[環境ISOのしくみ]

 EU閣僚理事会は93年3月、EC規則EMAS(Eco-Management and Audit Scheme)を採択し、95年4月から制度をスタートさせた。これはEU内の製造業に適用される。また、96年9月には企業の原材料調達から生産・販売・製品の廃棄まで環境に与える影響を管理・改善するための国際標準規格ISO14000シリーズ(以下で "ISO14000S"または"環境ISO"と呼ぶ)が発効した。EMASは環境管理システム規格ISO14001の採用を決定しているので、ISO14001は唯一の外部認証用の国際規格として活用されている。

 「持続型農林水産業」は確固たる保護政策の対象とされるべきであるが、その要件に合致することの立証努力は農林水産業みずから負うべきである。もし、農林水産業に従事する企業や組織がISO14001を取得し、かつその事業が持続型農林水産業に適合した方法で行われていることが外部の第三者機関によって認証されるならば、環境消費税法もその認証を認知し、再生材割合の判定基準に援用することが現実的であると考えられる。このような観点から、以下、環境ISOのしくみを見てみたい。なお、独立行政法人 中小企業基盤整備機構の環境・安全対策→各種資料のなかの環境管理・監査制度は大変参考になる。また、財団法人 地球環境センター(GEC)では環境マネジメントシステム(EMS)研修を行っている。

1、ISO14000Sの認証を得るとはどういうことか?

 ISO14000Sとは「環境マネジメントシステム」に関する国際規格である。これは国際規格を扱う非政府組織であるISO(国際標準化機構)が定めたものである。企業や組織がISO14000Sの認証を得るとは、企業や組織の「環境マネジメントシステム」がISO14000Sの定める規格に適合していることを第三者機関が審査し認めることを意味する。この審査・認証を行うのが審査登録機関である。さらに、この審査登録機関を認定・登録する団体がJAB(財団法人日本適合性認定協会)である。現在、日本では環境ISOの審査登録機関は30余り、そのうち20強がJABに登録されている。審査登録機関の認証を得ると、その認証は国際的に通用する建前となっている。JABは審査登録機関の認定及び登録の他に、審査員研修機関の認定及び登録、認証を受けた適合事業者の登録、海外の認定機関との相互承認の推進などの仕事を行っている。

2、ISO14000Sの適用範囲

 ISO14001はその序文で「この規格は、あらゆる種類・規模の組織に適用でき、しかもさまざまな地理的、文化的、社会的条件に適応するように作成した」と述べている。また、その「適用範囲」では、次のような事項を行おうとするあらゆる組識に適用できるとしている。
(1) 環境マネジメントシステムを実施し、維持し、改善する
(2) 表明した環境方針との適合を保証する
(3) その適合を他者に示す
(4) 外部組織による環境マネジメントシステムの審査登録を求める
(5) この規格との適合を自己決定し、自己宣言する
したがって、農林水産業に従事する組織である協同組合などもISO14000Sの認証を受けることが可能と考えられる。

3、規格が要求する環境マネジメントシステムの要素

 ISO14001の構成は、ISO9000品質保証の国際規格のように次のようなPlan-Do-Check-Actionというサイクルを採用しており、継続的改善を指向する要求事項を掲げている。つまり、ISOの環境マネジメントシステムとは以下の要素を含むダイナミックなシステムを意味する。以下の項目番号「4.X」はISO14001の見出し番号を指す。
  • 4.2 環境方針(Planに該当)
  • 4.3 計画(Planに該当)
  • 4.4 実施及び運用(Doに該当)
  • 4.5 点検及び是正措置(Checkに該当)
  • 4.6 経営者による見直し(Actionに該当)
    これらの要求事項は規格の趣旨に沿う限り、各組織がその業種・業態に適したシステムを独自に構築できるような柔軟性をもっている。以下の4から7では、この見出区分にしたがって環境マネジメントシステムの各要素を見ていこう。

    4、4.2環境方針の要件は

     ISO14001の要求する環境方針は次の点に留意して策定される必要がある。
    (1) 環境方針が組織の活動・製品・サービスの性質・規模・環境影響にふさわしいこと
    (2) 環境マネジメントシステムの継続的改善や汚染予防の約束を含むこと
    (3) 関連する環境の法規制や、組織独自の遵守事項を含むこと
    (4) 環境目的や環境目標を設定し、見直すしくみを含むこと
    (5) 環境方針は文書化され、実行され、維持され、かつ全従業者にいきわたっていること
    (6) 環境方針は一般の人にも入手可能であること
    環境方針を定めるのは組織のトップであっても、それは組織の全構成員が自分のものとしている必要がある。

    5、4.3計画とは

     ISO14001の要求する計画は次の4つの項目をもつ。
    4.3.1 環境側面を特定すること。環境側面とは、環境と相互に影響しうる、組織の活動、製品、またはサービスをさす。
    (例)化学肥料による土壌及び水質汚染
      農薬による水質汚染
      農薬による生物の生息環境の汚染
    4.3.2 法的及びその他の要求事項
    4.3.3 目的及び目標
    (目的の例)@農薬の使用量を削減する
         A化学肥料の使用量を削減する
         B生物の多様性を維持する
    (目標の例)@農薬の使用量を20%削減する
         A化学窒素肥料の使用量を30%削減する
         B耕作対象地内の5割の水路でどじょうの生息を確認できる
    その組織にふさわしい目的を設定し、自ら、なるべく測定可能な目標値を定めることが望ましい。
    4.3.4 環境マネジメントプログラム
    目的・目標を達成するための責任、手段、日程、手順、見直プロセス等を明示する必要がある。

    6、4.4実施及び運用の内容は

     ISO14001の要求する実施及び運用は次の7つの項目をもつ。目的・目標を達成するための責任、手段、日程、手順、見直プロセス等を明示することが必要である。
    4.4.1 体制及び責任
    4.4.2 訓練、自覚及び能力
    4.4.3 コミュニケーション
    ISO14004はコミュニケーションの目的として
  • 環境に対する経営層の約束を示す
  • 組織の活動、製品またはサービスの環境側面についての関心事及び質問に対処する
  • 組織の環境方針、目的、目標及びプログラムについての自覚を高める
  • 内部または外部の利害関係者に組織の環境マネジメントシステム及びパフォーマンスについて、適宜通知する
    をあげている。
    4.4.4 環境マネジメントシステム文書
    4.4.5 文書管理
    4.4.6 運用管理
    ここでは、著しい環境側面に関連する運用及び活動を特定し、明確にするとともに、組織の内部者ばかりでなくパート、納入業者や請負業者などの取引先を含めた運用が要求されている。
    4.4.7 緊急事態への準備及び対応

    7、4.5点検及び是正措置の内容は

     ISO14001の要求する点検及び是正措置は次の4つの項目をもつ。
    4.5.1 監視及び測定
  • 環境パフォーマンスの定期的な監視をすること
  • 組織の目的・目標に関するパフォーマンス指標と策定プロセスを定めること
  • 測定・監視機器の校正・サンプリングを行うこと
  • 法規、その他の同意事項への適合性の評価を行うこと
    が求められる。また、環境パフォーマンス指標は物量として測定しやすいものであることが望ましい。
    4.5.2 不適合並びに是正及び予防措置
    4.5.3 記録
    4.5.4 環境マネジメントシステム監査
    これは組織によるいわゆる内部監査を求める要求事項である。次の2点が重要である。
  • 環境マネジメントシステムが、この規格の要求事項を含めて、環境マネジメントのために計画された取り決めにふさわしいか、また適切に実施されているかを確認する
  • 監査の結果に関する情報を経営層に提供する手順を決めておく

     なお、EMASの定義によれば環境監査とは、
    「(1) 企業の環境に影響のある活動にかかる経営管理を促進する、
    (2) 当該企業の環境方針の遵守状況を評価する、
    という目的をもって、当該企業の環境保全に係る組織、管理システム及び手続きの状況を、系統的に、文書化し、定期的にまた客観的に評価する管理手段」である。
    監査プログラムや手順が次の事項を含むことは当然であろう。

  • 監査で考慮されるべき活動及び領域
  • 監査の頻度
  • 監査を管理し、実施することに伴う責任
  • 監査結果のコミュニケーション
  • 監査人の能力
  • 監査の実施方法

     より具体的には、企業や組織の次のようなパフォーマンスが監査対象に含まれる。これは内部監査・外部監査の両者に共通する。
    (1) 各部門の環境活動のインパクトのアセスメント、コントロール及び低減
    (2) 自然資源(原料、エネルギー、水等)の管理、節約及び選択
    (3) 廃棄物、リサイクリング、再利用
    (4) 製品計画及び新しい生産工程の選択と変更
    (5) 協力会社や納入業者の環境パフォーマンスと業績
    (6) 環境に関する事故の予防と拡大防止及び緊急対応手続
    (7) 環境問題に関する従業員教育と訓練
    (8) 環境情報の公開

    8、環境声明書の記載事項

    ISO14001Sは環境声明書の公表を要求していないのに対し、EMASは要求している。参考までにEMASによる環境声明書の記載事項を次に掲げる。
    (1) 対象となる事業所の業務活動の記述
    (2) 事業所の業務活動に関連するすべての重要な環境問題に関する評価
    (3) 次の数値の要約
  • 汚染物質の排出
  • 廃棄物の発生
  • 原材料、エネルギー、水消費
  • 騒音
  • その他の重要な環境に関連する数値
    (4) その他の環境パフォーマンスに関する要素
    (5) 対象となる事業所に適用される環境方針、環境行動計画及び環境管理システムに関する記述
    (6) 次回の環境声明書の提出期限
    (7) 担当した公認環境検証人の氏名
    (8) 前回からの重要な変更事項

    9、ISO14000S及びEMASの任意参加性

     ISO1400Sが任意に取得されるものであることは明らかである。また、EMASはその第一条で「生産活動を行う企業による任意参加(voluntary participation by companies performing industrial activity)」として、すべての事業体を対象としているのではないこと、及び強制的に義務付けるものではないことを明記している。強制的でなくとも実効性があることは、98年3月末現在、我国で既にISO14000Sの認証取得件数がが861にのぼっていることからも分かる。環境ISOの取得は製造業ばかりでなく商社やサービス業にも広がっている。また、千葉県白井町や新潟県上越市などの自治体が環境ISOをすでに取得している。1999年2月23日には埼玉県がISO14001の認証を取得したと発表した。その対象は県警本部、県議会、教育局など19部局5000人の規模である。


    (参考文献)
    矢部浩祥「環境管理・環境監査の国際動向」,丸山陽司「環境管理システムと監査」、野崎麻子「環境問題と環境情報の開示」いずれもJICPAジャーナル95年11月号所収
    萩原睦幸監修「図解 環境ISOが見る見るわかる」株式会社サンマーク出版、98年5月30日初版発行

    Initially posted February 26, 1999 as a part of
    Environmental Consumption Tax
    Updated March 29, 2000, February 5, 2001 by Shuichi Sunaga.