環境消費税[Environmental Consumption Tax=VMCT(Virgin Material Consumption Tax)]は多段階・非累積的・単一税率付加価値税の構造に、再生材割合に応じた税率縮減の方式を組み込んだ一種の一般消費税という外観をもつ。したがって、その法的構成は我国現行消費税法の基本的枠組みである課税の対象、納税義務者、輸出免税、課税期間、税額控除等の仕組みを再利用しながら、これに税率縮減の一章を加えたものとなろう。消費税、付加価値税との違いについてはこの頁の末尾に記した。
次の各用語の意義をそれぞれ次のように定める。
一、基準税率 | 環境消費税の税率 |
二、仕入税額 | 事業者が算定期間において実際に支払った環境消費税額の合計額 |
三、基準税額 | 事業者の算定期間における課税仕入について基準税率を乗じて算出した税額の合計額 |
四、初用材割合 | [VMUR(Virgin Material Usage Ratio)] 仕入税額が基準税額に占める割合 |
五、再生材割合 | [RMUR (Recycled Material Usage Ratio) 発音は”Armor”(鎧)を推奨する] 1から初用材割合を控除して得た割合 |
六、適用税率 | 基準税率と初用材割合との積 |
よって、次の関係式が成り立つ。
初用材割合=仕入税額÷基準税額
再生材割合=1−初用材割合
再生材割合+初用材割合=1
適用税率=基準税率×初用材割合
=基準税率×(1−再生材割合)
また、第一式を変形すると、期間集計値として定まる仕入税額と課税仕入及びこれらに基づいて事後的に決まる初用材割合の間に次の関係式が成立つ。
仕入税額
=基準税額×初用材割合
=課税仕入×基準税率×初用材割合
以後、同じ考察対象について、再生材割合と呼んだり、初用材割合と呼んだりするが、これは楯の両面を別の角度から眺めているに過ぎない。考え方の上では再生材割合が、また計算する上では初用材割合が便利であるので、単に便宜的にそうしているだけである。いかなる場合でも両者の和は1であるので乗換えは自由である。
以上のように、算定期間における再生材割合を、課税仕入に占める再生材仕入の物理量や購入金額の比として求めるのでなく、税額の比として求めることとするのである。これによって、再生材と初用材が混然一体化したものとして市場に投入される製品についても統一的に再生材割合を算定することが可能となる。
事業者の納付する環境消費税額は課税売上金額と適用税率の積から仕入税額を控除した残額として算定される。すなわち、
環境消費税額
=課税売上×適用税率−仕入税額
=課税売上×基準税率×初用材割合−
課税仕入×基準税率×初用材割合
=(課税売上−課税仕入)×初用材割合×基準税率...@
以上から環境消費税をVirgin Material Consumption Tax(VMCT)とよぶ理由が理解されるであろう。環境消費税は初用材を投入することによって産み出された付加価値部分(上式@の(課税売上−課税仕入)×初用材割合で表される部分)のみを対象として基準税率で課税することとなるからである。
基準税率の代わりに適用税率を用いて納付税額を算出する点を除けば現行消費税と納付税額の算定メカニズムは同じである。仕入税額控除(課税仕入にかかる消費税額の集計値=前段階税額を売上にかかる消費税額から控除すること)によって消費税額の累積を避けている点も現行消費税と共通している。ここに環境消費税の多段階・非累積的付加価値税の構造が色濃くあらわれている。
現行消費税との相違は次の3点に要約される。第一に、適用税率を求めるために基準税額と仕入税額を集計する作業が加わること。第二に、仕入税額控除の対象は売上原価にかかる仕入環境消費税のみに限られること。第三に、労働コストを初用材割合の算定基礎に算入すること。
この第二点については「税額控除」の節を、また第三点については補論を参照されたい。
付加価値は負債(債権者の持分)、資本(株主の持分)、人的資本(労働者の持分)に対するリターンと説明される。しかし、これらに加え環境を含む社会的共通資本に対するリターンを考慮すると、これは環境破壊・環境汚染というマイナスのリターンとなって現われている。つまり、経済活動から、支払利子、利益、支払賃金という正のリターンの他に環境汚染という負のリターンが同時に産み出されてきたが、これは付加価値税の系譜の中で不幸にも無視されてきた。環境消費税はこの負のリターンをゼロにするよう最終需要者に求める税制であるといえる。しかし、この負のリターンを直接測定する代わりに、付加価値と初用材割合を基準として負のリターンの評価に代替するという構造をもつ。したがって、厳密には、付加価値税とはしくみが似ているが付加価値そのものを課税対象としているわけではないという違いを指摘できるだろう。