではない」としている。

「頼んでいない」

 松岡氏は「(対策本部事務局長と政治献金について)それとこれとは関係ない。直接、自分から(献金を)頼んだこともない。(業界団体の意向を)尊重すべきだと言ったこともない」などと話している。松岡氏は林野庁OBの農水族で、農水省の政務次宮、副大臣を歴任し、安倍内閣で初入閣した。

業者「松岡氏に頼るしか」

 「我われの要望を聞き入れてもらえる望みがあるのは松岡さんだ」
 松岡農水相に献金した業者は、そう話す。
 まとまって政治との結びつきを持つことがなかったとされる養鶏業界が、転換を迫られたのは04年初め。きっかけは、国内では79年ぶりに発生した鳥インフルエンザだった。大手業者が廃業に追い込まれるなど、業界に大きな衝撃を与えた。
 業界は政治とのパイプを強くするため、05年3月に政治家への支援団体である「日本養鶏政治連盟」を設立した。そこへ前年に続いて鳥インフルエンザが発生。業界は、ワクチンの予防的使用の承認や国が補償する殺処分などを繰り返し農水省に求めた。
 これに対し農水省は、ワクチンは鶏の症状を抑えるだけで感染を完全に防ぐことができず、かえって感染の発見を遅らせる危険があるとして認可などに慎重な姿勢を示している。また、殺処分についても全体の6割にとどまった。ウィルスが見つからなかった鶏舎の鶏の扱いは業者に任せたため、4割は業者が自主的に処分し、補償金よりも低額の助成金を国が出すことで決着した。
 業界団体と農水省のせめぎ合いの間に、献金が集中したのが松岡氏だ。

 ある業者は話す。
 「それまで頼ってきた自民党の閣僚経験者が昨年離党した後は松岡氏に頼るしかなかった」
 これに対し、業界団体の役員は「特定の先生を支援しているつもりはない。サルモネラ菌やインフルエンザ、中小経営者の育成など課題が多いので、パーティー券の購入先は農水問題に明るい先生や地元に熱心な先生など2けたに上る」と説明する。

Initially posted July 6 & 9, 2007.