[地球温暖化の防止効果]

 環境消費税は直接的にはリサイクル社会の構築を目指す政策手段である。しかし、ゴミ焼却の減少によるCO2排出量の減少ばかりでなく、環境消費税制は次の二つの点で地球温暖化防止を強力に援護する。

(1).価格効果 後述するように環境消費税率を当初仮に国税地方税分合計24%で導入した場合、化石燃料は初用材が殆どであるから、これらの価格は現在より19%弱(24%−5%)上昇する。これを炭素税を導入した場合の価格と比較してみよう。

 いくつかの計量モデル分析の結果の「平均値」を佐和隆光京都大学教授は日経「経済教室」−94年6月15日号に紹介している。それによれば、2000年以降の二酸化炭素排出量を「90年レベルで安定化」するためには、炭素換算1d当たり2万−3万円(ガソリン1gあたり8円から12円、税収見込6兆−9兆円)の課税が必要であり、そうした課税はGNPの成長率を0.1乃至0.5%抑制することになるという。
 98年1月22日の日経朝刊によると、原油のドバイ(3月渡し)現物、FOB価格は1バレルあたり約13.1jである。炭素1dは原油8.71バレルに換算されるから、炭素1d相当の原油は114.1ドルとなり、これは98年1月21日の対顧客電信売相場、1j128.90円で円換算すると14,707円となる。したがって、環境消費税は3,529円となる。これは炭素換算1d当たり2万−3万円にとおく及ばない。しかし、同時期、ガソリン価格は1gあたり93円程度だから税込後価格は上記税率において1gあたり17円上昇することになる。これはガソリンに対する炭素税額より大きい。炭素税は従量税、環境消費税は従価税といった比較の整合性の問題は残るが、環境消費税のインパクトもこれによりある程度推し量ることができるだろう。

(2).省エネ効果 [静脈産業の現状]のアルミ缶の項で触れるように、再生アルミ缶の再溶解の消費電力はボーキサイトから電解精錬して新地金を作る電力の30分の1で済むといわれる。スチール製造に要するエネルギーは、鉄スクラップの場合、鉄鉱石の3分の1に過ぎない(State of the World 1996)。新聞用紙は再生紙からつくれば、木材パルプからつくるより25-60%もエネルギーが節約できる。また、ガラス容器のリサイクルは、製造に要するエネルギーを3分の1ほど節約することになる(State of the World 1990)。その他の素材に関しても省エネ幅の違いはあれ、エネルギー消費量の土俵で再生材に軍配が上がるケースが多いのではないかと考えられる。

 宇沢弘文教授の「地球温暖化を考える」(岩波書店1995年)によれば、1990年をとってみると、日本経済全体で、3億2千万dのCO2が大気中に排出され、これは国民1人当たり約3dで、国民総生産(GNP)100万円当たり約1.5dに相当するという。この年間CO2排出量3億2千万dの内訳を同書より引用すると下の表のとおりである。これは素材としてのアルミや鉄や紙のリサイクルが、省エネルギーのうえで、炭素税に劣らぬ貢献をする可能性を示している。


部門
排出量
(百万d)
構成比
(%)
エネルギー転換部門計 108 33
産業部門計 110 34
鉄鋼業 50 15
窯業土石 23 7
化学工業 16 5
金属機械 11 3
紙・パルプ 11 3
民生部門計 34 11
家庭用 17 5
業務用 17 5
運輸部門 56 18
廃棄物部門 12 4
全部門合計 320 100
(左表で、エネルギー転換部門とは電力・ガス・コークスなどの業種から構成され、エネルギーを生産して、産業・民生・運輸部門に供給する部門をいう。)

 これらの直接的省エネ効果のほか、資源の再生利用は、次のような資源化の過程でのエネルギー消費を抑制する。

 例えば、鉄スクラップから造られた1dのスチールは、1.134dの鉄鉱石、0.454dの石炭、0.02dの石灰石を使わないで済む。紙・パルプ製造業は、全世界で、猛毒かつ発ガン性をもつダイオキシンを含む95万dの有機塩素化合物を河川に放出し、酸性雨をもたらす10万dの二酸化硫黄を大気中に廃出し、肝臓疾患や発ガン性物質の疑いのあるクロロフォルムを2万d排出している。これらを製造し、採掘し、輸送するためのエネルギー消費を、再生材は同時に避ける点を評価する必要があるだろう。この外に大気、水、土壌汚染の問題があることをさしあたり度外視してもである。

 他方、エネルギー面での再生材の弱点は回収のための輸送エネルギーにあると思われる。しかし、静脈物流が例えば帰り荷の流れとして組織化されたり、リサイクル中継センターや消費者が個々に使用済み品を持ちよる換金センターなどの循環型社会のインフラが整備されていくなかで、この面での不利は解消が進むと考えられる。

[ひとこま知識・・・俗説、本当?](1992年1月1日朝日新聞★第4部より)

 原発って地球温暖化の救世主?

 原子力発電は、二酸化炭素(CO2)を出さない核分裂反応を利用するから、地球温暖化の抑制に役立つという意見がある。CO2は温暖化をもたらす温室効果ガスの典型。石油などの化石燃料を燃やしてCO2を大気中に放出する火力発電所に代わって原発が増えれば、温暖化に歯止めがかかるというわけだ。
 本当だと未来を明るくする話なのだが・・・。
 こんな計算がある。原発で得られるエネルギー量を、天然ウランを濃縮して燃料にするまでの過程や放射性廃棄物や廃炉を処理するのに使う石油の量(エネルギーに換算)で割る。いわゆる算出投入比だ。この値が大きいほど、石油の節約効果がある。
 米エネルギー研究開発局(ERDA)が1976年に試算した値は3.8。
 だが、原子力資料情報室の黒田真樹氏はこの数字に「カラクリがあって、考慮すべき点を省いている」と指摘する。放射性廃棄物(半減期2万4千年のプルトニウム239など)の処理などに使う石油の量を考えていないからだ。
 プルトニウムの半減期を勘案した一橋大学の室田武教授の試算では、算出投入比を0.3とはじく。この数値が1より小さいのは、得られたエネルギーより、処理などに費やされるエネルギーの方が大きいことを示しており、石油の節約効果は全くない。


 2001年6月26日本経済新聞朝刊は「2030年の温暖化ガス排出量 90年比6%削減可能 環境省試算 再利用徹底が条件」と題し、次のように報じた。
 「環境省は25日、国内の経済・社会構造のあり方によって、温暖化ガスの排出量が2030年までにどのように変化するのかを予測した結果を発表した。4つのシナリオを作り、リサイクルなど循環型社会を徹底すれば、1990年比で6%の削減は可能だとした。環境に配慮しない経済政策を放置すると排出量は大幅に増えるため、温暖化防止のための政策が重要になるとしている。
 温暖化ガスを最も削減できる社会は、市民が環境を重視する価値観を共有し、各都市が域内で生産から消費、リサイクルを完結するようなケースと想定。二酸化炭素など温暖化ガスの2030年時点の排出量を試算したところ、1990年比で6%減った。
 一方、日本が経済成長だけを重視、割高なリサイクル商品を購入しないなど市場原理中心の経済システムに移行した場合、最も排出量が増えるとし、2030年で同44%増という試算結果になった。」(平成13年6月25日 4つの社会・経済シナリオについて−「温室効果ガス排出量削減シナリオ策定調査報告書」を参照されたい。)

 報告書が行った二酸化炭素排出量の推計は燃料の燃焼起源のみを対象としており、工業プロセスや廃棄物起源は含んでいないという。後者まで広くカバーする環境消費税を導入することによって、既に市場原理中心の経済システムそのものである我国の経済・社会構造のあり方を循環型社会に誘導し、温暖化ガス排出抑制効果を確実にする必要がある。


Initially posted:January 18, 1998. Updated:June 26, 2001.