警察官僚(国民からの行政の受任者)の犯罪備忘録

文中の茶色文字は筆者が書き加えた部分であることは前節の場合と同じであり、やはり原文と区別して読まれたい。



[容疑者死亡は取調官誤射−神奈川県警に賠償命令]
(出典:2002年11月22日日本経済新聞朝刊)

「自殺」の主張覆す 証拠隠滅、厳しく指摘 横浜地裁民事訴訟判決
 神奈川県戸部署で1997年11月、銃刀法違反の疑いで取調べを受けていた男性(当時55)が押収品の拳銃で自殺したとされる事件で、男性の遺族が、警察官の過失を訴え、県に慰謝料など920万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、横浜地裁であった。桜井登美雄裁判長は「取調べ中の警察官が拳銃の引き金を引いて男性を死亡させた」と警官の過失を認定し、県に5百万円の支払を命じた。

神奈川県に賠償命令
 この事件をめぐっては、県警側は「警察官の目を盗んで男性が自殺した」と主張。一方、男性の遺族は「自殺ではなく取調べ中の警官に撃たれた」として、取調べを担当していた当時の同署巡査部長を特別公務員暴行陵虐致死などの罪で2000年3月に横浜地検に告訴したが、同地検は同年十月、「証拠上の事実が認められない」として巡査部長を不起訴処分にしている。
 今回の民事訴訟で「警察官の過失」が認定されたことで、今後、横浜地検が刑事事件として再捜査に乗り出すことになりそうだ。
 判決で桜井裁判長は「取調べ中という状況の中では巡査部長が拳銃の引き金を引いた可能性が極めて高い」と指摘。その上で「巡査部長が男性を射殺する動機も見当たらず、密室の中の出来事として巡査部長が誤射したか拳銃が暴発したと推定するのが妥当」と判断し、取調官だった巡査部長の重過失を認定した。
 さらに「事件発生直後から、現場となった取調室や証拠品について事故の痕跡を消し去ったり、証拠品に手を加えるなど不公正・不公平な偏狭な捜査を行った」と県警の捜査手法を厳しく指弾した。
 この事件では、遺族側が「警察官が取り調べに非協力的だった男性を脅す目的で、証拠品の拳銃を男性に提示し、ロシアンルーレットなどをして男性を誤射した」と主張。「仮に警官が通常の取調べを行っていたとしても、実弾の管理や男性の行動監視に過失があった」として、県を相手取り損害賠償を求めて提訴していた。

「父報われた 墓前に報告 死亡男性の娘が会見」
 「裁判に勝ち、父も報われた。判決内容を父の墓前に報告したい」−−。死亡した男性の長女(27)は判決後、横浜市内で記者会見し、時折笑みを浮かべながら興奮をおさえた淡々とした様子で勝訴の感想を語った。
 長女は「神奈川県警側の主張がコロコロ変わり、悔しい思いをした」と裁判を振り返り、「警察官が撃ったことまで認められるとは思わなかった」と予想外の判決に驚きを示した。県警に対しては「ずっと信じられなかった。人間らしくきちんと謝ってもらいたい」と不信感をあらわにし、「今後は警察の内部をかばう体質を変えてほしい」と要望した。
 会見に同席した原告側の弁護士も「望みうる限りの最高の内容。画期的な判決だ」と評価した。
(警察官の仕事をきちんとすることは実に大変なことだろう。私たちの教育や家庭・人口構成・社会のあり方の変容とともに、犯罪の質が変化しており、これらのひずみのすべてが次から次へと警察官の仕事に皺寄せされているように思う。それだけに、警察官には敬意をもって接したいと思う。しかし、警察の取調室という密室で起きただけに、この事件は悲しく敬意をぐらつかせる。警察の身内をかばう体質を棄て、国民から閉ざされた警察から国民に開かれた警察になって欲しい。そのためにも、次の「視点・争点」での主張を受け入れる必要があるだろう。)



[犯罪暦漏えいの巡査部長を減給−警視庁]
(出典:2002年11月8日日本経済新聞朝刊)

 警視庁は8日、元警察官から頼まれ、犯罪暦などの個人情報を漏らした元丸の内署銃器薬物対策課巡査部長(47)を減給百分の十、1ヶ月の懲戒処分とした。
 同庁によると、巡査部長は1999年10月、元警視庁巡査部長の行政書士から相談を受け、事件関係者の犯罪暦を紹介し、情報を漏らしたという。巡査部長は地方公務員法違反(情報漏えい)の疑いで書類送検された。(以下、省略)。



[警察は情報公開の聖域か−浅野知事が提起した問題]
(出典:2000年10月22日日本経済新聞朝刊)

 宮城県の浅野史郎知事が投じた一石が、波紋を広げている。「警察は情報公開の聖域でいいのか」という問題である。
 来年4月から国の情報公開法が施行され、警察庁も情報公開の対象になる。これに合わせて都道府県でも、警察本部を対象に加える情報公開条例の改正作業が進んでいる。これまでの条例改正では、いずれも国の制度を見習って、情報を公開するかどうかについて警察の判断を尊重する規定が置かれた。
 ところが、浅野知事が9月の宮城県議会に提出した条例改正案には、この規定がなかった。県警が猛反発し、県議会は県警の意向を酌んだ修正案を可決した。しかし浅野知事が異例の再議権を行使して拒否、知事案も否決され、同県の条例改正は仕切り直しとなっている。
 問題の核心は、行政への国民の監視・参加を後押しするという情報公開制度の趣旨と社会の安全を守る警察の仕事の特殊性とをどう調整するかにある。
 国の情報公開法は、国の安全にかかわる外交・防衛情報と並んで、社会の安全にかかわる捜査情報に特別の仕掛けを作った。行政機関の長が公開すると問題が起きると判断し、それに相当の理由があれば、公開しなくていいという規定である。
 もし、情報公開を拒否して裁判になっても、行政機関側はその判断に相当の理由があることを明らかにするだけで請求を退けられる。裁判所の判断の範囲に枠をはめ、情報を保護しようという考えに基づく。
 外交・防衛情報を特別扱いするには合理的な理由がある。外交・防衛に責任を負うのは政府であり、最終的に決するのは国民であるというのが民主国家のルールだ。そのような政治判断を裁判所に白紙で任せるわけにはいかない。裁判所に十分な知識や訓練があるとも思えない。
 だが、捜査情報は事情が違う。もともと事件捜査に政治的な判断は不要であり、加えるべきではない。刑事裁判や逮捕状などの令状審査を通して、裁判所は刑事事件の判断に習熟しているはずだ。だから外交・防衛情報のように裁判所の判断に枠をはめる必要性は乏しい。
 情報公開法の制定に合わせて刑事訴訟法が改正され、刑事事件の書類と押収物はそっくり情報公開法の適用除外となった。捜査情報を特別扱いして保護する意味はますます薄れている。
 浅野知事が投げかけたのは、特別扱いを認めれば、捜査情報に名を借りて情報隠しが行われるのではないか、それは県民にとっても警察にとってもプラスだろうか、という疑問である。
 「犯罪捜査の秘匿性を強調するあまり、警察行政が閉鎖的になるとともに、本来公開すべき情報が公開されないおそれがある」。警察刷新会議は緊急提言で、不祥事を生んだ警察の閉鎖的体質をそう指摘した。「捜査情報が漏れ、県民の安全が守れない」という警察の主張は、この指摘がぴたりと当てはまる。
 社会の安全と秩序の維持は国民全体にとって重大な利益であり、そのため刑事事件や警備計画の情報を保護する必要は、一般の行政機関に比べはるかに高い。だが、秘密保護を壁にして、警察は外部からうかがい知れない「独立王国」を築いてきたと批判されてもやむを得まい。
 もともと警察は、民間から選ばれた公安委員会が管理に当るという独立性の高い行政組織である。知事からも議会からも独立であることは、警察運営の中立性を維持する上で重要なことだ。だが、その独立が独善につながるおそれも否定できない。本部長の指示で警察官の覚せい剤使用をもみ消した神奈川県警事件は、ブレーキの利きにくい警察組織の体質を示すものだ。
 独立性が高い組織であればこそ、国民へ情報を公開する必要性も高い。警察刷新会議が「情報公開で開かれた警察を」と提言したのは、そのような理由からである。警察の予算の執行について国民の間に根深い不信感がある。あまり捜査の秘密を振り回すと、このような不信感を払しょくする道を自ら閉ざすことになりかねない。
 国民の知る権利と捜査情報の保護は、決してオール・オア・ナッシングではない。具体的に捜査にどのような支障が出るのか、保護措置として何が必要か、乱用の歯止めはあるか。双方が知恵を絞る余地はまだある。
(出典:日本経済新聞2000年10月22日朝刊「視点・争点」欄
●●論説委員 藤川忠宏●●)



[神奈川県警の不祥事相次ぐ]

(1999年)
神奈川県警の不祥事が次々と発覚し、警察不信が募った。
9月2日:厚木署員による集団暴行事件が発覚。
9月5日:相模原南署の元巡査部長が押収品のネガフィルムを基に女子大生を脅迫していたことが判明。
9月7日:警察庁は本部長らを減給処分。
9月22日:警部補(37)が覚醒剤の使用を認めながら県警は逮捕せず、別の理由で諭旨免職にしていた疑惑が発覚。
10月7日:本部長が辞職、警務部長を更迭。
11月4日:覚醒剤使用容疑の元警部補を逮捕。当時の本部長が証拠隠滅を了承していた疑いが表面化。
10月14日:本部長らを書類送検。
10月15日:戸塚署の巡査部長を女性警察官の脅迫未遂容疑で逮捕、懲戒免職にしたと発表。
(出典:FUKUSHI's Web Page ザ・20世紀


Initially posted August 16, 2003.Updated October 20, 2004