[算定期間]

 「環境消費税のしくみ」の「しくみ」で既に述べたように、「初用材割合」とは、仕入税額が基準税額に占める割合をいうが、この初用材割合は期間の経過に応じて変化していくものであるため、できるだけ現状に近いものである必要がある。

 現行の消費税法は第2条第14号で基準期間を「個人事業者についてはその年の前々年をいい、法人についてはその事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が1年未満である法人については、その事業年度開始の日の2年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した各事業年度をあわせた期間)をいう」と規定するが、このように基準期間を一年間に限るとすると、再生材の使用割合を高める企業努力が縮減税率となって実を結ぶまでに一年以上の期間が必要となり、その間、再生材の使用に積極的な事業者の消極的な事業者に対する価格優位性が発現しない。さらに、この時間的遅れは、環境消費税の導入に伴って生じると期待される資源の再生利用技術の進歩、リサイクルに適応した素材使用規格の策定、静脈産業の基礎的インフラ整備、再生材マーケットの拡大などに支援されながら初用材割合が急速に低下していくことが見込まれるときに、リサイクル社会の構築にブレーキをかけることになる。

 ここで参考となるのは現行消費税法の第19条(課税期間)についての規定である。課税期間は個人事業者にあっては暦年、法人にあっては事業年度であってほとんどの事業者にとって一年であるが、この条は3ヶ月間に短縮された課税期間の選択を個人・法人事業者の双方について認めている。この短縮された課税期間の制度は輸出事業者にとって仕入消費税を支払ってからその還付を受けるまでの期間を短縮する途を拓くために設けられたものであるが、初用材割合の算定期間を考える上で注目すべき規定と思われる。

 まず、この制度を活かし、3ヶ月の課税期間を選択した事業者にとっての初用材割合算定のための基準期間を前々課税期間とする。さらに6ヶ月、9ヶ月の期間の選択も認めることにする。これによって、最短、半年後には高められた初用材割合を縮減税率ひいては納付消費税額に反映させることが可能となり、その販売する商品に載せる環境消費税をこれに応じ引き下げられるので価格競争力を高められるようになる。

 さて、3ヶ月という期間を課税期間とし、基準期間とすることの問題点は何であろうか。3ヶ月という算定期間は正確な算定のために短か過ぎないかという問題がありうる。たとえば、製造に5ヶ月を要する製造業にとっては明らかに3ヶ月は短すぎる。しかし、このような事業者は6ヶ月を選択すればよく、製造サイクルと算定期間の対応を考慮して期間選択をすることが必要ということが確認される。逆に3ヶ月という算定期間は長すぎるという事業者もあるであろう。なぜなら、算定期間が何に対して長いか短いかは、製造販売のサイクルに要する時間であったり、製品競争力からみたライフであったりするからである。

 このような事情が認められるから、最適な算定期間の選択は各事業者の創意工夫に委ねるというポリシーをとる必要がある。ある事業者は週間単位で製造計画・商品規格を練り直し実行しているために、それに合わせた算定期間の選択を適当と判断するかもしれない。また、受注生産に基づき完成まで数年を要するようなプロジェクトを並行して走らせているような企業は事務コストその他の要因を考慮してより長い算定期間を適当と考えるかもしれない。要は各事業者にとっての最適算定期間は立法者の情報収集力の及ばざるところと観念して、各事業者の創意工夫にもとづく選択に委ねるという考え方である。

 但し、3つの限定条件は必要である。第一に、1年を原則とし、かつこれを最長とすること。第2に算定期間の選択及び変更(原則への復帰を含む)は税務署長への届出制にし、その効力発生日は届出書の提出日の属する算定期間の翌算定期間(いずれも、選択しようとする算定期間をもとに考える)の初日とすること。第3に現行消費税法第19条第4項に規定する継続適用条件のように「事業を廃止した場合を除き、当該提出をした日以後2課税期間内は」算定期間の変更をすることができないこととする。これによって、選択した算定期間の意義を明確にし、事業者の熟慮の下での選択を促すことになる。

[集計単位]

 初用材割合はその商品についての初用材割合であることが理想である。しかし、初用材割合を商品毎に集計して納付環境消費税を算出することは耐え難い実務コストを事業者に強いることになる。商品毎の個別原価計算は限られた商品種に適用されるに過ぎないこと、原価には最初から製品毎に集計されるものの他に期間を単位として集計した後各製品に配賦されるものも多いこと、また、材料費、労務費、経費の多くの部分は様々な製造部門・商品に共通に使用され配賦計算の後各製品原価に算入されていくので製品が完成するたびに原価集計が完了するわけではないからである。

 他方、初用材割合の集計単位は相当程度傾向として安定した割合を示すであろう集計単位である必要があり、さらに、縮減税率への速やかな反映をも可能とするものでもなければならない。また、原価集計単位による区分は選択による算定期間とミックスされることになることにも注意が必要である。

 そこで、納税者の選択により、企業の原価集計単位毎に区分した初用材割合を用いることができるようにすることが現実的であろう。商品に上乗せする環境消費税額は価格と初用材割合の両者によって決まるから、売上高と原価がマッチするところ、すなわち売上高集計単位と原価集計単位との最小公倍数的集計単位が実際に使用される原価集計単位となるのではなかろうか。したがって、事業部単位のような比較的大きな区分で集計せざるを得ない事業者もあれば、工場単位で集計するのが便宜な事業者もあるだろう。集計単位を細かくしていくとより精度の高まる原価管理が可能となる反面、コスト効果の乏しい無駄な管理も伴う。有利性と実務性の立場から納税者がベストと判断する集計単位を用いることが認められるべきである。この面での検討は納税者の原価管理能力を高める側面をもつから、必ずしも余分な納税コストを納税者に強いるものとも言い切れないだろう。

 「集計単位」の選択についても、上の「算定期間」で述べた限定条件、すなわち、届出制、継続適用、効力発生日等の条件は必要と思われる。


Initially posted September 22, 2001 by Shuichi Sunaga.