[問題へのアプローチ]

[規範的アプローチ] ある品物を取り上げて、そこに表示されている再生材割合は正しい、あるいは、正しくないという主張があったとするとき、何をもって正しい・正しくないを判定すればよいであろうか。

 所得概念との対比で考えてみよう。企業会計上の利益は株主・潜在的な投資家・債権者・経営者・従業員・仕入先・得意先等の様々な利害関係者にとってフェアな値であることを志向して組み立てられた企業会計の原則・証券取引法・商法等に準拠して算定された場合、正しいといわれる。税法上の所得は財政需要と納税者の租税負担力の均衡及び各納税者間の公平等を考慮して組み立てられた税法にしたがって算定された場合、正しいといわれる(現実には、法人税法上の「所得」は会計上の「利益」に税法上の加算・減算という調整を加えて確定される)。

 これらの規定は制度目的との関連の中で多くの仮説を内包しながら組み立てられてきたものである。いずれについても、一方にある計測目的を反映した規範、他方にこの規範を現実に適用する作業があり、この両者が相俟って具体的な数値が提示される。このように算定された利益を適正と呼び、所得を適法と呼んでいる。したがって、目的が変われば規範も変わり、それに基づく測定値も変わる。制度の数だけ真値があるといってもよい。これをここでは制度的真値と呼ぶことにしよう。これに対し、自然科学においてはある対象について測定方法の数だけ真値があるということは容認されない(測定行為と測定対象の間で予測できない相互作用がある量子力学の世界でも、測定方法の数だけ真値があるわけではない)。したがって、制度的真値は自然科学的真値とは違った性格をもっていることが分かる。自然科学的真値とは別の領域に制度的真値が存在し、我々の社会で大きな力を発揮していることはこの社会の特徴のひとつなのかも知れない。

 さて、制度的真値をめざす再生材割合についても規範とそれを現実化する作業を考え、この両者が相俟って具体的な再生材割合を算定するというしくみを構築することが合理的と思われる。したがって、ここでは、再生材割合算定に関して要請される条件を検討した上で原則として提示し、次にその原則の具体的適用手続を考えるというステップを踏みながら再生材割合算定問題にアプローチするという方法をとることにしたい。

[原則の提示] 環境消費税が果たすべき役割、それが運用される国際社会での脈絡、そして税制運用上の公正を考えると、輸入品にかかる再生材割合の算定に要請される原則としては次のものが考えられる。

 第一に、環境消費税はその価格効果を通じて再生材割合の低い商品から高い商品への需要シフトを促すための仕組みであるから、実際の再生材割合の高低の差は算定結果に反映されなければならない。これをここでは差別課税の原則と呼ぼう。

 第二に、再生材割合を算定するコストは、国内産品の場合と較べて、輸入品にとり不当に高くなる仕組みは避けなければならない。逆に、輸入品を不当に有利に扱うことになれば、そのような方法も受け容れられないであろう。付加価値税たる環境消費税の国境税調整が貿易障壁に当たらないという主張は無条件に認められるものではなく、内国民待遇原則が発現している限りにおいてという前提が厳然としてあると考えなければならない。他方、国内事業者が再生材割合を算定するために負担する程度の事務コストはひとつの目安になる。ここではこれを内外無差別の原則と呼ぼう。

 第三に、環境消費税法の執行面からすれば、納税者が申告に際して再生材割合の確定のため採用した数値・手続が適法であれば、それは税務調査官を含め何人をも同じ結果に導くものでなくてはならない。これをここでは検証可能性の原則と呼ぼう。

 輸入品についての再生材割合の算定方法を考える上で、これらの三つの原則、すなわち、差別課税の原則・内外無差別の原則・検証可能性の原則は最小限不可欠の要請であるように思われる。これらは前段階からの再生材割合が得られない場合の算定方法にもあてはまる。

 ところで、再生材割合における真値も制度的真値の範疇に属すといえるためには、さらなる条件が必要である。なぜなら、再生材割合には上に述べた利益・所得の算定にはない誤謬拡散効果という現象があるからである。ここで、制度が厳正かつ継続して施行されるにつれ求める値が全体として次第に制度が定義するとおりの値に収束していくならば、その制度は漸近性の原則を満たすと呼ぶことにしよう。このとき、漸近性の原則を満たす制度には制度的真値が存在するという概念の拡張が可能であろう。輸入品についての再生材割合の算定方式が上の原則を満足しかつ制度がそのように運用されていくとき、環境消費税制に制度的真値が存在するという考え(予想)を受容れる余地があるように思える。以下、この予想のもとに考察を進めることにしたい。


Initially posted October 4, 1999.