[税額控除]

[税額控除の対象] 売上原価にかかる仕入環境消費税は売上にかかる納付環境消費税から控除する。しかし、現行消費税と異なり、事業者の販売費及び一般管理費、試験研究費、営業外費用、特別損失等にかかる支払環境消費税は税額控除の対象としない。

 環境消費税法では、現行消費税法と異なり、課税売上割合が95%以上の課税事業者についても売上原価以外の費用にかかる支払環境消費税は税額控除の対象から除外する。これは財・サービスに体化した売上原価のみがそれを産みだした事業者のもとで未消費なのであって、販売費及び一般管理費、試験研究費、営業外費用、特別損失等はそれを発生した事業者のもとで最終的に消費されたと考えられるからである。例えば、接待交際費を考えてみれば、その便益はその企業限りで消費され、その産み出す商品の価値に移転しないとみる方が自然であろう。消費税は最終消費者が負担することの現れである。この点につき、現行消費税法では課税売上割合が95%に満たない事業者に関しては、課税資産の譲渡等にのみ要する仕入税額は税額控除の対象とするが、非課税売上に対応する部分の仕入税額は税額控除の対象から外しているから、この環境消費税の仕入税額の方式を潜在的にはもっていると考えられる(消費税法第30条第2項)。

 さて、このルールのもとで事業者が賢明な環境消費者ともなることが期待され、同時に環境消費税収増も確保される。これは後述6の環境消費税の低所得者への還付のための重要な財源となる。

 これに伴い、事業者の費用に関する売上原価とその他の費用との区分を環境消費税法として明確化することが必要となるが、これについては(法人税法第22条第4項のように)一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されることを基本とし、環境消費税法特有の区分が必要な事項に関してのみ最小限の規定をおくに留めればよい。

[仕入税額控除の対象を売上原価にかかる仕入環境消費税のみに限る税を付加価値税と呼ぶことができるのかという疑問] しかし、前節の考え方に対しては根本的な異論がありうる。付加価値税の経済学的基本をあまりに踏み外しているのではないかというものである。環境消費税は付加価値を課税対象とする税ではないが、付加価値税の計算構造を利用しているのでこの点について考えてみたい。

 経済学によれば、国民所得とは一定期間に一国の経済活動により新たに付け加えられた価値額(すなわち付加価値ないし純生産)であり、原料などの中間財に関する企業者間の内部取引を捨象したものとして集計される。この付加価値は要素所得法(factor payment approach)ないし所得法(income approach)によれば、土地等の天然資源の産み出す要素所得+資本財の産み出す要素所得+労働の生み出す要素所得として求められ、また、最終生産物法(final product approach)ないし支出法(expenditure approach)によれば、利益+地代+支払利子+支払賃金として求められる。前者は分配面で、後者は支出面で把握しようとするものである。他方、個別企業会計により算定される付加価値の集計値は国民所得と一致すべきであり、付加価値税とはこのような付加価値に対する課税でなければならない。

農業工業サービス業最終需要産出計
農業20302030100
工業20804060200
サービス業30504030150
付加価値304050.120
投入計100200150120570
 また、産業連関論によれば、左の単純化したモデルでの産業連関表のように付加価値計と最終需要計は等しく、これは国民所得と等しい。消費税は最終需要に対する税であり、かつ、付加価値に対する税であることがみてとれる。

 さて、この観点からすると、仕入税額控除の対象を売上原価にかかる仕入環境消費税のみに限るとすれば、環境消費税は企業の販売費及び一般管理費等を企業の最終消費とみるわけだから、「企業は消費しない」というテーゼに反することになる。また、最終需要がその分大きくなるとすれば付加価値もその分大きくならなければならない。付加価値は自然、資本、労働に対するリターンであるが、この付加価値の増分は何に対するリターンなのか、また、課税の累積は生じないかという疑問も生じるかも知れない。

 これについては、次のように考える。現代の私的企業は組織内部のコミュニケーションと組織外部とのコミュニケーションのために販売費及び一般管理費として大きな支出を行っている。その内容は、給与賞与、地代家賃、旅費交通費、通信費、接待交際費、会費・図書費、広告宣伝費等のサービス購入が主なものであり、これらのサービスはその企業限りで消費され転売されない。すなわち、「企業は消費しない」が確からしいとすれば、「企業も消費する」もそれ以上に確からしい命題と言える。付加価値の増分は経営に対するリターンであり、これは直ちに消費されてしまうリターンと考えられよう。また、これらのサービスは転売されないから、課税の累積を生じない。「企業は消費しない」という考えは資本主義の黎明期の家内工業時代にはあてはまるものの、現代において無批判に受け入れるべき考えだろうか。

 結局、個別企業会計により算定される環境消費税の課税対象を集計しても国民所得と一致しないが、これは環境消費税の目的を効果的に達成するため、差異として残らざるを得ない。しかし、環境消費税は付加価値税と使い勝手がよく似ているということはできるだろう。

[天然資源の採取・採掘・捕獲等に係る税額控除の特則]

  1. 天然資源を直接に採取、採掘又は捕獲等して販売することを業とする者は環境消費税の課税事業者とする。
  2. 前項の事業者には税額控除の規定は適用しない。
  3. 第1項の事業者は売上に係る請求書に再生材割合を0(ゼロ)と明記し、売上金額に基準税率を乗じて得た環境消費税額を相手方に請求しなければならない。
  4. 第1項及び第2項の規定の適用に関しては、税務署長は特殊関係者との取引で、これを容認した場合に不当に税額控除の適用を受け又は再生材割合を減少させることになると認められるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その事業者にかかる税額控除の適用又は再生材割合の計算を否認することができる。この場合においては、取引の相手方たる特殊関係者における税額控除及び再生材割合についても対応する調整を行わなければならない。ここで特殊関係者とは当該事業者との間にいずれか一方の事業者が他方の事業者の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係その他これらと同等の関係のあるもの及び同族関係にある事業者をいう。

 初用材は誰かが天然に存在する資源を採取、採掘、捕獲等し、第三者に販売するとき初めてマーケットにデビューすることになる。このデビュー時における再生材割合を0としてその購入者における再生材割合算定の基礎とし、かつ環境消費税が全額転嫁されるよう制度化しようとするのが上記最初の3項の趣旨である。第4項は税額控除を受けるため会社を不当に分割する等の行為を否認するための規定である。これらの規定の背景には、初用材をなるべく高い価格でマーケットに登場させようという意図が働いている。

[スクラップに係る税額控除の特則]

 製造工程からは副産物や作業屑等のスクラップが排出される。また、林業における間伐材のように、主たる産物である販売用木材を生産する過程で生ずる副産物も存在する。これらは再利用されれば資源となるが、廃棄されればゴミとなったり、放置されれば主産物の生産を妨げたりする。一般廃棄物の年間4800万トン(1988年)に対し、産業廃棄物が年間3億1200万トン(1985年)排出されていることをみれば、この産業廃棄物に含まれるスクラップはリサイクルを進める上で極めて重要な要素である。特に、スクラップは産み出された後未だ利用されていないため、生活廃棄物と異なり、環境消費税法はこれを再生材として取り扱うことができない。したがって、循環型社会への移行をめざす環境消費税法は一定の場合、スクラップを再生材とみなす特則を設ける必要がある。しかし、スクラップ自体が販売用商品として生産されるに至り、これを主製品と区別できなくなる段階において、引続きスクラップとして取扱う場合には環境消費税制の基盤の侵蝕を招くことにも注意する必要がある。

 あるスクラップが資源となるか廃棄物となるかどうかは、その時点での技術レベルや再生材価格や労働価格などの市場状況等様々な要因で決まるであろう。このため、再生材とみなすスクラップを政令に委任して指定することや、関係省の告示などに任せるなど行政に委ねることは非効率となる。そこで、市場の自律性を活かす観点から、上のような規程を設けることが有効であろう。事業者はスクラップの売却価格から引渡に要する費用(間伐材を例にとれば、間伐材は既に分離されているから、これを伐採・集荷・結束するなどのための人件費等及び付随費用が引渡費用に含まれることになる)を控除した残額を廃棄費用と比較し、廃棄するか売却するかを判断するだろうからである。しかし、売却できないスクラップを売却できる品質にまで経済合理的に高めるための技術開発は民が進めなければならない。上の措置は、スクラップを有効利用しようと努力する企業をそうでない企業より有利に扱うことにより、スクラップ利用の進展、また、ゼロ・エミッション生産システムの拡大を支援することにも繋がると期待されるが、これを進める主役はあくまで民である。

   公害の原点といわれる水俣病はよく知られている。この水俣病の原因物質はチッソ水俣工場がアセトアルデヒド合成工程で触媒として使っていた水銀であり、これが有機化したものであった。海に捨てられた有機水銀が魚に蓄積しこれを食べた人間を襲った。この水銀は高価なものであったから、僅かな後処理コストにより再利用の可能性が生まれていたかも知れない。捨てるより利用する方が有利だというしくみを私たち日本人のこのような悲惨な経験と一緒に環境消費税法に織り込んでおきたい。


Initially posted January 20, 1998. Added last sub-section on October 29, 2000.
Added the second sub-section on January 6, 2002.Modified the last-section on July 18, 2002.