個人所得課税の改革

(1)[配当所得と株式譲渡所得課税の改革] 法人所得税の廃止は株式をめぐる所得である配当所得と株式譲渡所得を総体として増大させるからこれらについての課税は重要性を増す。

まず、法人所得は配当の有無に関わらず、個人段階ですべて課税され、その前取りとして源泉控除が行われるから、配当は既に課税済みの所得からの分配である。したがって、配当についての課税は重複課税となるので廃止する。配当控除の制度は配当の原資である法人所得が法人段階で課税された後、個人の段階で配当所得として再び課税される重複を和らげるための制度であるから、これも不要なので廃止する。次に、株式譲渡益に対する分離課税は改め、他の所得と併せて課税する総合課税に戻す必要がある。ここ10年の間に最高税率が70%から50%に引き下げられるとともに課税所得の段階区分(ブラケット)が15から5に整理されて所得税率の累進構造が大幅にフラットになっている現在、既に株式譲渡益の分離課税を維持する理由の半分は失せている。最高税率を35%に引下げるときにはなおさらである。また、法人税廃止は資本市場活性化策として他のいかなる個別の租税特別措置よりも強力な政策であるから、分離課税を維持する理由の他の半分も消失する。さらに、法人優遇策・金持優遇策として法人税廃止に反対する意見、また逆進性に着目して環境消費税に反対する人々を説得するためにも総合 課税化は不可欠である。

(2)[ベンチャー企業への投資環境創出] ベンチャー企業への投資環境創出が重要な課題となっている。Subpart F型個人所得課税及び法人における源泉控除とセットにした法人税廃止によれば、個人株主にも、その被所有法人が損失を生じたとき、その損失持分は個人株主の他の所得と通算される。ベンチャー企業への投資のうち、所得を生じるものと損失を生じるものがあればこれらは当然通算可能である。これはハイリスク・ハイリターン型投資にとって不可欠な条件を満たすことになる。

(3)[フリンジ・ベネフィット課税] フリンジ・ベネフィットに対する課税は所得税の非課税範囲を絞る方向で明確にする必要がある。フリンジ・ベネフィットとは会社がその役員・従業員に対して支給する給与以外の経済的利益である。社宅・社用車・金銭貸付・レクリエーション・教育訓練・出張・海外渡航・保険・ゴルフクラブ・社交団体に関する費用等の全部又は一部を会社が負担することに伴い、役員・従業員が便益を受けても、役員・従業員が所得税を課されないことが、課税の公平の観点から問題視されてきた。平成7年4月に国税庁からいわゆる豪華役員社宅通達が発遣され、本格的なフリンジ・ベネフィット課税の第一歩として注目されている。法人税廃止がフリンジ・ベネフィットを通じた所得税の回避策を活発化させることは目にみえているから、この面での所得税制の見直しが必要と思われる。


Initially posted January 15, 1998.