前節の第四法を適用するため標準再生材割合表(標準RMUR表)の作成及びこれへのアクセスを確保する必要が生じる。
この標準RMUR表を作成する場合には品目区分表が不可欠となる。この区分表として、HS(Harmonized Commodity Description and Coding Systemー商品の名称及び分類についての統一システム)を採用するのが妥当であろう。
我国の関税率表は国際条約であるHS条約に根拠を置くHSに準拠している。これは関税率表及び統計分野のみならず輸送、保険等の国際貿易に関する商品分類の国際的統一を図る目的で開発された品目分類表であり、1988年1月1日より条約が実施され、我国でも同日から施行されているものである。
HS条約の締約国は、自国の関税率表及び貿易統計をHS品目表に基づいて作成することが義務づけられている。この品目表は、21の部(Section)、97の類(Chapter)、1241の項(Heading)及び5018の号(Sub-Heading)から構成されており、あらゆる商品はこのいずれかの号に分類されることとなっており、必要に応じ加盟国は国内細分を設けることができることとなっている。1995年4月13日現在で、日本、米国、EU等80カ国・1経済同盟がHS条約の締約団体となっているほか、上記の80カ国・1経済同盟を含む145カ国・地域でHS品目表が関税率表及び貿易統計品目表として採用されている。
HSによる類(Chapter)の区分 |
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平成7年度、わが国の関税定率法は6773品目について基本税率を設けており、関税暫定措置法は、関税割当対象品目の一次税率等363品目について暫定税率を定めている。その類の区分のあらましを右枠内に示した。標準RMUR表はこれらのすべての品目を対象として作成することになる。
そのコストは少なくないであろう。しかし、毎年公表している路線価の評価・公表コストを考えて欲しい。標準RMUR表の作成コストの方がむしろ低いのではないだろうか。ちなみに、平成7年度の路線価図および評価倍率表は全国12国税局・事務所に区分して171冊よりなっている。各国税局・事務所毎の冊数は、東京39冊、関東信越26冊、大阪45冊、札幌5冊、仙台8冊、名古屋21冊、金沢4冊、広島7冊、高松5冊、福岡4冊、熊本5冊、沖縄2冊となっている。ご覧になった方も多いであろうが、2aから4aの厚さがある路線価図171冊はかなりの威容であり、見るからに労力の塊であるという印象をひとに与える。これと比較し実行関税率表(日本関税協会発行1996年版)は厚さ6aに満たない1冊に納められている。目方や厚さで労力を比較することはできないが、ある程度の目安とはなるだろう。ここで強調したいことは、私たちの社会は必要とあらばこの程度の作業はやってのけるということである。
第一に、標準RMUR表の各品目は直接参照品目と間接参照品目とに分けられることに着目したい。前者は、そこに掲記された標準再生材割合を直接引用して申告の基礎とすべき品目を指し、後者は、当該品目の原価要素に掲記された標準再生材割合をもとめ、基準税額及びみなし仕入税額を集計することにより間接的に当該品目の再生材割合を算定すべき品目をいう。したがって、後者については単に間接参照品目に該当する旨の記載をすれば足りる。関税率表に記載されている品目の大半は構成部品に分解できるから、この面で直接参照品目はかなり限定されてくる。
第二に、構成部品又は材料のレベルを一段階川上へ移すとその点数は格段にしぼられることに着目したい。したがって、輸出者とその納入業者が参照する品目は断然後者にとって少なくて済む。この社会の基礎的素材として、動物、植物、鉱物、鉱物性燃料、皮革・毛皮、木材をとり、これらの一次加工品ないし二次加工品まで範囲を広げて標準再生材割合を規定すれば、最終製品から2乃至3段階川上における素材をほぼ網羅できるのではないかというのが筆者の楽観的な見方である。
例えば、通常目にする最も複雑な単品である乗用車について考えてみよう。乗用車は概略、シャシー、エンジン、ラジエター、トランスミッション、他の動力伝達装置、緩衝装置、バッテリー、スターター、ブレーキ、ハンドル、計器盤、ガソリンタンク、ボディー、シート、エアバッグ、窓ガラス、バンパー、内装繊維、エアコン、カーステレオ、バックミラー、ランプ、タイヤ等からなり、さらにオイルやガソリンを詰めてある。乗用車メーカーはこれらをすべて自製することは非効率であるから、これらをあるまとまった機能単位モジュールである部品として購入し組立てる。したがってこのなかからエアコンをとってみれば、乗用車メーカーにとってエアコンメーカーは納入業者であるから、エアコンメーカーから再生材割合の提示を求めることになる。
さて、エアコンメーカーは製品であるエアコンの構成部品について再生材割合を算定することになる。エアコンは潜熱効果を利用して、なるべく気化熱の大きい冷媒を、閉じた管の中で気体にしたり液体にしたりしながら熱交換を循環的におこなわせる装置である。したがって、圧縮器、凝縮器、膨張弁、冷却器、送風装置、これらを結ぶ管及び冷媒によって成り立っている。これらは熱伝導性の高い金属と一部熱伝導性の低い素材の組合わせで作ればよいことになる。エアコンメーカーがこれらの部品を自製しているならば、これらの素材についての再生材割合を標準RMUR表から引用すればよい。もし、外部から購入するとしてもその納入業者の段階ではもはや金属の板や管や塊を加工して製造しているのではないかと考えられる。これらの素材は金属や石油化学品の一次ないし二次加工品として標準RMUR表に記載されるレベルのものであろう。この場合も、これらの素材についての再生材割合を標準RMUR表から引用すればよい。現実には分業体制はもっと進化しているのであろうが、素材レベルに一段近づくだけで再生材割合の算定基礎品目も限られてくることがわかる。
ところで、エアコンが自動車に組み込まれて輸入される場合、このエアコンも独立した商品として我国に輸入される確率はかなり高いことにも注意されたい。なぜなら、器具や装置に故障はつきものだから、取替部品や補修部品として車の輸入にともなって輸入されざるを得ないからである。この場合には、エアコンメーカーはその納入業者(連結管や膨張弁メーカー等)から再生材割合データを求めることになるが、このレベルにおいては既にみたように再生材割合の算定は比較的単純になっている。
かくて、標準RMUR表において再生材割合を掲記すべき品目は、既に述べたように基礎的素材及び第一乃至第二次加工品のレベルまでに絞り込むことができるのではないかと考えられる。また、ある部品又は材料について上の第四法が用いられるのは、第一法から第三法までの方法が適用できない場合であるが、輸出者において第二及び第三法が適用できる場合であっても、当該輸出者の納入業者においては第四法のみが適用可能ということはある。この場合、掲記品目を上のように限定したとしても、納入業者において第四法により再生材割合がゼロとされるリスクは低いのではないかと思われる。仮にあったとしても、提示された再生材割合の合理性を評価して救済することも実務的に対応可能な範囲に納まり、著しく不当な課税は避けることができるのではないだろうか。上の第一法又は第二法の適用が可能な状況が貿易の発展に伴って拡大することもこのリスク減退の方向で作用する。
以上の考えに基づいて、標準RMUR表のうえで直接参照品目を選定する作業が最初のステップとなる。