[収奪型農林水産業から持続型農林水産業へ]

3.[水産業]

 人類は動物性蛋白質の16%を魚介類に依存しており、特にアフリカでは21.1%、極東では27.8%とその比率は高い(1993、UNFAO(国連食料農業機関), Fisheries Circular No.853, Rome)。我国ではこの比率は低下傾向にあるとはいえ40%と極めて高い。世界の漁業生産量は約8千万d(1993年)であり、全世界の漁業及び関連産業に従事する人口は2億人といわれる。米国、カナダ、ヨーロッパ及び日本は価額ベースで世界の漁業輸入の87%を占めている(1991,FAO, Yearbook of Fisheries Statistics: Commodities)。海からの漁獲量の約3分の1はペットや家畜、池で飼われる魚のための動物飼料にされる。
総数
(単位:千人)
自営漁業 雇われ漁業
1983 447 301 146
1988 392 270 123
1993 325 237 88
1994 313 230 83
1995 301 223 78
1996 287 215 72
右表は我国の海面漁業就業者数(農林水産省「漁業センサス」)の推移であり、減少傾向が顕著である。他方、漁業部門の生産額は海面、内水面、養殖業を含めて1985年に2.9兆円あったものが1996年に2.2兆円に、また、生産量は1985年に12,171万dあったのが1996年には742万dとその落ち込み方はより大きい(農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)。

[破滅的漁業-乱獲]  (以下、ワールドウォッチ地球白書'95ー'96第2章から抜粋して要約) ピーク年と1992年の漁獲量を比較すると、世界の15の主要漁業海域のうちインド洋の2海域を除いて漁獲量が減っており、そのうち大西洋の北西、西中央、南東海域及び太平洋の東中央海域の4つの海域においては30%を超えて減少している。また、1989年以来、世界の海における魚類、甲殻類(ロブスターなど)、軟体動物(ハマグリなど)の漁獲量は年に5%の割合で落ちこんでいる(1994, FAO, FISHSTAT-PC)。FAOの専門家たちは、検証した漁業活動の3分の1に乱獲が見られ、また、世界のほとんどの沿岸水域でストックの枯渇した魚介類があることを確認している。公海流し網漁業(最大級の流し網はその中にボーイング747型機を12機取り込める大きさがある)のようなまさに一網打尽漁法は捕獲目標外の魚や動物を捕獲してしまうことで悪名高いが、近年はバイオマス漁業と称して目の細かいトロール漁具により魚種を問わず捕獲し、その大部分を養殖漁業用の飼料として利用する者が現れているのは乱獲の極致である。しかし、何よりも漁獲量の2倍にのぼる過剰な操業能力が乱獲に寄与している。FAOによれば、世界中で700億jの漁獲高をあげるために1240億jが費やされているが、この540億j相当の差額は政府からの補助金によって賄われているという。補助金が操業能力の維持拡大の原動力となり、乱獲を支えている。環境悪化による魚介類の減少に乱獲はさらに追い撃ちをかけている。

[養殖漁業の持続可能性] 93年の我国の海面養殖及び内水面養殖の総生産量はそれぞれ127万d、86千dで、生産額はそれぞれ6070億円、1020億円となっており(1993年、農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)、養殖漁業の比率はここ20年間ほぼ一貫して高まっている。  養殖漁業は必ずしも持続型とは言えない。第一に、種苗を天然の稚魚群から採捕することによる天然魚資源への悪影響。第二に、給餌養殖では大量の飼料が海中に残存、腐敗することによって沿岸水域を汚染すること。第三に、過密養殖による魚病の発生を防ぐための抗生物質等の薬剤使用、そして薬剤による海の汚染、微生物相の量的・質的変化、魚の病原体に対する抗菌性の発達等、魚の健康性の問題。養殖漁業にはこれらの問題が指摘されている。養殖魚用の飼料を得るための上に述べたバイオマス漁業の問題もある。海洋養殖は、例えば小エビ養殖のためのマングローブ林伐採のように、沿岸地域の生物の生息環境を破壊する主要な原因でもある。沿岸湿地帯は天然魚にとって不可欠の生育場所であるから、その破壊は海洋漁業の基盤の破壊につながる。フィリピン、タイ、インドネシア、エクアドルなどで輸出用小エビの養殖池とするために、豊かな生命を育むマングローブ林が破壊されてきた。

[持続型水産業] 漁業管理の基本手法として禁漁期、禁漁区、個体サイズの制限、種の規制、漁獲量割当て、装備に関する規定などがあることはよく知られている。これらの手法は政府による取り締まりと地域社会立脚型の管理の組合わせによってうまく機能するものとなるが、我国の漁業協同組合による漁場の管理方式はその例として高く評価されている。沿岸漁業が生産の9割を占めることは漁業組合方式の有効性をさらに高めるものである。  しかし、その実効性は、漁業組合という管理形態のみでなく、漁業を持続してきた永年の知恵と倫理と技術といった総合的なノウハウによって支えられているのではなかろうか。我国の漁業組合が率先してISO14001を取得する過程でそのようなノウハウを共有できるかたちにし、次の世代に継承しまた他国の同業者にも提示していく媒体を形成することは、持続型水産業の維持発展のために大きな役割を果たすものと思われる。  また、水産物にかかる特定基準の設定にあたっては、我国の管理形態から抽出した国際的に適用可能な部分や、1995年開始予定のアラスカのオヒョウ漁に関するITQ(譲渡可能個別割当て)制度、オーストラリアの割当量の再配分メカニズムを伴う革新的な割当制度、EUの共通漁業政策などが、基準の骨格形成に役立つであろう。また、それらの遵守を基準のひとつとして取り込むこともできるのではなかろうか。


Initially posted February 21, 1999.