[収奪型農林水産業から持続型農林水産業へ]

2.[林業]

 世界の森林と林地から34億立方b以上の木材が伐り出され、その約半分が燃料用、残りの半分が工業用に向けられている。後者の工業用木材の約半分は製材用、四半分が製紙用パルプとその他の製品に、そして8分の1強が切断ないし破砕されて、合板、チップボードなどのパネル材となる。このような需要をまかなうため、国際的に見ると、林業は持続可能なかたちで行われてこなかったし、これからも持続可能な林業が行われる保証は何もない。なかでも、最悪の林業形態はある場所を乱伐しては別の場所に移動することを繰返す収奪型伐採(timber mining)である。

[収奪型林業からの脱出は可能か] (以下、ワールドウォッチ地球白書'91ー'92第5章から抜粋して要約)  1960年代のフィリピン、70年代のインドネシア、また80年代のマレーシアで収奪型伐採が行われ、森林が消失していった。タイで、ナイジェリアで、コートジボアールでそしてガーナでもこの轍は踏まれ、熱帯産丸太の輸出国から純輸入国に転落してしまったものもある。破壊的な伐採は決して熱帯地域だけに限ったことではない。1989年にカナダのブリティシュ・コロンビア州の森林から伐り出された木材は8500万立方bにおよんだが、これは持続可能収量を30%も上回っている。また、同州では準原生林での伐採が年間27万fの割合で進行している。1980年代前半、合衆国の太平洋岸北西部の業界所有地からの伐採は持続可能収量を25%以上も上回っていたが、12の国有林(合衆国内に残された原生林の大部分が含まれている)からの伐採は61%も上回っていた。こうした収奪型伐採に代わるのが収穫量維持型林業(sustained-yield forestry)である。しかし、国際熱帯木材機構(ITTO: International Tropical Timber Organization)が1989年に行った調査の結論によると、熱帯材伐採のうち持続可能な方法で行われているのはわずか0.1%にすぎない。この他にも、熱帯圏では小農と牧畜業者による伐開によって森林消失が進んでおり、毎年450万fの雨林が劣化している。

 他方、すでに伐開された土地への植林によって産業用材の一大供給源を生むことができることも分かっている。植林は従来の森林管理よりコスト高になるが、植林地での樹木は天然林に比べて生長がはるかに速く、小面積でも木材需要を満足させることができる。たとえば、中国では植林地面積を1000万f(木材収穫に利用できる現在の面積の4%)だけ増やせば、同国の木材生産量を現在の2倍にすることができる。また、熱帯植林地の場合、生長の早い樹種と遅い樹種を混合させ生長の早い繊維と高品質の木材を供給するように管理すれば、1f当たりの年間収量は10立方bになると推定される。すでに伐採された6億fの熱帯雨林の5%でそうした植林地を設置すると、すべての熱帯雨林から得られる現在の収穫量のほとんど2倍の産業用材を供給することができると考えられる。

 広大な植林地からの伐採が多くの国で軌道に乗りかけているのも明るい材料である。アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、チリ、ニュージーランド、ポルトガル、南アフリカ、スペインそしてベネズエラなどがそれである。これらの木材ファームは年間1f当たり20ー30立方b産出できるが、これは天然林の年間平均伐採量の10倍にもなる。したがって、そうした木材ファームは森林に対する伐採圧力を緩和させる働きをするだろう。

 このような植林努力を行う上で、集約的モノカルチャー型植林方式を土壌の栄養素、菌根菌類等の土壌生物、地表の植生、小型樹木、さまざまな樹種と樹齢の木を共生させる多様性をもった植林方式に変え、病虫害や汚染に対して自然の抵抗力をもった樹林を生育させていくことが結局は木材供給を増やす可能性をもっている。 (ワールドウォッチ地球白書'91ー'92第5章からの抜粋・要約おわり)

原生林の伐採禁止措置をとっても木材需要をまかなうことができる見通しが上に示されている。木材需要を抑制する政策をミックスすることも持続型林業への円滑な転換を補完するであろう。

[収奪型林業から持続型林業へ]  収奪型林業から持続型林業への転換を果たすことは我々に課せられた至上命令といえる。一度破壊された原生林の復旧は膨大な時間とコストを我々に強いることになる。原生林は気候の維持、土壌や水資源の安定化、水産資源の涵養、レクリエーションそして生物学的多様性の宝庫としてかけがえのない価値をもっている。『バイオテクノロジーは万能ではないことも認識しておく必要がある。もし、動植物種の絶滅の現在の勢いに歯止めをかけることができなければ、官民両部門のあらゆるバイオテクノロジー開発努力が土台から揺るがされることになろう。もし作物および非作物の両方の種の多様性が保全されなければ、現在、遺伝子操作に利用しうる原料の大部分が失われてしまうだろう。バイオテクノロジーは遺伝子を移転することはできるが、遺伝子を創出することは事実上不可能なのである』(以上『』内はワールドウォッチ地球白書'90-'91第4章)。原生林が提供する木材以外の産物(有用微生物・きのこ・薬用植物等)やサービス(観光資源等)だけをとってみても、その市場価額はそこからの木材出荷額を遥かに上回る可能性があり、しかも我々は未だその価値の全貌を把握していないのである。伐採禁止が長期的にみて最も安価な方法と考えざるをえない。


3.[水産業]

 人類は動物性蛋白質の16%を魚介類に依存しており、特にアフリカでは21.1%、極東では27.8%とその比率は高い(1993、UNFAO(国連食料農業機関), Fisheries Circular No.853, Rome)。我国ではこの比率は低下傾向にあるとはいえ40%と極めて高い。世界の漁業生産量は約8千万d(1993年)であり、全世界の漁業及び関連産業に従事する人口は2億人といわれる。米国、カナダ、ヨーロッパ及び日本は価額ベースで世界の漁業輸入の87%を占めている(1991,FAO, Yearbook of Fisheries Statistics: Commodities)。海からの漁獲量の約3分の1はペットや家畜、池で飼われる魚のための動物飼料にされる。
総数
(単位:千人)
自営漁業 雇われ漁業
1983 447 301 146
1988 392 270 123
1993 325 237 88
1994 313 230 83
1995 301 223 78
1996 287 215 72
右表は我国の海面漁業就業者数(農林水産省「漁業センサス」)の推移であり、減少傾向が顕著である。他方、漁業部門の生産額は海面、内水面、養殖業を含めて1985年に2.9兆円あったものが1996年に2.2兆円に、また、生産量は1985年に12,171万dあったのが1996年には742万dとその落ち込み方はより大きい(農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)。

[破滅的漁業-乱獲]  (以下、ワールドウォッチ地球白書'95ー'96第2章から抜粋して要約) ピーク年と1992年の漁獲量を比較すると、世界の15の主要漁業海域のうちインド洋の2海域を除いて漁獲量が減っており、そのうち大西洋の北西、西中央、南東海域及び太平洋の東中央海域の4つの海域においては30%を超えて減少している。また、1989年以来、世界の海における魚類、甲殻類(ロブスターなど)、軟体動物(ハマグリなど)の漁獲量は年に5%の割合で落ちこんでいる(1994, FAO, FISHSTAT-PC)。FAOの専門家たちは、検証した漁業活動の3分の1に乱獲が見られ、また、世界のほとんどの沿岸水域でストックの枯渇した魚介類があることを確認している。公海流し網漁業(最大級の流し網はその中にボーイング747型機を12機取り込める大きさがある)のようなまさに一網打尽漁法は捕獲目標外の魚や動物を捕獲してしまうことで悪名高いが、近年はバイオマス漁業と称して目の細かいトロール漁具により魚種を問わず捕獲し、その大部分を養殖漁業用の飼料として利用する者が現れているのは乱獲の極致である。しかし、何よりも漁獲量の2倍にのぼる過剰な操業能力が乱獲に寄与している。FAOによれば、世界中で700億jの漁獲高をあげるために1240億jが費やされているが、この540億j相当の差額は政府からの補助金によって賄われているという。補助金が操業能力の維持拡大の原動力となり、乱獲を支えている。環境悪化による魚介類の減少に乱獲はさらに追い撃ちをかけている。

[養殖漁業の持続可能性] 93年の我国の海面養殖及び内水面養殖の総生産量はそれぞれ127万d、86千dで、生産額はそれぞれ6070億円、1020億円となっており(1993年、農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)、養殖漁業の比率はここ20年間ほぼ一貫して高まっている。  養殖漁業は必ずしも持続型とは言えない。第一に、種苗を天然の稚魚群から採捕することによる天然魚資源への悪影響。第二に、給餌養殖では大量の飼料が海中に残存、腐敗することによって沿岸水域を汚染すること。第三に、過密養殖による魚病の発生を防ぐための抗生物質等の薬剤使用、そして薬剤による海の汚染、微生物相の量的・質的変化、魚の病原体に対する抗菌性の発達等、魚の健康性の問題。養殖漁業にはこれらの問題が指摘されている。養殖魚用の飼料を得るための上に述べたバイオマス漁業の問題もある。海洋養殖は、例えば小エビ養殖のためのマングローブ林伐採のように、沿岸地域の生物の生息環境を破壊する主要な原因でもある。沿岸湿地帯は天然魚にとって不可欠の生育場所であるから、その破壊は海洋漁業の基盤の破壊につながる。フィリピン、タイ、インドネシア、エクアドルなどで輸出用小エビの養殖池とするために、豊かな生命を育むマングローブ林が破壊されてきた。

[持続型水産業] 漁業管理の基本手法として禁漁期、禁漁区、個体サイズの制限、種の規制、漁獲量割当て、装備に関する規定などがあることはよく知られている。これらの手法は政府による取り締まりと地域社会立脚型の管理の組合わせによってうまく機能するものとなるが、我国の漁業協同組合による漁場の管理方式はその例として高く評価されている。沿岸漁業が生産の9割を占めることは漁業組合方式の有効性をさらに高めるものである。  しかし、その実効性は、漁業組合という管理形態のみでなく、漁業を持続してきた永年の知恵と倫理と技術といった総合的なノウハウによって支えられているのではなかろうか。我国の漁業組合が率先してISO14001を取得する過程でそのようなノウハウを共有できるかたちにし、次の世代に継承しまた他国の同業者にも提示していく媒体を形成することは、持続型水産業の維持発展のために大きな役割を果たすものと思われる。  また、水産物にかかる特定基準の設定にあたっては、我国の管理形態から抽出した国際的に適用可能な部分や、1995年開始予定のアラスカのオヒョウ漁に関するITQ(譲渡可能個別割当て)制度、オーストラリアの割当量の再配分メカニズムを伴う革新的な割当制度、EUの共通漁業政策などが、基準の骨格形成に役立つであろう。また、それらの遵守を基準のひとつとして取り込むこともできるのではなかろうか。


Initially posted February 21, 1999.