[具体的算定方法]

 前節で見た、差別課税の原則・内外無差別の原則・検証可能性の原則の三原則を踏まえながら輸入品についての申告方法を考えてみると、次のような方法が具体案として浮かび上がってくる。ここで、当該製品の再生材割合の算定法は下記のみなし仕入税額をもって実際納付税額に代える点のほかは国内事業者にとっての算定法と変わるところがない。すなわち、当該製品の再生材割合を算定するため、

第一に、当該製品の各原価要素のうち当該輸出者が直接購入するものの再生材割合を以下の四つの方法のうち最初に該当する方法を適用して決定する。

第二に、各要素の仕入金額に
基準税率×(1−再生材割合)
を乗じて納付したとみなすべき環境消費税額(以下、みなし仕入税額と呼ぶ)を求める。

第三に、すべての原価要素について基準税額及びみなし仕入税額を集計して再生材割合を求める(下の計算例を参照されたい)。

当該製品の輸入者は引取りにかかる環境消費税に関し、輸出者に対し上の方法に準拠して算定した再生材割合の提供を求め、これに基づいて申告納付することになる。我国税法の管轄外にある海外の輸出業者からこの再生材割合の算定が過重な負担であり貿易障壁ではないかというクレームが発せられようが、これに対しては我国の納税者についても同等の義務が課せられていると反論することができる(内外無差別の原則)。

第一法

我国への輸入製品の一部として我国からの輸出部品又は材料が使用されている場合には、当該還流部品又は材料についての再生材割合は同部品又は材料に表示されている再生材割合とする。

この例として、A国のE社が我国から輸入した液晶ディスプレイを組み込んだノートパソコンを我国に輸出する場合の液晶があげられる。

これに伴う措置として、我国からの輸出品についても再生材割合の表示が義務付けられる。第一法により、同一の商品に関しては国内事業者・国外事業者の別なく同一の再生材割合が適用されることになる(内外無差別の原則。検証可能性の原則)。

第二法

第一法の適用ができないとき、我国への輸入製品の一部として現に我国へ輸入された部品又は材料が使用されている場合には、当該輸入部品又は材料の再生材割合は同部品又は材料について我国で最近時に申告された再生材割合とする。

例えば、A国のV社が我国にアルミ缶を輸出しているとき、A国のE社がV社から購入したアルミ缶に詰めた缶ビールを我国に輸出する場合の当該アルミ缶がこれに該当する。V社がA国でなくB国の企業であっても同様である。

これにより、第一法と同じく、我国への同一の輸入商品に関しては国外事業者・国内事業者の別及び製品・部品の別なく、同一の再生材割合が適用されることになる(内外無差別の原則。検証可能性の原則)。

製品・部品の関係は相対的なものであるから、ある取引において部品又は材料であったものが別の取引においては製品として現れることは日常茶飯事である。したがって、部品又は材料についての申告再生材割合への参照がそのまた部品又は材料についての申告再生材割合へ遡って参照することに繋がっていく状況が生まれる。単純な材にまで遡ってデータが蓄積・更新されていけば、それだけ再生材割合の精度は増していく(漸近性の原則)。

もちろん、輸出業者が我国の輸入業者に提供する再生材割合を算定することを容易にするため、コンピュータ・ネットワークを介してアクセスできるよう、我国の輸入実績データ・ベースを整備しておくことが必要となる(内外無差別の原則)。このデータベースは必ずしも官が自ら整備しなければならないものではない。民間に整備を委託することもできるし、乙仲(輸出入手続代行業者)など民間業者が使い勝手のよいデータベースを構築することができるよう環境を整備し後押しする方法もある。海外の輸出業者に対して再生材割合算定サービスを提供する企業も現れよう。国内、国外を問わず自社製品の再生材割合を積極的に世界に向けて発信する企業が勝ち組みになるという底流のもとでは、再生材算定割合の算定は次第に容易になっていくであろう。

第三法

上の二つの方法のいずれも適用できない場合、当該製品を構成する各部品又は材料の再生材割合は、当該部品又は材料の納入業者が我国へ直接輸出するとした場合に申告すべき再生材割合とする。

この方法は、輸入事業者から当該製品の輸出者、さらに当該輸出者への納入業者へという経路をたどって当該納入業者から再生材割合の提示を求める方法である。当該納入業者が未だ我国への輸出実績をもたない場合に、自ら我国へ輸出するとした場合に申告すべき再生材割合を算定することが必要になる。

近年我国は輸入促進のため、税制上の措置を含め様々の施策を講じてきた。第三法は我国への輸出業者がその調達先に対して我国への輸出を奨励する副次効果をもつことになり、貿易を拡大する方向で作用するからWTOの求める方向と一致する。もし、当該納入業者からの情報が得られない場合には第四法を適用することになるが、それにより再生材割合がゼロとなるようであれば、当該輸出者は納入業者をより協力的なところへ変更するかも知れない。もし、我国への輸出意欲をもたない当該納入業者が第三法を非関税障壁と呼ぶなら、それは当事者適格を欠くものの主張であろう。もし輸出意欲があるなら、再生材割合の予備的算定はそのよい準備となる筈である。

第四法

上の三つの方法のいずれも適用できない場合は、当該製品を構成する各部品又は材料の再生材割合は標準再生材割合表(次節参照)の該当する品目についての再生材割合とする。該当する品目がなく、かつ、合理的に算定された再生材割合の提示がない場合は、当該品目についての再生材割合はゼロとする。

以上の方法の適用例を下に掲げる。

引取りにかかる環境消費税額の計算例
費 目 仕入
金額
基準税額
(24%)
VMUR
(%)
仕入
税額
原材料費 材料A: 10,000 2,400 50.0 1,200
材料B: 60,000 14,400 80.0 11,520
材料C: 30,000 7,200 70.0 5,040
材料D: 20,000 4,800 0.0 0
120,000 28,800 17,760
労 務 費 20,000 4,800 0.0 0
経費 電力費 10,000 2,400 100.0 2,400
燃料費 8,000 1,920 100.0 1,920
輸送費 5,000 1,200 70.0 840
通信費 1,000 240 10.0 24
消耗品費 2,000 480 70.0 336
租税公課 1,000 - - -
保険料 2,000 - - -
減価償却費 30,000 7,200 80.0 5,760
その他 1,000 240 100.0 240
60,000 13,680 11,520
売上原価 200,000 47,280 61.9 29,280
輸入高 100,000 24,000 61.9 14,856
納付環境消費税額 14,856
材料A、B、C、Dはそれぞれ第1、2、3、4法で算定した再生材割合を用いた場合として計算した。経費科目についても第1、2、3、4法を適用する。仕入金額とこのようにして算定した初用材割合の積を仕入税額とみなしこれを集計すると29,280となる。当輸出会社の初用材割合は、29,280を基準税額の集計値47,280で除して61.9%となる。仕入税額とみなす額は我国へ納付されないから税額控除の対象とはならない。よって、引取りにかかる環境消費税額の納付額は14,856となる。


Initially posted October 4, 1999.